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7話、「初めてのライブバトルスタート!!」

「……ライブバトルって、何?」


ユナが素直な疑問を口にした瞬間——


「はァァァ!?!?!?!?」


3人の影が、一斉にずっこけた。


屋根の上で体勢を崩し、危うく落ちそうになりながらも、何とか踏みとどまる。


「ちょ、待って待って……聞いた!? こいつら、ライブバトル知らねぇんだってよ!!」


「は!? こっちは真剣に勝負を挑んでんのに、ルールも知らねぇのかよ!!?」


「落ち着きなって。まぁ、そりゃそうか。異世界から来たばっかりのバンドじゃ、こっちのルールは知らないわな」


ユナたちは、ぽかんと3人を見上げた。


確かに、異世界に来てからしばらく経ったが、まともに「音楽の世界のルール」なんて聞いたことがなかった。


魔法が音楽に乗って発動することはわかった。

召喚獣も出せるし、戦闘中に演奏すれば攻撃力も上がる。


でも——


「バトルって言われても、私たち、バトルとライブはやったことあっても、ライブバトルっていうのはやったことはないんだけど……」


ユナがそう言うと、レンが頷く。


「うん、そもそも私たち、現実世界で売れないバンドだったわけで……バトルって概念がないというか」


「ライブで戦うって、どういうこと?」


エリカが淡々とした声で問いかけると、3人のうちの1人が派手なジェスチャーを交えながら説明を始めた。


「お前らさ、異世界に来てから、音楽に魔法が宿るってのは理解したよな?」


「うん、それはもう実感済み」


ミサキがスティックを回しながら軽く答えた。


「んで、その力を最大限に引き出すのが、ライブバトルってわけよ!!」


「最大限に……?」


「そうだ。ライブバトルっつーのは、ただ演奏するだけじゃねぇ。観客を巻き込んで、音楽のエネルギーをぶつけ合い、相手の音を上回った方が勝ち! つまり、音楽で圧倒すれば、相手を封じ込めることもできるし、逆にやられることもある!」


