順調という確信
朝の光は、
王宮の回廊を穏やかに満たしていた。
婚礼の翌日。
世界は、何事もなかったかのように整っている。
侍従から渡される書類に目を通し、
教会からの使者に返礼の言葉を整える。
式後の慣例。
必要な調整。
避けられない形式。
どれも、
想定の範囲内だった。
(……順調だ)
胸の内で、
そう結論づける。
ローザリア様は、
今朝は部屋で休んでいる。
それも、
想定内だ。
式の緊張。
立場の重さ。
王族として、聖女として背負ってきたもの。
疲れが出ない方が、
おかしい。
(……無理をなさらなくていい)
自分が支える。
自分が整える。
それが、
夫として当然の役目だ。
昨夜のことを、
思い返す。
拒絶――
ではない。
少し、
早すぎただけ。
配慮が、
足りなかった。
(……次は、
もっと穏やかに)
時間は、
いくらでもある。
焦る必要など、
どこにもない。
それに、
彼女は何も、
否定しなかった。
声を荒らげたわけでも、
身を引いたわけでもない。
「疲れた」と、
そう言っただけだ。
(……受け入れている)
その解釈に、
迷いはなかった。
むしろ――
慎み深さだと思えた。
聖女としての矜持。
王族としての品位。
そういう方なのだ。
だからこそ、
急ぎすぎた自分を、
少しだけ恥じる。
だが、
それも一時のこと。
「時間がある」
その事実が、
心を落ち着かせる。
廊下の向こうから、
人々の声が聞こえる。
祝福の言葉。
安堵の笑い。
誰もが、
この婚礼を正しいと信じている。
それは、
間違っていない。
魔王は倒れ、
世界は救われた。
聖女は帰還し、
勇者はその隣に立つ。
――整っている。
整っているのだ。
ローザリア様の部屋の前で、
一瞬、足を止める。
扉の向こうに、
気配はある。
だが、
声はかけない。
今は、
休ませるべきだ。
自分がそう判断した。
(……私が守る)
守るという言葉が、
胸の中で、
自然に馴染む。
彼女は強い。
だが、
もう一人で背負う必要はない。
それを、
自分が引き受ける。
そうして、
整えていけばいい。
やがて、
すべては落ち着く。
今の静けさは、
嵐の前ではない。
整えられていく途中の、
必要な間だ。
そう、
疑いなく信じていた。
(第39話・了)




