5話、「リヴェルデ村と謎の影」
翌朝、リヴェルデ村は静かな朝の光に包まれていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、木造の宿屋の壁に穏やかな影を落としている。空はどこまでも澄み渡り、昨日の混乱が嘘のように思えるほど穏やかだった。
宿屋の一室、木の温もりが感じられる部屋の中で、ミサキがベッドの上で寝ぼけながら伸びをした。大きくあくびをすると、乱れたショートヘアを無造作にかきあげながら「はぁ~……マジで異世界かぁ……」と呟く。
テーブルの上には、村長からもらった果物が置かれていた。名前を聞くと「リヴェルデアップル」というらしい。見た目は普通のリンゴに似ているが、皮がほんのり赤紫に染まっていて、光に当たると艶やかな光沢を放つ。ミサキは興味津々で手に取ると、一口かじった。
「んっ……うめぇ!」
シャキッという音と共に、果汁が口いっぱいに広がる。リンゴとは違う、どこか深みのある甘酸っぱさが喉を潤した。「これ、めっちゃジューシー!」ミサキは思わずもう一口かじる。
その音に気づいたレンが、まだ寝ぼけ眼のままベッドの端に座り、ぼんやりとミサキを見つめた。「朝からそんなにテンション高いの、すごいな……」
「いやいや、食ってみ? マジでうまいから!」ミサキはもう一つを手に取り、レンに投げてよこした。
レンはそれを無造作にキャッチすると、興味なさそうに見つめた後、小さくため息をついて一口かじる。「……おお?」
驚いたように目を見開く。口の中に広がる甘酸っぱさは、思っていたよりもずっと馴染み深く、それでいて異国の味がした。
「意外と……アリかも。」
「だろ? あー、なんか、ちょっとずつこの世界にも慣れてきた気がするなー。」
そんなやり取りをしているうちに、ユナとエリカも目を覚まし、徐々に部屋の中が賑やかになっていった。
「そういえば、魔物、来てなくない?」
朝食のパンをちぎりながら、ユナがふと呟いた。
昨日、村長は「最近この村にだけ魔物が異常に出没している」と言っていたが、今のところ村には異常はない。もしかすると今日は穏やかに過ごせるのかもしれない。
「まぁ、こういう時こそやれることをやっとくのが正解でしょ。」
ミサキがスティックを指で回しながら言う。「……でさ、そろそろオリジナル曲、完成させない?」
「オリジナル曲?」
ユナはギターのストラップを肩にかけながら、少しだけ眉を寄せた。
「ほら、もともと解散前の最後の曲だったやつ。3ヶ月前から作りかけてたやつ。」
「ああ……」
ユナは思い出す。あの曲は、自分たちがバンドを続ける理由を見つけようとして作り始めたものだった。けれど、完成する前にバンドは解散寸前になり、結局未完成のまま放置されていた。
「確かに、今のままじゃ終われないかも。」エリカが静かに呟く。彼女にとって、この曲が未完成のまま放置されるのは、どこか納得できないことだった。
「でも、どうする? もともと、普通の曲として作ってたけど……」
「だったらさ、せっかくだし、4つに分けて私たちそれぞれを象徴する曲にしちゃえば?」ミサキが提案する。
「今の……私たち?」
「異世界で戦えるようになって、それぞれ魔法の力を持ったじゃん。それを音にしちゃうの、どう?」
ユナは目を見開く。「それって……私たち四人それぞれのモチーフに作るってこと?」
「そう! ユナは炎、エリカは風、レンは氷、私が雷。それぞれのイメージをメロディーに織り交ぜる感じで!」
ミサキの提案に、エリカとレンが顔を見合わせる。確かに、今の自分たちには、以前とは違う「音楽の形」があった。異世界に来てから手に入れた、魔法としての音楽。それを曲に落とし込むことで、今の彼女たち自身を表現することができるかもしれない。
