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夕暮れ時。

西日が差し込む書斎で、アーダルベルトは背の高い窓の前に立ち、じっと街を眺めていた。ヴィルヘルムとリリエッタは、いつも通り背後に控えている。


「……ふと思ったんだが。」


アーダルベルトが呟く。ヴィルヘルムが静かに返した。


「なんでしょう、旦那様。」


「私は公爵だ。しかも若くして大臣にもなった。」


「ええ、誇るべきことですね。」

リリエッタも当然のように頷く。


「……だが、今年で21になる。貴族としての義務を考えるなら、そろそろ本格的に婚約者を探さねばならん時期だ。」


その言葉に、双子は一瞬沈黙した。

ヴィルヘルムが目を伏せて答える。


「……むしろ、少々遅すぎたくらいかもしれません。」


「そうだろうな。」


アーダルベルトはゆっくりと振り返り、双子を見据える。


「しかし……」


「はい。」


「――お前たちを許容できるご令嬢が、果たしてこの国に存在するとは思えん。」


「……ああ...」


リリエッタが苦笑するように目を細めた。ヴィルヘルムもため息混じりに頷く。


「たしかに。淫魔である私たちを“使用人”として受け入れられる女性は、限りなく少ないでしょう。」


「仮にそこを許せたとしても、問題は別にある。」


アーダルベルトはわずかに首を傾げて、息を吐く。


「我々の距離感……客観的に見て、おかしいのは明らかだ。」


「ええ、分かっています。」

ヴィルヘルムが首肯し、


「でも、とても居心地がいいのです。あなたの隣は。」


「……ああ。私もだよ、はぁ……」


アーダルベルトは額に手をあて、ゆるく苦笑した。

この二人がいれば、仕事も休息も成立してしまう。

もはや生活の中に自然に溶け込みすぎているのだ。


リリエッタが、すこし柔らかい声で言う。


「もともと、私はヴィルヘルムと一緒にいると落ち着きますが、最近は3人で過ごす時間のほうが……」


「心地いい、ですね。」

ヴィルヘルムが続けた。


「今さら、元の距離感には戻れませんよね。」


アーダルベルトは、窓の外に再び視線をやった。


「……ああ。まったくだ。」


この世界で、彼らのような関係はきっと異端だろう。

けれど、異端でも――静かで穏やかで、確かな絆がある。

この関係を壊すくらいなら、婚約者など要らぬと思うほどに。


だが――


(……貴族として、それでは済まないのだ)


と、アーダルベルトは心の内で呟いた。


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