10話、「召喚獣フェイズ!!!」
広場の熱気は未だ冷めやらぬまま、観客たちは次の戦いの幕開けを固唾を呑んで見守っていた。ライブフェイズが終わり、これから始まるのは召喚獣フェイズ――音楽の熱狂を糧に戦う、異世界メロディアにおける最終決戦だ。
「さて、お楽しみの時間はここからだぜ!」
ルージュ・スカーがギターのネックを軽く弾き、ニヤリと笑った。ブラッディ・リズムのステージは今も赤黒い光を放ち、彼女たちの音楽の狂気を象徴するように脈動している。
「グオォォォォォッ!!!!」
巨大な四肢。鋼のように硬質な毛皮。燃えるように光る深紅の瞳。そして、空を裂くような咆哮。ブラックベヒーモス――漆黒の暴君が舞台に降臨する。
「ははっ……やっぱりカッコいいぜ、お前はよ!!!」
ルージュの興奮した声が響く。その場にいた観客たちは恐怖と興奮に満ちた視線をブラックベヒーモスへと向けていた。
「さて、お前ら……こっちの召喚獣に対抗できるか?」
ルージュがNO FUTUREの4人を見据える。
「もちろん……!」
「クリムゾンドラゴン!!」
「シュヴァリエ・デュヴァン!」
「フリズヴェルグ!!」
「稲妻阿修羅!!!」
NO FUTUREの4体の召喚獣が姿を揃え、ブラッディ・リズムのブラックベヒーモスと対峙する。
「へぇ……4対1か。こっちは1体しかいねぇのに、随分と大勢でかかってくるんだな?」
ルージュが挑発的に笑う。
「……そっちのブラックベヒーモスが圧倒的な力を持ってるからだよ」
ユナが言い返す。実際、ブラックベヒーモスは一撃の威力が尋常ではない。彼女たちの召喚獣4体でも、油断すれば圧倒される可能性は十分にあった。
「でも、こっちも負けるつもりはない!」
ユナが叫ぶと同時に、クリムゾンドラゴンが咆哮を上げた。
「なら……試してみな!」
ルージュが不敵に笑う。そして、彼女の指がギターの弦を弾く。
「――飛べ、ブラックベヒーモス!!!」
ズズズズズ……!!
突然、ブラックベヒーモスの背中から黒い光が放たれた。いや、光ではない――それは巨大な漆黒の翼だった。
「なっ……!?翼が生えた!?」
ユナたちは驚きの声を上げる。ブラックベヒーモスはゆっくりと翼を広げ、地面を蹴ると、一瞬で宙へと舞い上がった。
「こいつ……飛べるのか!?」
ミサキが叫ぶ。
「そういうことだ……!」
ルージュが不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、狩りの時間だぜ!!!」
ブラックベヒーモスが空を裂くように吠えた。
ユナたちの召喚獣も、それぞれ翼を広げ、空へと舞い上がる。
こうして、リヴェルデ村の空の上で、NO FUTUREとブラッディ・リズムの決戦が幕を開けた――!
ブラックベヒーモスの黒い翼が空を切り裂き、その巨体が驚異的な速さで舞い上がる。まるで黒い流星のように、空の戦場を支配するかのようだった。
「おいおい、ビビってんのかよ!?」
ルージュ・スカーが不敵に笑いながらギターを鳴らす。ブラックベヒーモスがその音に呼応するように咆哮を上げた。
「こっちも行くぞ!!」
ユナの声が響くと同時に、クリムゾンドラゴンが翼を大きく広げ、真っ直ぐにブラックベヒーモスへと突撃する。
「グオォォォッ!!!」
巨大な爪が煌めき、鋭く振り下ろされる。しかし、ブラックベヒーモスはそれを予測したかのように身を翻し、鋭い動きで回避。逆に、闇に包まれた巨大な腕を振るい、カウンターを仕掛ける。
ズガァァンッ!!!!!
