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没落令嬢シリーズ

没落令嬢は真実の愛を探したい!

掲載日:2025/01/19

手直しさせていただきました。

 私カロリーヌ・ハイル子爵令嬢はたった今婚約者だった、ケビン・ファンレーン子爵子息に婚約解消されました。

 理由は[真実の愛を見つけた]事と子爵家が没落寸前だから。

 人の良いお父さまは領地を担保にお金を借り、知り合った男の話しを信じその事業に投資した。

 その男はお父様からお金を受け取るとある日突然姿を消した。

 ファンレーン子爵はそれでも息子を婿入りさせたかったが、当の息子はよりにもよってカロリーヌの友人であるサラ・ゴードン男爵令嬢と恋に落ちた。

 サラも一人娘だった為ケビンはゴードン家へ婿入りする事になった。


「カロリーヌすまない。私が変な話しを信じたばかりに、君を不幸にしてしまう。」

「お父さま顔を上げて。ケビンとの事は仕方ないの。お金の事が無くてもサラとの[真実の愛]に目覚めていたと思うわ。」


 私は大丈夫よ!


 と、笑顔で答える。

 正直ケビンとは遅かれ早かれこうなったと思っている。なぜならケビンは顔だけは良いのだ!待ち合わせにケビンが先に着くと、かならず女性に声を掛けられている。

 タイプでは無い女性だと断るが、タイプの女性だったら・・そのまま消えてしまう。

 性格は良く言えば優しい。悪く言えば優柔不断。

 相手の女性に強引に来られると断れない人なのだ。

 そのため何度も私が間に入り、相手にも嫌味を言われたがその都度我慢をしていたのに・・


「このドレスどうしましょう。婚約式で着ようと思ってたのに着れなくなってしまったわ。」


 ケビンとの婚約式で着る予定で作ったドレスを前に考え込む。

 ケビンは慰謝料として渡してくれたが・・このドレスを着る日が来るのかしら?

 それよりも、私みたいな没落令嬢の所に婿入りする男性はいるのかしら・・


「お嬢さま、こちらのドレスいかがしますか?」


 メイドのメイが声をかけてきた。私は少し考えると


「せっかくだから、もう少し飾っておきたいわ!」


 と言ってドレスを私室へ運んで貰った。

 このドレスはまだケビンに婚約を解消?される前に仕立てたドレスでケビンの屋敷で知り合いの商会に頼んで生地を持って来てもらうから来ないかい?と誘われてファンレーン子爵家へと足を運んだ。

 もちろんその日に行く事はケビンにも伝えて。

 それなのに屋敷に着くと出迎えたのはケビンでは無く、ファンレーン家の執事だった。


「ケビンはどうしたの?」


 聞けば歯切れの悪い答えが返ってくる。

 なんと無く嫌な気はしたがそれもよくある事。私は案内された部屋に一歩入るとそんな気持ちはどこかへと行ってしまうほどの光景が広がっていた。

 部屋一面のトルソーに掛かっているドレスはどれも流行の形やデザインの物ばかり。生地を見ても異国の生地がたくさん並んでいた。


「うわぁぁぁ、すごいわ!本でしか見た事ない生地ばかりだわ!このドレスのレースなんて、隣国でしか作れないと聞いた事あるわ!」


 初めて見る生地に興奮がおさまらない。さっきまでケビンの事で腹が立っていたが、生地のおかげで怒りもおさまった!


