第8話:知恵の勝利
ステラは、ゴーレムに近づきすぎないように、距離を取った。そして、深呼吸をする。
「作戦通り……」
ステラは、心の中でアルスの作戦メモを反芻した。
まず、風と埃の魔法でゴーレムの目を眩ませる。次に、小さな音の魔法で注意を引き、最後に熱の魔法で弱点を突く。
ステラは、最初の魔法を放った。コピーした「埃を払う魔法」と、アルスから教わった「小さな風を起こす魔法」を同時に発動させる。二つの無力な魔法が、ステラの魔力を通して一つになった。
「はあぁああああっ!」
闘技場の床に溜まっていた砂塵が、ゴーレムの顔めがけて一気に舞い上がった。ゴーレムの視界は一瞬で白く染まり、その動きが鈍った。
その隙に、ステラは「物を一瞬だけ軽くする魔法」を自分にかけ、ゴーレムの懐に飛び込んだ。ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされるが、ステラはまるで蝶のように身軽にそれをかわす。
「次は、ここ!」
ステラは、ゴーレムの胸に埋め込まれた魔石に狙いを定めた。そして、コピーした「コップの水を温める魔法」を連続で放った。微弱な熱を持つだけの魔法が、魔石の同じ一点に集中し、少しずつ、しかし確実に魔石を熱していく。
「ギギギギギ……」
ゴーレムが苦しげな音を立てる。魔石が内側から熱に侵され、亀裂が走り始めた。そして、ステラが最後の魔法を放った瞬間、魔石は音を立てて砕け散った。
ゴーレムの動きは、完全に止まった。試験官や他の生徒たちは、ただ呆然とステラを見つめていた。攻撃魔法も防御魔法も使わず、ただの「生活魔法」だけで、最強のゴーレムを沈黙させた彼女の戦い方は、誰もが想像だにしなかったものだった。