「うわっ!?」
クリムゾンドラゴンが強烈な衝撃を受け、空中で態勢を崩す。瞬間、ブラックベヒーモスが追撃の体勢に入る。
「そう簡単にはやらせない!」
エリカが叫ぶと、シュヴァリエ・デュヴァンが猛スピードで飛び込み、剣を振りかざした。
「はァッ!!!」
ズバァァン!!!!!
銀色の剣閃が空を裂き、ブラックベヒーモスの肩を捉えた。しかし、黒い毛皮に覆われたその巨体はびくともしない。むしろ、その一撃に対して、ニヤリと笑っているかのような表情を見せる。
「こいつ、硬すぎる……!」
エリカが驚愕する。だが、ブラックベヒーモスは返答代わりに大きく吠え、鋭い爪を振るってシュヴァリエ・デュヴァンを吹き飛ばした。
「くっ……!エリカ!!」
ユナが叫ぶ。シュヴァリエ・デュヴァンは空中でバランスを立て直すが、ブラックベヒーモスの圧倒的な力に翻弄されていた。
「面白くなってきたじゃねぇか!」
ミサキが叫び、稲妻阿修羅が高速移動でブラックベヒーモスの側面に回り込む。六本の腕が稲妻を纏いながら一斉に振り下ろされる。
バババババンッ!!!
雷の拳が次々と炸裂し、ブラックベヒーモスの側面に連続で叩き込まれる。まるで連打のような速度で繰り出される衝撃が、空間を振動させる。
「どうだっ!!?」
ミサキが叫ぶ。しかし、ブラックベヒーモスはわずかに後退しただけだった。その瞳には、なおも余裕が見え隠れしている。
「……マジかよ」
ミサキの顔に焦りが滲む。
「フリズヴェルグ、援護!!」
レンが指示を出すと、フリズヴェルグが鋭い咆哮を上げ、氷のブレスを放つ。
ヒュオォォォォ……!!!
蒼白い冷気がブラックベヒーモスの身体を包み込む。全身の動きが鈍り、巨大な翼が一瞬だけ凍りついた。
「今だ!!!」
ユナが叫ぶと、クリムゾンドラゴンがその隙を逃さず突撃。燃え盛る爪を振り上げ、ブラックベヒーモスに叩き込む。
ズドォォン!!!
直撃。ブラックベヒーモスの巨体が大きく揺れ、黒い炎が舞い散る。
「やったか……?」
だが、その瞬間――
「グォォォォォォ!!!」
ブラックベヒーモスが咆哮を上げ、凍っていた翼を一気に振るった。
ビシィィィン!!!
氷が砕け、粉々になって空中に舞う。
「……フン、いい攻撃だが、それじゃ足りねぇよ」
ルージュ・スカーがニヤリと笑いながら言った。
「そろそろ、てめぇらの覚悟を試させてもらうぜ?」
ブラックベヒーモスがゆっくりと姿勢を正し、戦闘態勢を再び整える。
「まだ本気を出してねぇのかよ……」
ミサキが苦笑いしながら呟く。
「本気を出してないんじゃなくて、遊ばれてるんじゃないか……?」
レンが鋭く分析する。確かに、今のところブラックベヒーモスはそこまで大技を使っていない。ただ肉弾戦を繰り広げながら、こちらの攻撃の威力を測っているようにも見えた。
「くっ……だったら、こっちから仕掛ける!!!」
ユナが叫び、クリムゾンドラゴンが再び突撃を開始する。
「それでこそ、戦い甲斐があるってもんよ!」
ルージュ・スカーがギターを鳴らす。ブラックベヒーモスがそれに応じるかのように咆哮し、空中戦はますます激しさを増していく――!!