「……面白いかも。」エリカが小さく笑う。
「なるほどな。」レンも頷いた。「たしかに、今の私たちを表すなら、それが一番しっくりくるかも。」
「じゃあ決まりだな!」
ミサキは笑いながら、スティックを軽く叩いた。「よし、完成させようぜ! 私たちの、初めての異世界オリジナル曲を!」
ユナはギターのネックを握りしめる。未完成だったあの曲。異世界に来たことで、今なら「完成させられる理由」がある。
「……やろう。」
彼女たちの中で、一つの決意が固まった。
ユナはギターのストラップをかけ直し、指で軽く弦を弾いた。スタジオとは違う、木造の宿屋の壁が音を柔らかく吸収していく。どこか懐かしく、温かい音だった。
「じゃあ……まずは、ユナの曲から作る?」
ミサキが提案すると、ユナは一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐに笑みを浮かべた。「いいね、やろう。」
エリカが頷き、レンも腕を組んで考え込む。「ユナは……やっぱり炎だろ?」
「うん。」
ユナは自分の掌を見下ろした。
異世界に来てから、彼女のギターは炎を宿すようになった。初めて魔物と戦ったとき、驚くほど自然に炎の旋律を奏でられたことを思い出す。まるで、自分の音が世界に認められたような気がした。
「私の音は、赤だと思うんだよね。」
ユナはギターのボディを撫でながら、ゆっくりと話す。
「赤って、情熱とか、衝動とか、そういうイメージあるじゃん? 私、いつも感情で動いちゃうし、考えるより先に手が動くし……そういう自分らしさを曲に落とし込みたいなって。」
「確かに、ユナの音はそういう感じするな。」レンが言う。「熱いし、衝動的だし。でも、その中に強い意志もある。」
「ふふっ、ちょっと褒めすぎじゃない?」ユナは少し照れくさそうに笑った。
「じゃあ、歌詞も炎っぽいのにする?」ミサキがスティックをくるくると回しながら提案する。「たとえば、何かを燃やし尽くすみたいなイメージ?」
ユナは考え込む。
「……うーん、燃やすっていうより、もっとこう……燃え上がる感じがいいかな。自分を鼓舞するような、そんな曲にしたい。」
「なるほどね。」エリカが静かに頷く。「じゃあ、サビは爆発するようなメロディにするのがいいかも。」
「よし、なんとなく方向性は決まったな!」ミサキが勢いよく立ち上がる。「で、さ……ライブ演出で魔法使うのはどう?」
「え?」
ユナは目を見開いた。
「ほら、せっかく魔法があるんだからさ、普通に演奏するだけじゃもったいなくね? どうせなら、炎をガンガン使って派手にしたらいいんじゃない?」
「たしかに、それアリかも。」レンが考え込む。「異世界のライブって、普通はどうやるのか分からないけど……こっちの世界の音楽は、魔法と結びついてるわけでしょ? だったら、派手な演出込みでライブするのも、自然かもしれない。」
「いや、待ってよ。普通に考えて、ステージで火をバンバン出したら危なくない?」ユナが言うと、ミサキは笑いながら肩をすくめた。
「まぁ、そこは調整しつつさ。ほら、観客が盛り上がるほど魔力が強くなるって話だったじゃん? だったら、ライブの演出として魔法を使えば、もっと音楽が強くなるかもしれないし。」
「……確かに、それは面白そう。」エリカが少し考え込んだ後、真剣な顔で言った。「単なるライブバトルじゃなくて、音楽を最大限活かした戦い方……か。」
「よし、じゃあそれでいこう!」ユナが拳を握りしめた。「この世界に来たからには、私たちにしかできない音楽を作る!」
