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舞葬のアラン  作者: 浅瀬あずき
コルグ村編
9/17

9話 コルグ村関所

ーーー•


 ケルティネ王国へ続く街道沿いに家々が集う、森に囲まれた小さな村。それが私が生まれ育ったコルグ村だ。


 石造りの家々や建物は豊かな緑や花々で彩られている。通路は段差が多く複雑に入り組み、よくここを訪れる商人や旅人は道に迷いやすい。


 私はショルダーバッグのストラップを肩に掛け、ブーツに踵を通す。姿見を横目で見ると、赤毛と新緑の瞳が映っていた。


 ドアノブを握って押すと、陽光が眩しく差し込む。


「ん~今日は日差しが気持ちいいな!」


 一つ背伸びして、爽やかな空気をたくさん吸い込んだ。一つに結えたおさげを揺らし走り出す。いつものくねくね曲がる通路を勢いよく通り抜けた。


「あら、こんにちはエディスちゃん。今日も元気ね!」


 私は階段を下る足をピタッと止めて振り向いた。買い物籠をぶら下げたおばさんが立っている。


「こんにちは! おばさんもお元気そうで何よりです!」

「ふふ、おかげさまでね。…ところで、今日もあの人のところへ行くの?」

「そうですけど…何か?」


 おばさんが含みを持たせて言うので、少しムッとして答えた。


「いやね、あの人は誰とも馴染まないし、少し変わってるから…。あなたのことが心配で…」

「心配要りませんよ。私は立派なお菓子職人になりたいだけなんです! それでは、失礼します!」

「あ、エディスちゃん…」


 私はぺこりとお辞儀すると、再び階段を下り通路を駆け抜ける。


 ディーゼルさんは悪い人じゃないのに…。何でみんなわかってくれないんだろう。あの人が作るお菓子だってすごく美味しいのに、誰も買ってくれないし…。


 視界に教会が建つ中央の広場が見えてきた。何やらざわざわと人が集まっていて、私は一度その場に立ち止まる。


 嫌な予感がする…もしかして、また…!


 私はきゅっと服の裾を掴んで唇を噛み締めると、広場へと向かって歩き出した。




ーーー•




 コルグ村の関所で俺たちは2人組の門番から訪問前のチェックを受けおり、ルーカスが代表で受け答えしている。


「…これが、冒険者登録証です」

「ご提示ありがとうございます、旅人の方ですね。訪問の目的は?」

「宿泊です」

「滞在予定日数は?」

「1日か2日ほど」

「…承知しました。あなた方の訪問を許可します」


 リリアンとルーカスの表情が緩み、俺も安堵の笑みを浮かべる。意外とあっさりしたチェックだったな。


「それでは、お通りになられる前に一つだけ説明をします」

「何でしょう」

「ここは世界一礼儀正しいと言われる村です。我々は外部の方には寛容ですが、なるべく節度ある行動をお願いいたします」

「はぁ…わかりました」


 門番が道を開けたので、俺たちは関所を潜り抜けようとした、が…。


「あ、そうだ! そこの茶髪の君!」

「え…俺ですか!?」


 門番の前を通り過ぎる瞬間、俺だけ呼び止められる。


「この辺じゃ見ない格好だし、顔立ちや見た目も異国風に見える。どこの国から来たのですか?」

「あっ…えっと、それは…」


 どうしよう、記憶喪失だから答えられない!!俺は視線を泳がせ言葉に詰まらせた。


「えっと~、実はこの子芸人なんですよ!! ユニークな服装で芸をして、みんなをあっと笑わせるのが得意なんです。ほらアラン、いつのものやって見せて!!」


 リリアンが駆け寄り、俺の肩を掴んでずいっと前へ押した。


「えっ、えっ...?!」


 横目で後ろを見ると、リリアンが必死で目で訴えているのがわかった。俺にここで、芸をしろと...!?

 なんて無茶な…っ!でも...、やるしかないか…!!


 俺は背負っているリュックを降ろすとリリアンに武器と一緒に渡し、ジリジリと後退する。


 みんなの緊張した視線が俺に集まる。ごくんと生唾を飲んだ。


「…手拍子、お願いします」


 俺は苦虫を噛み潰すようなで心情で頼んだ。リリアンとルーカスは顔を見合わせたあと手拍子を始める。門番もそれに合わせて手拍子をした。


 俺はその手拍子でリズムを取り、ステップを踏む。肩や手もそのリズムに合わせ感覚で動かしてみる。


 ...正直死ぬほど恥ずかしい。出来ることなら思い切り叫んで走り回り何処かにて隠れ忘れ去られたい…。


 次第に俺はリズムに乗りながら思いつきで振り付けしステップを踏みながら前後左右に大きく動いた。芸人だから奇抜な振り付け方がいいのかな。いや、でもだめだ…羞恥心が…。


 みんなの方を見ると無表情で手拍子をしている。やばい誰も笑ってない...どうしよう!もっと激しく動かないとダメか!


