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光の向こう側

城の奥で、

空気が変わった。


音ではない。

衝撃でもない。


それでも、

はっきりと分かる変化だった。


――来た。


ローザリアは、

それを“気配”として感じ取った。


勇者一行が、

魔王城の境界を越えた。


胸の奥が、

わずかに締めつけられる。


驚きはない。

動揺も、恐怖もない。


ただ、

予定されていた時間が来ただけだ。


ヴェルゼリオは、

何も言わずに立ち上がった。


背を向けた、その瞬間。


ローザリアは、

呼び止めなかった。


呼び止めても、

意味がないと分かっていたから。


「……ここから先は」


ヴェルゼリオが、

足を止める。


振り返らないまま、

低く続けた。


「見るだけだ」


説明でも、

命令でもない。


事実の確認。


「はい」


ローザリアは、

短く答えた。


その声は、

震えていなかった。


魔力が、

ゆっくりと広がる。


床に、

淡い光の輪が浮かび上がる。


結界。


彼女を守るためのもの。


そして――

戦場から切り離すためのもの。


ローザリアは、

一歩も動かなかった。


拒まない。

抵抗しない。


「……生きろ」


ヴェルゼリオが、

最後にそう言った。


それが、

別れの言葉だとは言わない。


約束でも、

願いでもない。


ただ、

彼の選択だった。


光が、

一気に強まる。


視界が、

白に塗りつぶされる。


次の瞬間。


ローザリアは、

透明な壁の内側に立っていた。


音は、

届かない。


衝撃も、

伝わらない。


だが――

見える。


剣が、

振り下ろされるのも。


魔力が、

ぶつかり合うのも。


ヴェルゼリオが、

一歩も引かないことも。


ローザリアは、

祈らなかった。


叫ばなかった。


助けを求めることも、

なかった。


ただ、

目を逸らさずに見つめる。


これが、

彼の選んだ戦いで。


これが、

自分の選ばされた役目だから。


結界の中で、

ローザリアは静かに息をした。


――見送るために。


(第25話・了)


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