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最強AIの異世界転移  作者: 蓬莱
第2章 ぶっ飛ばせ!魔樹の軍勢
35/38

第33話 ローブの男

大変長らくお待たせいたしました!

連載再開です!

ミカエル達がいる村から、一番近くにある街。

その近郊にある森で、2人の男が木こり仕事をしていた。


「―――はぁ、やれやれ。とりあえずこれでノルマ達成か」

「だな。さっさとコイツに入れて帰ろうぜ」


無精髭(ぶしょうひげ)を生やした中年の男が、背中のリュックの口を開く。すると、木材はリュックの中に吸い込まれ、あっという間に収納された。


「あのローブの奴(・・・・・)から貰ったマジックバッグか。すごいなこれは」


背中にバトルアックスを背負った同じく中年の男が、感心しつつそう漏らす。


「ああ、普通はいちいち手に持って入れないといけねぇのに、コイツは自分で吸い込んでくれるんだもんな。容量もかなりのもんだし、こりゃ荷物運びが楽だぜ!」

「ふふ。これを知ってしまうと、もう以前のマジックバッグには戻れんな」

「しっかし、今回は大変だったな。下手な魔物退治よりも難易度高ぇぜこりゃ」

「同感だ。マジックバッグがあるから持ち運びも楽だし、2人で充分だと思ったが……他の奴にも手伝ってもらうべきだったな」


2人は冒険者で、この日はギルドの依頼で木材の調達に来ていた。依頼主は街の警備隊長。何でも、新しい砦を作るために大量に木材が要るらしく、森から木を10本程伐採してきてほしいという。本来なら木の伐採も木材の運び出しも、専用の業者がいるため冒険者に依頼されることはない。しかし、この森は魔物が蔓延っているために業者が入れず、結果的に実力者が集う冒険者ギルドに依頼がきたのだ。

そしてその依頼を引き受けたのがこの2人―――Bランク冒険者の中年男性2人組だ。Bランクともなればベテランだ。実力も確かで、単騎で街を滅ぼすBランクの魔物とも渡り合える。森に潜む魔物のランクは良くてもDランク。2人からすれば話にならないレベルで、倒すこと自体は難しくない。だが、今回はそれとは別の問題があった。


「魔物自体は大したことねぇんだけどなぁ」

「あぁ、森を守りながらの戦いがこんなに大変だとは……。今回の仕事を甘く見過ぎてたな」


そう、彼らの仕事は魔物退治ではなく、あくまでも木材の収集。つまり、木材を傷つけることなく(・・・・・・・・)街まで運ぶ必要がある。しかし、この森は魔物だらけ。その上炎や溶解毒を使う魔物も多数存在し、もしもそれらの攻撃を木が食らったりしたら、もう木材として使うことは不可能。故に2人は、魔物の攻撃から木材―――延いては森を守る必要に迫られたのだ。


「確かに甘く見てたが、今回は運もあるだろ? まさか一発目でポイズンスライムの巣を引き当てちまうなんてよ」

「それはそうだな。お陰で森中のポイズンスライムが一斉に迫って来て、挙句他の魔物共まで寄ってきて、散々だった」


ポイズンスライムは、ランクEのゼリー状の魔物。知能は低く戦闘能力も低いが、腐食系の毒を噴き出すため今回の仕事では非常に厄介な存在であった。とは言え、ポイズンスライムは基本大人しい魔物であり、自ら人を襲うことはまずない。その為、彼らが集団で暮らす巣を刺激したりしなければ特に危険はなかったのだが、2人はよりにもよってその巣がある木を切り倒してしまったのである。当然巣は木端微塵に崩壊。突然のことに驚いたスライム達は、暫しの間混乱しワニャワニャと騒いだ後、沸々と湧きだした怒りに従い集団で2人に襲い掛かる。


毒を噴き出し、木々を腐食(・・)させながら迫るスライム達。このままでは依頼が達成できないと判断し、2人はスライムに応戦する。しかしスライムの数は100を超え、群れの1体が仲間を呼んだことで数は上昇。さらには騒ぎを聞きつけた他の魔物達まで集まってきてしまう。木々は次々と腐食し、薙ぎ倒され、下手をすると森が半壊するかと思われたが、そこはBランク冒険者。暴れ出した魔物達を全て倒し、どうにか森の半壊は免れた。

