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昼下がりの執務室。
書類整理を終えたアーダルベルトは、ひと息ついてソファに腰を下ろす。視界の端には、いつものように部屋で着替えを始めている双子の姿。
「……やけに当然のように、ここで着替えるな。羞恥心はないのか?」
「ありませんね、淫魔ですから」
「旦那様も見て気にされていませんし」
「まあ、今さら取り繕う仲でもないか」
シャツを脱ぎ、下着姿になるリリエッタ。腰まで伸びた髪がふわりと揺れると、アーダルベルトはふと目を細めて彼女の服装を観察し始めた。
「……そういえば、私は女性の下着というものをあまり見たことがないな。機能的な意味で、な」
「ふふっ、そうでしたか。なら講義、始めましょうか?」
「リリエッタ講座、第一回。レディースアンダーの仕組みについてです!」
「なぜテンションが上がる?」
「いえ、せっかくの機会ですし。旦那様が知識を得たいというのなら、喜んで」
リリエッタはカップ部分をつまみながら、しっかりと説明を始める。
「まず、胸の部分ですが。こうしてホールドする構造になっています。どうしても胸は重みで揺れてしまいますから、これで支えるんです。快適さが段違いなんですよ」
「ふむ……なるほど。たしかに、重さのある部位だな。機能性としては理にかなっている」
「ありがとうございます。ちなみに――」
リリエッタは太ももに手を当て、レースのベルトを指差した。
「これはガーターベルトです。これでストッキングがずれ落ちるのを防いでいます。単純に下着としての美しさもあるのですが、そもそもは実用目的なんですよ」
「ガーターベルト、か。実用と装飾性を兼ね備えているというのは興味深いな。……ちなみにそれは女性限定なのか?」
「いえ、男性用もありますよ?」
ヴィルヘルムが、自らのシャツを整えながら入ってくる。
「私の場合、ソックスガーターとシャツガーターを愛用しています。シャツのたるみを防ぎ、ソックスも常に位置を維持できます。見栄えがいいので、旦那様のような場に出るお立場の方にはうってつけです」
「……なるほど、合理的だな。今度試してみよう」
「お似合いになると思いますよ、旦那様」
「黒とかダークグレーで揃えると、よりお洒落です」
「ふむ。参考になる」
――何やらとても冷静に、真剣に、そして下着について語られる空間。
けれど淫魔である彼らにとって、これが自然体。アーダルベルトもそれを受け入れている。
リリエッタがぱちんとブラのホックを留め、手際よく服を整えながら微笑む。
「……どうです? ひとつ賢くなったでしょう、旦那様?」
「そうだな。下着に対する認識が、いくらか変わったよ」
「それは良かった。実地体験しますか?」
「ヴィルヘルム、それは冗談です」
「冗談に聞こえなかったぞ」
「淫魔ですから」
「……まあ、そういうところも含めて、お前たちらしいな」
アーダルベルトはソファにもたれ、静かに微笑む。
相変わらず距離感も感覚も世間とズレているが――その中での信頼と穏やかな時間。それこそが、彼らの日常だった。