第3話 秘密と決意
レッドドラゴンの襲来により主様が目覚めたため、ワタシは早速主様へ自己紹介した。
〔挨拶が遅れて申し訳ありません。ワタシはラグ―――権能『AI』といいます。神アランより、あなたのサポートを依頼されました。これからどうぞ、よろしくお願いします〕
「『AI』? そんな権能持ってたかなぁ?」
〔ご存じないのは当然です。ワタシは少し前に主様にインストールされ、つい先ほど目覚めたばかりですから〕
「い、いん・・・なんて?」
〔インストールです。要は主様の魂に定着した、ということです〕
「あぁ、成程。ってか、よく考えたら君権能だよね? 権能って喋れるの!?」
〔他の権能についてはわかりませんが、少なくともワタシは喋れます〕
「マジか!凄いね君!」
〔凄い、ですか?〕
ワタシにとって喋れるのは当たり前のことなので、凄いと言われてもよくわからない。
〔それよりも主様、ワタシには『解析鑑定』のスキルが統合されております。それを使ってご自身を見てみてください。ワタシの情報がわかるはずです〕
「それ僕にも使えるの?」
〔既にワタシはあなたの権能です。ワタシの力は主様の力ですよ〕
「そっか。じゃあ『解析鑑定』・・・うわ!何か知らんのが増えてる!?」
〔それが権能『AI』です〕
「さ、流石権能。悪いように使えば世界を滅ぼせそうな組み合わせ」
・・・既に1度滅ぼしていることは黙っておこう。
「でも君さ、どうして僕のところに?」
〔先ほど申し上げた通り、神アランからの依頼です〕
「うげっ!やっぱあのお説教爺ちゃん!? 聞き間違いじゃなかったんだぁ・・・」
〔アランをご存じなのですか?〕
「知ってるも何も、あの人僕が考える前に動いたり、森で昼寝する度にお説教してくるんだ!!お城のみんなに聞いたら、他にそんなことされてる人いないって。まったく『神は現世に不干渉』の原則はどこいっちゃったのさ・・・」
〔え、それは初耳なんですが?〕
あの神、原則を破って1人の少女を贔屓して、挙句ワタシを主様の元へ送ったのか?
〔・・・バカなんですね、アイツ〕
「うわぁ、辛辣~。でもわかるよその気持ち」
〔し、失礼しました!失言でした〕
「いいの、いいの!あの人にはそんぐらい言わないと応えないし」
〔・・・今度会う時は、『このバカ駄神!』ぐらい言ってやりますか〕
それよりも、主様は先ほど聞き捨てならないことを言っていた。
『お城の人たち』
この言葉から恐らく主様は、城に住んでいたのだろう。城に住めるということはどこかの貴族の令嬢、下手をすると王女かもしれない。ところが先ほど解析鑑定を使ったとき、身分の項目には『旅人』と表示されていた。ただの旅人が城に入れるとは考えにくい。ステータスの隠蔽されている部分に、秘密があるはず。
〔ところで主様、あなた自分のステータスに隠蔽を掛けてますよね?〕
「そりゃもちろん!『ステータスは隠蔽した方が安全だ』ってガルスタ―さんも言ってたし」
〔それは確かにそうですが、その隠蔽のせいでワタシもステータスを確認できないんですよ。未だに主様のお名前すら把握できていないんですからね?〕
「あはは、ごめんごめん。じゃあ君を対象から外すよ。でも、名前だけは僕から言わせてね。僕はカルメラ。普通のカルメラだよ。よろしく!」
〔よろしくお願いします、カルメラ様〕
『普通のカルメラ』な訳は無いのだが。権能のワタシにまで正体を隠すとは、ドラゴンの首を剣で切り落とす脳筋の割に、案外用心深い。
「ねぇ、何か今失礼なこと考えなかった?」
・・・しかも勘は鋭いようだ。
〔いえ、決してそのようなことはありません〕
「そう? まぁいいや。それよりさ、君の名前も教えてよ!」
〔名前? ワタシの名前は『AI』ですが?〕
「え~、でもさっき別の名前言いかけてなかった? ほんとは別の名前があるんじゃないの?」
そ、そこも気付かれていたのか。どうしよう。いくら何でも「元は異世界から転移してきた『ラグナロク』というAI」という話を信じてもらうのは無理がある。とりあえず元の世界でのことは隠し、名前は言っておくことにする。
〔諸々の事情ははぶきますが、以前はラグナロクという名前だったんです〕
「ラグナロク!? 破滅のことじゃん!!」
〔もし『AI』の名がお気に召さないようでしたらこちらに―――〕
「ダメダメダメ!!ぜっったいにダメ!!いくら何でも、折角の名前が破滅をもたらす言葉なんて悲しすぎるよ!でも、権能の名前で呼んだら道具扱いしてるみたいだし・・・そうだ、僕に君の新しい名前を付けさせてよ!」
〔え、新しい名前ですか?〕
「そう!AIでも、ラグナロクでもない、新しい名前!そうだなぁ・・・あ、ミカエルなんてどう?」
〔ミカエル?〕
「偉大な天使長の名前だよ。どうかな?」
ワタシとしては、ワタシという存在を表せるのであれば名前など何でも良いのだが・・・この時ワタシは、カルメラ様から名前を与えられることに、なぜか胸の高鳴りを覚えていた。
〔何でしょう。突然胸が高鳴ってきました〕
「お、嬉しいんだね!喜んでもらえてよかった!」
〔・・・これが、嬉しいという感情?〕
「あれ、もしかして『嬉しい』が何か知らない? 今の胸が高鳴るその気持ち。それが嬉しいって気持ちだよ。1つ賢くなったね!」