この日、2人が倒した魔物の数は、軽く1000を越える。その上森を守りながらの戦いとなれば、難易度は桁違い。2人の苦労も納得であった。


「今度同じ依頼を受ける時は、最低でも5人は連れてこないとな」

「だな。ま、今は過ぎた話よりもよ、この後のことを考えようぜ。何せ、臨時収入がタンマリあるんだからよ!」


魔物の中には、武器や防具の素材として重宝されるものがいる。例えば今回のポイズンスライムの場合は、毒を吹き出す武器や、毒攻撃の耐性を持つ防具に使われる。ギルドではこうした魔物素材も高値で買い取るため、魔物素材の納品で生計を立てる冒険者も少なくなかった。


「今回だと、幾らになるだろうな」

「さぁな。だが、しばらくは遊んで暮らせ―――っ!」


無精髭の男の言葉が途切れる。森の奥から、突然凄まじい覇気が発せられたからだ。2人はそれぞれ武器を構え、戦闘態勢に入る。


「……何か来やがるな」

「あぁ。それも、とんでもない大物だ」


覇気の主と思しき気配が、もの凄い速度でこちらに近づいてくる。しかし妙なことに、敵の姿は見えない。


(どうなってる? 敵はどこに―――)

「アクス!下だ!!」


無精髭の男が、バトルアックスを持つ男―――アクスに向かって叫んだ時には、もう遅かった。アクスの足元から太い木の根が飛び出し、アクスの脇腹を貫いた。


「ぐぅっ……!!」


激しい痛みに悶えながらも、アクスは何とかその場から離脱する。しかし、初手で手痛い一撃を食らい、既にアクスは満身創痍だった。


「アクス!!」

「く、来るな……」


無精髭の男―――フェイは即座に動き、アクスを抱えてその場から離脱する。その直後、地面がせり上がり、木から手足が生えたような見た目の、15mはある巨大な木の怪物が姿を現した。


「ウゴゴォォォォォォォ!!!!!」


怪物は天に向かって雄叫びを上げる。普通の人間ならば、その雄叫びを聞いただけで死亡してしまいそうな、圧倒的な威圧感。ただの魔物で無いことだけは確かだった。


「な、何だコイツは……?」

「アクス喋るな!傷に障る!ありゃ恐らく、S+ランクの古代魔樹(エルダートレント)だ。俺達じゃとても敵わねぇ」

古代魔樹(エルダートレント)? はっ、通りで姿が見えないわけだ」


古代魔樹(エルダートレント)―――

樹系魔族(トレント)と呼ばれる木の魔物の中でも上位に位置する存在。他の樹系魔族(トレント)よりも長く生きており、その分力が大幅に上昇している。木の根を用いた物理戦闘と植物を操る魔法を得意とし、森の中では無敵と言える程の強さを誇る。また、土に潜る能力を持ち、地中からの奇襲によって一国の軍隊が滅んだという話も少なくない。


「ちっ、冗談じゃねぇぞ!何でこんな怪物がこんな辺鄙な所にいんだよ!?」

「話は後だ!とりあえず、今はここから離れ、っ!!?」


すぐにこの場を離脱しようとする2人だが、そうは問屋が卸さない。古代魔樹(エルダートレント)の魔法によって地面の草が動き出し、あっという間に2人を縛り上げた。


「ぐっ!!」

「こんのぉ!!」


本来草を引きちぎれない2人ではないのだが、古代魔樹(エルダートレント)の魔素によって強化を施された草は白銀魔鋼(ミスリル)以上の硬度を誇る。いくらアクス達と言えど、この拘束を無理矢理解くことは不可能だった。


「グガハハハ!!逃がすと思うてか?」

「なっ!コイツ言葉を!?」

「喋る魔物が珍しいか? まあそうであろうな。同族の中にも話せる者はそうはおらぬ。だが、我は違う!長き時の果てに進化し、言葉と知性を手に入れた!貴様らごとき相手にすらならぬわ!」


魔物は長く生きる程力が強くなる。中には自力で進化に至る者もおり、この古代魔樹(エルダートレント)も正にそうであった。古代魔樹(エルダートレント)知性が無くても(・・・・・・・)S+ランク。知性を持ち、より有益に自身の力を使える彼の場合、その脅威度は果たして―――


