第39話 アクスからの情報
街へと戻った我々は、再び情報収集を開始する。ただし、”虹の錬金術師” の情報を集めているわけではない。調べているのは、アクスとフェイという人物についてだ。
先程レストランに飛び込んで来た青年が言うには、先程の古代魔樹と ”虹の錬金術師” の戦闘を実際に目撃したのが、この2人だと言う。そこで彼らから話を聞くべく、2人について聞き込みを行ったのだ。
調べた所、2人は冒険者でランクはB。夜は必ず冒険者ギルドにいるらしい事を突き止めた。そこで我々は、2人が冒険社ギルドにいる時間を狙ってギルドに入り、話を聞く事にした。
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その夜—――
我々は狙った時間に冒険者ギルドの前へと来ていた。この街は親切な人が多くいて、お陰で迷うことなくギルドに辿り着けた。
《建物自体は簡素だが、我々の目には敵の本陣のようで緊張してしまうな》
《えぇ、ワタシも緊張が止まりません。『複製体』で来ていたら、震えが止まらなくなっていたでしょう。桃華、くれぐれも問題を起こさないでくださいね?》
《大丈夫だ、心得ている。………よし、では行こう!!》
桃華は意を決して、ギルドの建物の扉を開き、中に入る。ギルド内部は酒場になっていて、幾人もの冒険者達が談笑していた。内容を聞くと、どうやら ”虹の錬金術師” の話で持ち切りのようだ。
「そしたらアイツ、見た事もねぇ虹色のバリアを…………」
「”怨嗟の咆哮カースド・ロア” っていやぁ…………」
「私1度見たことあるんだけど…………」
その中でもひと際賑わいを見せている集団の中心に、中年のショートソードを持った男がいる。話に聞いた特徴と併せれば、あの男がフェイで間違いないだろう。話を聞きたいところだが、彼の周りには若い冒険者達が大勢集まっていて、とても話を聞ける状態ではない。
周りに目を向けてみると、盛り上がる集団から少し離れた所に、物静かな集団がいる。その内の1人―――背中に巨大な戦斧を背負ったスキンヘッドの男。恐らく彼がアクスだ。
《桃華、アクスに話しかけてみましょう》
《分かった》
桃華は(思考内で)頷いて、アクスの元へ近付く。そして桃華は、なるべく相手を刺激しないように、丁寧に話しかけた。
「すみません。Bランク冒険者のアクスさんで、間違いありませんか?」
桃華が声を掛けると、アクスを含む数名が一斉にこちらへ振り返った。どうやら、我々の存在を一切認知していなかったらしい。確かに、多少気配を隠すようにはしていたが……そんなに気付かないものだろうか?
「あぁ、確かに俺は冒険者のアクスだ。ランクもBで間違いない」
「良かった!あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は桃華と申します。あなた方が出会った錬金術師について、お話を聞かせていただけないでしょうか?」
ちょっ、桃華! そこは偽名を使った方が―――いや、もう遅いな。
「”虹の錬金術師” の事か? アイツの事は少ししか知らないぞ?」
「構いません。知っていることを教えていただきたいんです」
「……分かった。アイツと出会ったのは今から一週間前。ちょっと事情があって裏路地を歩いてたら。いきなり後ろから声を掛けられたんだ」
「顔は見てませんか?」
「いんや、黒いローブを纏ってて、フードを頭からスッポリ被ってたからな。顔は一切見えなかった」
「そうですか……じゃあ、彼と何をしたか憶えてますか?」
「あぁ、急に現れるなり『このマジックバッグを使ってみないか?』と聞かれたよ。何でもソイツのお手製らしくてな、試しに使ってみたら性能はバッチリだったし、丁度新しいマジックバッグが欲しいと思ってたんで、ありがたく使わせてもらうことにしたんだ。これが本当に便利な代物でな! 古代魔樹の死骸も余裕で入っちまうんだ!」
「本当ですか!? それは凄いですね!」
若干演技が混ざっているが、桃華はかなり本気で驚いていた。
《成程、身長15mを超える巨大な魔物の死骸をどこへやったのかと思ったら、彼らが持ち出していたのですね》
《しかもそれが余裕で入るとは。そのマジックバッグ、かなりの性能だぞ。だがやはり、何よりも凄いのはそれを作った ”虹の錬金術師” だ。魔土のこともそうだが、今後の村の発展の為にも是非とも仲間に引き入れたい!》
《……無論、彼に差別意識が無ければですがね》