「お嬢さまの気にいる物があれば、何でも購入して良いとケビン様より伺っております。」


 後ろから声をかけられて我にかえる。

 振り返り声の主を見ると私とあまり歳が変わらないか少し年上の男性が立っていた。

 私の視線に気付いた彼は私の右手をすくうと甲に軽く唇を当てる。

 フリをした。


「初めてお目にかかります、私ジャック・デルと申します。デル商会副社長をしており、ケビン様とは学園時代の仲でございます。」

「初めまして、カロリーヌ・ハイルです。」


 お互い自己紹介が終わると生地選びが始まった。

 ケビンは私の質問にも丁寧に答えてくれたし、異国の話もたくさんしてくれてその日はとても楽しい時間となった。

 そんな素敵な思い入れのあるドレスを私はどうしても片付ける事なんて出来なかったのだ。



 婚約解消してからの私はとにかく婿入りしてくれる人を見つけるために夜会へと足を運ぶが解消された話しはいつの間にかすぐに広まり、まるでわたしに欠陥があったように脚色されていた。

 話しの出所は間違いなくサラだろう。

 でも証拠が無い・・

 いつしか夜会へ行っても声をかけてくれる男性もおらず・・私はいつも壁の花になるしかなかった。


 そんなある日、ある侯爵家から昼間のパーティーへの招待状が届いた。侯爵家には四人の息子がいたはず!

 上二人は絶対に無理でも、下二人ならもしかしたら!と急いでメイを呼んで昼間のパーティーに相応しいドレスを選んだ。


 パーティー当日。お父様のエスコートで侯爵家へと向かったが、お父様は体調を崩したお母さ様が心配で侯爵夫妻に挨拶すると直ぐに屋敷へと帰っていった。

 私はもう少し残ると伝えると時間になったら馬車を寄越すと言い残して。


「あら!そこにいるのはカロリーヌではなくて?」


 一人果実酒を飲んでいると突然声を掛けられた。振り返るとそこにはケビンとケビンにエスコートされているサラが立っていて・・

 

「お久しぶりね、ケビン様。サラ。」

「ええ、本当に。こちらには一人で?」


 知っているくせに聞いてくるなんてこの子、こんなに性格悪かったかしら?

 私は眉間にシワが依るのを堪えながら


「残念ながら父は体調を崩した母が心配でお帰りになったわ。」


 と答えた。嘘では無い!

 でも、サラはわたしが嘘をついたと思ったのか思い切り吹き出し、


「ハイル子爵も娘のこんな不様な姿を見たく無かったのよ!だってカロリーヌ、あなた未だに一人でしょう?早くパートナーが見つかると良いわね!ケビンも心配しているのよ?元婚約者がずっと一人だと気になるって!」


 と、周りに聞こえるように言ってくる。


「婚約はしてなかったわ!」

 

 そう言っても聞こえないフリをして一人大笑いしている。

 隣りでケビンが止めているが聞こえないのか更に大きな声で笑っている。

 悔しくて悲しくてその場を離れようとした時、


「そこにおいでなのはハイル子爵令嬢ではありませんか?」


 声を掛けられて三人が同時に声の方へ顔を動かすと、ワイングラスを二つ持ったジャックがこちらへ歩いて来る。

 私は自分が名を呼ばれた事に不思議に思ったが、取り敢えずでもこの場から離れられるのなら助け舟だ!


