第7話 修行
ワタシはアバターを動かし、カルメラ様と共にゴブリン村近くの森に来た。
「では、始めましょう」
「オッケー!」
現在我々は、特上スキル『熱支配』を習得するための修行の真っ最中である。
修行の内容は、一言でいうと「『固有空間』から岩を落とす」だ。
まずは手頃な大きさの岩を用意し、それを『固有空間』に収納。次に少し高い所に、下向きに『固有空間』の入口を開き、岩を落とす。本来は岩が地面に落ちて終了だが、今回はここで岩の下に、上向きに『固有空間』の入口を開く。すると再び岩は『固有空間』へ入るのだが、この時同時に「出口」を開くと、入れた物が一切のタイムラグを挟まずそこから出てくる。入れた物に速度が与えられていた場合は、その速度もきっちり反映される。そのため出口を少し高い場所に下向きに開くと、重力によって先程より加速した状態で岩を落とせる。
では、この「岩を落としては収納する」プロセスを繰り返すとどうなるか? 答えは「岩が高熱を帯び超加速する」だ。例えるならば、隕石の落下に近い。隕石は地球に飛来する際、地球の重力によって加速しつつ、空気の摩擦によって熱を帯びる。これを人工的に再現しているのが、今の修行だ。
「ねぇ、何か岩が熱くなってない? 大丈夫なのこれ!?」
岩を落としてからしばらく経ち、岩が熱くなり始める。カルメラ様のことはともかく、段取りは順調だ。
「問題ありません。次はその石を、前方のあの木に向かって打ち出してみてください」
「え、えーと、えーと・・・」
マズい、カルメラ様が混乱している。既に岩はかなりの速度になっている。もしも暴発したら・・・!
「落ち着いて!大丈夫です。ここぞと言うタイミングで、出口を目標の前にセットするだけです。『神速思考』と『並列思考』を使えば簡単にできることですよ」
「そ、そっか!よーし・・・!」
カルメラ様の集中が高まっていく。『並列思考』で思考を2つに増やし、1つは岩の加速を継続、もう1つは『神速思考』で時間を引き延ばし、タイミングを見計らう。
「―――ここ!」
期は満ちたとばかりに、カルメラ様が目標の前に出口を作る。入口に岩が入ると同時に、超高熱、超高速の岩が目標の木を吹き飛ばす。さらに岩はそれで止まらず、その先にある木々をも吹き飛ばし、大地を抉り燃やしながら飛んで行った。
「・・・ミカエルちゃん」
「はい」
「今の、本当にただの岩?」
「ええ、勿論。寧ろただの岩だからこそ、この程度の破壊におさまっているのです」
「ただの岩でこれ!?」
カルメラ様は、未だ炎が燃え盛る森を指差して叫ぶ。
「カルメラ様、驚いているんですか?」
「人生で1番の驚きだよ!!」
「何を驚くことがあるのです? 地形を変える程度、カルメラ様ならば見慣れたものでしょう?」
昨日だって、カルメラ様がオーガロードを吹き飛ばす度に、地形が変わっていた。カルメラ様にとって、大地の破壊は日常茶飯事のはず。何をそんなに驚いているのだろう?