「俺達は職業柄各地を旅して回っているが、正直言ってアイツ以上の錬金術師は見たことが無い。下手すりゃ1人で国すら変える力を持ってる。だが、アイツの恐ろしい所はそれだけじゃない」
「と言うと?」
「恐ろしく強いんだ。俺達じゃその力を、認識しきれない程にな」
「街の人から聞きました。古代魔樹を倒したそうですね」
「あぁいや、実はそれ間違いなんだ」
「間違い? 何がですか?」
「確かにアイツも多少手を貸してはいたが、古代魔樹を倒したのは相棒のスライムさ」
「スライム!?」
桃華が驚きの表情を作る。無理もない。スライムのランクはF。全力を出しても子供1人殺せるかというレベルなのだ。そのスライムが、S+ランクの古代魔樹を倒したと言うのだから、驚かない方がおかしいだろう。
「無論、普通のスライムじゃない。アイツが言うには、あれはSSランクのミラクルスライムだそうだ。サイズは並みだが体は虹色。言葉を使う程の知能があって、確かスララって名前があった」
「スライムのスララ……安直な名前ですね」
「言ってやるな」
だが、例え安直であっても名前持ちなのは事実。ましてそれがSSランクの魔物ならば、古代魔樹を倒せたとしても不思議ではない。
《あれ? でも今の話だと、恐ろしく強いのは寧ろそのスライムの方では?》
《確かに。多少手を貸したと言っていたが、もしかすると支援がメインで直接戦闘は苦手なのかもしれない。確認してみよう》
早速桃華はその質問をアクスに投げ掛ける。
「でもアクスさん。今の話の通りだと、強いのってそのスライムだけですよね? もしかして ”虹の錬金術師” の方は、戦闘力低かったんですか?」
「とんでもない! アイツだってとんでもない力を持ってたぜ。森で俺達が依頼をこなしてる最中、突然古代魔樹の襲撃を受けてな。奴の根に捕らえられてもうダメかと思った時、アイツが空から極太のビームをぶち込んで、奴の根を蒸発させちまったんだよ」
「エ、古代魔樹の根を蒸発させたんですか!?」
聞けば、古代魔樹の根というのはマグマに漬けても決して溶けることが無いらしい。つまり ”虹の錬金術師” は、それを一瞬で蒸発させる程の熱を瞬時に生み出したということだ。正直言って、カルメラ様の『時空支配』に統合した『熱支配』を使っても、それほどの熱を瞬時に生み出すのは難しい。天才であるカルメラ様ですらそうなのだ。”虹の錬金術師” がどれほどの力を持っているのか、正直想像も出来ない。
「でも一番恐ろしかったのは、古代魔樹の最終奥義『怨嗟の咆哮』を一瞬で吸収したことだな」
「吸収? 吸収したんですか!?」
「信じられないのも無理はない。だが、本当の話だ。古代魔樹が『怨嗟の咆哮』を放った瞬間、アイツの周りに虹色の結界が作られてよ。それに触れた途端に『怨嗟の咆哮』が凄ぇ勢いで飲み込まれたんだ」
「マジですか……」
「これは俺の勘でしかないが、恐らくアイツの方がスララより何倍も強いぞ。そもそもの話、古代魔樹を『自分が手を下すまでもない雑魚』と見做して、スララに任せてたくらいだしな」
成程、これは……ヤバい。
話を聞く限り、”虹の錬金術師” の戦闘力は低く見積もっても勇華と同等。下手をすると、カルメラ様(とワタシ)に届くかもしれない。
だが腕は確かで、しかもスライムを相棒にしていたという話から、一番の懸念事項―――魔族への差別意識も無いと考えて良さそうだ。いきなりこれほどの人材が見つかるとは、幸先が良い。
「錬金術師、凄いな……」
「いやいや、普通はそんなこと出来る錬金術師なんていねぇよ。アイツが特別なだけだ。さっきも言ったが、俺はアイツ以上の錬金術師を知らない。もしアンタが錬金術師を探しているなら、一度はアイツに会っておいた方が良いと思うぜ」
「そうですね。そうしてみます。ありがとうございました!」
「良いってことさ」
桃華はお礼を告げると、ギルドを出ようとする。その時―――
「そうだ桃華ちゃん。1つ伝え忘れていた事があるんだ」
「何ですか?」
「アイツと別れる前にお礼がしたくて名前を聞いたんだがな、どうやら訳ありみたいで教えてもらえなかった。そんで代わりに ”虹の錬金術師” って二つ名を教えられた訳だが、どうもきな臭い感じがする。アイツを探すにしても、その辺は気を付けておけよ」
「忠告ありがとうございます。憶えておきますね。では、またどこかで」
「あぁ、またな」
そして我々はギルドを後にし、すっかり暗くなった街へと歩み出た。