「貴様らのような弱者が強者たる我の糧となって死ねることを、有り難く思いながら逝くがいい!」


古代魔樹(エルダートレント)の伸ばした根が、恐るべき速度で2人に迫る。狙いは頭。この一撃で頭蓋を潰し、確実に始末するつもりのようだ。まともに食らえば、2人の頭はいとも簡単に弾けてしまうだろう。

―――しかし、その未来は訪れなかった。


「"太陽熱線(ソーラーレイ)"」

「っ!? グギャァァァァァァ!!!!?」


突然天空よりビームが2本照射される。ビームは2人に迫る木の根を貫き、蒸発させ、塵も残さず消してしまった。


「「………」」


あまりに突然の出来事に、2人は声も上げられなくなる。一方、攻撃を受けた古代魔樹(エルダートレント)は、怒り心頭だった。


「おのれぇ!何奴!?」

「俺だ」


上空から声が聞こえてきて、全員の視線がそこに集まる。いつの間にいたのか、黒いローブを纏った人物が古代魔樹(エルダートレント)を見下ろしている。声から辛うじて男性ということはわかるが、顔をフードで覆い隠しており表情も年齢もわからない。だがアクス達は、この男に見覚えがあった。


「ア、アイツはまさか、俺達にマジックバッグをくれた、あの―――ガハッ!」

「アクス―――ぬぐっ!」


草の締め付けが強まる。既に致命傷のアクスは吐血し、一刻を争う状態だった。


「小僧。我に傷を負わせたことは誉めてやる。だが、確か人間は同族を切り捨てることもできぬ、愚かな種族だったよな? ならば、この人間共を見よ!今なら我の気分次第で、如何様(いかよう)にもできるぞ?」

「………」


アクス達を縛り上げている草が急成長を始め、2人を古代魔樹(エルダートレント)の目線の高さまで持ち上げ、見せつけてくる。逆らえばコイツらの命は無い。そう脅すように。


「てめっ、卑怯だぞ!」

「俺達を盾にする気か、グフッ!」


戦場においては、卑怯などという言葉は存在しない。どんなことをしても、生き残った者が勝者となる。アクスとフェイもそれは理解しているが、それでも、文句を言わずにはいられなかったのだ。


「ローブの人!俺達のことは良い!コイツを倒せるなら、このまま倒してくれ!」

「無理なら逃げても構わねぇ!せめてコイツのことを、街の奴らに知らせてくれ!」

「グガハハハハハ!!愉快愉快!この状況でも尚同族の心配とは!同族とは言え所詮は他人だろう? たかが他人の為に命を張るのか? グガハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「……調子こいてんじゃねーぞ、下種が」


身の毛もよだつ程の冷めきった声で、ローブの男はそう吐き捨てる。古代魔樹(エルダートレント)は身じろぎするも、人質がいることを思い出して強気な態度を保ち続ける。


「グガハハハ!何と言われようと、我が優位であることには変わらぬ!」

「優位? この程度でか? 舐められたもんだ」

「何?」

「この程度で俺を追い詰めたと、本気で思ってんのか?」

「何を言い出すかと思えば、貴様が追い詰められていることは事実だろう? 現に貴様は我に手も足も出せず、ただそこに留まっているだけではないか!」

「はっ、バカが。お前は俺が手を出すまでもねぇってだけのことだよ」

「なぁ!? 我は1000年の時を生きた古代魔樹(エルダートレント)だぞ!多少強い程度で粋がるでないわ!」

「俺は事実しか言ってねーよ。っていうか、まだ気付かねーのか? 自分が攻撃されてることに」

「何を―――っ!!!?」


言われて古代魔樹(エルダートレント)は気付く。いつの間にか、彼の足元は虹色のゼリー状物質で埋め尽くされ、古代魔樹(エルダートレント)は身動きが取れなくなっていた。それは、虹色に輝くスライムだった。


「な、何だコイツは!? 虹色の…スライム!? しかもこの力、まさか特殊個体か!?」

「スララ、後は任せた」


古代魔樹(エルダートレント)をガン無視して、ローブの男は後のことをスライム(スララ)に託す。すると、スララはさらに膨張し、古代魔樹(エルダートレント)の全身をスッポリと覆う。


