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最強AIの異世界転移  作者: 蓬莱
第1章 ゴブリンを救済せよ!
34/38

第32話 動き出す世界

時を少し遡る。

それは、カルメラが勇者として覚醒した時のこと―――


「カルメラ様!?」


ここは、アデンシア辺境の領地。その領主邸にある、領主の執務室。そこでは品のある髭を生やした男が、いつものように書類仕事に追われていた。だが、突然頭の中にカルメラの声が響いて来て、彼女の名前を叫びながら思い切り立ち上がってしまう。


「・・・・・・」

「ゼアート様()、お聞きになられたのですか?」


床に散らばった書類達に目もくれずゼアートが呆然としていると、側に立っていた年配の男が声を掛けて来た。


「・・・プレバトン、お前もか!?」

「えぇ。あの方の声が、どこか遠くから―――」

「お父様!」


2階から誰か駆け降りて来たと気付いた瞬間、執務室の扉が思い切り開け放たれ、弾けるような笑みを浮かべた6才くらいの少女が駆け込んで来た。


「聞こえたの!カルメラ義姉(ねえ)様の声が聞こえた!義姉様が生きてた!」

「クラリ様はしたないですよ!旦那様、申し訳ありません!止めたのですが・・・」


遅れて入って来た侍従達を、ゼアートは制止する。


「良い。それよりお前達、おかしなことを聞くようで悪いが、カルメラ様の声が聞こえなかったか?」

「えっ!? 旦那様もですか!?」

「あぁ。プレバトンも聞こえたそうだ」

「私も!私も聞こえた!でも・・・」


クラリは表情を暗くして続ける。


「すっごく怖い人と一緒だった」

「・・・そこも同じか。プレバトン、あれが何か分かるか?」

「恐らく、鬼ではないかと」

「なっ、あのSSランクの!? 何故そんな奴がカルメラ様と?」

「そこまではわかりませんが、少なくともカルメラ様が、あの鬼と戦っていることは確かでしょう」

「そんな、カルメラ様・・・!」

「せっかくご無事だとわかったというのに・・・!」


プレバトンの言葉にゼアートは真っ青になり、侍従達は嘆きの声を上げ始める。現在アデンシアにおいて、カルメラは死んだという扱いになっている。この領地でも、カルメラは過去に幾度となく人々を助けて、身分を問わず皆から好かれていた。そんなカルメラが死んだ聞かされた時、領内が悲しみに満ち溢れたことは想像に難くない。


(カルメラ様。まず、あなた様がご無事であったこと、本当に良かった・・・!ですがこのままでは、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない!できることなら、今すぐにでもあなたの元へ馳せ参じて、あなたを止めたい所存で―——)


義姉(ねえ)様は負けないもん!」

『っ!!!』


執務室に、クラリの大声が響く。部屋中の者の視線がクラリに集まるが、クラリは気にせず続ける。


「カルメラ義姉(ねえ)様は、最強だもん!相手がドラゴンでも、鬼でも、神様でも関係ない!誰だろうと、義姉(ねえ)様は必ず勝つ!」

「クラリ・・・」

「それに、止めようとしたって無駄だよ」


クラリは静かに、しかしハッキリとそう言い切った。


「あの時だってそうだったでしょ? お父様の領地に操られたドラゴンの群れが迫ってきた時、義姉(ねえ)様は1人でドラゴンの群れに突撃しようとした。私達が必死に止めても『民を守るのは王族の務め。それに、誰かを徒に傷つけるような奴らを、僕は見過ごせない』って言ってドラゴンの群れに1人で突っ込んで、群れを全滅させた挙句術者まで捕まえてきた。それも、無傷で」

『・・・』

「誰かに理不尽を押し付ける奴がいる。義姉(ねえ)様が戦う理由はいつもそれ。理不尽な力で理不尽を押し付ける奴を、義姉(ねえ)様は絶対に許さない。だから義姉(ねえ)様は強いし、だからこそ引いたりしない。お父様も皆も、それは良く分かってるはずでしょ?」

