第34話 開拓が進まない!
時は、一週間前に遡る―――
勇華達が仲間に加わった次の日―――
我々はまず、カルメラ様をトップに据えた自治領を定めた。目的は大きく分けると2つ―――「農地の確保」と「トラブルの回避」だ。
農地に関しては喫緊の課題だ。ゴブリン達が所有していた畑だけでは、とてもここにいる全員の腹は満たせない。なるべく早く土地を開拓して、農作物の生産量を増やさないと、再び餓死者を出してしまう可能性もある。
そしてトラブルというのは、新たに外からやってきた者達との間で、土地を巡る諍いが起こることを指す。当然ながら他所から来た者達は、我々の存在など知る由も無い。そうした者達が仮に、この地の開拓をしようとしていた場合、自治領をしっかり決めておかないと好き勝手に土地を弄られて、我々の住む土地が無くなってしまう可能性がある。そうなれば諍いは避けられない。故に、我々の土地の範囲を明確に定めて、それを主張できるようにする必要があるのだ。
こうした経緯から我々は自治領を定め、さらに内部を幾つかに分割し、それぞれの範囲に統治者を置くことにした。
まず中心に来るのは、カルメラ様の居住地となっている、カイザーの村だ。そこから鬼の拠点があった北の山の麓までを半径として、円を描いた範囲内にある全ての土地を、我々の自治領と定めた。次に円の中心から、直径を全体の半分の長さにした円を描き、そこの統治者にカイザーを、カイザーの補佐官に勇華を任命した。そして周囲を囲むリング型の土地を5分割し、それぞれリベル、アサミ、トモエ、ユグノー、マリアを統治者に任命し、補佐官にそれぞれの村で労役をしていた鬼、霊鬼を指名した。現在は先の戦いの影響で難しいが、いずれ波風が収まったら共同統治者として統治を任せようと考えている。
とまぁ、そんな所まで決めたわけだが、いくら自治領を定めたと言っても、それが使える土地で無ければ意味が無い。なので、ゴブリン達とオーガ―――から進化した鬼人達(S+ランク)を現場へ転送し、開墾作業を進めて貰っている。現地には "光魔人形" を派遣し感覚も共有してあるため、彼女達を通して状況把握もバッチリだ。
「あちゃあ、またか……」
"光魔人形" を通して、森を開墾しているホブゴブリンの声が聞こえて来る。何か問題が起きたらしいが、「またか」と言うことは……。
《またしても "魔土" ですか?》
《えぇ、完全に汚染されてます。既に現代魔樹や下位花草魔が幾度か出現してまして、こりゃ相当侵食されてますね》
《大丈夫? けが人はいない》
《皆無事ですよ、カルメラ様。ただ……これじゃあ畑には使えませんぜ》
"魔土" は、大量の魔素を含んだ土。そこに植物が芽生えた場合、魔素によって魔物へと変貌する。このまま畑になどしたら、野菜が魔素によって魔物と化し、魔物の群生地となってしまうだろう。
「錬金術師の捜索を後回しにしたのは、間違いだったようですね……」
この日の開墾作業で、ゴブリンの村の周囲一帯、そのほぼ全てが ”魔土” になっていることが判明した。カルメラ様と勇華が戦った場所だけが汚染されたと思っていたのだが、どうやら検討違いだったようだ。
《どうする、ミカエルちゃん?》
《……今日は一旦、作業を中止しましょう。今焦った所ですぐには使えませんし、"魔土" のある範囲は魔物だらけです。今から全員を中心領へ転送します。衝撃に備えてください》
《《了解!》》
《それから蒼創、黄金騎士達を境界線へ》
《任せておけ!》
指示を出すと同時に、自治領の境界線上に黄金の鎧兵士達が現れる。黄金騎士は単騎でもA+ランクに相当する。彼らがいれば、とりあえず無為な侵略は避けられるだろう。
〔これで良し。では、『時空転送』!〕
スキルを発動し、仲間達を中心領まで引き戻す。ここは居住地があるだけあって "魔土" が無い。ここなら安全だ。
(皆戻って来たみたいだね。さっすがミカエル!)
カルメラ様がワタシの名を呼び捨てにして誉めてくれた。昨日の宴会の際、皆がカルメラ様に「自分達の名前を呼び捨てにしてほしい」と願っていたのを見て、ワタシもそれに併せてもらうことにしたのだ。曰く、呼び捨ての方が距離が近く感じられるそうだ。
(ありがとね!)
〔……このくらい当然です〕
本当は誉められて嬉しいけど、黙っておこう。
〔しかし、"魔土" がここまで広がっているとは予想外でした〕
(ほんとだよね。安全なのは、皆が住んでたこの土地だけだもんね)
〔と言うより、周りが危険すぎるが故に、この安全な土地に集まって来たのでしょう〕
(やっぱり、錬金術師に来て貰わないとだね!)
〔えぇ。ですので、一刻も早く勇華の言っていた街に行って、錬金術師をスカウトする必要があります〕
(でも、僕は街に入れないし、誰に頼もう……?)
〔………〕
カルメラ様は父のアデンシア王から、「人間の街に入るな」と言われている。理由は「街の中に暗殺者がいるかもしれないから」とのこと。実際の所はカルメラ様を孤立させる為の小賢しい策だろうが、カルメラ様が奴を信じきってしまっている以上、それを破ることはできない。
〔……チッ〕
(ど、どうしたの?)
〔っ!失礼しました。何でもありません〕
しまった。つい感情的になってしまった。こういう所は気を付けないと。
〔それよりも街へ送る人材ですが、桃華は如何でしょう?〕
(やっぱそうだよね!桃華さ―――桃華なら安心だよね!強いし、頭も良いし、器用だし!あ、でもアデンシアもそうだけど、人間の街って基本魔族NGなんだよね。桃華って街に入れるの?)