空中に舞い上がった召喚獣たちは、それぞれの翼を広げ、黒い雲の広がる空で対峙していた。ブラックベヒーモスの深紅の瞳が怪しく光り、NO FUTUREの召喚獣たちを一瞥する。
「そろそろ本気で潰しに行こうか?」
ルージュ・スカーがギターを鳴らすと、ブラックベヒーモスがその咆哮に応じるかのように吠えた。空気が震え、観客たちの足元が揺れるほどの衝撃が走る。
「お前ら、まだ飛び回るつもりかよ?」
ブラックベヒーモスがその巨大な翼を羽ばたかせ、一瞬で加速した。
「ッ!? 速い!」
ユナが驚く間もなく、黒い巨影が一閃。
ドガァァァン!!!
クリムゾンドラゴンがその爪を受け止めるが、力負けして後退する。衝撃波が空中を震わせ、観客たちは思わず息を呑んだ。
「負けるな、クリムゾンドラゴン!」
ユナの叫びに応じるように、クリムゾンドラゴンが鋭く翼を翻し、ブラックベヒーモスの背後に回る。だが、それを察知したかのようにブラックベヒーモスが後ろ足を蹴り上げる!
ズガァァン!!!
クリムゾンドラゴンが空中で弾き飛ばされる。
「やっぱり、力の差がデカすぎる……!」
レンが焦りを滲ませる。
「でも、まだやれる!」
エリカが剣を構え、シュヴァリエ・デュヴァンが突進する。騎士の如く一直線にブラックベヒーモスへ向かい、渾身の一撃を振るった!
ジャキィィィン!!!
剣がブラックベヒーモスの肩に食い込み、火花が散る。
「効いたか!?」
だが、次の瞬間――
ブラックベヒーモスが余裕の笑みを浮かべるように、シュヴァリエ・デュヴァンを弾き飛ばした。
「……チッ!」
エリカが舌打ちする。シュヴァリエ・デュヴァンは急旋回し、再び態勢を立て直す。
「フリズヴェルグ、援護!」
レンが叫ぶと、氷の龍が口を大きく開き、凍てつくブレスを放つ。蒼白の冷気がブラックベヒーモスを包み込もうとするが――
「……そんなもんで止まるかよ!!」
ルージュがギターをかき鳴らすと同時に、ブラックベヒーモスが翼を広げ、黒炎を吹き上げる。
ボォォォォォ!!!
氷と炎がぶつかり、瞬時に蒸発する。互いの力が拮抗し、激しくぶつかり合うが、ブラックベヒーモスは微動だにしない。
「バカな……耐えるだと!?」
レンが驚愕の表情を見せる。
「なら、コイツでどうだァァァッ!!!」
ミサキが叫ぶと、稲妻阿修羅が六本の腕を稲光と共に振り下ろす!
バババババンッ!!!!
拳が連続で炸裂し、ブラックベヒーモスの体に衝撃波を送り込む。しかし――
「……まだまだ足りねぇよ」
ルージュが呟いた瞬間、ブラックベヒーモスが稲妻阿修羅の攻撃をものともせず、爪で弾き返す!
ガキィィン!!!
衝撃で稲妻阿修羅が宙を舞い、態勢を崩した。
「……どうなってんだよ、こいつ!」
ミサキが歯を食いしばる。
「攻撃が全部通ってない……いや、受け止められてる!?」
ユナが息を呑む。今までの戦いでは、どんな相手にも攻撃を当てれば何かしらのダメージが通っていた。だが、ブラックベヒーモスは違う。ただの硬さではない。攻撃を受け流し、その衝撃すら自らの力に変えているのだ。
「クソッ……このままじゃ……!」
エリカが拳を握りしめたその時――
「終わりだ」
ルージュ・スカーがギターを鳴らした。
ユナたちが戸惑う間もなく、ブラックベヒーモスの体が黒い光を帯びる。
「こっからは、てめぇらを潰す時間だ!!!」
ブラックベヒーモスが咆哮を上げると、空が赤黒く染まり始める。
「な、なんだ……!?」
ユナたちが警戒を強める中、ルージュが満足そうに笑った。
「お前らに"絶望"ってやつを見せてやるよ」
そう言い放った瞬間、ブラックベヒーモスの周囲に無数の黒い光が集まり始めた。
「……まさか!!」
レンの顔色が変わる。
「くるぞ!!!」
ユナが叫んだ次の瞬間――
ブラックベヒーモスが天を仰ぎ、大きく吠えた。
「グォォォォォォォ!!!!」
その咆哮が合図となり、空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「これは……!!!」
観客の中からも悲鳴が上がる。空中に生まれた黒い渦。その中心から――無数の隕石が姿を現した。
「メテオ、発動だ」
ルージュ・スカーが低く呟く。
そして――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
空を埋め尽くすほどの黒い隕石群が、NO FUTUREの召喚獣たちに向かって降り注ぎ始めた――!!