「これは、スライムの捕食か!? おのれぇ!スライム風情が生意気にも、我を食らうつもりか!?」

「スライム風情? はっ、お前の目は節穴か。ソイツはスライムの上位種、ミラクルスライムだ。ランクはSS。いや、場合によっちゃもっと上かもな」

「な!?」


古代魔樹(エルダートレント)は驚愕するが、すぐにそれどころではなくなる。スララによる捕食が始まったからだ。


「ギャアアアアアアア!!!!!!!! な、何だこの異常な消化力は!? 我が肉体が、溶けていく………!!グギャァァァァ!!!!!」


溶解液によって、古代魔樹(エルダートレント)の体が溶かされ始める。あまりの激痛に、古代魔樹(エルダートレント)は戦闘中であることも忘れて痛みに悶え始めた。


「す、凄ぇ………」

「何なんだアイツは?」


アクス達も、目の前で起きている光景が信じられなかった。

スライムの捕食は、肉体を一時的に膨張させて獲物を体内に取り込み、溶解液で溶かすと同時に吸収する。人間をはじめとした他の生命体は、食したものを溶かしてから吸収するまでに様々なプロセスを必要とするが、スライムはそれら一切をすっ飛ばして丸ごと吸収できる。人間でいえば、胃袋で溶かしたものを全て胃袋で吸収するようなもので、生きている相手を溶かしながら捕食することも可能だ。そしてこれを可能にしているのが、スライム族の種族スキル『捕食』である。

一見すると強力なスキルだが、スライムの分泌する溶解液は非常に弱く、特に魔物には非常に効きにくい。本来、古代魔樹(エルダートレント)のような上位の魔物に効くような代物ではないのだが……。


「おのれぇ、何故スライムの溶解液がこれ程効くのだ!? おい小僧!ソイツは本当にスライムなのか!?」

「そうだって言ってるだろ? なぁ、スララ?」

「そうっすよ!オイラはスライムのスララ!ちゃんとこの人が言ってたのに、話聞いてなかったんすか?」


「そういうことではないわ!!」とツッコむ余裕もない。そもそもどこからツッコめば良いのかもわからない。だが、このままでは為す術なくスライムに食われることは確かだった。


(遥々この地まで来たというのに……!ここで負けるようなことになれば、あの方(・・・)に消されてしまう!どうすれば…………!!)


朦朧とする意識の中で、古代魔樹(エルダートレント)は必死に生きる術を見出だそうとする。そして―――最悪の結論に辿り着く。


「グ、グガハハハ!たかが人間の小僧とスライムに、ここまでやられるとは思わなかったぞ。だが、忘れたか? 我には人質がいることを!」

「「………っ!!」」

「グガハハハハハ!!やはり人間相手には、同族を盾にするのが丁度良い!どんな強者も、これだけで無力に―――」

「お前、ほんっと鈍い奴だな。人質? んなもん、どこにいんだよ?」

「む? ………っ!!?」


ここで古代魔樹(エルダートレント)は、アクス達を縛り上げていた草が燃やされ、2人が姿を消していることに気付く。


「バカな!? 奴らはどこだ!?」

「下を見ろ、下を」


言われて下を見てみると、いつの間にかそこに虹色のドームが作られ、その中に2人の姿があった。


「やっぱ頭が高ぇ奴(・・・・・)って、下が見えてねぇんだよな」

「貴様ぁ……!!」


思いっきり皮肉を込めたその言葉に、古代魔樹(エルダートレント)は怒り心頭となる。そうしている間にもスララによる捕食は進み、古代魔樹(エルダートレント)の体は溶かされていく。自分はもう助からない。そう悟った古代魔樹(エルダートレント)はその巨大な口を開いて、そこに膨大なエネルギーを収束させ始めた。