『っ!!!』


ゼアート達は思い出す。そう、カルメラは理不尽な者達に、決して背を向けたりしない。例えそれが終焉の化身であったとしても、そこに理不尽に苦しめられる者達がいる限り、カルメラに退くという選択肢は存在しないのだ。


「戦いをやめろなんて、野暮なことは言っちゃいけない。私達は祈るしかないの。義姉(ねえ)様が勝つように。義姉(ねえ)様が負けないようにって」

「・・・ならば、皆で祈ろうじゃないか!カルメラ様の勝利を!」

「そうですね。あの方の声が我々に届いたのです。我々の声も、きっとカルメラ様に届くことでしょう」

「祈るだけじゃ足りません!私は応援します!カルメラ様ーーーー!!頑張ってくださーーーーい!!」

「止めても行くのはわかってますから、だから―——そんな奴、さっさと倒しちゃってくださいよーーーー!!!」


丁度そのタイミングで、カルメラの『民ノ希望(勇者)』が発動した。


《皆、僕に力を貸して!》


その場の全員の頭に、カルメラの声が再び響いた。


「・・・決着のようですな」

「まさか、カルメラ様から助けを求められる日が来るとは・・・」

「ええ、これは私も想定外。でも、義姉(ねえ)様がお望みとあらば!」

「ああ、お貸ししようじゃないか!我らの力を!」


自分達から光が発せられ、それがどこか遠くへ飛んでいくのをゼアート達は感じる。


(カルメラ様。我ら一同、あなた様のお役に立てることを誇りに思います。本当はお止めしたい所ですが、それは野暮というものでしょう。ですから、せめて応援させていただきたい。願わくばその応援が、あなた様の力とならんことを)


ゼアートはカルメラのことを想い、しばらくの間窓の外の景色を眺め続けた。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



この日、同じような経験をした者が、王国領内の各地にいた。特に王都では、何と文字通り民衆全員に同じことが起きていた。

王都に店を構えるパン屋のご夫妻も例外ではない。


「ちょっとあんた!今の!」

「ああ、カルメラ様だ!」


カウンターに立つ中年の女性―——カルメラから ”モニおばちゃん” の愛称で親しまれるパン屋の女将モニカは、カルメラの声を聞いて歓喜に奮える。モニカの夫であり、パン屋の主人の禿頭の男、ダズも同様だった。

―——彼らだけではない。


「な、なあ? 今の声聞こえたか?」

「聞こえた!今の、カルメラ様だよね!?」

「ああ、間違いねぇ!カルメラ様だ!」


パンを買いに来た客達にも、カルメラの声が聞こえていた。


「先日の新聞では、カルメラ様が不慮の事故で死んだと報じられていたが・・・生きておられたのか!」

「やっぱりね!あの子が事故なんかで死ぬわきゃないと思ってたんだよ!」

「そんなこと言って女将さん、あの日はショックで寝込んじまって、途中で店じまいしてなかったっけ?」

「ちょ、それを言うんじゃないよ!」


顔を赤くするモニカの姿に、パン屋にドッと笑いが起こる。


「まぁまぁモニカ。今はカルメラ様の無事を喜ぼうや」

「あたしだってそうしたいけどね・・・そうもいかないだろ」

「何でだ?」

「あんた達も見ただろ? あの子が何か、恐ろしい奴と戦っている姿を」

『・・・・・・』


モニカ達にも、カルメラが勇華(酒吞童子)と戦う様子が見えていた。カルメラは強い。それは皆周知のこと。それでも、大切に思う人が強敵と戦っていると知ったら、心配に思うのは自明の理であった。