黒い魔法陣が天に広がり、空が完全に赤黒く染まる。そこから溢れ出すように現れたのは、無数の巨大な隕石だった。
「嘘だろ……」
ミサキが天を仰ぎながら、驚愕の声を上げる。隕石の数は尋常ではなかった。小さなものでも馬車ほどの大きさ、大きいものは家屋を飲み込むほどのサイズだ。
「これ、避けられるのか……!?」
観客の中からも恐怖のざわめきが広がる。彼らの頭上には、まるで終末の予兆のように隕石が広がっていた。
「へへっ……どうする?」
ルージュ・スカーがギターのネックを軽く叩きながら、不敵に笑う。ブラックベヒーモスはゆっくりと宙に浮かび、下界を見下ろしていた。まるで自身の力を誇示するかのように。
「ブラックベヒーモスの"メテオ"……」
エリカが低く呟く。
「これは……防ぐしかない!」
ユナが叫ぶ。
「クリムゾンドラゴン、迎撃!!!」
クリムゾンドラゴンが天へと向かい、口を大きく開いた。そこから燃え盛る炎の奔流が放たれる。
ゴォォォォォォ!!!!
燃え上がる炎が、無数の隕石を焼き払っていく。しかし――
「くっ……!」
一部の隕石は炎によって砕かれるが、それでも数が多すぎる。焼き切る前に、さらに巨大な隕石が迫ってきていた。
「シュヴァリエ・デュヴァン、斬り裂け!」
エリカが指示を飛ばすと、風の騎士が疾風と共に駆け上がる。巨大な剣を振り上げ、隕石を斬り裂いた。
ズバァァァァン!!!
空中で隕石が二つに割れ、破片が散る。しかし、それだけでは止めきれない。
「フリズヴェルグ、氷の壁を展開!!」
レンの声が響くと、氷の龍が大きく翼を広げ、冷気を発した。氷の壁が宙に浮かび、迫り来る隕石を迎え撃つ。
バキィィィン!!!
いくつかの隕石は氷に封じ込められ、そのまま空中で砕け散る。しかし、それでもまだ残る隕石があった。
「稲妻阿修羅、雷撃!!!」
ミサキが叫ぶと、稲妻を纏った阿修羅が六本の拳を振りかざす。雷の閃光が走り、無数の隕石に打ち込まれる。
バリバリバリバリバリ!!!
雷撃が隕石を貫き、炸裂させる。しかし、それでも全てを迎撃することはできない。
「駄目だ……!!」
エリカが歯を食いしばる。迎撃しきれなかった隕石が次々と落ちてくる。
「クリムゾンドラゴン、避けろ!!」
ユナが叫ぶと、紅蓮の竜が急旋回し、落ちる隕石を回避する。だが、その瞬間――
ズガァァァァン!!!