「それは否定できないけど・・・。でも、『固有空間』だよ? ただのリュック代わりだよ? その上使ったのはただの岩!リュックと岩でこんなことができるとか、普通は思わないよ・・・(と言うか、その発想が1番怖いよ・・・)」
「なるほど、確かにそうですね。しかしカルメラ様。一見戦闘向きではないスキルも、工夫すればこのように、大破壊をもたらせるのです。1つ勉強になりましたね!」
「それは、そうかもだけど・・・そうじゃないんだよぉ・・・」
・・・いまいちカルメラ様の言ってることが良くわからない。
「まぁ、それは追々話そう。それよりも、何か僕に新しい力が加わった気がするんだけど、どう?」
「少々お待ちを。『解析鑑定』」
・スキル『温度上昇』
指定した対象の温度を上げる。
・スキル『加速』
指定した対象の速度を上げる。
対象が止まっていても加速させられる。
「やりました!まずは『温度上昇』と『加速』のスキルを獲得できましたね!」
「え、『熱支配』じゃないの?」
「『熱支配』は特上スキルですよ? いきなり獲得できるわけないでしょう?」
「そ、それは確かに・・・」
「ですが、カルメラ様はワタシの見込み通り、いえ、それを遥かに超える天才です!まさかこんな短時間で、狙っていたスキルを2つも獲得するなんて!」
そもそもスキルは、通常のものでさえ、獲得するにはそれなりに時間を要する。どんなに頑張っても最低一週間は必要だ。それをこんな短時間で、それも一気に2つも獲得できたカルメラ様は、やはり天才なのだ。
「い、いやだなぁ~、天才だなんて!」
「この調子で行けば、今日中に「材料」が揃いそうです」
「材料?」
「はい、これからカルメラ様に取得していただくスキルを合成すれば、特上スキル『熱支配』を作り出せるはずです」
スキルが進化するというのはアランから聞いた通り。ただその方法については色々ある。今回はその1つ―――複数スキルの合成による融合進化を目指す。
「では、次に参りましょう。カルメラ様、次の岩を用意してください。そして、先程と同じ手順で岩を加熱・加速させてください」
「合点!」
再びカルメラ様が岩を加速させる。先程手に入れたばかりのスキルも使用したことで、先程よりも早く速度と温度が上がった。
「・・・あれ、待てよ?」
「どうされました?」
「こうしたら、どうなるかな?」
再びカルメラ様の集中が高まる。その途端、岩の速度と温度がみるみる内に下がり始めた。
「な!これは一体!?」
ワタシは『解析鑑定』を発動し、岩を調べてみる。すると、岩に『温度上昇』と『加速』の力が付与されているとわかった。
「まさか、スキルの力を真逆に発動しているのですか!?」
「さっすがミカエルちゃん!その通り!さっきミカエルちゃんがやったみたいに、見方を変えてみたんだ。温度や速度を上げることができるなら、真逆に上げる―――つまり、下げることもできるんじゃないかって」
やがて岩の温度は下がり、速度もゼロになった。そしてカルメラ様が岩を受け止めたタイミングで、スキル『温度低下』とスキル『減速』を獲得した。
・スキル『温度低下』
指定した対象の温度を下げる。
・スキル『減速』
指定した対象の速度を下げる。
対象が止まっている場合は、狙いと逆方向に動き出す。
まさかこんな形で『温度低下』と『減速』を獲得するとは、最早才能がどうとかいう範疇ではない。突然の思いつきでやったことで、新たなスキルを獲得するなんて、常人にはとても真似できない。
(一本取られましたね)
とは言え、材料はまだ足りない。最後に必要な『固定』と『温度固定』のスキルは、まだ獲得できていないのだ。
「お見事です、カルメラ様。これで残すはあと2つ。最後の仕上げに入りましょう」
「最後の仕上げ? まだ何か必要なの?」
「ええ。後必要なのは『固定』と『温度固定』のスキルです。まずはまた岩を落としてください」
「え、また?」
「はい。ですが、今度は落とすのは1回だけです。そして落としたら『減速』を発動し、落下速度と同じ分だけ減速させ続けてください」