しかし、モニカには他にも懸念していることがあった。


「それに、あの新聞のこともあるからね」

「新聞がどうかしたのか?」

「あの日の記事には『アデンシア王国第4王女カルメラ=ディ=アデンシア、遠征中に不慮の事故に遭遇。現場の物証から死亡が確定』って書いてあったろ?」

「ああ、あの時は本当に、国中が大騒ぎになったよな」

「なのに、カルメラちゃんは生きていた。これって、おかしくないかい?」


モニカがそう言うと、客の1人の少女が反応する。


「え? そんなの、騎士団の捜索が甘かったってだけじゃないですか? 或いは、新聞社が誤った報道をしたか」

「お嬢ちゃん、確証も無しに人様の仕事にケチをつけるでないよ。そもそも、あの子はあんなでも王女様だよ? 捜索にしても報道にしても、徹底的にやるだろ」

「た、確かに・・・」

「だけど、言われてみるとあの記事、変な所も多かったよな。仮にも王女が死亡したってのにその物証が何なのか一切書いてなかったし、そもそも事故が何だったのかも書いてなかったし」

「しかもあれ以降、カルメラ様に関する記事はまったく出て来なくなったもんな」

「けど、一番はあれだろ? カルメラ様が亡くなったっていう物証を、わざわざ王と女王が自ら(・・)新聞社に提示したことだろ?」

「そう!それさ!あたしが一番気になっているのは」


モニカは語気を強めて話し始める。


「娘が死んだっていう物証を、親自ら提示だって? はっ!あり得ないね。それって、娘の死を完全に認めることになるんだよ? あたしが親の立場なら、まずそんなことはできない」

「確かに。私にも娘がいるけど、もし同じ立場になったりしたら・・・そんなこと絶対できないわ!」

「俺なんて、そんな物証見ることもできないぜ」

「そう考えると、陛下達は本当に、何であんなことができたんだろう?」

「あたしは『娘を愛してないから』に一票だね」


モニカは人目も憚らず、はっきりとそう言い切った。あまりにも堂々としていたために、一瞬誰も彼女の言葉の意味を理解できない程だった。


「お、おいよせモニカ!誰が聞いてるかわかんねぇんだぞ!?」


気付いたダズが慌てて止めるが、モニカは止まらない。


「構わないさ。アイツらが娘の死を簡単に受け入れられるような、卑劣漢であることに変わりは無いんだからね」

「愛する娘の死を、必死に乗り越えようとしてんだろ!? もういい加減に―――」

「愛する娘だってんなら、国葬の1つでもやるはずだろ!?」

『っ!!』

「死んだ娘を弔おうともしないのに、これでもアイツらがあの子を愛してると思うのかい!?」

『・・・・・・』


通常、この国では王族や英雄が亡くなった際、国主体で葬儀を行って盛大に葬ることとなっている。カルメラはこの国の危機を幾度も救った英雄であり、尚且つ王族。にも拘わらず、今日まで国葬はおろか、カルメラの葬儀自体行われていない。


「・・・なあ、もしかしてカルメラ様は、厄介払いされたんじゃないのか?」


客の男性が、ポツリと呟く。その言葉に反応を示す者はいなかったが、皆心の中で同じことを考えていた。


「だとしたら、もうあの人には会えねぇのか?」

『・・・・・・っ!!!』


その言葉が、一番皆の心に刺さった。カルメラは生きている。しかし、もう2度と会うことはできない。この場にいる全員にとって、それが一番辛かった。

しばし、パン屋を静寂が包む。―――その時だった。


「―――っ!この声は!!」


カルメラの『民ノ希望(勇者)』が発動し、再び彼らの頭にカルメラの声が響く。同時に、カルメラが目の前の相手に、何やら大技を放とうとしている光景が脳裏に写った。


「なあ、あんた達・・・確かに、もうあの子には2度と会えないかもしれない。だけど、あの子の無事を願うことはできるんじゃないかい?」

「モニカ・・・」

「モニカさん・・・そうですよね!あの人の声が私達に届いたんですから、私達の願いもきっと届きますよね!」

「俺達の応援もな!たとえ会えずとも、俺達の声は絶対にカルメラ様の助けになる!」

「だからこれからは、毎日影から応援させてもらおう!」

「よぅし!それじゃあ手始めに、あの子にあたしらの力を送ってやろうじゃないか!」

『おーーーー!!!!』


こうして、パン屋に居合わせた者達の想いは、カルメラに送られる。さらには辺境のゼアート達も含め、国中の人々からの想いもカルメラに届き、それは力として具現化され、勇華(酒呑童子)を打ち破る一助となった。