「ぐっ……!!」
クリムゾンドラゴンが回避しきれず、隕石の破片に直撃された。炎が舞い散りながら、体勢を崩して落下していく。
「クリムゾンドラゴン!!!」
ユナが絶叫する。
「シュヴァリエ・デュヴァン!! 援護!!」
エリカが即座に命令を飛ばす。風の騎士が素早く飛び込み、クリムゾンドラゴンの落下を受け止める。しかし、すぐに別の隕石が迫っていた。
「クソッ……このままじゃ!!」
ミサキが焦りを滲ませる。
「……冷静になれ。まだ終わってない」
レンが静かに言った。その言葉に、ユナたちは少しだけ冷静さを取り戻す。
「まだ戦える……!」
ユナがギターを握りしめ、クリムゾンドラゴンに意識を集中する。紅蓮の竜が体勢を立て直し、再び飛翔した。
「まだまだこれからよ!」
エリカも剣を振りかざし、シュヴァリエ・デュヴァンが隕石の迎撃を再開する。
「だけど、ここからが本番だぜ?」
ルージュ・スカーが笑いながら言う。
「……何?」
ユナが眉をひそめる。
ブラックベヒーモスがゆっくりと翼を広げた。
「ここからは、もっとデカいのをお見舞いしてやるよ」
ルージュの言葉と同時に、ブラックベヒーモスの体がさらに黒い光を帯びる。
「まさか……!」
レンが目を見開く。
「そうさ。特大メテオの時間だ!!!」
ルージュ・スカーがギターを弾いた瞬間、天空に新たな魔法陣が描かれた。
今までの隕石とは比べ物にならないほどの巨大な隕石が、空に現れる。
「おいおいおい……」
ミサキが驚愕の声を漏らす。
「今までのメテオとは桁違いのデカさだ……!!!」
観客たちの中からも悲鳴が上がる。
「これが……ブラックベヒーモスの"特大メテオ"……!!」
ユナが呟く。
「……逃げられない」
シュヴァリエ・デュヴァンが剣を握る。
「防ぐしか……ない!!」
ユナたちは必死に迎撃体勢に入る。しかし、その時――
「……いや」
レンが低く呟いた。
「……違う」
「え?」
ユナたちが戸惑う。
レンの目は冷静だった。そして、彼女は静かに言った。
「……あれは、当たらない」
「……なに?」
ユナが驚いてレンを振り向く。
「落ちる場所を見て……」
レンが指差した方向には――
ブラックベヒーモスのステージがあった。
「……まさか!!」
ユナが息を呑む。
「そうだ……"特大メテオ"は、ブラッディ・リズムのステージに落ちる!」
ルージュたちはまだその事実に気づいていない。
「……今しかない!!!」
ユナが叫ぶ。
「ブラックベヒーモスとブラッディ・リズムのステージに向かって、突撃する!!!」
4体の召喚獣が、咆哮を上げながら一斉に飛び立つ。
NO FUTUREの召喚獣たちは、ブラックベヒーモスとブラッディ・リズムのステージに向かって突撃した。
だが、その瞬間――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
天から降り注ぐ「特大メテオ」の影が、一帯を覆う。まるで世界が崩壊するかのような圧倒的な威圧感だった。
「おいおいおい……マジであんなの、まともに食らったらひとたまりもねぇぞ!」
ミサキが驚きの声を上げる。だが、ユナはすでにレンの言葉を信じ、次の一手を決めていた。
「大丈夫! あの隕石は、こっちには当たらない!」
レンが静かに頷く。だが、それはNO FUTUREにとっての話だった。
「けど、ブラックベヒーモスは……違う!」
ユナが叫ぶと同時に、クリムゾンドラゴンが猛スピードで駆け上がる。紅蓮の翼が炎を纏い、空を裂く勢いでブラックベヒーモスに接近する。
ドォォォン!!!
そのまま真っ向から突撃! 燃え盛る爪が、ブラックベヒーモスの胸に叩き込まれる。
「グォォォォォ!!!」
黒い獣が咆哮し、体勢を崩す。
「いいぞ! そのまま押し込め!」
ミサキが叫び、稲妻阿修羅が六本の腕を振るう。電撃が弾け、拳が次々とブラックベヒーモスの四肢に炸裂する。
「フリズヴェルグ!!」
レンの命令に応じ、氷の鳥が冷気を纏い、敵の動きを鈍らせるように吹雪を巻き起こした。
「シュヴァリエ・デュヴァン!! 一刀両断!」
エリカのシュヴァリエ・デュヴァンの剣が鋭く輝き、風の騎士が剣を振り下ろす。切り裂く風がブラックベヒーモスの肩を裂いた。
ゴゴゴゴゴゴ……!!!