〔彼女もそうですが、鬼まで進化した者達の見た目は人間に良く似ています。問題は角ですが……そうだ、シニョンキャップを2つ用意しましょう。それに『空間収納』のスキルを付与すれば、キャップ内部の空間を広げられます。そうすれば、角に被せて隠すことも可能です〕
(そうなったら人間にしか見えないね!冴えてる~!!)
〔では、今の内に話を通して、明日辺りにでも向かってもらいましょう〕
(え、ちょっと待って? 1人で行かせるつもりなの?)
〔? そうですが?〕
現在、錬金術師のスカウトは喫緊の課題となっている。街へ行ってから戻って来るまで、その時間をなるべく短くしたい。であれば、数名で徒党を組んで行ってもらうより、1人で行ってもらう方が合理的だ。危険を考慮して、器用かつ実力のある者を選定する必要があるが。
その点、桃華は優秀だ。元よりその知略と実力で鬼の副将を務めていた彼女だが、今ではSSSランクの霊鬼に進化した上に、極上スキルを権能に進化させていた。並みの者には彼女に掠り傷1つ負わせられない。1人でも問題ないと思うのだが……?
(確かに桃華は強いよ。でも、万が一ってことがあるでしょ? それこそ、僕と同等の奴が街にいて、ソイツに桃華が襲われたりしたら……)
〔成程、確かにそれはあり得ますね〕
この世界についての見識はまだ浅いが、カルメラ様のような実力者はそうはいないとワタシは考えている。とはいえ、そんな実力者が街にいないとは言い切れない。ここは、誰かに一緒に行ってもらう方が良いかもしれない。
〔最低でも1人。桃華と組ませて、せめてカルメラ様相手に逃避行を可能にできる人物を―――〕
(いや、別に難しく考えなくて良くない? だって僕達が一緒に行けばいいんだから)
……え? 何を言っているんだこの人は? それが出来ないから今こういう話をしているのだが?
(僕達って、魂だけならいくらでも存在を増やせるんでしょ? だったら僕達の魂を1つ増やして、桃華に憑依させればいいんじゃない?)
〔ですが、それではカルメラ様が街に入ることになってしまいますよ?〕
(大丈夫!入るのはあくまで増やした魂だけ。体は入ってないでしょ?)
……信じられない。こんなに頭の回るカルメラ様は初めて見た。確かにこの方法なら、我々自ら桃華に同行できる。それに、カルメラ様は勘違いしているようだが、我々は霊体も含めた霊魂の増殖を可能としている。霊体は魂と肉体を繋ぐ橋であると同時に、積み重ねた研鑽を記録するもの。桃華に霊魂を憑依させれば、桃華はカルメラ様のスキルと剣技を両方使えるようになるのだ。
〔カルメラ様、冴えてますね!ではそういうことで、本人に頼んでみましょう〕
ワタシは早速桃華を呼び出し、街へと行って貰いたい旨と、我々の霊魂を同行させる旨を話した。
「まさか分身とはいえ、カルメラ様とミカエル様両名に、自らご同行いただけるとは」
「本当は分身じゃなくて僕達が行きたいけど……ごめん、僕のワガママに付き合ってもらっちゃって」
「何をおっしゃいますか!私としては1人で行くつもりだったんですよ? 分身だけでも十分ありがたいですよ!」
「ワタシも常に対応できるようにしましょう。相談はもちろん、スキルによる補助もお任せを。いざと言う時は、我々をあなたの元まで転送してください。あなたにその為の権限を付与しておきます」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「もう、桃華!さっきから畏まりすぎだよ?」
「あ、申しわ―――いや、すまない」
桃華は組織の規律を重視する、真面目な人物だ。本来はそれが正しいと思うのだが、カルメラ様はそれを寂しいと感じるらしく、身内のみの時は彼女に畏まらないよう言っていた。
「勇華、それにユグノー。そういうわけで、しばらく桃華はここを離れることになりますが、よろしいですか?」
桃華に話を通すにあたって、一緒に呼んでおいた勇華とユグノーに聞くと、それぞれ返事が帰って来た。
「正直言って、いきなり桃華さんが抜けるのはかなり痛手ですが、錬金術師のスカウトは必須ですからね。何とかやりくりしてみせますよ」
「あたしは桃華が行くってんなら止めねぇ。けど、必ず無事に戻って来い。それだけは約束しろ」
「おいおい姉さん。別に死地に飛び込むわけじゃ―――」
「それでもだ」
「っ!!」
「頼む。もう仲間を失うのはウンザリなんだ」
「……分かった。私、桃華はここに誓う!人間の街で錬金術師を見つけ出し、必ず生還する!」
「大げさ―――いや、言うまい。約束だぞ?」
「あぁ、約束だ!」
勇華と桃華が拳を合わせる。恐らくあれは誓いを守る為の、指切りのようなものだろう。
ワタシもカルメラ様とやってみたい。
「目標は西の街。まずはそこで情報を集め、1人でも良いから錬金術師を見つけ出してください。可能ならその場でのスカウトを。改めて桃華、よろしくお願いします」
「任せろ!」
こうして、錬金術師をスカウトするべく、桃華を街へ送ることが決まった。
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
次話より、桃華の錬金術師探しの旅が始まります。
また、本編で書ききれなかったので、鬼人のステータスをここに記します。
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種族:鬼人
ランク:S+
種族スキル:『剛力』『鬼眼』
オーガのもう1つの進化先。指揮に優れたオーガロードに対し、こちらは単騎戦闘に優れている。部下を持たない一匹狼タイプのオーガが、この鬼人に進化する。
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