「お久しぶりでございます、デル卿。あなた様も招待されましたの?」

「ええ、今日のパーティーは我が商会にご依頼がありましたので」


 笑顔で手に持っていたグラスを渡される。

 そして今気付いたかのように


「おや、ケビンいたんだ!この間はどうも。」

「ああ、こちらこそ・・それよりも、いつから二人は?」

「えっ? 「ああ、それは君のおかげだよ。ドレスを仕立てる時、君の屋敷で会っただろ?それがきっかけさ!」


 そう言いながら自然に私を背中へ隠す。

 ケビンは不機嫌そうに・・サラは獲物を見つけたかのような視線をジャックへと向けた。

 が、ジャックが平民と知るとサラの態度はコロッと変わり


「カロリーヌとお似合いだわ!」


 と笑いながら二人その場を離れて行った。

 私はジャックにお礼を言ってその場を離れようとしたが急に腕を掴まれて


「少しで良いので、話しをしませんか?」


と言われた。

 何となくその場に居たくなかった私は頷くとその場を離れた。

 ジャックに連れられて来たの場所は噴水が目の前にある東屋だった。

 ジャックの向かい側に腰掛けると、手にあるベルを鳴らす。するとどこからかメイド服を着た女性が現れてテーブルに軽食やデザート、紅茶を注いだカップを置いて下がった。


「彼女は我が商会の職員でね、令嬢に声を掛ける前に頼んでおいたんだ」


 召し上がれ!と手で促され、サンドウィッチをつまむ。これがまた美味しくて手が止まらない。

 結局用意された料理は全て私のお腹におさめられた。

 紅茶を飲んで一息ついた頃、


「貴方はケビンの元婚約者?」


 と伺うように聞かれ、私は首を横に振る。


「婚約前でしたので幼馴染!になるのかしら?でも困った事に何故か周りには婚約破棄された令嬢。と言われていてお婿さんも探せないわ」


 ジャックは先ほどの私とサラのやり取りを思い出したのか、私の顔を見てひとつ頷くと


「まずは名前でお呼びしても?」

「ええ、私とお友達になってくれるのなら」


 と、冗談まじりで言う。

 すると


「友達では無く、婚約者になりませんか?」


 想像の斜め上から来た事葉に驚いた!

 冗談だとは思ったが一応我が家の内状を伝える事にした。


「我が家はお父様が作った借金で没落寸前です。悪い事は言いません、もう少しマシな貴族を探してください」


 私が真顔で答えるとなぜかジャックが大笑いした。私は真面目に言っているのに笑うところ?と不機嫌な気持ちになる。

 そんな私の様子に気づいたのか


「すみませんカロリーヌ様。あまりに正直に言われるので」

「カロリーヌで良いわ!どうせ爵位を返上したら貴方と同じ平民になるのだから」


 私はお茶を飲みながら答えた。そして


「貴方の商会で働かせてもらえないかしら?」


 真顔でお願いした。さすがのジャクも驚いてそれは・・と困った様子で断られてしまった。


「僕は君を妻にしたいのであって部下にしたい訳では無いんだけど」

「ふふ、お気持ちは嬉しいわ。でもこんな不良物件はお勧めしないわ」


 この話は終わりにしましょう!そう言ってお茶会を後にした。

 もう二度とジャックとは会う事は無いだろう・・そう思いながら。

 でもジャックは本気だったらしく後日、正式な形を持って屋敷へと挨拶に来てくれた。

 ジャックの父母もまさか息子が没落寸前とは言え、貴族令嬢と結婚するとは思っておらずとても嬉しそうだった。

 一方突然娘に申し込まれた婚約にお父様とお母様は驚いている。それもそうだ!何とジャックは我がハイル家に婿養子として入ると言い出したのだ!

 しかもデル商会は貿易を営んでいて我が国以外の周辺国とも交流があり、その資産は・・想像も出来ない程だった。

 デル家は我が家の借金どころか領地まで買い戻す!と言ってきた時はさすがに顔が青ざめた!

 デル商会恐るべし!

 結婚後、両親は爵位を譲ったら母の実家がある領地でのんびりと暮らしたい!と言われ少し寂しくなった。

 もちろんその際もデル商会が手を貸してくれるそうだ!