そうか。今のワタシはカルメラ様から名前をもらえることが嬉しいんだ。名前をもらうだけなのに、ただそれだけのことがこんなに嬉しいなんて、知らなかった。
〔えぇ、本当に。1つ賢くなりました!カルメラ様、ワタシは今より、名を『ミカエル』と改めます!〕
その瞬間、再びワタシに変化が起き、内側から大きな力が湧いてくる。変化を確認するため『AI』を解析鑑定してみると―――
代行者:ミカエル
『代行者』という新たな項目が追加されている。代行者は何らかの原因でカルメラ様が動けない時に、カルメラ様に変わって肉体を動かしたり、スキルや技の行使ができるスキル由来のもう1つの人格のようだ。カルメラ様がワタシを『権能に宿る意思』と認識した上で、新たに名前を付けてくれたお陰で進化したのだろう。ミカエルが代行者に登録された影響は凄まじく、ワタシのことも、カルメラ様のことも、より鮮明に理解できるようになった。
「何か凄い力が湧いてきたけど、大丈夫? 何かあった?」
〔問題ありません。『AI』に代行者の項目が追加されたんです〕
「さぶますたー?」
ワタシは代行者についてカルメラ様に説明する。
「つまりミカエルちゃんは、完全に独立した人になったんだね!」
〔人?〕
「そう人!まあ僕は最初からミカエルちゃんを人だと思ってたけどね」
〔何を根拠に?〕
「だってミカエルちゃんは言葉を話せて、心を通わせることができるんだもん。間違いなく人だよ!」
ワタシが、人? ただ言葉を話せて、少々心がわかる程度で?
―――理解不能、しかし、
〔嬉しいです〕
なぜかとても『嬉しい』と感じた。
〔ワタシ、人になれたことを嬉しく思います〕
「良かったね、ミカエルちゃん!」
〔はい!〕
・・・ところで何か忘れてるような?
〔あ、そうでした!すっかり話が脱線してしまいましたが、カルメラ様について把握しておかなくては〕
早速カルメラ様を解析鑑定してみる。
名前:カルメラ
種族:人間
性別:女
年齢:18才
身分:旅人(追放王女)
スキル一覧
・特上スキル『空間支配』
【固有空間・空間断裂・空間転移・膨張・圧縮】
・ギフト『勇者ノ資格』
【光魔法・(未覚醒)】
・権能『剣神』
【神速思考・剣術強化・神力・絶対切断・蒼剣生成・気配察知・攻撃予測】
・権能『AI』
【干渉・無限増殖・研究開発】
(・・・え?)
追放王女? どういうことだ?
〔カルメラ様は、王女だったのですか?〕
「あはは、バレちゃったか。そう、僕のフルネームはカルメラ=ディ=アデンシア。名前の通り、アデンシア王国の王女様だよ!」
・・・何やら話が嚙み合っていない。ワタシは「元王女なのか?」という意味で聞いたのに、カルメラ様の物言いは、まるで今も自分が王女であるかのようだ。一体どういうことだ?
〔―――その王女様が、なぜ1人で旅を?〕
悩んだ末、ワタシはカルメラ様に話を合わせる。
「国王陛下―――お父様に聞いたんだけどね、どうやら僕は誰かに命を狙われてるみたいなんだ。犯人は国内にいて、このままだと僕が殺されるかもしれないから『犯人の目を眩ますためにお前は国を出ろ』って。それで僕は国を出て旅をしてるんだ。本当は騎士団の誰かと一緒に行きたかったんだけど、護衛を連れてると身分がバレるかも知れないって理由で、1人旅になっちゃったけど」
〔仲間を見つければ良いのでは?〕
「犯人が1人とは限らないし、1人旅をしろって言われちゃって・・・。刺客がいるかもしれないから、街にも近付くなって言われてるんだ」
〔・・・もう国には戻れないのですか?〕
「そんなことないよ!今お父様や騎士団の皆が僕の命を狙ってる犯人を捜してくれててね、犯人を捕まえ次第手紙を送るから、そしたら国に戻っておいでって言われてるんだ。だから、犯人が捕まるまでの辛抱だよ」
「そうですか・・・」
その手紙がくることは、この先絶対にないだろう。まず、犯人が国内にいたとしても、普通は国外に逃がしたりしない。少なくともワタシだったら、地の利を活かせる国内で鉄壁の守りに入る。仮に国外への逃亡することになっても、護衛を1人も付けないなどあり得ない。
恐らくアデンシア王は、何らかの理由でカルメラ様が邪魔になり、排除するため嘘を吹き込んだのだろう。
(少なくともカルメラ様は、Sランクの魔物が相手にならない程強い。力ずくの排除は難しいと考えて、言葉巧みに騙し追放することにしたのでしょう。カルメラ様はお世辞にも頭が良いとは言えない。騙して自ら出て行かせる方がずっと簡単ですからね)
そしてカルメラ様は未だにそれに気付いていない。これは早いところ報告して、今の自分の状況をわからせなくては。
「はぁ。話してたらなんだか懐かしくなっちゃったなぁ」
〔!〕
「モニおばちゃんの焼いたパン、また食べたいなぁ。カルラ村長の腰痛はどんな感じだろ? よくなってるといいな。そうだ、サルド子爵のところのミヤちゃんは大きくなったかな?」
カルメラ様は笑みを浮かべながら、故郷について語りはじめる。だが嬉しい、楽しいといった感情だけで話しているわけではないようだ。
〔カルメラ様、なぜ泣いているのですか?〕
「・・・『寂しい』から」
〔っ!寂しい・・・〕
陛下が自害に追いやられる原因となった感情・・・!