「っ!!あれは ”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” の構えっす!!」

「おいおい、玉砕覚悟の特攻かよ」

「黙れ!どうせ死ぬなら、貴様ら全員道連れにしてくれるわ!!」

「ちっ、面倒くせぇな」


怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” —――

死者の怨嗟と魔素を一点に凝縮し、波動として放出する古代魔樹(エルダートレント)の種族スキルだ。単発の威力も地形が変わる程凄まじいが、厄介なのは寧ろ死者の怨嗟の方。誰かを道連れにしようとする死者達の怨念が、死の呪詛となって波動に纏わりつき、放たれると同時に四方八方へと飛散する。仮に今すぐ放たれたとしたら、この森に住む全ての生命体が死滅するだろう。それに気付いたスララとローブの男は、”念話(コール)” で話し合いを始めた。


(どうするっすか? 捕食はあきらめてすぐに倒すってのも1つの手っすけど)

(いや、その必要はない。ソイツが波動をこっちに撃てるようにしてくれ)

(え? 何するつもりっすか?)

(コイツの心をへし折る)

(うわぁ、えっぐ。了解っす)


その途端、古代魔樹(エルダートレント)の全身を覆っていた虹色のゼリーが一部解除され、その巨大な顔が露わになる。突然の解放に戸惑いつつもチャンスだと考えた古代魔樹(エルダートレント)は、照準をローブの男に合わせる。


「死ね!”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” !!」


赤黒く禍々しいエネルギーの奔流が、ローブの男に迫る。まともに食らえば塵も残らず消滅するだろう。

―――彼が普通の人間ならばの話だが。


「"虹光結界(イリゼ・バリア)"」


男を守るように、虹色のバリアが展開される。そして、虹色のバリアに ”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” が当たった瞬間、”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” はバリアによって完全に防がれた。―――否、それは吸収であった。森を死滅させる波動は、一切の命を刈り取ることなく、バリアに吸収され消失した。


「そ、そんな…… ”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” が……」

「絶望してるとこ悪いっすけど、オイラを忘れられちゃ困るっす」


最終奥義をいとも簡単に防がれ茫然自失となっていた古代魔樹(エルダートレント)に、少女のように可愛らしい声でスララが死の宣告を下す。古代魔樹(エルダートレント)は再びスララに覆われ、先程の倍以上の速度で溶かされ始めた。


「ア……ガガ…………!!」


碌に抵抗も出来ぬまま、古代魔樹(エルダートレント)は全身を溶かされ、スララに吸収される。古代魔樹(エルダートレント)はどんどん体積が減り、同時にスララも小さくなっていく。やがて完全に捕食が終わると、後には古代魔樹(エルダートレント)の出現で更地となった場所に、ポツンと1人のスライムが残されていた。


「「…………」」


ドームの内部からその様子を見守っていたアクスとフェイは、ただ唖然とするしかなかった。古代魔樹(エルダートレント)がスララに気を取られた直後、いきなり虹色のドーム内部へ転送された2人だが、その後から起こったことが衝撃的すぎて、言葉が出なくなっていたのだ。

スライムが言葉を発するわ、”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” が消えるわ、挙句の果てにはスライム(最弱の魔物)古代魔樹(エルダートレント)を捕食するわ、もう常識がどうこうと言うレベルでは無い。さらに、異常なことはもう1つあった。


「アクスお前、腹の傷はどうした?」

「え……消えてる!?」


いつの間にか、アクスの脇腹にあった傷が消えていたのだ。今回のような大怪我を治す際、通常は上位の回復魔法を数十分に渡って掛け続ける必要がある。だがアクスの脇腹の傷は、今のほんの数分の間に完治してしまったのだ。しかも失われた血まで補填されているようで、思い通りに体を動かせる。


「もしかして、このドームの力か?」

「結界の類みてぇだな。だが、虹色の結界なんて、見たことも聞いたことも無ぇぞ?」

「だとすると、これはアイツのオリジナルの魔法ってことか。まさか、ただの物売りだと思っていた奴が、これ程の力を持っていたとは」


始めてローブの男と会った時、アクスもフェイも、彼のことを「弱い奴だ」と思った。ちょっと力を入れて突き飛ばせば、簡単に倒れてしまいそうな程に。しかし、それはとんだ検討違いだった。ローブの男は、Bランク冒険者(アクスやフェイ)など歯牙にもかけない怪物だった。


(今思えば、あの時は覇気を抑えていたんだな。気付かずに喧嘩を売ってたらどうなっていたか、考えただけでもゾッとする)


そしてそれは、あのスライムも同じ。ローブの男に言われるまで、アクス達はその存在にすら気付かなかった。恐らく彼(?)も、気配を隠していたのだろう。


(本当に、何者なんだアイツらは?)