「……マジ?」


ユナは唖然とした。


バンドをやっていて、オーディエンスの熱量が音に影響することは知っている。


ライブハウスの雰囲気が熱狂すれば、演奏にも勢いがつく。

逆に、冷めた空気では音も冷たくなりがちだった。


でも、異世界ではそれがもっと直接的な影響を持つというのか。


「つまり……観客の盛り上がりが、パワーに直結する?」


「そういうこった!」


「そして、その力をうまく使えたバンドが、この世界での最強のパワーを手にするのさ!」


「ふーん……面白いじゃん!」


ミサキがニヤリと笑った。


「そういう理屈なら、私たちが勝てばいいってことだろ?」


「へっ、簡単に言ってくれるじゃねぇか……!」


「だって、バンドってそもそも、お客さんと一緒に盛り上がるもんだろ?」


「ふむ……」


レンが顎に手を当てながら考え込む。


「でも、私たちはバンドとしての人気はほぼゼロだったわけで……」


「そこはもう異世界ブーストでしょ!」


ミサキがドラムスティックを掲げる。


「お客さんの心を掴めば勝ち! それなら、バンドマンとしてやることは変わらない!」


ユナは唇を噛む。


異世界に来てから、バンドを続けるべきか、ずっと迷っていた。

でも、この「ライブバトル」という仕組みを知った今、少しだけ心が揺れ動いた。


「つまり……音楽を全力でぶつけ合って、どっちがより強い音を鳴らせるかの勝負ってことね」


「その通り!」


3人のリーダー格らしき女が、満足そうに頷く。


「じゃあさ……」


ユナが、静かにギターを握り直した。


「ちょっと試してみる?」


その一言に、村の広場が静まり返る。


3人も、一瞬だけ驚いた顔をした。


しかし——


「ははっ……お前、いい目してんな!」


彼らの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。


こうして、異世界の「ライブバトル」の幕が、ゆっくりと開かれようとしていた。




「——まずは、自己紹介だろ!」


3人は一歩前に出ると、まるでライブのMCのように観客に向かって堂々と名乗りを上げた。


「アタシたちは、反逆のアウトロー! 盗賊バンド——ブラッディ・リズム!!」


「イェェェェェェェェェェイ!!!」


彼女たちが叫ぶと、広場にいる村人たちが驚いて飛び上がった。いや、叫ぶ必要があったのか? いやいや、それはさておき——


「盗賊……バンド……?」


ユナがポカンと呟いた。


「え、盗賊団なの? バンドなの?」


ミサキが疑問を口にすると、リーダー格の女がニヤリと笑う。


「どっちもだよ。アタシたちは、音楽と生きるためなら、どんな手だって使うアウトローバンドさ!」


「まぁ、音楽に全てを賭けたはぐれ者って感じだな」


シオン・アッシュと名乗る銀髪の少女が、肩をすくめながら言う。


「ってことで、ひとつよろしく!」


ドラムのベル・バレットがドラムスティックを指でクルクルと回しながら、挑発的な笑みを浮かべた。


そのまま彼女たちは、順番に自分たちの名前を名乗り始めた。



ルージュ・スカー(ボーカル)


「アタシがリーダー、ルージュ・スカー! うちの演奏に酔いな! そのままアガって、堕ちていけよ!」


長い赤黒いグラデーションの髪を翻しながら、ルージュが革ジャンの襟を立てる。172cmの長身に網タイツとスタッズ付きのブーツ。まさにスケバンロックの風格だった。


「姐御って呼ばれてんだけどな……まあ、好きに呼べよ」


低く響く声は、まるでライブのMCのように堂々としている。



シオン・アッシュ(ベース)


「シオン・アッシュ。ベース担当。フッ……いいねぇ、そのビート、盗ませてもらうよ」


片目を隠した銀髪の少女が、ニヤリと笑った。長身のルージュとは対照的に、細身のシオンはクールな雰囲気を漂わせている。しかし、その鋭い紫の瞳は、何か企んでいるようにも見えた。


「ま、適当によろしく」


腰にナイフホルダーをぶら下げているあたり、ただのバンドマンではないのがよくわかる。



ベル・バレット(ドラム)