だが――。
ブラックベヒーモスは、ゆっくりと顔を上げた。深紅の瞳が怪しく光り、黒炎がその体を包む。
「……クッ」
エリカが息を呑む。ブラックベヒーモスの巨体は、どんな攻撃を受けてもまだ立っている。むしろ、怒りを増したような雰囲気すらあった。
「終わりだ……」
ルージュ・スカーが低く呟いた。
ブラックベヒーモスの巨体が宙に浮かび、翼を大きく広げる。
そして――。
ズガァァァァァァン!!!
黒炎の爆発! ブラックベヒーモスがその力を解放し、周囲に衝撃波を放つ。
「うわああああっ!!!」
NO FUTUREの召喚獣たちが、その爆風に巻き込まれ、次々と吹き飛ばされる。
「クソッ……!!」
ユナが歯を食いしばる。クリムゾンドラゴンがバランスを立て直そうとするが――。
ドォォォン!!!!
ブラックベヒーモスがその巨体を炎の塊と化し、突撃した! クリムゾンドラゴンと真正面からぶつかり、そのまま大地へと叩き落とす。
「クリムゾンドラゴン!!!」
ユナの叫びが響く。炎が地上で弾け、竜の巨体が地面を揺るがすほどに墜落した。
「お前の相棒は、もう立てねぇよ」
ルージュ・スカーが冷たく笑う。
「まだ終わりじゃない……!」
エリカが叫び、シュヴァリエ・デュヴァンがブラックベヒーモスへと突進する。しかし――。
「甘い!」
ブラックベヒーモスの爪が横薙ぎに振るわれた。
ガギィィィィン!!!!
銀の鎧が砕け、風の騎士が吹き飛ばされる。シュヴァリエ・デュヴァンの剣が弾け飛び、騎士はそのまま地面へと墜落した。
「シュヴァリエ・デュヴァン!!」
エリカが叫ぶが、騎士はすでに力を失いかけていた。
「これで二体……」
ルージュ・スカーが勝ち誇ったように笑う。
「まだだ!」
レンが叫び、フリズヴェルグが氷のブレスを放つ。冷気がブラックベヒーモスを包み、凍りつかせる。
「……効いたか?」
「甘いな」
ルージュがギターを弾いた瞬間、ブラックベヒーモスの黒炎が再び爆発!
バキィィィィン!!!!
氷が砕け、ブラックベヒーモスが解放される。そのまま、巨大な前足でフリズヴェルグの顔面を叩き伏せた。
ドガァァァン!!!!
「ぐっ……!!」
フリズヴェルグの巨体が地面に叩きつけられ、氷の結晶が砕け散る。
「三体目……残るは……」
ルージュがニヤリと笑いながら、最後の召喚獣を見つめる。
「稲妻阿修羅……」
「……ちっ!!」
ミサキが唇を噛みしめる。
ブラックベヒーモスがゆっくりと動き出す。その瞳には、完全なる勝利の確信が宿っていた。
「終わらせるぜ……!」
ルージュのギターが鳴り響き、ブラックベヒーモスが稲妻阿修羅へと突進する!
「まだ終わってない!!!」
ミサキが叫び、稲妻阿修羅が拳を振り上げる。電撃が弾け、空を震わせる。
「いけぇぇぇぇぇぇ!!!」
渾身の拳が放たれる。しかし――。
ブラックベヒーモスがそれを受け止め、微動だにしない。
「……嘘だろ!?」
ミサキの顔が青ざめる。
「もう……終わりだ」
ルージュが不敵に笑う。
ブラックベヒーモスが力を込め、そのまま稲妻阿修羅を振り払った。
ズガァァァン!!!!
