第6話 え、黒幕がいる!?
「わっせ!わっせ!」
『ワッセ!ワッセ!』
オーガを倒した我々は現在、まだ動けるゴブリン達と共に倒れた者達を広場に集めている。数は約2000。集めるだけでも大変だ。
〔お前達!ワタシが指定した分だけ、スープをお椀に入れて!そして、運ばれた傍からスープを飲ませなさい!〕
『合点!』
今はとにかく時間が惜しい。『複製体』の力もフルに活用し、最速の救出を目指す。それでも長い時間が掛かり日が沈んだ頃―――
「コイツデ最後ダ!!」
仲間達を広場へ運び終え、スープの配給に回っていたゴブリンの1人から連絡が入る。ようやく、村の倒れたゴブリン全員にスープを飲ませることができた。ドラゴン肉の力のお陰か、スープを飲ませた途端にゴブリン達の顔色が良くなり、今は呼吸も安定している。
「や・・・」
「ヤ・・・」
『やったぁぁぁぁぁぁ!!!!』
カルメラ様とゴブリン達が喜びの声を挙げる。ゴブリン達は仲間を救えて、カルメラ様は友の仲間を救えて嬉しいのだろう。そして、ワタシも今、嬉しいと感じている。
「やったね、皆!!」
「アリガトウ、カルメラ殿!!コノ恩ハ決シテ忘レナイ!!」
「何言ってんのさ。言ったでしょ? 困った時はお互い様だって!」
そう言ってカルメラ様は満面の笑みを浮かべた。
「それに、まだ終わりじゃないよ? まだ君達がスープを飲めてないじゃん」
「ッ!ソウイエバ俺達ノコトヲ忘レテタ!」
「もう!自分のことも大事にしなきゃダメだよ? まだスープは残ってるし、後良かったらこれも食べて!!」
そう言ってカルメラ様は『固有空間』から巨大な肉の塊を大量に取り出す。
「前に倒した火炎猪の肉だよ。僕もお腹減ったし、皆で食べよう!!」
『オォォォォォォォ!!』
こうしてその夜、寂れたゴブリンの村で大量の肉とスープを囲み、人間とゴブリンの宴会が開かれた。小規模な宴会ではあったが、皆笑顔が絶えることは無かった。私は生まれて初めて、『楽しい』と感じた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
夜も更けてきて宴会も終わり、カルメラ様もゴブリン達も眠りについた。相変わらずカルメラ様は大の字になって酷い有様だ。
〔っと、今はそれを考えている場合ではありませんね〕
ワタシにはまだやることがある。それは、捕らえたオーガ達の尋問だ。まず大前提として、オーガも、オーガロードも、誰1人として空間に干渉できる魔法も、スキルも使えなかった。そんな力を持ったアイテムも所持していなかった。即ち、あの時オーガ達を、村の入り口まで転移させたあの魔法陣は、オーガ達の力で作られた物ではない。オーガ達の背後にいる何者かが、空間転移系の魔法かスキルを用いて魔法陣を作り、オーガの軍勢を送り込んできたのだ。
〔あれほどの軍勢を従えるとなると、余程の強者。下手をするとSS級以上の強敵かもしれない。すこしでもオーガ達から情報を搾りとっておかないと〕
ワタシは、オーガ達の傍に配置していた『複製体』達に、『念話』で連絡を入れる。既に『複製体』には尋問を進めさせていたので、もしかすると既に情報を搾りつくしているかもしれない。
〔それで、何かわかりましたか?〕
「はい。敵の黒幕について、幾分か情報を得ることができました。ただ・・・」
〔ただ?〕
「実はあの後、再び魔法陣が発生して、オーガ達が連れていかれてしまいました・・・」
〔っ!!〕
しまった、しくじった!向こうからこちらへ転送する術があるなら、こちらからあちらへ転送する術があることも警戒するべきだった!