「アタシはベル・バレット! ドラムはアタシがブチ鳴らすぜ! ぶっ飛ばされる準備はいいかい!?」


ツインテールを揺らしながら、大きな声で叫ぶのはベル・バレット。彼女は小柄ながらもエネルギッシュな雰囲気を漂わせ、無邪気な笑顔が妙に凶悪だった。


「ノってるヤツしか認めねぇ! テンション上げろォ!!」


彼女の勢いに、村人たちはたじろいでいた。



ユナたちは、その堂々とした態度と雰囲気に少しだけ圧倒されていた。


「——で、お前らは?」


ルージュが腕を組みながら、ユナたちに向かって顎をしゃくる。


「まさか、無名のままで戦うつもりじゃねぇよな?」


その言葉に、ユナはハッとした。


——そうだ、こっちも自己紹介しなきゃ。


「……私たちは、『NO FUTURE』!」


ユナが力強く言うと、後ろのメンバーが頷く。


「バンドは解散寸前だったけど——この世界で音楽の力を知った。だから……!」


ユナは自分の胸に手を当てる。


「音楽を続ける!」


「おおっと、いいねぇ、その心意気!」


ルージュがニヤリと笑った。


「それで、名前だけじゃわからねぇ。お前ら、一人ずつ名乗りな?」


ユナは仲間を振り返る。


「私はユナ、ボーカル&ギター担当!」


「エリカ、リードギター」


「レン、ベース」


「ミサキ、ドラム! ……あと、バンドのムードメーカー?」


ミサキが笑いながら肩をすくめると、ベルが「おおっ、ドラム同士だな!」とガッツポーズをした。


「いいねぇ、楽しくなってきたぜ!」


ルージュが革ジャンの裾を軽く揺らしながら、鋭い笑みを浮かべる。


「つまり、アタシらの挑戦を受けるってことでいいんだな?」


「……もちろん!」


ユナが強く頷く。


この異世界に来てから、何度か戦ってきた。

だけど——


「音楽で戦う」——そんなバトルは、まだ経験したことがなかった。




「さぁて、それじゃあ……!」


ルージュ・スカーが肩を回しながら、ぐっと前に出た。


「お前ら、『ライブバトル』ってやつを知らねぇんだよな?」


ユナたち「NO FUTURE」は戸惑いの表情を浮かべた。


「う、うん……そもそも、異世界に来てからそんなに時間が経ってないし……」


ユナがそう答えると、ルージュは盛大にため息をつき、シオンとベルも同じく肩を落とした。


「いや、マジかよ。こっちの世界に来たんなら、まずそこから覚えるだろ、普通!」


ベル・バレットが頬を膨らませる。


「ったく、しゃーねぇな!」


シオン・アッシュが苦笑いしながら前に出ると、指を一本立てた。


「いいか? ここ『メロディア』の世界じゃ、音楽ってのはただの娯楽じゃねぇ」


「……音楽が魔法になる世界、ってことは分かってる」


エリカが静かに呟く。


「そ、それは私たちも経験した!」


レンがベースのケースを抱きしめながら頷く。


「だったら話が早い!」


ルージュが不敵な笑みを浮かべながら、拳を鳴らした。


「ライブバトルってのはな、ただの演奏勝負じゃねぇ。観客を巻き込んで、全員で戦う音楽の祭典みてぇなもんだ!」




ルージュは地面に靴のつま先で線を引くような仕草をした。


「まず、ステージ召喚魔法を使って、俺たちとお前たち、それぞれのステージを作る。観衆を挟むようにしてな。ステージはただの舞台じゃねぇ……**とりで**だ」


「砦?」


ミサキが首をかしげる。


「そう、つまり、ステージは守るべき拠点ってわけよ!」


ベル・バレットがドラムスティックをカチカチと鳴らしながら説明を続ける。


「んで、バトルの流れは、こうだ!」


《ライブフェイズ》


シオンが指を二本立てた。


「まずは、どっちかが先攻でライブを始める。先攻がライブの山場で召喚獣を召喚し、盛り上がりがその召喚獣のパワーになる」


「つまり、ライブの出来が、そのまま召喚獣の強さに影響するわけだな」


エリカが理解したように頷く。


「そのとおり!」


ベルがニヤリと笑う。


「で、後攻も同じようにライブをして、自分たちの召喚獣を召喚する。ここで観客がどっちの演奏にノッてるかってのが、召喚獣のパワーに関わるんだぜ!」


「じゃあ、もし後攻の方が演奏が良かったら……?」


ユナが恐る恐る聞くと、ルージュは大きく頷いた。


「もちろん、召喚獣の力も変わる! だからライブの段階でいかに観客の心を掴むかが、勝負の鍵になるってわけよ!」


「……つまり、ライブがそのまま、戦闘力になっちゃうってことか……!」


レンが驚いた声を上げた。


「おいおい、驚くのはまだ早ぇぞ!」


ルージュが指を三本立てた。


「ライブフェイズが終わったら、次は——」


《召喚獣フェイズ》


「ここで召喚獣同士のバトルが始まる!」


「えっ!? 召喚獣同士で戦うの!?」


ミサキが目を見開いた。


「そうだ、召喚獣フェイズでは、お互いの召喚獣が直接戦う! そして、最終的に相手の砦……つまり、ステージを破壊しきった方の勝ちだ!」


「じゃあ、もし勝負が決まらなかったら……?」


ユナが問うと、シオンがニヤリと笑った。


「その場合、もう一回ライブフェイズが始まる。つまり——ライブフェイズと召喚獣フェイズを繰り返して、決着をつける」


「最終的に相手のステージを全壊させた方が勝ち! そういうルールってこと!」


ベルが豪快に笑う。


「……は、はぁ……なるほどね」