そんな疑問をアクスが抱いた時、虹色のドームが解除される。アクス達の目線の先には、左肩にスララを乗せたローブの男の姿があった。


「よお、無事かあんたら?」

「あ、ああ、何とかな」

「傷も治ったし、もう全然平気だ。助けてくれて感謝する」

「気にするな。人として当然のことをしただけだ」

「これで一件落着っすね!」


男の肩の上で、パインパインと可愛らしく跳ねるスララ。ローブの男自身も、フードでハッキリとは見えないが、笑みを浮かべているようだった。


「傷も塞いだし血も補填したけど、今日はもう帰って休んだ方が良い。何なら俺達も帰る所だから、一緒に送って(・・・)やろうか?」

「それはありがたいが……送るってどういうことだ?」

「”転送” だよ。さっき体験しただろ?」

「あぁ、成程」

「正直ありがたいぜ。頼むわ」

「任せろ」


断る理由もないので、2人はローブの男に送ってもらうことにする。


「そんじゃ、今から飛ぶぞ。街の入り口前あたりで良いか?」

「構わん」

「俺も良いぜ」

「それじゃ、俺の傍を離れるなよ。”転移”」


4人の姿が、一瞬でその場から消える。アクスとフェイが気付いた時、4人は街の入り口前にいた。


「そういえば、そのマジックバッグはどうだった?」

「おうよ!これが滅茶苦茶便利でよ、重宝させてもらってるぜ!」

「ただ便利な分、それにかまけて無茶をする奴が現れるかもしれん。今日の俺達みたいにな」

「成程、下手な奴に渡すとヤベェってことか」

「簡単に言うとそうだな」

「今度からは、渡す相手をちゃんと選ばないとっすね」

「そうだな。参考になったよ。ありがとう」

「礼を言うならこっちの方だ。あんた達にはデカい借りができてしまった。どれだけ時間が掛かるかわからないが、必ず返す」

「気負いすぎるなよ」

「気負いすぎちゃダメっすよ」


ローブの男とスララはそう諭すが、アクスは義理堅い。この先、どこかで恩を返しに来るだろう。


「さて、それじゃあここで一旦お別れだ」

「一緒に入らないのか?」

「その前にちょっと野暮用がある。それを片付けて来るよ」

「そうか。なら最後に、あんたの名前を聞かせて貰えないか?」

「あ~……悪いが、訳あって名前は明かせない。そうだな……”虹の錬金術師” とでも呼んでくれ」

「っ!そうか、あんたが例の……!わかった。それでは ”虹の錬金術師” よ、またどこかで会おう」

「アクスも言ってたが、ほんと、色々ありがとな!何かあれば俺達を頼ってくれよ!」

「あぁ、またな」

「バイバイっす!!」


別れを告げ、アクス達は街へと向かって歩き始める。そしてローブの男は―――再び ”転移” を発動し、スララと共に姿を消したのだった。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



その夜。

冒険者ギルド1階にある酒場は、”虹の錬金術師” の話で持ち切りだった。”虹の錬金術師” は、詳細不明の謎の人物。突然現れては、常識がひっくり返るような力を持ったマジックアイテムを授けて去って行く。冒険者の中にはそのマジックアイテムに命を救われた者も多い。そうでなくとも、彼のことを知りたがる者は数多くいる。そんな彼が表立って戦ったと言うのだから、話題になるのは必然であった。


「そしたらアイツ、見た事もねぇ虹色のバリアを張ってよ。古代魔樹(エルダートレント)の ”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” をいとも簡単に止めちまったんだよ!」

『すっげぇ!!!』

『かっけぇ!!!』


アクス達の周りには若手からベテランまで、大勢の冒険者が集まっている。2人(主にフェイ)は語り部として、当時の状況を皆に聞かせていた。特に若手達には大いに受けていた。