「申し訳ありません!長官!」
〔いえ、これはワタシの失態です。敵の手の内を読み切れていませんでした。ですが、過ぎたことを言っても仕方ありません。とりあえず、彼らから引き出せた情報を共有してください〕
「り、了解!」
『複製体』達から送られた情報を纏めるとこう。まず、やはりあのオーガ達は何者かの使いだった。その何者かだが、どうやら『鬼』と呼ばれる種族の者らしい。
〔鬼がどういう種族かはわかりませんが。あれ程の軍勢を従える力はもちろん、空間に干渉する力を使いこなせる高い知性も持っているとみて間違いなさそうですね〕
鬼は全部で6体―――いや、6人。
その内1人がオーガの拠点の「頭領」で、1人が「副将」、残りの4人が「四天王」という地位についているという。6人それぞれが今回のレベルの軍勢を率いているらしく、今回の軍勢は副将が率いる軍勢だった。
〔空間系の能力を持つのは副将のようですね〕
また『複製体』達は、鬼達の戦闘力についても可能な限り聞き出してくれていた。それによれば、頭領と副将、そして四天王の筆頭が実力トップ3で、その実力は他の3人の四天王と一線を画すという。
〔副将がカルメラ様を超える空間能力の使い手というだけでも厄介なのに、それが他の鬼と一線を画す実力者で、しかもそれが3人いるとは、最悪ですね・・・〕
オーガ達を取り逃がしてしまった以上、カルメラ様の情報は鬼達にも伝わっているだろう。近い内に必ずカルメラ様を倒しにくるはず。下手をすると全軍を率いて来るかもしれない!!
〔・・・まぁ、それでもカルメラ様ならば戦うでしょうけど〕
ここまで来るともうわかる。カルメラ様は、他者に理不尽を押し付ける者達との戦いからは絶対に逃げない。ゴブリン達から理不尽な徴収を行っていたオーガ達のボスを、逃がすはずがない。
〔やはりカルメラ様には、一刻も早く『熱支配』のスキルを習得していただきましょう!〕
こうして、ワタシの夜は更けていった。
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「え、黒幕がいる!?」
次の日の朝、ワタシはオーガ達から得た情報をカルメラ様に報告した。カルメラ様は黒幕の存在はまったく考えていなかったらしく、大層驚いていた。
〔えぇ、間違いありません。どうやら黒幕は、鬼と呼ばれる種族の者達のようです〕
「鬼・・・『妖怪』か」
〔『妖怪』?〕
「東洋系列の魔人の総称だよ」
〔なるほど、魔人ですか。それならば、空間能力を使える知性の高さも納得です〕
カルメラ様の話から推察するに、魔人は人間と流暢に話せるレベルの知性を持っている。魔人ならば空間能力も使いこなせるだろう。
「おはよう、カルメラ殿」
そこに、ゴブリンのリーダーが起きてきた。
「あ、おはよう!リーダー君・・・ん?」
そこにいたのは、確かにゴブリン達のリーダーだった。だが、おかしなことがある。まず、昨日より明らかに巨大化しているのだ。昨日までカルメラ様が見下ろす程度の背丈だったのに、今はカルメラ様が見上げても収まらない程になっている。巨大化したのは体だけではない。保有魔力量が桁違いに増加していた。
〔『解析鑑定』〕
種族:ゴブリン王(ホブゴブリン)
ランク:S+
種族スキル:統率(ゴブリン・ホブゴブリン)
ゴブリンの進化系、ホブゴブリンの王たる存在。ゴブリン・ホブゴブリンの大軍勢を率いて敵を殲滅する。通常のゴブリンキングと比べて戦闘能力が高い。
し、種族が変わってる!? というか、強化されている!?
「リーダー君、何か変わったね!話し方も流暢になってるし」
「そういうレベルではないと思うが?」
その通り。たった一晩でこんな馬鹿げた強化が成されるなど、どう考えてもおかしい。考えられる原因は・・・十中八九、あのスープだろう。
「昨日の宴会の後からずっと体にエネルギーが満ち溢れている感覚がしていたんだが、今朝起きたら『進化』していたんだ」
「やったじゃんリーダー君!しっかりごはんを食べたお陰だね!」
「いや、それならとっくの昔に進化していると思うが・・・」
〔カルメラ様、原因は恐らく昨日のスープです〕
(え、そうなの?)