―――そしてこの日以降、アデンシアの王城にはカルメラの記事に対する疑問の声が国中から寄せられるようになった。



*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*



「ええい忌々しい!」


ここはアデンシア王国、王城の中心にある王の間。そこに、1人の男のどなり声が響く。


「とうの昔に野垂れ死んだと思っておったのに・・・!カルメラめ、しぶとく生き残りおって!」


激昂しながらカルメラを罵る厳つい男。この男こそが、カルメラを追放した張本人であるアデンシアの王、ディオン=ディ=アデンシアである。


「落ち着きなさいよディオン。ここで暴れたところで、何も変わりゃしないんだから」


そんなディオンを宥めているのは、金髪にローブを羽織り、右手には杖を持った女性。見た目は10代の少女のようだが、彼女こそはカルメラの母―――女王、マリア=ディ=アデンシアである。


「落ち着けるものか!図々しくも奴が生き延びていたのだぞ!? しかもそれを愚民共に知られてしまっている!状況は最悪だ!」

「まあそれはわかるけど、そんなにイライラしてるとお肌に悪いわよ? そうだ、今度あたくしの美容の術を掛けてあげましょうか?」

「・・・いらん!どうせまたあの禁忌の術だろ!? あんな気色の悪い術はごめん被る!」

「まあ酷い。せっかくあなたの可愛いお嫁さんが、旦那様のためにひと肌脱ごうとしてるのに。・・・まあ脈絡のない話は置いといて。カルメラについてだけど、刺客を送り込んで始末してしまうのはどうかしら?」

「・・・それができなかったから追放したんだろうが!それとも、奴を殺せる者に当てでもあるのか?」

不死王(イモータル・キング)なんてどうかしら?」

不死王(イモータル・キング)だと!? 確かにそれなら可能性はあるが・・・奴は死の魔法の専門家。下手に扱えば我々の魂が喰われ兼ねんぞ?」

「相手はあのカルメラよ? こっちもリスクを負うぐらいでなきゃ、アイツを始末することなんかできやしないわ」

「ぬぐっ!だが、そもそもそんな強力な魔物、見つけられるのか?」

「あたくしには『召喚魔法』があるのよ? 宮廷魔導士達に手伝わせれば、不死王(イモータル・キング)の召喚くらいは可能よ。後は対価を支払えば、契約を結んで従わせることは可能だわ」

「対価? ああ、生贄か。まあそれは問題ない。愚民ならいくらでもいるからな」


スカルがそうであったように、不死王(イモータル・キング)との契約には大量の魂が必要となる。しかし、民を使い捨ての道具くらいに考えている2人にしてみれば、生贄は大量にいるため問題にはならかった。


「じゃあ決まりね。不死王(イモータル・キング)にカルメラを始末させ、不死王(イモータル・キング)単独の犯行としてそれを報道する。筋書きは、そうね・・・『先日の一件を受けて、王室は全力をもってカルメラを捜索。苦労の末に発見したが一足先に不死王(イモータル・キング)の襲撃を受け、カルメラは殺害されていた』っていうのはどうかしら?」

「確かに、奴は戦いに明け暮れていた。トラウマ(・・・・)を植え付けても尚、勢いが止まらない程に。戦いの最中に死亡したとなれば、もう誰も奴の生存を疑わなくなるだろうな」