そんな話をしているうちに、昼になった。
宿屋の一階、簡素な木のテーブルに並ぶのは、村の食材をふんだんに使った料理だった。
「おお……なんか、異世界感ある!」ミサキが興味津々で皿をのぞき込む。
並んでいるのは、大きな焼きパン、香ばしいスープ、そしてリヴェルデアップルを使ったジャム。さらに、何かの肉を使ったシチューもあった。
「うわ、これうまそう!」ミサキはさっそくスプーンを手に取り、シチューを一口。「……ん!! めっちゃ濃厚! 肉も柔らかい!」
「何の肉なんだろう?」レンがじっとシチューを見つめる。
「リヴェルデ村周辺にいる草食魔獣の肉だよ。」宿屋の主人が笑いながら答えた。「こっちの世界の肉は、魔力が少し含まれてるから、食べると体が軽くなるんだ。」
「へぇ~!」ユナが驚いた声を上げる。「魔法があるってことは、食べ物にも魔力が関係してるってことなんだ?」
「そういうことさ。魔獣は、倒すと魔力が抜けて普通の肉になるけど、ほんの少し魔力が残ってることもあるんだよ。」
「なるほどねぇ……」レンはシチューを口に運びながら考え込んだ。「ってことは、この世界では、食事も戦いの一部みたいな感じなのかな。」
「かもね。」エリカがスプーンを置いて、小さく笑う。「でも、そういうの、ちょっと面白いかも。」
「そうだね。」ユナはパンをちぎりながら言った。「だって、普通に生きてたら、こんな経験できないもんね。」
ミサキはパンを口に放り込みながら、ニヤリと笑った。「……なぁ、私たち、もしかしてめっちゃすごいことしてんじゃね?」
「かもな。」レンが笑う。「でも、それならそれで、ちゃんとやらないと。」
「だな!」ユナはギターのネックを撫でる。「まずは、私の曲を完成させる!」
「おうよ!」ミサキがスティックをくるくると回す。
こうして、異世界での初めてのオリジナル曲が、少しずつ形を成していくのだった。
午後の陽が柔らかく村の広場を照らす中、リヴェルデ村の村人たちが続々と集まってきた。麦わら帽子を被った農夫たち、手を引かれた小さな子どもたち、好奇心に満ちた若者たちが、興味津々に宿屋から出てきたNO FUTUREのメンバーを見つめている。
「お願いだ! 異世界の音楽を聴かせてくれ!」
声を上げたのは、村のパン屋の主人だった。分厚い腕を組み、満面の笑みを浮かべている。その横では、数人の村人たちが頷きながら期待に満ちた視線を送っていた。
「ライブか……」ユナはギターのストラップを肩にかけ直し、周囲を見回した。「もちろん、やるよ!」
「おおっ!」村人たちは歓声を上げ、即席のステージとして広場に木箱を運び始めた。
「ちょっとしたストリートライブみたいなもんか?」ミサキはドラムセットを魔法で召喚し、スティックをくるくると回す。「いいじゃん、ノってこうぜ!」
「ふむ……即興でやるには、ちょうどいい場所かもね。」エリカはギターの弦を軽く弾き、音の響きを確かめる。
レンはそんな3人を見ながら、微笑を浮かべた。「ま、悪くないな。こうやって、音楽を届けられるなら。」
ライブの準備が整うと、自然と観客たちは広場を囲むように集まってきた。子どもたちは地面に座り、農夫たちは手を拭きながら興味津々に見守る。酒場の店主らしき男は、木の桶に入ったリンゴ酒を片手に持ちながら、「さぁ、奏でてくれ!」と大声を上げた。
ユナはギターのストラップを強く握り、視線を前に向けた。
「さぁ、いくよ!」
ミサキがスティックを振り上げ、カウントを取る。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
ドラムが響き、ベースの低音が広場に広がる。エリカのギターが流麗なリードを奏で、ユナの声が空へと突き抜けた。