 そして一月後、わたしとジャックは無事婚約を結んだ。婚約式にはケビンの屋敷で選んだあの生地で作ったドレスを着て出席した。


「やはりカロリーヌに良く似合っている。とても綺麗だ!」

「ふふ、ありがとう。ジャックと選んだ生地だもの、似合わない訳がないわ!」


 そう言って二人、目を合わせ笑った。

 結婚式は半年後。[デル商会にかかれば半年もかからずに、完璧な結婚式を挙げれます!]と言われたが、父母と直ぐに別れたく無い。と言ったら分かってくれた。

 そして結婚式まであと二十日の時、その日はジャックがハイル邸に引っ越して来た夜。

 二人でジャックの部屋のバルコニーで話をした。

 ジャックの本当の気持ちが知りたくて・・


「ジャックは本当に婿入りしても良かったの?貴方なら嫁の来ては幾らでもあったでしょう?」

「俺は今の仕事が続けれるならどっちでも良かったんだ。でもあの日、カロリーヌを見た瞬間君が良い!と思ってしまったんだ。そして話せば話すほど君に惹かれていったんだ」


 そう言いながら手の甲にキスをする。


「あの時はそんな素ぶり見せなかったのに・・」


 顔を赤らめながら言えば


(本当だよ!)と満面な笑顔で言われてしまい、私の胸が高鳴った。

 今思えばケビンの屋敷で会った時から私もジャックの事が気になっていた。

 でも我が家は貴族と言っても没落寸前で、結婚なんて出来ないと思っていた。

 だから自分の気持ちを誤魔化していたんだと今ならわかる。


「私を選んでくれてありがとう。ハイル家に入ってくれてありがとう。私、必ず貴方を幸せにするわ」


 ジャックは驚いた顔をしていたけれど直ぐに満面な笑顔になると私の唇に優しいキスをした。



 婚約して初めての夜会、そして結婚まであと五日。

 エスコートはもちろんジャック。

 この日に合わせてドレスや靴、宝飾品まで一式揃えて渡された時


(もしかし本当にとんでもないお金持ちと婚約したんじゃ無いかしら?)


 と思える程の高品質な物ばかりに驚いた。

 メイなんてティアラを頭に乗せる時、手が震えていて思わず笑ってしまった。

 時間になり玄関まで行くと既に準備が終わっているジャックが待っていた。


「やはりカロリーヌは美しいな」

「・・これだけの物に身を包まれたら、それなりの人でも良く見えるわよ?」

「君はもっと自信を持つべきだ!でも・・男の変な目に触れされるのも何か嫌だなぁ」


 そんな訳ないのに・・とジャックに伝えると商会が用意してくれた馬車へと乗りこんだ。

 子爵家ではとても用意出来ない馬車に私は浮かれてしまい、会場に到着するまでずっとはしゃいでいた。 会場の入り口に到着するとジャックのエスコートで降りる。すると何故だか一斉に視線を浴びてしまった。

 他の方達の着ているドレスを見ても私の着ているドレスが高品質なのが分かってしまう程、今夜ジャックと私が身を包んでいる物は一級品なのだ。

 ジャックは、


「君にそのドレスをプレゼントして本当に正解だった。とても似合っているし、今ここにいる誰よりも綺麗だ!」


 そう耳元で囁く。

 ありがとう・・と顔を真っ赤に染めながら答えると、そんなわたしを見てジャックは嬉しそうに笑っている。


「カロリーヌ?それと、ジャック?」


 名を呼ばれ振り向くとそこには、少し青ざめているケビンとサラがいた。


「ごきげんよう。ゴードン男爵、夫人」


 目上の人に対する礼を取る。

 二人はつい先日結婚式を挙げ、そして婚姻と同時に爵位を譲られていた。

 サラは散々私をバカにしていたのに、一目で高級とわかる一式を身に着けている私に対し嫉妬の目で見て来る。

 そんな彼女の視線に気付いたジャックは、失礼。と言ってわたしを会場へと誘導してくれた。

 夜会でのジャックは顔を売るために色々な方に話しかけていた。私は最初こそ側にいたが途中から足が痛くなり、今はソファーに腰掛けている。

 時々ジャックがこちらの様子を伺っているのが分かる。安心させるため目が合う度にヒラヒラと手を振った。

 

