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褒賞


王宮の広間は、

厳かな静けさに包まれていた。


凱旋の歓声はすでに遠く、

今ここにあるのは、

王と、功を成した者たちだけだ。


玉座に座す王は、

勇者一行を見渡し、

ゆっくりと口を開いた。


「魔王討伐の功、

 まことに大きい」


その声は、

重く、そして確信に満ちていた。


「この国を脅かした存在を討ち、

 民に平穏を取り戻した」


一拍、置く。


「ゆえに――

 王として、

 その功に報いることを誓おう」


広間の空気が、

わずかに張りつめる。


「勇者アレクシオン。

 そなたの望みは何だ」


その問いは、

形式ではなかった。


王が口にした時点で、

 取り消せない言葉だった。


アレクシオンは、

迷わず一歩前に出る。


深く頭を下げ、

顔を上げる。


「陛下」


声音は丁寧で、

穏やかで、

確信に満ちている。


「私は――

 聖女ローザリア様を、

 妻として望みます」


言葉は、

澱みなく放たれた。


その瞬間、

広間が静まり返る。


王の目が、

わずかに細められた。


――重い。


だが、

その重さを拒むことはできない。


王自身が、

「望みは何でも叶える」と

先に宣言してしまったからだ。


この功績に対して、

その願いを退けることは、

王権そのものを否定することになる。


王は、

ゆっくりと視線をローザリアへ移す。


「……聖女ローザリア」


名を呼ばれ、

ローザリアは一歩前に出た。


白い衣が、

床を滑る。


金の瞳は伏せられ、

表情は整っている。


王は、

短く言った。


「これは、

 王の決定である」


選択肢は、

示されなかった。


示す必要が、

なかった。


ローザリアは、

一瞬だけ息を吸い、

そして、静かに頷いた。


「……王命とあらば」


その声には、

ためらいも、反論もない。


「謹んで、

 お受けいたします」


それは、

聖女としての答えであり、

王族としての答えだった。


広間に、

安堵の空気が広がる。


誰もが思う。


――正しい決断だ、と。


王は、

深く頷いた。


「よろしい」


「勇者アレクシオンと

 聖女ローザリアの婚姻を、

 ここに王命として定める」


宣言。


それは祝福であり、

同時に、覆せない決定だった。


アレクシオンは、

深く頭を下げる。


(……整った)


胸の奥で、

確信が形を取る。


(……ローザリア様)


王命。

民意。

正しさ。


すべてが、

自分の側にある。


リリシアンは、

その光景を見つめながら、

胸の奥が冷えていくのを感じていた。


(……姉さんは)


選んだのではない。


決められたのだ。


だが、その言葉を、

ここで口にする者はいない。


エルシアは、

ほっとしたように息を吐く。


「……これで、

 よかったんですよね」


自分に言い聞かせるように、

小さく呟いた。


祝福の中で、

ローザリアは何も語らなかった。


ただ、

王命を受けた者として、

そこに立っているだけだった。


こうして、

誰の悪意もないまま、

運命は確定した。


そして――

この決定を、

覆せる者は、

もう誰もいなかった。


(第31話・了)

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