音楽が広場全体を包み込んでいく。村人たちは次第に身体を揺らし始め、手拍子が響く。小さな子どもたちは飛び跳ね、大人たちも笑いながらリズムに乗る。
「おお……すげぇ!」パン屋の主人が驚いたように呟いた。「まるで音が……生きているみたいだ!」
「それが、音楽ってもんさ!」ミサキがにやりと笑いながら、力強いビートを刻んだ。
「楽しいね!」ユナは村人たちに向かって叫ぶ。「もっともっと、楽しんでいこう!」
広場は歓声に包まれた。NO FUTUREの音楽は、確かにこの村の人々の心を掴み始めていた。
***
そんな中——。
「な、なんだ……?」
突如として、遠くの森の方から低いうなり声が響いた。村人たちは驚いて振り向く。
「魔物だ!!」
見張り役の兵士が叫ぶ。広場の熱気が一気に張り詰めた空気に変わる。
森の奥から現れたのは、巨大な狼のような魔物だった。灰色の毛並みを逆立て、黄色い眼光を鋭く光らせている。
「クソッ、こんなときに……!」
兵士たちは剣を構えたが、その動きには明らかに迷いがあった。先ほどまで音楽を楽しんでいた人々の中には、小さな子どもや武器を持たない村人もいる。彼らを巻き込めば、大惨事になりかねない。
「……任せて。」ユナが前に出ると、ギターを強く握った。「私たちがやる。」
「なっ……!?」昨日の戦いを知らない村人が目を見開く。「お前たちが、魔物と戦うってのか!?」
「そうじゃない。」エリカがギターのネックを撫でながら答えた。「私たちは……音楽を奏でるだけ。」
「だけど、それが……」レンが静かに続ける。「この世界では、戦う力になる。」
「いくぜ!」ミサキがスティックを握り、空に振り上げた。
ユナのギターが燃え上がり、炎の竜クリムゾンドラゴンが空を裂くように咆哮する。その炎を受けたエリカのシュヴァリエ・デュヴァンが風を纏い、鋭い斬撃を生み出した。
レンのフリズヴェルグは冷気の翼を広げ、魔物の動きを鈍らせる。そして、ミサキの稲妻阿修羅が雷の拳を振り下ろし、大地を震わせた。
「スカーレット・ストレート!!」
「無限斬!!」
「クリスタルローズ!!」
「イナズマの右腕!!」
四つの魔法が交錯し、魔物はその圧倒的な力の前にあっけなく倒れ込んだ。
村人たちは息を呑み、そして——
「おおおおおおおおおおおっ!!!」
歓声が広場に轟いた。
「す、すげぇ……!」
「音楽で、魔物を……!?」
「NO FUTURE!! NO FUTURE!!」
広場は熱狂に包まれた。村人たちは、すでに彼女たちを"救世主"のように見ていた。
***
だが——遠くの木陰から、その様子を見ていた3つの影があった。
「……へぇ、やるじゃない。」
謎の小柄な少女が、ほくそ笑む。
「これじゃあ、『楽器もファンも丸ごといただき大作戦』がうまくいかねぇじゃんか。」
細身の女性が不機嫌そうに唇を噛む。
「まぁ、焦ることはないさ。」
最後にいた、革ジャンの女性がニヤリと笑う。「折角だから、利用させてもらおうじゃないか……この、"即席のヒーロー"たちを。」
その眼には、狡猾な光が宿っていた。
2日後ー
リヴェルデ村に降り注ぐ陽光は、柔らかく穏やかだった。
村人たちは相変わらずNO FUTUREを英雄のように扱い、広場に出れば誰かしらが声をかけてくる。「今日も音楽を聴かせてくれ!」と期待を込めた目で見つめられ、4人はそれに応じる日々を過ごしていた。
ユナは最初のうちこそ戸惑っていたが、演奏することで皆が笑顔になるのが嬉しく、次第にこの村に馴染んでいった。
ミサキは完全に順応していた。「なんか、地元の屋台街みたいだな!」と、村の子どもたちと一緒に遊んでいる姿をよく見かけた。