ミサキが額を押さえながら、ようやく理解したように呟いた。


「けど、つまりさ」


レンが静かに口を開いた。


「ライブが下手だったら、召喚獣の力が弱くなる……ってことだよね?」


「その通り!」


ルージュが笑いながら指を鳴らす。


「だから、お前らがどんだけ強かろうが、クソみてぇな演奏だったら即負けるぜ?」


「うっ……!」


ユナたちの顔が少し強張る。


——ライブの出来が、勝敗を決める。


今までのように、ただ魔法で戦うだけじゃない。音楽そのものが、戦いの武器になる。


「さて、これでルールは分かったな?」


ルージュが両手を広げる。


「でも、そっちが初めてのライブバトルだとしても……」


彼女は挑発的な笑みを浮かべた。


「手加減なしでいくぜ?」


シオンとベルも、それぞれの楽器を構える。


「さぁ、始めようか!」


風が吹き抜ける。


空気が変わった。




「じゃあ、そろそろ始めようか!」


ベル・バレットが勢いよくドラムスティックを掲げる。彼女の小柄な体からは想像もつかないほどの自信に満ちた声だった。


「まずはステージ召喚だな!」


彼女が地面にスティックを突き立てた瞬間——空気が震えた。


まるで地面そのものが音を奏でるかのように低く唸る。次の瞬間、ベルの足元から紅蓮の炎が立ち昇り、その熱気が一気に広がった。


「くぅ~~!! これが異世界のライブパワーってやつかぁ!」


ミサキが興奮した声を上げる。


ベルのステージは、まるで地下のロックバーを模したような造りだった。スチームパンク調の鉄とレンガの壁、巨大なスピーカーが並び、無数の赤黒い照明がぶら下がる。


「どーだ、うちのステージは!? ここじゃ燃え尽きるまで演奏できるぜ!」


ベルが誇らしげに言い放つ。


「すげぇ……」


ミサキが感心していると、ルージュが腕を組みながらニヤリと笑った。


「ほう、どうやらお前らもやる気が出てきたみたいだな?」


「そりゃ、こんなん見せられたらやるしかねぇっしょ!」


ミサキが胸を張る。


「んじゃ、見せてもらおうか?」


シオン・アッシュが興味深そうに言った。


「お前たちのステージ——召喚してみな?」


——試されている。


ミサキは喉を鳴らし、ゆっくりとスティックを握った。


(やるしかねぇ!)


彼女は覚悟を決め、大きく振りかぶると——


ドォォォォォォン!!


ミサキがスティックを振り下ろした瞬間、足元から雷のような衝撃が走る。


バリバリバリバリバリ!!!


青白い雷が地面を駆け抜け、その衝撃で風が巻き起こる。


そして——巨大なライブハウスが召喚された。


NO FUTUREのステージ。


まるで深夜のライブハウスそのものだった。


ネオンが瞬き、ステージ中央には大型のスピーカーが並ぶ。天井にはスポットライトが設置され、照明は赤と青のコントラストでステージを照らした。


「おぉ~!!」


ブラッディ・リズムの三人が声を上げる。


「すっげぇ……お前ら、初めてのステージ召喚でこんなにガッチリしたのを作るとはな……!」


ベルが目を輝かせる。


「……これが、私たちのライブハウスか」


エリカがそっと呟く。


「やっぱ、馴染むな」


レンが微笑む。


「すげぇな、お前ら!」


ミサキが笑いながら、スティックを握り直す。


「おうおう、なかなかいいじゃねぇか!」


ルージュ・スカーが満足げに言う。


「さて、どっちが先攻を取るか決めようじゃねぇか」


「いや、こっちが先攻やるよ」


ユナが一歩前に出る。


「おっ、やる気満々じゃねぇか!」


「まぁね。でも、まず作戦会議させてくれない?」


「おう、お好きにどうぞ!」


ブラッディ・リズムがステージに下がる。




「……というわけで、ライブフェイズはとにかく盛り上がるように演奏するだけでいいね」


ユナがまとめるように言う。


「つっても、どんな感じでやる?」


ミサキが腕を組む。


「盛り上がるって言ってもさ……いつも通りでいいの?」


レンが真剣な表情で尋ねる。


「いや……それじゃダメだと思う」


エリカが静かに口を開いた。


「今までの演奏は、普通のライブだった。でも、ここは異世界で、音楽が魔法になる世界……」


「つまり?」


「魔法を演出に取り入れたライブをやるべきってこと」


エリカが的確に言い放つ。


「なるほど……確かに!」


ユナが目を輝かせる。


「おぉ~! 前言ってたヤツか!」


ミサキがガッツポーズを取る。


「じゃあ、それで決まりか」


レンが小さく笑う。


「よし、じゃあ最後に……」


ユナが手を差し出した。


ミサキ、レン、エリカが次々と手を重ねる。


「「「「ファイト!」」」」



四人の声が重なる。


初めてのライブバトル、ついに開幕——!


NO FUTURE、ライブ開始!


「それじゃあ……」


ユナがステージの真ん中に立つ。


ブラッディ・リズム、村人たち——全員の視線が彼女に注がれる。


「曲名! Burning Future!!」


瞬間、ギターの音が世界を震わせた。


ドォォォォォォン!!!!


ユナが最初のコードを鳴らした瞬間、真紅の炎がステージを包み込む。


ライブハウスの熱狂的な空間が、今、音楽と魔法によって形になった




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