「そうするとどうなるの?」
「岩が空中で停止します。それから留めている間、『温度上昇』と『温度低下』を併用し、温度を一定に保つようにしてください」
「合点!」
すぐに新たな岩が『固有空間』から出てくる。そして岩が地面に落ちる前に『減速』が発動し、岩はその場に停止した。
「よし!次は『温度上昇』と『温度低下』!―――っと、その前に『並列思考』!」
『並列思考』で思考を2つ増やし、それぞれの思考で『温度上昇』と『温度低下』を発動する。3つの思考を用いることで、その場から微動だにせず、温度も一定で、宙に浮いた状態の岩ができた。
「よし、できた!」
「お見事です。ではその状態をキープしてください」
「む、難しそうだけど、がんばる!」
そしてしばらくの間、かなり地味な時間が過ぎる。
―――10分後
「来ました!『固定』と『温度固定』を獲得しました」
・上スキル『固定』
指定した対象をそのままの状態で固定できる。
・上スキル『温度固定』
指定した対象の温度を固定できる。
「やりましたね、カルメラ様!これで材料はコンプリートです!」
「ほんと? やったー!これで『熱支配』をゲットできる!」
「ええ、これより『熱支配』の創造を開始します。『創造』!」
・『創造』
1つの分野に特化した創造が可能。
(権能『AI』の場合はスキル特化)
ワタシは『創造』を発動し、獲得した6つのスキルを融合する。スキルが混ざり、溶け合い、共鳴する。そして―――
「『熱支配』への融合進化―――成功しました」
・特上スキル『熱支配』
【温度支配・速度支配・純熱生成】
エネルギーを生み出し、支配するスキル。
極めればマグマの灼熱、雪山の極寒まで瞬時に産み出せる。
「よし!これで鬼達が来ても大丈夫だね!」
「いえ、まだです」
「え?」
「実は、この『熱支配』も材料なんです。『空間支配』を進化させるための」
「そうなの!?」
「はい。本当は昨日の時点で報告をするつもりだったのですが、タイミングを逃し今になってしまいました。報告が遅れたことをお詫び致します」
「それはいいけど、でも『熱支配』で進化させられるの?」
「お任せを」
再び『創造』を発動し、ワタシは『空間支配』に『熱支配』を融合する。
「融合進化を開始―――成功しました」
「どうなったの?」
「『空間支配』が、極上スキル『時空支配』に進化しました」
・極上スキル『時空支配』
【固有時空・時空断裂・時空連結・時空跳躍・圧力支配・時流支配・素粒子操作・純熱生成】
文字通り時空を支配するスキル。
時空を素粒子レベルで把握し、自由自在に動かせる。
この『時空支配』こそ、ワタシが求めていたもの。鬼の副将が持つ空間能力に対抗できる力。
「すごい・・・!『空間支配』の時とはレベルが違う!」
「何せ1段階進化していますからね。ですが、油断は禁物です。今の我々は、唯一わかっている副将の力に対応できるようになっただけです。頭領や四天王達の力は未知数。まして副将に他の力があるとしたら―――」
「まぁまぁミカエルちゃん。ちょっと落ち着こうよ」
「え?」
「だいぶ焦ってるみたいだけど、良く考えてみて。確かに敵の力はまだわからない。でも、わからないことに怯え続けてもしょうがないよ。ここからは出たとこ勝負。そう割り切るしかないよ」
・・・ワタシとしたことが。
敵の力に恐れをなし、必要以上に焦りすぎていたようだ。そうだ、わからないものはしょうがない。大事なのは、敵の力がわかったタイミングで、どれだけ適切に対処できるかだ。
「ありがとうございます、カルメラ様。何と言うか、心が軽くなった感じです」
「緊張がほぐれたんだね」
「ええ、そんな感じです」
ワタシとカルメラ様はお互いに笑い合う。その時、村の方から声が聞こえてきた。
「2人とも!大変だ!さっき村にこんなものが届いた!」
それはゴブリンのリーダーだった。何やら手に封筒のようなものを持っている。
「それは!?」