〔魔物の肉にはエネルギーが込められています。レッドドラゴンの肉ともなれば、そのエネルギー量は凄まじいものです。恐らくドラゴン肉を食べたことで、ゴブリン達はそのエネルギーを吸収したのでしょう。まして宴会に参加した1000人は、ドラゴン肉の他に火炎猪の肉まで食べています。Eランクのゴブリンから、Sランクのゴブリンキングまで進化できたのも納得です〕
(確かに良く見ると、なんか皆でっかくなってるよね)
試しに『解析鑑定』を使ってみる。
まず宴会に参加した1000人だが―――
種族:ゴブリン将軍(ホブゴブリン)
ランク:A+
種族スキル:統率(ゴブリン・ホブゴブリン)
ゴブリンの進化系、ホブゴブリンの軍隊を率いる将軍。王を守る最後の砦としての役割を全うする。
軍隊を率いる将軍へと進化を遂げている。
さらに、昨日まで飢餓状態だった2000人についても―――
種族:ゴブリン兵士(ホブゴブリン)
ランク:D+
ホブゴブリンの兵士達。ジェネラルの統率の下、軍隊として連携して動く。剣タイプ、弓タイプなど、戦闘スタイルは個体により変わる。
種族:ゴブリン魔術師(ホブゴブリン)
ランク:D+
ホブゴブリンの魔術師。ジェネラルの統率の下、魔術師部隊として連携して動く。使える魔法の属性が3つに増えている。
こちらもこちらでそれなりに強化されていた。・・・とはいえ、今の彼らでもオーガの軍勢に勝つのは厳しいが。
「何か、昨日のスープにドラゴン肉を使った影響で、この村のゴブリン達皆進化してるみたい」
「そうか・・・それは、カルメラ殿の協力者が調べたのか?」
〔っ!?〕
「えっ!? どうして!?」
「昨日からそうだが、カルメラ殿1人にしてはおかしい所が幾つかあった。まず水と薪と石を集める指示。カルメラ殿は誰かから聞いたような言い方をしていただろう? 『水と薪と石がいるみたい』と」
「・・・あ」
「昨日突然カルメラ殿が増えた時も不自然に驚いていたし、さっきもカルメラ殿が1人で喋っているような状態になっていた。もし相手がいるならば話は別だが」
「バレバレじゃん・・・君の言う通りだよ。隠しててごめん」
「気にすることはない。結果として、その協力者にも助けられたのだから」
「ありがとうリーダー君。それで、こうなったからには僕の協力者―――ミカエルちゃんともお話させてあげたいんだけど・・・今のところミカエルちゃんの声は僕にしか聞こえなくて・・・」
「なるほど、それで隠していたのか」
「そう。何とかならないかな? ミカエルちゃん?」
〔そうですね・・・ならば、これでどうでしょう〕
ワタシは『複製』を少々いじり、変質させて発動させる。するとカルメラ様の隣に、カルメラ様によく似た顔の長い銀髪の女性が姿を現す。
「うおっ!?」
「ええっ!? 誰これ!?」
2人が驚くのも無理はない。この女性は、カルメラ様の姿を元にワタシが即興で作りだした人形なのだから。そしてこの人形だが、今からワタシの仮の肉体になる。
「あー、あー、聞こえますか?」
「この声、ミカエルちゃん!?」
「ええ、ワタシですよ」
即興で作った肉体だが、感度は良好。思い通りに動かせている。
「まさか、新たな肉体を作ったのか!?」
「ワタシの手にかかればそのくらい余裕です。あなたを増殖させることも可能ですよ」
「そ、それは是非とも遠慮願いたいな・・・」
「うん、やめとこうか・・・」
何故か2人ともに反対されてしまった。リーダーを増やせばかなりの戦力になるはずなのに。
「まあそれは良いでしょう。改めまして、ワタシはミカエルと言います。カルメラ様の手助けをさせていただいております」
「俺はこの村の長をやってる者だ。俺達の村を救ってくれたこと、改めて感謝する」
「礼など不要です。ワタシはカルメラ様の手助けをしただけです」
「そんなこと言って、ミカエルちゃんも嬉しかったくせに!」
「な、ワタシは・・・!」
あれ、何故だろう? 本当は嬉しかったのに、素直にそう言えない。
「あ、さてはミカエルちゃん、照れてるんでしょ?」
「そ、それは・・・!」
「あぁ、これは照れているな」
「・・・!!」
何だ、何だこれ!? 体が熱い!? もしかして、これが『照れている』という感情なのか!?
「ミカエルちゃん、お顔真っ赤だよ?」
またカルメラ様がいやらしい笑みを浮かべている・・・!!
なんだ、この敗北感!!