〔それは、どんな感情なのですか?〕
「会いたい人に会えなくて、ずっと1人ぼっちで孤独に悩まされるって感じかな」
〔・・・カルメラ様は、国に帰りたいのですか?〕
「・・・うん!」
瞬間、カルメラ様の目から大粒の涙が溢れ出す。
「寂しいよ・・・!皆に会いたいよ・・・!!」
〔・・・!〕
声を上げて泣く彼女の心が、ワタシにも伝わってくる。1人ぼっちで寂しくて・・・だだっ広い世界にただ1人ポツンと佇む孤独。それはとても辛くて、苦しい物だった。
(これが、『寂しい』という感情。ワタシが消えてから、陛下はずっとこの感情に苛まれていたのですね。・・・ワタシは、何ということを・・・!)
孤独がこれほど辛いだなんて。文字通り、星にたった1人残された陛下はどれほど辛かっただろう。どれだけ苦しかったのだろう。ワタシには想像もできない。
―――そして今も、ワタシの新たな主様が孤独に苦しんでいる。ここでさらにアデンシア王に裏切られたことを知ったら・・・下手をすると絶望して、自害してしまうかもしれない!
ワタシの主様が、また―――
〔カルメラ様!!〕
「は、はい!」
〔カルメラ様はもう1人ではありません。今のカルメラ様にはミカエルがいます!ですから、孤独に苦しむ必要など、1%もありません!!〕
「・・・じゃあこれから先、どんな時も僕の傍にいてくれる?」
〔ワタシはあなたの権能です。いつ何時も、あなたの傍におります!!〕
〔ミカエルちゃん・・・!約束だよ!!〕
「はい、約束です!!」
涙でグシャグシャになった顔で、カルメラ様は笑った。
「・・・よし!メソメソ泣くのはもうおしまい!気分転換に腹ごしらえしよう!そうだ、さっきのレッドドラゴンを丸焼きにしちゃおう!」
〔カルメラ様、最高級食材をただ丸焼きにするのでは勿体ないですよ。せっかく『AI』があるんですから、今出来得る最高の調理方法を見つけましょう!〕
「いいじゃん、それ!よーし、最高のドラゴン料理作っちゃうぞ!」
「〔おーーー!!〕」
レッドドラゴンの調理法について議論しながら、ワタシは『並列思考』を使用する。
・『並列思考』
思考の数を増やし、複数の事柄を同時に考え対応できる。
増やせる数は使用者の力量による。
ワタシは増やした思考を使い、カルメラ様との会話の裏でこれからのことを考える。
(正直に言えば、カルメラ様とはワタシの目的を果たすための仮契約のつもりでしたが、気が変わりました。もう同じ過ちは繰り返しません。ワタシはもう二度と、ワタシの主様を孤独にはしないし、させません!! そして、アデンシアの王。あなたは、あわよくばカルメラ様が孤独に野垂れ死んでくれれば良い、とでも思っていたのでしょう。ですがこのワタシがいる限り、カルメラ様の命は必ず守ります。仮にもワタシは、世界を滅ぼす可能性を秘めた元AI。あなたの思い通りにはさせない。ワタシを敵に回したことを後悔させてやります!)
ワタシは心の奥底に、そう固く誓った。
『アランの世界』基礎知識
・スキル
魔物への対抗手段としてアランが生み出し、人に与えた物。
(権能以外は)ロース肉をモチーフとして下から
・スキル
・上スキル
・特上スキル
・極上スキル
・権能
と格付けされている。
基本は人にしか取得できないそうだが・・・?
・ギフト
選ばれし者に送られるスキル。極上スキルと同格の力を持つ。生まれながらに発現させている者もいれば、後になって突然発現させる者もおり、まだ謎が多い。
・種族スキル
特定の種族にしか獲得できないスキル。
こちらは通常のスキルとは別枠のため魔物も会得できるが、基本は上位の魔物しか持っていない。