「でしょ? 後はアイツがやられるまでの間、騎士団を送り込んで捜索の体裁を作っておけば、『捜したけど先を越された』っていうのにも信憑性が増す」

「問題は、奴を始末できるかどうかだな。不死王(イモータル・キング)だけでは不安が残る。他に戦力はないのか?」

「これ以上は無理よ。それに、下手に追加戦力を送ったら、殺害に王室の関与が疑われかねない」

「で、あるか・・・アレ(・・)が使えれば良かったのだがな」

「『ハルマゲドン』のことかしら? 今は北の大陸で使用中。作戦から外すことはできないわ」

「わかっている。わかっていても、使いたいと思ってしまったのだ。」

「まあ、気持ちはわかるわ。あたくしだって、カルメラの始末を考えた時に、真っ先に浮かんだのがハルマゲドンだったもの」

「まあ、不死王(イモータル・キング)が足蹴にも及ばぬほど、取り扱いに注意が必要なのは厄介だがな」

「それは本当にそうね。話が逸れたけど、今はハルマゲドンは動かせないわ。不死王(イモータル・キング)に賭けるしかないわね」

「そうだな、よし。そうと決まれば、すぐに召喚の準備を!」

「わかったわ」


―――その後

マリアは宮廷魔法師達の助力を得て不死王(イモータル・キング)を召喚。無事契約を結び、カルメラの元へと送り込む。しかし、実際に戦ってみるとまったく及ばず、不死王(イモータル・キング)返り討ちにあった挙げ句、10億を超える眷属達と共にカルメラの仲間になったのであった。



*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*



酒吞一味が労役に服していた頃、東の大陸でも動きがあった。


「ぬらりひょん様、ご報告致します」


大陸のほぼ中心に位置する、瓦屋根の巨大な城。その天守閣に1人の白髪の少年が座していた。彼こそがぬらりひょん。勇華の父親の仇である。


そんなぬらりひょんの前に跪く1人の男。体は人間だが頭は鴉のもので、背中には真っ黒な翼が生えている。少なくとも、人間でないことだけは確かだった。


「西へ逃亡した酒呑童子ですが、何者かにやられたようです」

「やられた? 間違いないの?」

「西へ潜り込ませた斥候からの情報です。間違いないかと」


鴉の男の言葉を聞き、ぬらりひょんはそれが事実なのだと確信する。


「・・・誰にやられたの?」

「それが、信じがたいのですが、人間の小娘のようなのです」

「人間? あれが人間に負けたの?」

「小生としても驚きを隠せません。まさか、酒呑童子を倒せる人間がいようとは」

「ソイツの持ってるスキルとかは分かる?」

「・・・現状は一切不明です」

「え、嘘でしょ? まったく?」

「はい・・・どうやら相当な隠蔽の使い手らしく、人間だということ以外は一切が謎です」


現在カルメラの情報は、ミカエルによってガチガチに強化された『隠蔽』で守られている。突破できるとすれば、ミカエルと同じ『代行者(サブマスター)』のみだろう。

因みにカルメラが人間だというのもミカエルに掴まされた偽情報なのだが、斥候達はそれに微塵も気付かなかった。


「ソイツ、放っておくと厄介なことになるかもしれないな・・・」

「いかが致しましょう?」

「今こっちから仕掛けるのは悪手だし、とりあえず今は監視を続けさせて。そして、何かこちらの不利益になりそうなことをし始めたら、すぐ報告するように」

「はっ!」


返事をすると同時に、鴉男は影のようにその場から消える。1人になったぬらりひょんは、これからのことに思いを馳せ始めた。


(あのおっさんから『称号(・・)』を奪って、ようやくここまで来たってのに・・・中々思うようにはいかないな。まあいっか。ゲームってのは高難易度ボスがいないと盛り上がらないもんね。それに、最後には全部(・・)僕が奪えば良いんだから。きゃはははははは!)


