太陽の微笑み
太陽が昇るたび、
聖女ローザリアは微笑んだ。
それが――
彼女に与えられた、ただ一つの役目だった。
⸻
アウレリア王国の王都、その中心に建つ大聖堂。
白い石で築かれた回廊を歩くたび、祈りの声が彼女の名を呼ぶ。
「聖女様……」
「ローザリア様……」
その声に、彼女は立ち止まり、振り返った。
金色の瞳を細め、柔らかく唇を弧に描く。
「大丈夫ですよ。
太陽は、今日も皆さんを見守っていますから」
その言葉に、人々は安堵したように息を吐いた。
まるで、それだけで救われたかのように。
ローザリアは、その様子を見て、胸の奥で静かに息をつく。
――これでいい。
――これが、私の在り方。
彼女はそう教えられてきたし、
そう振る舞うことに疑問を持ったこともなかった。
正妃の子として生まれ、
王族として育てられ、
そして――聖女として選ばれた。
太陽神の末裔。
黄金の血統。
歴代でも類を見ないほどの聖魔法の資質。
それらすべてが、
「ローザリアは特別だ」と告げていた。
けれど。
祈りの合間、
大聖堂の奥でふと立ち止まったとき、
胸の奥に、わずかな空白があることを、
彼女は時折感じていた。
(……私は)
その先を考えようとすると、
自然と、いつもの笑顔が戻る。
考える必要はない。
私は、聖女なのだから。
「姉さん」
柔らかな声に、ローザリアは振り返った。
月白の髪を揺らし、
同じ金色の瞳を持つ少女が立っている。
「リリィ」
リリシアンは姉の表情を一瞬だけ見つめ、
何も言わずに、ほんのわずか微笑んだ。
その視線には、
いつも少しだけ、影がある。
「今日も巡礼ですか?」
「ええ。南の村へ」
「……無理は、なさらないでください」
それは命令でも、お願いでもなかった。
ただの確認のような言葉。
ローザリアは軽く首を振る。
「大丈夫よ。
皆が、待っているもの」
その言葉に、
リリシアンは何も返さなかった。
ただ、胸の前でそっと手を組む。
(……姉さんは)
その背中を、
彼女は黙って見送った。
誰よりも光を集め、
誰よりも遠くへ行ってしまう存在を。
――守らなければ。
そう思う理由を、
リリシアンはまだ言葉にできなかった。
ローザリアは大聖堂を出る。
王都の門をくぐり、
太陽の下へと歩み出す。
人々が手を振り、
祈りを捧げ、
その姿を見送る。
その中心で、
彼女は今日も微笑んでいた。
聖女として。
王族として。
――まだ、
ただの人であることを知らないまま。
(第1話・了)