レンは最初こそ「こんな生活でいいのか」と思い悩んでいたが、村人の温かさに触れるうちに、少しずつ「こういう日常も悪くない」と思い始めていた。
エリカは相変わらず静かだったが、村の小さな楽器屋を訪れたり、演奏技術を鍛えるために独自に練習していたりと、少しずつ"この世界"に対する理解を深めていた。
そして、3日目の夜。
雲ひとつなかった空が、徐々にどす黒く染まり始めた。
***
魔物の襲来
「おい、見ろよ……」
見張り台の兵士が、震える声を上げた。
北の森の向こう、黒い影がうごめいている。いや、それだけではない。大地が揺れ、何か巨大なものがうねる音が聞こえる。
「……これは、ヤバいかもしれねぇな。」
ミサキが舌打ちしながらスティックを握りしめる。
レンは冷静に目を細め、「今までの比じゃないな……」と低く呟いた。
ユナはギターのストラップを握り直し、エリカは無言でネックを撫でる。
「村の人たちは!?」
ユナがアーヴィルに問いかけると、彼はすぐさま「避難させている!」と叫んだ。
だが、すでに魔物たちは村の近くまで迫っていた。
「間に合わない……!」
ユナは歯を食いしばった。
魔物の先頭に立っていたのは、体長5メートルを超える巨大な狼。
「こいつは……!」兵士が青ざめる。「夜狼だ!」
「夜狼?」
「普通の狼じゃない……奴らは音に敏感で、音楽の魔法を弱体化する力を持つんだ!」
「……それ、マズいんじゃね?」ミサキが呟く。
エリカが冷静に分析する。「でも、それって逆に言えば"音楽"が奴らに影響を与える証拠よね。」
「つまり……」ユナはギターを構えた。「力技で、突破する!」
***
迎え撃つNO FUTURE
「いくよ!!!」
ユナがギターの弦をかき鳴らした瞬間——
赤い炎が音と共に弾ける!
「スカーレット・ストレート!!!」
炎の竜クリムゾンドラゴンが空へと舞い、巨大な火球を吐き出した!
夜狼はそれを察知すると、鋭い遠吠えを上げる。
——ギャアアアアアアア!!
音の壁が炎を押し返し、村の屋根を揺らした。
「うわっ、やっぱり音で相殺された!?」ユナが顔をしかめる。
「だったら……!」
レンがベースを鳴らし、冷気の結晶を生み出す。
「クリスタルローズ!!!」
氷の鳥フリズヴェルグが宙を舞い、冷気の嵐を吹き荒らした!
——バキバキバキッ!!
夜狼の足元が凍り付き、動きが鈍る。
「いいぞ、レン!!」
「油断するな、まだ動く!」
夜狼は氷の中で足を踏みしめ、じわりと力を込める。
その瞬間——!
「イナズマの右腕!!!」
雷が落ち、夜狼の体を直撃!!
ミサキの稲妻阿修羅が雷の拳を振り下ろし、魔物たちが吹き飛ばされる!
「へへっ、いい感じじゃねぇか!」
だが、敵はまだまだいる。
「……いくわよ。」
エリカが静かにギターをかき鳴らす。
「無限斬!!!」
風の騎士シュヴァリエ・デュヴァンが剣を振るい、鋭い風刃が一瞬にして魔物たちの群れを両断する!
「やった……!?」
だが、夜狼はまだ立ち上がっていた。
「しぶといな……!」ユナが歯を食いしばる。
夜狼が再び吠え、今度は周囲の魔物たちを鼓舞し始めた。
「これ以上は……やらせない!!」
ユナは全身の力を込めてギターをかき鳴らす。
「スカーレット・ストレート、全開!!!」
クリムゾンドラゴンが咆哮し、巨大な炎が夜狼を包み込んだ!
——ゴオオオオオッ!!!
爆炎の中、夜狼は最後の遠吠えを上げ——そして、崩れ落ちた。
戦いが終わると、村人たちは恐る恐る広場へ出てきた。
そして——
「……助かった……?」
「NO FUTUREが、また村を救った……!」
次の瞬間、大歓声が巻き起こった!