 俺はその場で後方宙返りをする。着地してその場で倒立すると、手で身体を支えながら足を動かしその場で勢いよく回ってみた。最後に回りながら足をついて立ち上がる。


「...ど、どうでしょうか俺の芸は...!!」


 少し浅く呼吸しながら訴えてみた。すると手拍子がピタッとやみ緊張した静寂が訪れる。


 あ...この感じ、終わったな。やっぱりダメだっ...。


「素晴らしいっ!! 君は本当にすごい芸人だ!」

「なんてキレのある動きなんだ!」

「アランやるじゃなーい!!」

「お前にこんな特技があったなんてな...!」


 みんなが目を輝かせて一斉に拍手をした。俺は一気に顔が熱くなる。


「わ、わかりましたかっ!? つまり俺は大道芸人なんです! 通してくれますねっ!!」


 俺はスタスタと歩いて関所を通り抜けようとした。


「あっ、待ってくれ君!! せっかくだから是非広場でパフォーマンスを...!」

「今日はもう疲れたんで休みます!! すみませんがまたの機会でっ!!」

「そ、そうか...それは残念だ。では、旅の方々、ごゆっくり~!!」


 なんだかんだで、俺たちは無事に関所を通ることができた。俺はリリアンからリュックと武器を受け取る。


「けどアラン、あんなに踊りが上手いのに勿体無い。広場でパフォー…」

「ぜっったいやだ!! あんな恥ずかしいこともう二度とやらないっ!!」

「あ...あぁ?そう..」


 リリアンは俺の勢いに少したじろいでいた。



ーーー



「うちの野菜は新鮮ですよー! じゃがいも一個60ミラゴ、玉ねぎ一個70ミラゴです!」

「ケルティネ王国から仕入れた洋服、今なら安いですよー!」

「珍しい魔道具揃えてます! 是非お立ち寄りくださいー!」


 関所を抜けて一本道を少し進むと、市場が展開される活気のある通りへと出た。露店は青果店や食料品がメインだが、他国から仕入れた衣類、魔道具、生活品や雑貨なども売っている。 多くの村人や商人たちが行き来し賑わっていた。


「わぁ~!! ねぇねぇルーカス、見てこの魔道具! 火属性魔法を応用した発熱技術と風魔法を組み合わせた術式で吹出口から温風が出る、髪を乾かせる最新式魔道具だって。それぞれのパーツはどんな術式と仕組みなんだろう? 調べたいな~欲しいな~!!」

「リリアン、また余計な魔道具を買って荷物を増やすつもりか?」

「もう、余計じゃないし! だってそれに、こういうの気になっちゃう性分っていうか~…」

「けどそれはダメだ。髪なら自分の風魔法で乾かせるだろ」

「…ルーカスのケチ」


 俺たちは魔道具の露店にいた。リリアンはコロコロと表情を変えてルーカスと楽しそうに喋っている。

 俺は魔道具には興味がないので、2人の会話に耳を傾けながら周囲を観察し始めた。


「おっ…お嬢さんお目が高いそれは本日の目玉商品ですよ。本来の価格は5000ミラゴですが…今なら3500ミラゴにいたしましょう!」

「えっ、本当?! すごーい…ね、ね、ルーカス…!!」

「はぁ……。おじさん、同じやつでもっと軽量化されたものはありませんか?」

「ええ、ありますとも! こちらはさらに最新式で…。」


 この村全体は森の斜面に上にできているようだ。斜面を登るほど村の奥へと繋がっている。


「…こちらはさらに小型で軽量化されています。お値段は7000ミラゴですが…今買えば特別に5000ミラゴにします!!」

「いや、4500ミラゴだ。それなら買おう」

「ぐぐ…お兄さん、やり手ですね…」


 少し上の方に教会が見えるな…おそらくあそこが村の中心で広場になっているのだろう。けど、様子がおかしい…。人が異様に集まっているし、何かあるのか…?


「…うっ…わかりました。お兄さんの交渉力を見込んで、4500ミラゴにします…」

「よし、買った!」

「ルーカス…ありがとう…!!」


 突如、広場から重低音が空気を揺らすように響いた。煙が少し上がっている。俺はすぐさま反応し露店を出ると広場の方へ目を凝らす。群衆が散らばった…。一体、何が起こっている…!?


「なんだ…今の音は…」

「上の方から聞こえなかったか?」

「煙も上がってたよな…催し物だろうか?」

「それかまた例の件で…」


 周囲が一瞬ざわついた。だが、すぐに何事もなかったかのように人々は振る舞い始めた。


「お待たせアラン! 魔道具につい夢中になっちゃって…ごめんね」

「…済まなかったな、そろそろ行くか」


 リリアンがポンと俺の背中を叩くが、俺は広場が気になり目が離せないでいた。


「…どうしたの、アラン?」

「もしかして、さっきの音が気になるのか?」

「…あ、あぁ…。上の広場から煙が出たと思ったら、音がずしんと響いたんだ。何かあるのかなって…」

「なるほど…。不穏なことじゃ無ければいいんだが…」


 俺は目を細めると、足先を変え歩き出す。


「行くの…? アラン…」


 リリアンが不安そうな声でつぶやいた。俺は2人の方を振り返る。


「うん…。もし何かが起こっていて、俺にできることがあればしたいから…」


 それに…見てしまったものを見ないふりはしたくない。俺にできることがないなら、すぐに引き返せばいいだけだ…。


 俺は込み上げる胸のざわつきを抑え込み走り始めた。

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