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同行者

巡礼の一行に、予定外の足止めが入ったのは、

王都を離れて数日後のことだった。


街道沿いの村に、

魔族の影が出たという報せ。


大きな被害はない。

だが、夜ごと家畜が消え、

人々は不安に眠れずにいる。


「このまま通り過ぎるわけにはいきませんね」


ローザリアは、ためらいなくそう言った。


護衛の騎士たちは顔を見合わせる。

本来なら、ここで増援を待つ判断もできた。


だが――

彼女がそう言った以上、

異を唱える者はいない。


「……護衛を強化する必要がありますな」


老騎士がそう言ったとき、

一人の青年が、前へ出た。


「俺が行きます」


静まり返った場に、

その声はやけにまっすぐ響いた。


茶色の髪、青い瞳。

巡礼の途中、村で倒れていた青年だ。


「あなたは……」


ローザリアは、少し考えてから、

穏やかに言った。


「確か、先日お会いしましたね」


その一言で、

青年――アレクシオンの胸が、強く脈打つ。


覚えていない。

だが、覚えていないことが、

なぜか耐えがたかった。


「魔族と戦えます」

「足手まといにはなりません」


必死な声だった。


老騎士が渋い顔をする。


「正規兵でもない者を――」


「ですが」


ローザリアが口を挟む。


「この村の人たちを、

 守ろうとしてくれているのでしょう?」


その言葉に、

アレクシオンは息を呑んだ。


(……見ている)


この人は、

自分を“信仰者”としてではなく、

人として見ている。


それだけで、

胸が満たされてしまう。


「一緒に行きましょう」


ローザリアはそう言って、

微笑んだ。


その距離は、

近すぎず、遠すぎず。


夜。


焚き火を挟んで、

巡礼の一行は野営していた。


ローザリアは、

一人ずつに声をかけ、

祈りを捧げて回る。


その姿を、

アレクシオンは黙って見つめていた。


(……聖女様だ)


そう思う。


だが同時に、

火の揺らぎに照らされる横顔が、

あまりにも――


人間だった。


祈りが終わり、

彼女が焚き火のそばに腰を下ろす。


「あなたも、休んでください」


そう言われて、

アレクシオンは慌てて膝を折った。


「俺は……立ってます」


「無理をする必要はありませんよ」


その言葉は、

命令ではなく、当然のようだった。


彼は、

彼女と同じ高さに座る。


それだけで、

心臓がうるさくなる。


沈黙。


火の音。

夜の匂い。


「……怖くはありませんか」


不意に、アレクシオンが問う。


「魔族と、こうして近くにいることが」


ローザリアは、少しだけ考えたあと、

首を振った。


「怖くないと言えば、嘘になります」


その答えに、

彼は驚いた。


「でも」


彼女は続ける。


「それでも、

 私がここにいることで、

 誰かが安心できるなら」


その声音は、

静かで、柔らかくて。


アレクシオンの中で、

何かが、ずれていく。


(……この人は)


神だ。

そう思っていた。


だが、

神は恐れを口にするだろうか。


人の弱さを、

こんなふうに晒すだろうか。


(……違う)


分からなくなる。


守りたいのか。

触れたいのか。

そばに立ちたいのか。


ただ一つ確かなのは、


(奪われたくない)


という感情だった。


ローザリアは、

焚き火の向こうで、

穏やかに微笑んでいる。


その微笑みが、

誰のものでもあることが、

なぜか――

耐えがたかった。


(第4話・了)


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