雷を纏った阿修羅が吹き飛ばされ、地面に墜落する。
――NO FUTUREの召喚獣は、全員が地に伏した。
「へへっ……終わったな?」
ルージュ・スカーがギターを鳴らし、勝利を確信する。ブラックベヒーモスは天を仰ぎ、勝ち誇るように咆哮を上げた。
しかし――。
「……いや」
レンが静かに呟いた。
「違う……まだ終わってない」
その言葉に、ユナたちは再び顔を上げた。
レンの目は、ただ一つの事実を見据えていた。
「……ブラックベヒーモスの上を見ろ」
ルージュたちが驚きの表情で空を見上げた瞬間――。
「特大メテオ」が、迫っていた。
ルージュ・スカー、シオン・アッシュ、ベル・バレット――ブラッディ・リズムのメンバー全員が、信じられないように目を見開く。
「……なんだと?」
ルージュが思わず声を漏らす。
そして、彼女たちもようやく気づいた。
特大メテオの落下地点――それは、ブラッディ・リズムのステージそのものだった。
「っ……!?」
シオンが慌ててベースを握り直す。
ベルはスティックを落としそうになりながら、顔を青ざめた。
「お、おいおいおい……マジかよ……!?」
ルージュ・スカーは、一瞬、信じられないものを見るような表情をした。
彼女の命令でブラックベヒーモスが放った「特大メテオ」。
それが――彼女たちのステージを直撃しようとしていた。
「お前ら……」
ユナが微笑む。
「これ、どうする?」
「ッ……!!!」
ルージュの顔が歪んだ。
今までの余裕が、一瞬にして消し飛ぶ。
彼女はすぐにギターを鳴らし、ブラックベヒーモスに指示を飛ばす。
「ブラックベヒーモス!! 迎撃しろ!!! なんでもいい! その隕石を止めろ!!!」
だが――それはもう、手遅れだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
空から巨大な隕石が落下する。
「ッ……チィ!!!」
ルージュ・スカーが悔しそうに舌打ちをする。
その隣で、シオンが拳を握りしめながら言った。
「……クソ、こりゃあ、やられたな……!!」
ベルが唇を噛みしめる。
「くっそぉぉぉぉ!!!! こういうの……アタシらのやり方じゃねぇのに……!!!」
彼女たちは――完全にやられた。
ブラックベヒーモスが放った特大メテオが、彼女たち自身を叩き潰そうとしている。
そして、NO FUTUREの召喚獣達の眼に再び光が宿る!!
ユナが叫ぶ。
「……今だ!!!」
「スカーレット・ストレート!!!!」
「無限斬!!!!」
「クリスタルローズ!!!!」
「イナズマの右腕!!!!」
「いっけええええええええ!!!!!」
ユナ、エリカ、レン、ミサキの声が重なり、4体の召喚獣が総攻撃を仕掛ける。
そして――。
ブラックベヒーモスの巨体が、ステージへと押し込まれる。
そこに――「特大メテオ」が落ちた。
ズガァァァァァァァァァァン!!!!!!!!
黒い隕石が大気を切り裂き、地面に激突した瞬間、爆炎が天へと舞い上がった。村全体が揺れ、大地が軋むほどの衝撃が走る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
爆発の衝撃で生じた強風が、ステージ周辺に巻き起こり、観客たちは思わず身体をかがめる。火花が舞い、地面に立てかけられた木の看板や装飾が吹き飛ばされる。
「う、うわぁぁぁ!!!」
村人たちが必死に体を支えながら、爆風に抗っていた。
煙が充満し、戦場の視界が奪われる。まるで世界が終焉を迎えたかのような静寂が訪れる。
──だが、確かにその中で何かが崩れていく音がした。
バキバキバキバキィィィン……!!!