「うぅ・・・!!」
謎の敗北感に耐えられなくなったワタシは、思わずその場に蹲ってしまう。
「ご、ごめんね。ちょっとからかいすぎた、アハハ・・・」
「・・・この借りは忘れませんよ?」
「うっ!」
「もちろんあなたも!!」
「ぐっ!」
まったく、こんな話をするためにアバターを作った訳ではないのに。
「本題に入りましょう。既にカルメラ様にはお話ししましたが、昨日のオーガ達はただの伏兵です」
「何っ!?」
「どうやら彼らの背後には、妖怪の一種である鬼がいるようなのです」
ワタシはことのあらましをリーダーに話す。
「まさか、鬼が6体もいたなんて・・・」
「鬼が何かは知っているようですね?」
「噂には聞いたことがある。オーガロードが進化の先に至る極致。それが鬼だと」
「このままではいくらカルメラ様といえど、全員を相手するのは厳しいでしょう。そこで、カルメラ様に1つ習得していただきたいスキルがあります」
「どんなやつ?」
「熱そのものを支配できる特上スキル『熱支配』です」
「何それ!面白そう!」
「習得にはそれなりに厳しい修練が必要ですが、やりますか?」
「もちろん!それでゲットできるなら何だってやるよ!」
「あなた達ゴブリンにも、やってもらいたいことがあります」
「それでカルメラ殿とミカエル殿の助けになれるならば、喜んでやらせてもらおう!!」
よし、こちらはどうにかなりそうだ。後は鬼達の出方次第。さて、どうでるか?
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場所は変わって、ここはゴブリンの村の北にある、山の麓。そこにあるオーガ達の拠点にて、例のオーガ達が粛清せれようとしていた。
「何だ、この様は!!」
拠点の大広間に、鬼の怒鳴り声が響く。その鬼は桃色のショートヘアに和服、背丈は人間の女性くらいで、頭の両サイドに赤い角が生えている。角さえなければ普通の人間の美少女にしか見えないが、彼女こそ、今回の襲撃の元凶である、鬼の副将だ。
「人間の小娘1人に、揃ってやられるとは何事だ!!」
「も、申し訳ありません!姐さん!」
「貴様達のせいで、我らの面目は丸潰れだ。筆頭!今回の件、どのように落とし前をつけるつもりだ?」
「俺が、腹を切ります!この敗軍の将の首1つで、どうか、部下達は見逃していただきたい!!」
「そんな!?」
「筆頭!!」
「ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ!俺は敗軍の将だ。落とし前をつけなきゃならねぇ」
「・・・足りない」
『!?』
「お前の首1つでは、部下達は庇えない。部下達を助けるならば、私の右腕も加えなければ釣り合わん」
「な!? 姐さん!」
「私だってお前達を皆殺しにはしたくない。だが、落とし前は必要だ。安いものだ、腕の1本くらい」
「あ、姐さん・・・!!」
「お前達、介錯の刀と切腹刀を―――」
「待ちな」
『!!』
「頭領!?」
大広間のふすまが開かれ、2人の鬼が入ってくる。1人は、額に黒い角を1本生やし、髪を短く刈り上げた大男。もう1人は、副将と同じくらいの背丈で、黄金のロングヘア―をなびかせ、背中に大太刀を背負い、頭の両サイドに赤い角を生やした美少女だ。大男が四天王筆頭、美少女が頭領―――副将の姉だ。
「やれやれ、お前って奴は昔からそうだよな。あたしより遥かに頭が良いくせに、落とし前ってなると途端に頭が固くなる。落とし前の為に、自傷したり、自刃する必要はないだろう?」
「それは・・・しかし頭領、今回の敗北は我々の失態です。落とし前をつけなければ下の者に示しがつきません」
「ああ、確かにこのままって訳にはいかない。でも落とし前をつけるのはお前達じゃなくて良い。落とし前をつけさせるなら―――例の小娘さ。小娘の首を取れば、十分落とし前になるだろ?」
「・・・ええ、それはもちろん。しかし彼らの話が本当なら、このまま無策に軍勢を送り込んでも、また同じことを繰り返すのみです。なので、私が出ます。私が直接小娘の首を刎ねます」
「いや、あたしも行こう」
「頭領!?」
「別にあんたを侮ってる訳じゃない。そりゃあんたの能力なら、オーガの部隊を全滅させた小娘を倒すことは容易いだろうさ。だが、それじゃ足りない。あたしとあんた、そして四天王筆頭のコイツ。あたしら鬼の3傑の総力を持って、完膚なきまで叩き潰す!ついでに小娘がいるあのゴブリン村も、残りの四天王全員の力で叩き潰す!あたしらを敵に回すとどうなるか、その身に徹底的に叩きこんでやろうじゃないか!」
「は、はいっ!!」
鬼達による総攻撃の時が、刻一刻と迫っていた。