第35話 桃華の珍道中 その1
次の日―――
ワタシとカルメラ様は、しばらくの間桃華が抜けることを皆に話した。突然の出奔に驚く者がほとんどだったが、それでも事情を説明すると皆納得してくれた。
「桃華さん! 気を付けて行って来てくださいね!」
「腕利きの錬金術師を期待してるっす!」
「辛くなったらすぐ戻って来てくださいね!」
「腹出して寝るなよー!!」
鬼人もゴブリンも関係なく、皆それぞれ思い思いの言葉を桃華に掛けていく。桃華が仲間として受け入れられている証拠。良い風潮だ。
「まったく、今生の別れでもないのに……」
「良いじゃない。皆も桃華のことが心配なんだよ。実力とか関係なしにさ」
「……そうだな。そう言われると、確かに悪くないな」
そして皆に見送られて、桃華は街を目指して出発した。
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《桃華、聞こえますか?》
《あぁ、バッチリだ》
桃華が出発して半日経った所で、ワタシは一旦桃華に連絡を取った。時刻は既に夕方で、太陽が沈み始めている。
《霊魂人形はしっかり動作しているようですね》
《これで2人のサポートを受けられるんだったかな?》
《その通りです。ですから、無茶だけはしないように。仮にあなたが死ぬようなことになれば、カルメラ様は悲しみます。そうなったら、ワタシはあなたを許しませんよ?》
《それはそれは、尚更死ぬ訳にはいかないな。安心しろ。私だって姉さんに生きて帰ると約束したんだ。無理はしないさ》
桃華はそう言って笑った。
《ただ、良かったのか? こうなってはしばらくの間、アデンシアの調査に協力できなくなるぞ?》
《そこはまぁ、スカルに頑張ってもらいますよ。それに、情報の精査については、ワタシの得た情報を霊魂人形に同期させておきますから、暇な時にでもチェックをお願いします》
《そ、そうか。分かった、私も目を通すようにしておこう》
《よろしくお願いします。それにしても……あなた、今日1日ずっと歩きっぱなしですよね?》
《っ! そういえばそうだな》
《そんなに歩いて、疲れとかないんですか?》
《無いな。この程度の移動、修行に比べたらなんてことない。それに、霊鬼に進化した影響か、以前よりも肉体が強化された感じがするんだ》
桃華の言うことは正しい。カルメラ様も霊人へと進化して以降、肉体の活動状態が大幅に上昇している。『解析鑑定』で調べた所、精霊は常に精霊特有の波動を放っていて、精霊の亜種とも言える霊人にもそれがあるらしい。そしてその波動は自身の肉体を、精霊の器として強化することができるという。桃華の種族は霊鬼。つまり、カルメラ様と同じ精霊の亜種だ。恐らく桃華にも―――もっと言えば勇華、羅剛、蒼創を含めた4人にも、同じことが起こっているのだろう。
《詳しい説明は省きますが、おそらくあなたが精霊の亜種たる存在へと進化した影響でしょう》
《まあ、そうだろうな。それ以外に変化なんて無かったし》
《―――さて、今日はもう暗くなってきましたし、移動は中段して今日はもう休んでください。疲れが無いことは分かっていますが、それで無理をしていざと言う時動けないなんてことになっても困りますから》
《大丈夫。言われなくてもそのつもりだ》
そう言って、桃華はさっさと野宿の準備を始める。桃華の旅路の1日目は過ぎていった。
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旅に出て3日目―――
相変わらず桃華は、テクテク歩いて街を目指している。変化があるとすれば、魔物の襲撃が増え始めた所だろうか。
「ギシャァァァァァ!!!!」
「ギシャシャァァァァァ!!!!」
「爆ぜろ」
コモドドラゴンくらいの体躯を持つ、緑色の四足のトカゲ―――Dランクの森林蜥蜴が、10体程の群れを成して襲い掛かってくる。一般人にとっては悪夢のような光景だろうが、今回は相手が悪すぎた。森林蜥蜴達は何の前触れもなく内部から茨に貫かれ、その全てが肉片を撒き散らして絶命した。
《相変わらず、凄まじい威力ですね。『幻想茨』とは大違いです》
《『幻想茨』? あぁ、確か私の称号『茨木童子』を元に作った極上スキルだったな。威力が及ばないのは当然さ。なんせ称号は、権能と同等の力を持っているんだからな》
《スキルの最強種である権能と? 成程、それは極上スキル程度では及ぶはずもないですね》
しかし考えてみると、称号とは不思議なものだ。基準は不明だが、何かを成した時に突然発現し、名前に因んだ個性的な力を使用可能にする。そして称号の一番厄介な所は、権能から生まれた『代行者』であるワタシでも、その力を完全にコピーできないことだ。
《そもそもあなたと戦った時、ワタシはあなたの称号をコピーしようとしていたんです。しかし、情報の入手には成功してもその再現ができず、結局劣化コピーの『幻想茨』しか取得できなかったんです》
《……私も良く知らないんだが、同じ称号を複数の人物が同時に取得することは、絶対に無いと父さんが言ってたのを憶えてる。称号とは、偉業を成した一個人に対し、この世界が与える賞状のような物。たった1人の為に、この世にたった1つしかない力を与えているんだ。オンリーワンなのと引き換えに、権能でも対応しきれない程の強大な力を持ってるんだとさ》
知らなかった。まさか称号がそこまで特別なものだったなんて。
それが事実なら、称号は早い物勝ちということになる。そしてその中には、権能すら上回る物があったとしてもおかしくない。後の事を考えると、早く獲得しておいた方が良いだろう。
それにしても―――
《こんなことを聞くとあれですが……お父様も称号を持っていたのですか?》
《あぁ、妖怪の王たる者の称号。最強の妖怪に相応しい称号を持ってた。それは―――む?》
殺意に満ちた気配が近付いてくる。話をしている余裕は無さそうだ。
―――チッ! こういう話が途切れる展開はほんっっっとにイライラする!!
《敵が近付いているな。しかもこれ、人間の気配だぞ。恐らく盗賊という輩だな。カルメラ様の同族とは言え、人の道を外れた下種の集まり。慈悲はいらないな》
《ソイツらの相手、ワタシに任せて貰えませんか? 実はちょっとイラついたので、ぶっ飛ばしてやりたいのです!》
《え? じ、じゃあ、よろしく頼む……》
よし! それじゃあ、人生(?)初の盗賊狩りといきますか!
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
ちょっと短いですが、今話はここまでです。
次話からは本格的に道中を描いていきます!
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
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