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魔王の番犬

城の最奥へ続く回廊は、

ひどく静かだった。


だが、その静けさは――

破壊される前の沈黙にすぎない。


「……来る」


セレスタンの声と同時に、

空気が裂けた。


轟音。


床が砕け、

壁が抉れ、

黒い影が回廊の中央に降り立つ。


巨大な体躯。

魔力を帯びた重装。


魔王親衛・第一武装官。

異名――

魔王の番犬、ガルディオ。


「……っ」


エルシアが息を呑む。


禍々しい存在感。

それでも、彼女は一歩も下がらなかった。


「前衛、来ます!」


リリシアンの声が走る。


詠唱はない。

だが、彼女の手元から展開されるのは、

古い制御系の魔術陣。


「足止めする!」


次の瞬間、

ガルディオの動きがわずかに鈍る。


完璧ではない。

だが――

十分だった。


「行くぞ!」


ブラムが前に出る。


斧と盾で、

真正面から受け止める。


衝撃。


身体が、

吹き飛ばされそうになる。


「ぐっ……!」


それでも、

踏みとどまる。


「アレクシオン!」


だが、

返事はなかった。


アレクシオンは、

すでに走り出していた。


「――お前かァ!!」


怒号。


剣が、

叩きつけられる。


一撃。

二撃。

三撃。


防御も、

連携もない。


ただ、斬る。


「落ち着け!」


ブラムが叫ぶ。


「今は――!」


「黙れ!!」


怒りが、

刃に宿る。


ローザリアを攫った夜。

伸ばした手。

届かなかった現実。


「お前のせいで……!!」


ガルディオは、

それをすべて受けた。


避けない。

怯まない。


ただ、

主の前に立つ者として。


リリシアンは、

歯を食いしばる。


(……このままじゃ)


魔力を流す。


攻撃ではない。

制御。補助。


「エル、今!」


「はい!」


エルシアが、

祈りを捧げる。


聖魔法。


光が、

前衛を包む。


防御と回復。


「――支える!」


それでも、

戦況は傾かない。


ガルディオは、

なお前へ出る。


「……くそ」


セレスタンは、

状況を見極めていた。


勝てる。

だが――

このままでは、アレクシオンが壊れる。


「……ブラム」


短い合図。


ブラムは、

即座に理解する。


次の瞬間、

セレスタンが踏み込んだ。


ルーンが、

空に刻まれる。


「――縛れ」


術式が、

ガルディオの動きを一瞬止める。


ほんの一瞬。


だが、

それで十分だった。


アレクシオンが、

さらに斬りかかろうとする。


その腕を――

セレスタンが掴んだ。


「――もういい」


低く、

しかし断ち切る声。


「それ以上は、

 お前が持つものじゃない」


「離せ!!」


アレクシオンが叫ぶ。


だが、

振りほどけない。


「なら、

 お前はここで終わる」


セレスタンの視線は、

一切揺れなかった。


その隙に、

ガルディオが動く。


――遅い。


セレスタンは、

迷わなかった。


剣が、

一直線に走る。


心臓を、正確に貫いた。


ガルディオの巨体が、

大きく揺れる。


最後まで、

前を見据えたまま。


崩れ落ちた。


重い音が、

回廊に響く。


沈黙。


アレクシオンは、

剣を握ったまま、

動けなかった。


「……終わりだ」


セレスタンが、

静かに言う。


「これ以上、

 持っていくな」


リリシアンは、

ゆっくりと息を吐いた。


エルシアは、

祈りの手を下ろす。


ブラムが、

アレクシオンの肩に手を置く。


「……行こう」


その先に――

本当の終わりが待っている。


魔王の玉座へ。


(第26話・了)


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