「……ッ!!」
ユナが息を飲む。煙の向こうで、ステージが崩壊していく音が響いていた。
ブラッディ・リズムのステージは、特大メテオの衝撃によって完全に破壊されていた。黒く焼け焦げた瓦礫があたりに散乱し、そこにかつてのステージの面影はない。
「ステージが……なくなった……!?」
観客たちが驚愕の声を上げる。兵士たちですら、信じられないものを見るような表情で口を開けていた。
ブラッディ・リズムの三人は、爆風によって吹き飛ばされ、ステージの残骸の向こうへと転がっていた。
「うっ……ぐ……!!」
ルージュ・スカーがギターを杖代わりにして、ふらつきながら立ち上がる。彼女の赤黒いグラデーションの髪は乱れ、汗と灰で顔は汚れていた。
「チィッ……こ、こいつら……!」
彼女が歯を食いしばりながら、怒りと悔しさを滲ませる。
シオン・アッシュは腕を庇いながら立ち上がった。
「……完全にやられたな」
ベル・バレットはドラムスティックを握りしめながら、倒れたまま天を仰いだ。
「マジかよ……ここまでやられるとは……ッ」
彼女たちの視線の先に――まだ立っている4体の召喚獣がいた。
クリムゾンドラゴンは、まだ燃え盛る翼を大きく広げ、悠然と立っている。
シュヴァリエ・デュヴァンは、剣を地面に突き立て、静かに佇んでいた。
フリズヴェルグは氷の翼を広げ、冷気を放ちながら宙を舞っていた。
稲妻阿修羅は雷を纏い、拳を振り上げていた。
彼らはまだ、戦意を失っていなかった。
そして、そこにブラックベヒーモスの姿はなかった。
「……消えた」
ミサキが驚いたように呟く。
ユナも同じようにブラックベヒーモスの姿を探したが、すでにどこにもいなかった。
ブラックベヒーモスは、倒れたのだ。
召喚獣バトルにおいて、ステージを失えば、それに結びつく魔力は断ち切られる。
ステージを破壊されたことにより、ブラックベヒーモスは存在を維持できなくなり、消滅したのだった。
「……やったのか……?」
エリカが静かに呟く。
「……あぁ」
レンが、短く答えた。
それは、まぎれもない事実だった。
ブラッディ・リズム、敗北。
NO FUTURE、勝利。
村の広場は、一瞬だけ静寂に包まれる。
だが――。
「……NO FUTURE! NO FUTURE!! NO FUTURE!!!」
誰かが叫ぶと同時に、村中が歓声の渦に包まれた。
「すげぇぇぇぇぇ!!!!」
「勝った!! NO FUTUREが勝ったぞぉぉぉぉ!!!」
「こいつら、やばすぎる!!」
観客たちは熱狂し、兵士たちまでもが歓声を上げていた。
ユナたちは互いに顔を見合わせ、息を整える。
勝った――。
あのブラックベヒーモスを倒し、ブラッディ・リズムを打ち破ったのだ。
「……へっ」
ミサキが笑う。
「やったじゃん、アタシたち!」
「……うん」
エリカが、静かに微笑んだ。
「……やっぱり、やればできるんだな」
レンが、淡々とした口調のまま呟く。だが、どこか満足げだった。
ユナは、ギターを握りしめながら、震える唇で言葉を紡いだ。
「……最高だった」
その言葉に、仲間たちは顔を見合わせ――そして、笑った。
一方で、ブラッディ・リズムの三人は、呆然としながらその光景を見つめていた。
ルージュ・スカーは、ギターを握ったまま地面に膝をつき、静かに笑った。
「……やべぇな……」
シオン・アッシュは、ふっと息を吐き出しながら苦笑する。
「負ける気なんてさらさらなかったのにな」
ベル・バレットはドラムスティックを転がしながら、天を仰いで叫んだ。
「はっはっは!! クソッ!! こりゃ完敗だわ!!」
その言葉は、確かな敗北の証。
そして――相手を認めた証でもあった。
こうして、異世界メロディア初ののライブバトルは――NO FUTUREの勝利で幕を閉じた。