第5話:試行錯誤の日々
図書館の片隅は、ステラとアルスの秘密の研究室と化した。放課後、そして昼休み。二人は来る日も来る日も、コピーした魔法の組み合わせを試すことに没頭した。
「ステラ、『石鹸玉を浮かせる魔法』と『小さな風を起こす魔法』を試してくれ」
アルスの指示に従い、ステラは魔法を放った。空中に浮かんだ石鹸玉は、風の魔法を受けて流され、不規則な軌道で部屋を飛び回る。
「駄目ね。石鹸玉は軽すぎる。ゴーレムを撹乱するには、もっと重い何かを飛ばさないと」
ステラがため息をつくと、アルスはノートに何かを書き付けた。
「そうか、物質の重力との相関か……。じゃあ、これはどうだ?『埃を払う魔法』と『小さな風を起こす魔法』を同時に」
次に、ステラはアルスの提案通りに魔法を放った。図書館の床に溜まっていた埃が、風の魔法で舞い上がり、払う魔法がその勢いをさらに増幅させた。小さな砂嵐が巻き起こり、アルスの顔を覆い隠した。
「ゲホッ、ゲホッ!……成功だ、ステラ!これならゴーレムの目を潰せる!」
埃まみれになりながらも、アルスは心から喜んだ。彼の満面の笑みは、ステラの心を温かく照らした。
ステラは、この日々が嫌いではなかった。誰かに怯えられることも、憐れまれることもない。ただ、目の前の魔法と向き合い、どうすればそれが最大限に活かされるかを考える。それは、彼女が心の底でずっと望んでいたことだった。
しかし、不安も常に胸の奥にあった。
「ねぇ、アルス。本当に、こんな魔法でゴーレムを鎮静化できるの?みんな、強力な攻撃魔法を練習しているのに」
ステラの問いに、アルスは真剣な眼差しで答えた。
「魔法の強さは、威力だけじゃない。それをどう使うかの『知恵』だ。君は、その知恵を持っている。筆記試験で満点を取った、君の頭脳を信じるんだ」
彼の言葉は、ステラがずっと欲しかったものだった。彼女の能力を肯定し、彼女自身を信じてくれる存在。