 冷たい物ばかり口にしていたせいか、お花摘みへ行きたくなる。ジャックを探したが見つからなかったので、そっとその場を離れた。直ぐに戻れば問題無いと思ったから。

 でもその考えは間違っていた。

 お花摘みから戻る途中、そこにケビンが待っていた。

 てっきりサラを待っていると思って側を通り過ぎた時、腕を掴まれた。


「何を!」

「君は何故あいつと一緒に居るんだ!婚約したなんて嘘だろう?」


 目がおかしい。

 震える手で解こうとしたが男の力には敵わない。


「婚約は本当よ。お願いだからこの手を離して!」


 声が震える。それでも頑張って声を出す。


「助けて!誰か助けて!」

「カロリーヌ!君は俺の事が好きだったじゃ無いか!なぜ平民なんかと!」

「ジャックは平民だけど立派な人よ!肩書きだけで決めつけないで!」


 ジャックをバカにされ思わず言い返した。

 だがそれが逆にケビンを怒らせてしまったのか、私の腕を引っ張ると近くの部屋へと無理やり連れ込まれてしまった。






 カロリーヌのおかげで色々な方に顔を売る事が出来た。そろそろカロリーヌの側へ行こうとした時、後ろから誰かに抱きつかれた。

 カロリーヌだと思い顔だけ振り向くと、抱きついているのはゴードン夫人だった。


「何をなさっている?貴方の夫は?」


 すると夫人は薄気味悪い笑顔で


「わたくしの夫は今頃、貴方の婚約者と楽しんでいる頃よ」


 一瞬にしてこの女が何を言いたいのかを理解した!

 俺は夫人を振り解きカロリーヌを探した。が、ホールには居ない。しかしここで大きな声を出す事は出来ない。


「言ったでしょ?わたしの夫と楽しんでいる最中だと。だから私たちも・・」

「・・酔っておいでか?私は彼女を裏切る事はしない」

「フフ、貴方がどう思おうと男の力に勝てる女はいないわ。だからわたし達も・・きゃっ!」


 サラと言ったか?俺は近くにいた警備兵にこの女を押し付けると思い付くままに屋敷を走った。

 主催者に聞くのが一番早いが見つけることが難しい、ならば・・

 俺は昔一度訪れた事のあるこの屋敷の見取り図を頭の中いっぱいに広げた。





「ケビン?何があったの?何故こんな事を?」

「君はあの男に騙されているんだ!本当のあの男は貴族が大嫌いなんだ!君は利用されているんだ!」


 誰も居ない部屋に連れ込まれたが酒を飲んでいるせいか、ケビンの足取りは悪い。

 何とかしてこの部屋から出ないと変に疑われてしまいジャックに迷惑を掛けてしまう。

 ソファーにあるクッションを思い切りケビンに投げ付けると運良くケビンの顔に当たった。

 私はその隙に扉へと全力で走る。

 だか重いドレスに高いヒールの靴のため追いつかれてしまい、思いきり髪を引っ張られ倒されてしまった!


「キャア!!!痛い、ケビン離して!」


 思い切り抵抗するが敵わない。

 うつ伏せに倒した私に馬乗りに乗るケビン。


「お願いやめて・・貴方まで疑われるわ・・」

「俺はあいつの悔しがる顔を見られればそれで良いんだ。」


 自分の持てる力で抵抗するが敵わない。

 両手首を掴まれて抵抗出来なくなった事を確認すると、変な声で笑い出す。

 気持ち悪い!


「やめて!お願い触らないで!誰か!誰か助けて!」


 泣きながら叫ぶもケビンの笑いは止まらず、私のドレスにジャックの手が触れると背中のボタンを引きちぎる。

 恐怖で声が出なくなる。


(やめて!!ジャック助けて、ジャック!!)


 ケビンの手が更にコルセットへと伸びてきた時、私は心の中で叫んだ!


   バンッッ!!!