「やったぜ!!!」
「NO FUTURE!!! NO FUTURE!!!」
村人たちが彼女たちを囲み、歓声を上げる。
ユナはギターを抱えたまま、息を切らしていた。
「……また、守れた。」
「はぁ……」レンがベースを担ぎながら肩を竦める。「しっかし、慣れてきたな、こういうの。」
「まぁな!」ミサキがスティックを振り回す。「つーか、やっぱ音楽は最高だよなぁ!」
エリカは静かにギターを撫でる。「……確かに、悪くない。」
彼女たちは、少しずつ確信し始めていた。
村人たちの歓声が収まり、静寂が訪れた頃、村長ガルヴェスがゆっくりと口を開いた。
「皆の衆、よくやってくれた。ワシらの村は、またしてもおぬしらに救われたわい」
彼の顔には深い感謝の念が浮かんでいた。周囲の村人たちも頷き合いながら、NO FUTUREを讃える視線を送っていた。
ユナはギターを背負い直しながら、深く息を吐いた。戦いは終わった——しかし、終わりではない。
「でも、村が襲われたのは今回が初めてじゃないですよね?」
レンが淡々とした声で問いかける。彼女は戦いが終わった後も、常に冷静に状況を分析する癖があった。
ガルヴェスは顎を撫でながら、静かに頷いた。
「そうじゃ……。じゃが今の戦いで分かったんじゃ、魔物が来たのは北の森からじゃよ」
「北?」
ミサキがスティックを回しながら小首を傾げる。
ガルヴェスは村の地図を取り出し、指で示した。
「ここじゃ。村の北に広がる《ヴェルデの囁き森》。この森の奥の方向じゃ」
「ヴェルデの……囁き森?」
ユナが地図を覗き込むと、確かにリヴェルデ村の北には大きな森林地帯が広がっていた。
「そうじゃ、今までは方向を絞らせないように出てきていたから分からなかったんじゃがな。気をつけるのじゃ、この動きは……ただの魔物ではい」
「ただの魔物じゃない?」
エリカがギターのストラップを握りながら、静かに問う。
ガルヴェスは深いため息をついた。
「現れる魔物の動きが、妙に統制が取れておるのじゃ」
「統制?」
レンが目を細める。
「まるで……誰かに操られているかのように、的確に村を狙い、兵士たちの隙をついて攻めてくるのじゃ」
一瞬、空気が張り詰めた。
「まさか……知能を持った魔物が?」
ミサキが眉をひそめる。
「可能性はあるのう。あるいは……何者かが背後で糸を引いておるのやもしれん」
村長の言葉に、ユナは自然と拳を握った。
ただの魔物の襲撃ではない。計画的なもの——ならば、いくら魔物を倒しても、根本的な解決にはならない。
「つまり、その森の中に"元凶"がいるってことですね?」
ユナの言葉に、村長は深く頷いた。
「そういうことじゃ」
「では、我らで森を調査し、魔物の発生源を叩くしかあるまい」
そう言って前に出たのは、アーヴィルだった。
「俺たち兵士だけで行くつもりだったが——NO FUTURE、君たちもぜひ来てくれないか?」
彼の問いに、4人は顔を見合わせた。
「え、どうする? 行く?」
ミサキが軽く肩をすくめながら言うと、レンが「行く以外の選択肢があるか?」と冷静に返す。
「……まぁ、確かにね」
エリカは小さく頷きながら、ギターのネックを撫でた。
ユナは唇を引き結び、深く息を吸い込むと——
「もちろん、行きます」
そう、はっきりと言い切った。
アーヴィルは満足そうに頷くと、剣の柄に手をかけた。
「よし、では我ら兵士とNO FUTUREの合同部隊で、《ヴェルデの囁き森》を攻略する!」
こうして——
魔物の発生源を突き止めるための戦いが始まった。