「急に魔方陣が現れて、これが送り付けられた」
「ほう?」
「ってことは、間違いなく鬼達からの手紙!何が書いてあるの!?」
「それはまだ知らない。2人に一緒に読んでもらいたいんだ」
カルメラ様は封筒を受け取ると、それをビリビリと乱暴に破いて開き、中の手紙を読む。その内容は―――
『―――果たし状
先日は部下達が世話になった。その借りを返させてもらう。
今日より3日後の早朝、地図に示した場所に1人で来い。
時間に遅れたり、2人以上で来た場合、村の連中の命は無い。
以上。
頭領・酒吞童子 より』
村のゴブリン達を人質にして、一方的に要求を押し付けるものだった。
「・・・・・・」
「っ!!」
「カルメラ様・・・」
カルメラ様の手が震え始める。心の奥底から沸き上がる、全身が燃えるような激情が、ワタシにも伝わってくる。
「『怒って』いるのですね?」
「うん・・・!!!」
カルメラ様から凄まじい怒気と覇気が発せられる。
「仲間がやられて悔しいのはわかるよ。でも・・・散々恐怖と力で支配して、奴隷のようにこき使って、挙句今度は僕を呼び出すための人質にするなんて!一体鬼達は、ゴブリンを何だと思ってるんだ!!」
「カルメラ殿。気持ちは嬉しいが、これが魔物のルールだ。弱い者は、強い者に従うしかない。あいつらも俺達のことは、使い捨ての道具くらいにしか思っていないだろう」
「それはわかってるよ!わかってるけど・・・!」
「・・・それからもう1つ。カルメラ様が要求に応じたとしても、鬼達は村を滅ぼすでしょう」
「なっ!どうして!?」
「見せしめだ」
「みせしめ??・・・何それ??」
「要は他のゴブリン達に知らしめるということです。鬼に逆らったらどうなるかを」
「他って、どういうこと?」
「鬼達に支配されているゴブリンは、俺達だけじゃない。ここら一帯は山の麓を中心に、ゴブリンの村が扇状に6つ点在しているんだが、その全てが鬼達の支配下にある。今回の一件を踏まえて、残り5つの村の連中が反抗することを警戒したのだろう」
「そこで元凶であるカルメラ様を始末し、さらに逆らう者が現れないよう、我々のいる村のゴブリン達を皆殺しにして見せしめにするつもりなのです」
「・・・ふざけやがってぇ!!!」
カルメラ様の怒りがどんどん上昇していく。
「カルメラ様」
「・・・・・」
カルメラ様は果たし状を握りしめて震えている。激しい怒りで、ワタシの声も耳に入っていないようだ。
・・・これは、しばらく話はできそうにない。
「リーダーさん。そちらはどうですか?」
「順調だ。皆、大分体に馴染んできたようだ」
「他の村のゴブリン達は?」
「幸いこの村以上にひどい所は無くて、どうにか全員助けられたが・・・鬼と戦うことには難色を示している」
「やはりそうですか・・・」
ワタシがゴブリン達に頼んだことの1つ。それは、『複製体』達と共に他のゴブリンの村へ趣き、彼らを救助することだ。
今のままでは、万が一鬼達の総攻撃を受けた場合、村は10分も持たない。ならばどうするか? 一番簡単なのは、こちらの頭数を増やすこと。そのために、他5つの村のゴブリン達にも協力してもらおうと考えたのだ。
他の村のゴブリン達も、程度はあれど飢餓状態になっていたが、新たに用意したスープのお陰で彼らを救うことはできた。しかし、鬼と戦うことにはどうしても抵抗があるらしい。
「ただ、カルメラ殿には興味があるみたいでな、それぞれの村の長達が村に来てくれてるんだ。カルメラ殿とミカエル殿の力を見れば、考え直してくれるかもしれない」
「状況はわかりました。気が変わるかはともかく、1度会って話してみましょう。カルメラ様? 」
「・・・大丈夫、聞こえてた。取り乱してごめん」
「問題ありません。とりあえず、一旦村に戻りましょう」
「そうだね」
こうして我々は、5つの村の長達と話をするため、1度村まで戻ることとなった。
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