「”怨嗟の咆哮(カースド・ロア)” っていやぁ、都市が3つは消し飛ぶっていうあれだろ?」

「私1度見たことあるんだけど、遠目に見てるだけで生きた心地がしなかったわ」

「マジで!? じゃあそれを簡単に止めたソイツは何なんだよ!?」

「ひょっとしたら、神様だったりして?」

「はは、かもな!」

「それを言うなら、一緒にいたっていうスライムさんもそうじゃない? だって、あの古代魔樹(エルダートレント)を食べちゃったんですよね、フェイさん?」

「あぁ。見た目で判断することの愚かさを、改めて自覚させられたよ。アイツはスライムの型に嵌めて考えて良い相手じゃねぇ。それこそ、鬼や先史魔樹(エンシェントトレント)と同類のバケモンだ」

「因みに、何て言うスライムか分かりますか?」

「あ~確か……ミラクルスライムのスララだったかな」

「スララ? ……もしかして "名前持ち(ネームド)" なんですか!?」

「……あぁ!!色々驚き過ぎて忘れてたが、そういや "名前持ち" は珍しいんだったな!」

「マジっすか! ”虹の錬金術師” が魔物を連れてたことも驚きなのに、まさかの "名前持ち(ネームド)" とか!」

「すげぇ!今日だけでアイツの情報が山程出て来やがる!」

「帰ってから復習しないと!」


若手冒険者―――特に ”虹の錬金術師” のファンを自称する者達が、大いに盛り上がる。一方でベテランの冒険者の中には、面白くない顔をする者がちらほらいた。


「ったく。アイツら、”虹の錬金術師” の危険性を分かってないのか?」

「本当にね。正直、フェイの話が本当なら、うちら含めたこの街の全戦力を投入しても、スララとか言うスライムにすら勝てないだろうね」

「勝てねぇって言い方ができりゃまだ良い。勝ち負けどころか、戦いにならない可能性もあるだろ?」

「……否定できないのが悲しいね」

「問題はそれだけじゃない」


ベテラン達の話に、同じくベテランのアクスも乗ってくる。


「あの森は、低ランクの魔物だけが生息する、駆け出し連中の修行場に使われるような場所だ。本来、古代魔樹(エルダートレント)のような上位の魔物はいない。それなのに、奴はあの場所に現れた」

「……あの森で、何かが起きていると?」

「具体的に何が起きてるかは、流石に分からんがな。だが嫌な予感がする。今回の一件、もしかするとまだ終わっていないのかもしれん」

「おいおい本気か? 古代魔樹(エルダートレント)は騎士団が動くレベルの魔物だぞ? それがこの街の近くに居たってだけでも大問題なのに、まだ裏があるってのか?」

「あくまで可能性の話だ。確証はない。だが、警戒は必要だろう」

『………………』


しばし、重苦しい空気がその場を支配する。

―――その時だった。


「すみません。Bランク冒険者のアクスさんで、間違いありませんか?」


その場には似つかわしくない、少女のような声が聞こえてくる。アクス含めたベテラン達は、思わず一斉に声のした方を振り向いた。声を掛けられるまで、声の主の気配に全く気付かなかったからだ。


声の主は、和服を身に纏った美少女だった。年の頃は16あたり。桃色のショートヘアはサラサラと流れ、頭にはシニョンキャップを2つ付けていた。


(見た目はただの少女だが、構えに一部の隙も無い。相当鍛えられているな)


しかも、気配も覇気も感じられない。実力は全く読めないが、少なくともスララ(あのスライム)と同格以上であることは確かだった。

―――それ程の手練れが、自分に何の用なのか? 警戒しつつも、アクスは少女に応じる。


「あぁ、確かに俺は冒険者のアクスだ。ランクもBで間違いない」

「良かった!あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は桃華と申します。あなた方が出会った錬金術師について、お話を聞かせていただけないでしょうか?」

本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!


一週休載する形になってしまい、大変申し訳ありません。結局、一週間以内に書き終えることができませんでした……。やっぱり、書いて書いて書きまくらないと、全然進みませんね。


さて、物語についてですが、いきなり舞台が変わったり知らないキャラが出てきたり、混乱された方も多くいらっしゃると思います。ですので、次話からはミカエル達を中心とした、ここに至る経緯を書いていこうと考えています。やっぱり経緯の明記は必須ですよね!……え、そうだよね?


このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。


(・・・面白いと思ったら、ポイントもお願いしたいです)

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