まるで己意外の全てをあざ笑うかのように、ぬらりひょんは壊れるような笑みを浮かべる。そして遊戯を楽しむ感覚で、これからのことに思いを馳せるのだった。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



時は戻って、現在―――

ゴブリンの村から一番近く(といっても徒歩で数日の距離)にある人間の街。そこの冒険者ギルドでは、今日も冒険者達がクエストで稼いだ金を使って、飯を食したり酒を飲んだりして騒いでいた。

ギルドの窓際の席に座る2人組―――青髪の剣士の男と赤髪の魔術師の女も、例に漏れず酒を飲んでいた。


「ッカーーーーー!!!!やっぱ仕事終わりの酒はうめぇぜ!!そうだろ相棒!?」

「ああ、私達にとってこれ以上の楽しみはない。ウェイターさん!エールをもう一杯追加で!」

「は~い!」


冒険者ギルドとは、冒険者と呼ばれる者達に仕事を斡旋する場所。そしてギルドは基本酒場を兼ねており、冒険者意外にも仕事終わりの大人達が大勢酒を飲みに来る。そのため夜のこの時間は、ギルドが最もてんてこまいになる時間であり、ギルドが最も稼げる時間でもある。しかも今日はいつも以上に客が来ているため、激務に慣れっこのウェイター達の顔にも疲れが見え始めていた。


「しっかし、今日はほんとに稼げたよな。まさかあの洞窟でミスリルの鉱脈が見つかるなんてよ」

「私も驚いた。お陰で今日は好きなだけ飲める。この石には感謝しないとな!」


そういって赤髪の女は、懐から白く光る水滴型の石を取り出す。その石を見つめながら、青髪の男はぼやいた。


「ダウジングドロップか。街でいきなり渡された時は変なもんを押し付けられたと思ったが、本当に鉱脈を見つけるとはな。あのローブの野郎、いったい何者だったんだ?」

「・・・もしかすると、最近噂になってるアイツ(・・・)じゃないか?」

「アイツ? ・・・あぁ、『虹の錬金術師』か」


『虹の錬金術師』とは―――

最近この街でその存在が囁かれている、正体不明の錬金術師である。

年齢、性別、出身―――その他諸々一切の情報が開示されておらず、実在するかどうかも怪しまれている。


「正直俺は都市伝説みてぇなもんだと思ってたんだが、言われてみると確かに、アイツがそうだったのかもな」

「いや、もう間違いないだろ? いくらダウジングドロップが鉱脈発見用の魔道具とは言え、こんな速攻で見つけるなんて異常だ。こんな高性能のダウジングドロップを作れる奴なんて『虹の錬金術師』しかいないだろう」

「あぁ、そんいやお前、昔錬金術やってたんだっけか?」

「駆け出しの頃に、少しな。だからこそわかる。これは本当に凄い物だ。・・・いつか、もう一度会ってみたいな。どうやってこれを作ったのかを聞いてみたい」

「だがよ、ソイツの手掛かりなんてほぼ無いに等しいだろ? 外見どころか年齢も性別わからねぇって話だし。一応『錬金術を使う時に手元が虹色に光る』って噂があるが、それも本当かどうか怪しいもんだし」

「・・・見つけるのは、ほぼ不可能に近いか」

「だろうな。ま、今は錬金術師の話より、ウマイ酒を飲もうぜ!」

「そうだな。すまない。せっかくの良い気分を下げてしまったな」

「気にすんな。飲み直せば良い。金ならあるしよ」

「だな!」


そう言って2人は豪快に笑い、再び酒を飲み始める。そんな2人の姿を見ている者がいたことには、一切気付かずに。

本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!


今回は、カルメラ達の活躍の裏で蠢く、各勢力の思惑、動きを描かせていただきました。

また、今話にてついに、第1章が完結となります!次回からはいよいよ第2章へ突入です!


このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。


(・・・面白いと思ったら、ポイントもお願いしたいです)

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