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同行者たち

王都の門が、ゆっくりと開いた。


朝靄の中、

討伐隊が静かに整列する。


先頭に立つのは、勇者アレクシオン。

剣を帯び、迷いのない足取りで前を見据えている。


その背後、

隊列を俯瞰できる位置にリリシアンが立っていた。


彼女は前に出ない。

剣も取らない。


魔力を編み、術式を組み、

結界や拘束で戦場を制御する役目。

敵の動きを止め、

味方が戦いやすい“場”を作る。


癒す力はない。

それでも、

戦況を支える役割は、確かにそこにあった。


前衛を担うのは、

勇者アレクシオンと、ドワーフの戦士ブラム。


斧と盾を構えたブラムは、

隊の盾としてどっしりと構えている。


戦列の中央寄りには、

エルフのルーンナイト、セレスタン。


刻まれたルーンを操り、

近距離にも遠距離にも即応できる存在だ。


最後方には、

神官として随行するエルシア。


白いローブの裾を押さえながら、

静かに祈りを捧げている。


城門の内側では、

正妃と側妃が並んでその姿を見送っていた。


側妃の腕には、

まだ赤ん坊の王子。


小さな手が、

衣を握りしめている。


「……行ってしまうのですね」


側妃の声は、

不安を隠しきれていなかった。


正妃は、

ゆっくりと頷く。


「ええ。

 あの子たちは、

 自分で選びましたから」


門の外で、

リリシアンは一度だけ振り返る。


母たちの姿と、

幼い弟。


守るべきものが、

確かにそこにあった。


(……必ず)


言葉にはしない。

ただ、胸の内で誓う。


「出立する」


アレクシオンの声が、静かに響いた。


それを合図に、

討伐隊は歩き出す。


城壁が遠ざかり、

王都が背後に小さくなる。


前方には、

魔王城。


それぞれの役目を背負いながら、

一行は進んでいった。


やがて日が落ち、

最初の夜営に入る。


焚き火が灯り、

張り詰めていた空気が、

わずかにほどけた。


話題は、自然と一人の名に集まる。


「……勇者様」


エルシアが、

少しだけ躊躇ってから口を開いた。


「王都で聞きました。

 巡礼の途中で、ローザ姉様にお会いしていたって」


年の離れた妹らしい、

遠慮と好奇心が入り混じった声。


アレクシオンは、

その名を聞いた瞬間、顔を上げた。


「……はい」


そして、

まるで堰を切ったように語り始める。


「どんな時でも、

 迷うことなく、

 救いの手を差し伸べていらっしゃいました」


焚き火の向こうで、

彼の声だけが、少し熱を帯びる。


「祈りも、言葉も、

 人によって変えることはありません」


「……あの方は」


一拍置いて、

確信に満ちた声で、そう言った。


「この世に降り立った女神のような方です」


エルシアは、

その話を聞きながら、

嬉しそうに微笑んだ。


「……はい」


小さく、

でも誇らしげに頷く。


「ローザ姉様は、

 昔から、そういう方でした」


リリシアンは、

黙ってその会話を聞いていた。


火が爆ぜる。


その音に紛れて、

胸の奥に、かすかな違和感が沈む。


アレクシオンの言葉は、

どれも間違っていない。


正しく、

清く、

誰もが望む聖女の姿だ。


それでも――

何かが、足りない。


家族だけが知っている、

ふと力を抜く瞬間。

誰にも見せない小さな迷い。


そういうものが、

どこにも触れられていない気がした。


火の向こうで、

アレクシオンは語り終え、

どこか満たされた表情をしている。


それを見ながら、

リリシアンは思う。


(……姉さんは)


崇められるために、

生きてきたわけでもない。


その続きを、

彼女は言葉にしなかった。


まだ、

確信ではなかったからだ。


夜は、

静かに更けていった。


焚き火の明かりの外で、

魔王城への道は、

確かに続いていた。


それぞれの“救い”から、

少しずつ、

離れながら。


(第13話・了)


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