 と、扉が大きく開いたとほぼ同時に背中が軽くなった。

 フワッと上着が掛けられると嗅ぎ慣れた香りが鼻へ通る。

 その瞬間涙が溢れ出し、同時に思い切り抱き締められていた。


「カロリーヌ!遅くなってすまない!」

「ジャック・・怖かった・・」


 そう伝えると、緊張と安心感で私はそのまま気を失った。


 目を覚ますとそこは見慣れない天井があった。

しばらく考えるも思い出せないベッドと家具。

 身体を少し動かすと


「お嬢様!お目覚めになられたんですね!良かった・・」


 泣きながらメイが覗き込む。


「すぐ戻ります!」


 誰かを呼びに行ったのか?メイは扉から出て行ってしまった。起きあがろうとして身体に力を入れると全身が痛む。

 それに何だか熱っぽい・・

 ボーッとしていると、


「カロリーヌ!大丈夫かい?」

「ジャック・・?お水をちょうだい・・」


 あの後高熱を出した私は三日の間寝込んでいたと聞かされた。本来なら子爵邸へと送るのだが、カロリーヌの状態があまりにもひどくジャックの私邸へと運ばれたと聞かされた。

 メイはその時呼ばれたそうだ。

 私はジャックからお水を受け取ると飲み干し、そしてまた眠ってしまった。


 それから二日後、私はようやくベッドの上で起き上がれるようになっていた。

 そしてあの夜の事をジャックから話を聞いている。

 あの後警備兵に捕えられたケビンとサラはゴードン男爵家の領地へと移送され、二度と領地から出られないだろうと言われた。

 ゴードン男爵家の家督もサラの妹が継いだとその時聞かされた。二人はあんなにも嫌がっていた平民になったのだと、ジャックが教えてくれた。


「満足した?」


と聞けば


「最初は、メチャクチャにしてやりたかった。ケビンはずっと俺を平民平民とバカにしてきてたから・・平民は貴族に仕えるのが当たり前なんだ。だから俺の言う事を聞け!と・・でも。」


 私は耳を凝らして聞く。


「カロリーヌと婚約してからは、どうでも良くなったんだ。君は一度だって俺をバカにしなかったから」

「貴方は立派な人よ?」

「でも、貴族はそう思わない。いや、そう思えなかった。でも夜会で色々な方と話して自分の考えが間違っていたと知ったよ」

「・・・・」

「君と婚約をしたと言えば殆どの貴族が祝福してくれたんだ。平民の俺に・・」


 ジャックは私の目を見ると


「ごめん、ごめんなさい。俺は君を騙したんだ。

君が婿入りしてくれる男性を探している事は知っていた」

「ええ、貴族界では有名な話よ?」

「義父さまが借金をして、領地まで手放した没落貴族だと知って近づいたんだ」

「それも・・有名な話よ」


 サラが面白おかしく話していたから。


「君と結婚すれば簡単に子爵位が手に入る。アイツらを見返せる。そう思って君に近づいた最低な男なんだ!おれは・・・」


 肩を震わせている。ジャックは今も爵位目当てで私を望んでいるのだろうか?

 少しでも私の事を想ってくれているのだろうか・・


「私は出来たら借金を一緒に返してくれる夫を望んだわ」


ジャックの肩がビクッと揺れた。


「そして出来たら優しくて、私を本気で愛してくれる人が良いと・・」

「・・うん・・」

「あなたは簡単に爵位を手に入れたかった・・ねぇジャック。これは契約になるわね。わたし達が結婚したらお互い利益に繋がるわ」


 笑え!わたし。


「わたし達、契約結婚しましょう!貴族なら当たり前よ?お互いの家の為に結ぶ結婚。貴方は何も間違ってはいないわ!」


 もっともっと、ジャックを安心させる為に

 笑え、わたし。


「それに私だった貴方を利用したわ。貴方のおかげで爵位を、屋敷を手放さなくて済んだわ。ねぇジャック、貴方と私の何が違うの?」


 私は涙を流すジャックを抱きしめた。

 ジャックは私にしがみ付きながら 愛してる と一言だけ言った。



 私が倒れた為に少し伸びてしまった私とジャックの結婚式は、一月後に執り行われた。


 平民とバカにされていた男と、

 父親が借金をし領地を手放した没落貴族令嬢。


「愛してるわ、ジャック」

「俺も愛しているよ、カロリーヌ」



  死が二人を分つまで、

  真実の愛を探しましょう。

  二人で一緒に・・







 


 

この話しは20日から始まる連載の主人公である、シェリーの両親のお話しです。良かったらそちらもお読み下さい。完結まで毎日投稿します。

お読みくださり、ありがとうございました。

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