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城の庭園。

月明かりに照らされた花々が風に揺れ、外界から切り離されたような静けさが包む。


アーダルベルトは周囲を一瞥すると、右手をわずかに上げて――


「……《封音結界ミュート・ドーム》」


パチン、と指が鳴る音と同時に、空気がわずかに揺れた。

まるで音そのものが緩やかに封じ込められたように、周囲の音がふっと消えた。


エリスが目を細める。


「……防音の結界? さては話が物騒になるってこと?」


「察しがいいな。グロース侯爵令嬢――貴殿は、“悪魔と契約している”な?」


その言葉に、エリスの表情がわずかに動く。だがすぐに唇の端をつり上げた。


「……さあ、なんの事かしら?」


「とぼけなくていい。こちらは“確証”があって言っている」


アーダルベルトは冷静に、だが淡々とした口調で告げた。

後ろに控える双子は一歩も引かず、ただ静かに周囲を警戒している。


「……ただ」


「……なに?」


エリスが肩の力を抜かぬまま睨むように問い返すと、アーダルベルトは唐突にその視線を外し――


「ふむ。少し失礼する」


そう言って、彼女の首元へと、まっすぐ手を伸ばした。

襟にかかる髪を避けるように、やや繊細な手つきだったが――


「……ちょっと、何すんの――」


その瞬間。


エリスの影が、ぐにゃりと揺れた。


そこから、するりと現れたのは、漆黒の影に馴染むような漆黒のスーツを纏う、整った顔立ちの青年だった。

薄く笑みを浮かべながらも、その瞳は鋭く光を帯びている。


青年はアーダルベルトの手首を掴み――


「おい、我が主に何をするつもりだ? まさか、手を出す気じゃねぇだろうな?」


低い声。

威嚇というより、明確な「睨み」を含んだその声音に、ヴィルヘルムが一歩前に出かけ――しかし、アーダルベルトは静かに首を振った。


「問題ない」


掴まれたままの手を、むしろ自らゆっくり下ろすように引いて、淡々と語る。


「ふむ……なるほど。“干渉型の守護悪魔”。なにより、主に忠実。暴発しない。……よし、だいたい分かった」


「……何がよ?」


エリスの声が一段高くなる。

だが、それは明らかに“焦り”を含んでいた。


アーダルベルトは、まるで観察対象の評価を終えた学者のように一息つき――


「ああ、先程は済まなかったな。確認したいことがあっただけだ」


「確認……?」


エリスが眉をひそめる。

アーダルベルトはすっと振り返りながら、手元に再び指を鳴らす。


パチン――

音の魔力が解除され、外界のざわめきが戻ってきた。


その瞬間、リリエッタが低くささやく。


「……旦那様、警戒は?」


「問題ない。……少なくとも今の段階では、な」


言外に“今後は分からない”と残しつつ、アーダルベルトは再びエリスへと向き直った。


「……ということで、グロース侯爵令嬢。もう少しだけ、話をしようか」


彼の声音は相変わらず冷静。

だが、その瞳には、ごくわずかに――“興味”の色が滲んでいた

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