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知られざる遺跡

道を外れたのは、

ほんのわずかな違和感からだった。


「……待って」


リリシアンが、足を止める。


魔王城へ向かう主道から、

少し外れた場所。


崩れた岩壁と、

苔に覆われた石段。


誰もが見落としてもおかしくない、

そんな場所だった。


「魔力の流れが……不自然」


地脈のように、

かすかな波が走っている。


セレスタンが、

ゆっくりと視線を巡らせた。


「……ここは」


言葉を選びながら、

首を傾げる。


「記録に、ない」


エルフの里に伝わる古地図。

封印術や古代魔法に関わる遺構。


それらを、

彼はほぼすべて把握している。


それでも――

この場所は、

どこにも載っていなかった。


「知られていない遺跡、か」


ブラムが、

岩を一つ蹴って言う。


「嫌な予感しかしねぇな」


「……行きます」


リリシアンは、

短くそう言った。


理由は、

はっきりしている。


(ここに、答えがある)


それが何の答えかは、

まだ分からない。


だが、

通り過ぎてはいけないと、

胸の奥が告げていた。


石段を下りる。


空気が、

ひんやりと変わった。


外の喧騒が、

嘘のように遠ざかる。


「結界……?」


エルシアが、

小さく呟く。


「いいえ」


リリシアンは首を振る。


「似ているけれど、違う。

 これは……“留める”ための術式」


扉の奥に広がっていたのは、

円形の広間だった。


床には、

古い魔法陣。


だが――

完全ではない。


欠けている。

書き換えられている。


「……人為的だな」


セレスタンが、

低く言う。


「しかも、

 エルフの術式じゃない」


魔族のものでもない。

人間の魔法とも、違う。


「混ざっている」


リリシアンは、

震える声でそう言った。


「月の術式と……

 人の手による改変」


壁際に、

石板が残されていた。


文字は、

古代語。


セレスタンが、

慎重に読み解く。


「……『月影の封』」


その言葉に、

リリシアンの指が、わずかに震えた。


「命あるものの時を止め、

 肉体と魂を、

 月の領域へと隔てる」


エルシアが、

息を呑む。


「……そんなこと、できるの?」


「禁忌だ」


セレスタンの声は、

硬かった。


「正しく使えば、

 永久の封印。

 だが……」


視線が、

次の行へ移る。


「代償として、

 術者は時の外に置かれる」


沈黙が落ちる。


「……不老不死、か」


ブラムが、

低く呟いた。


「死ねないってのは、

 生きるより辛ぇぞ」


石板の端は、

欠けていた。


最も重要な部分が、

削られている。


「……不完全だ」


セレスタンが、

静かに言う。


「完全な記録じゃない。

 誰かが、

 途中で持ち去った」


リリシアンは、

魔法陣の中央に立った。


胸の奥が、

ひどく冷える。


(……これは)


使うための術じゃない。


**“最後に残された手段”**だ。


「……姉さん」


思わず、

名が零れた。


魔王城に囚われている、

ローザリア。


救い出せるのか。


それとも――

魔王を倒せなかった時、

それ以上失わないために、

すべてを止めるしかなくなるのか。


「……まだ、決める時じゃない」


リリシアンは、

自分に言い聞かせるように呟いた。


今は、

知っただけだ。


知ってしまっただけ。


「行こう」


セレスタンが、

静かに言う。


「勇者を、

 一人にしすぎている」


その言葉に、

誰も反対しなかった。


遺跡を後にする。


外に出ると、

魔王城はさらに近くなっていた。


まるで、

彼らの行動すべてを、

見ていたかのように。


リリシアンは、

振り返らなかった。


もう、

戻れない気がしたからだ。


胸の奥で、

冷たい影が、

静かに形を取り始めていた。


(第17話・了)


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