第28話 親父の仇 後編
大変長らくお待たせいたしました!
ようやく更新です!
「あの双子の弟―――”ぬらりひょん” が、あたしらの親父を殺したんだ!」
『っ!!!』
ぬらりひょん。
それが、酒吞童子の父親を殺した者の名か。
「その名前、聞き覚えがありますぞ。数年前、数多の妖怪が暴れて破壊の限りを尽くし、一夜にして東の大陸の国々を滅ぼした ”百鬼夜行事件”。その主犯であり、事件の後に東の大陸を支配した男が、ぬらりひょんと名乗っていましたな。それが、あなたの父親の仇だと?」
「ああそうさ。アイツが全ての元凶だ!」
酒吞童子の目が怒りに燃え、奥歯を噛みしめる音が聞こえてくる。
「・・・あの日、あたしは茨木達5人と一緒に日課の修行に行ってたんだが、興が乗って少し帰りが遅くなっちまってな。門限を過ぎて、親父に怒鳴られるのを覚悟の上で屋敷を目指してたんだ。でも、戻る途中で急に悪寒を覚えて、大急ぎで戻ったら、いつもは2人の番兵がいる入り口の門に誰もいなかったんだ。あたしが門を蹴破って中に入ると、屋敷が血に染まってた。使用人も、兵士も、お庭番集―――こっちで言う親衛隊まで、皆殺られてた。いや、それだけじゃない。遺体は首を落とされて、十字架に磔にされて晒されてた!しかも頭は、原型がわからなくなる程潰されて、十字架の上に乗せられてたんだ!」
「ひどすぎる・・・!!」
「私でも死者の遺体にそんな酷いことはしませんよ。本当に、何という仕打ちを・・・」
「・・・お父様は、どうなったのですか?」
「あたしらが親父の自室に辿り着いた時には、親父は既にこと切れていて、他の皆と同じ目にあってた。そして親父のすぐ隣で、ぬらりひょんが笑ってやがった・・・!!」
『・・・・・・!!!』
「頭が真っ白になって、闇雲に暴れそうになったよ。でも、茨木達が止めてくれたお陰で冷静になれた。相手は親父を殺す程の奴だ。とても勝てる相手じゃない。だからその時は堪えて撤退しようとしたんだが、急に天狗や河童、他にも大勢の妖怪達が部屋に入って来たんだ」
「助けに来てくれたんだね!」
「・・・いや、ソイツらは部屋に入るなりあたしらを取り囲みやがった」
「え? どう言うこと?」
「簡単な話です。裏切りですよ」
「っ!!!?」
「そうさ。アイツら、ぬらりひょんに寝返りやがったんだ!」
群れを作る獣にも、同じ習性を持つ種がいる。
「そんな・・・!仲間を裏切るなんて、そんなの・・・!」
カルメラ様は相当ショックを受けているらしく、かなり混乱した様子を見せる。
「な、何かの間違いじゃないの!? っ!そうだ、演技!演技だったって可能性は!?」
「部屋に入ってきた妖怪の軍勢には、鬼が1人もいなかった。何でかわかるか?」
「え? えっと・・・ぬらりひょんの部下と戦ってたとか?」
「殺されたんだよ」
「っ!!!?」
「軍勢の後方の連中が、何かを突き刺した槍を掲げてた。全て鬼の頭だった」
「・・・っ!!」
「あたしの同胞を殺した挙げ句、その頸を晒して辱しめた。これでもまだ演技だと思うか?」
「それは・・・無いよね」
「そりゃ確かに、なんだかんだ言ってもあたしらは実力主義だ。でも、アイツら皆、親父に大きな恩があったはずだ!あたしらには義と心がある。受けた恩は必ず返すもんだ!なのに!・・・親父が殺られたと知った途端にアイツら、いとも簡単にぬらりひょんの子分になりやがって・・・!!」
酒呑童子の拳が怒りで震える。同時に、無意識に覇気が放出されていた。
「すまない。取り乱したな」
「全然!そんなの怒らない方がおかしいよ!」
プンスカ怒るカルメラ様を見て、酒呑童子の張りつめた顔が少しだけ綻ぶ。
「そう言ってくれると助かるよ。ともかく、あたしらは一瞬で囲まれちまってよ。正に絶体絶命だったんだが、星熊と茨木が機転を利かせて逃がしてくれたんだ」
「ちなみに、どんな風に?」
「あ~・・・意味わかんないかもしんないが、星熊が屋敷の真下にでっかい間欠泉を作ってよ。そんで屋敷を土台ごと吹き飛ばして、混乱と目眩ましをした隙に、茨木が転移魔法を発動した」
「ぷっ、あっははははは!!!!星熊さんらしいや!!!!」
「ぬらりひょんは追って来なかったんですか?」
「もちろん刺客を放ってきたさ。でも、アイツ自身は追ってこなかった。あたしらがどこにいるかまでは把握できなかったんだろうな。お陰でこうして、隣の大陸まで逃げおおせることができたから、良いんだけどな」
『だが』と酒吞童子は続ける。
「逃げられたのはあたしら6人だけだった。他の仲間はどうなったかわからない。全員殺されているか、まだどこかで生きているのか・・・」
「酒吞・・・」
「あたしは、何もできなかった!ただ逃げることしかできなかったんだ!!何でそうなっちまったのか。考えて、考えて・・・辿り着いた答えが ”あたしの弱さ・甘さ” だった。あたしが弱かったから、ぬらりひょんを退けられなかった。あたしや親父が甘かったから、妖怪共を増長させた!」
「・・・それであなたは同族以外を信用せず、他種は全て奴隷として扱うようになった。そういうことですか?」
「そうさ。甘やかしたから、そしてあたしらが舐められてたから、奴らは増長したんだ。だからあたしは、他種に対して甘さを一切捨てた。もう2度とあんな悲劇を起こさないために」
「・・・ですが、失敗に終わったというわけですね」
「ちょっ!? ミカエルちゃ―――」
「気にするな。事実だ」
そう言って酒吞童子は苦笑する。
「・・・ねぇ、酒吞」
「何だ?」
「酒吞は、仇討ちをしたいって気持ちはある?」
「・・・もちろん!いずれ必ず仇はとる!」
怒りに任せて再び覇気を発し始める酒吞童子だったが、すぐに覇気を止める。
「でも、さっきも言った通り、アイツは親父を倒してる。しかも無傷でだ。実力の差がありすぎる。おまけに1000を超える妖怪共まで従えているからな、とても対応しきれねぇよ」
「むっ。その言い方、なぁんか引っ掛かるな・・・もしかして、ぬらりひょんも、裏切った妖怪達も、皆1人で倒そうか考えてない?」
「悪いかよ?」
「戦力も実力も差があるってわかってるなら、仲間を頼ったらどうなのさ?」
「今のあたしはアイツらの頭領だ。アイツらを死なせるわけにはいかない。でも、仇を討たないなんて選択肢はない。たとえ相討ちになったとしても、必ず仇はとる!」
「っ!!!」
途端に、カルメラ様の表情が険しくなる。いきなり酒吞童子の胸倉を掴み、怒りを滾らせた瞳で睨みつけた。
「マ、カルメラ様!?」
「カルメラ様!いったい何を!?」
「てめぇ、何の真似だ―――」
「聞き捨てならないね、それだけは!」
「・・・はぁ?」
「君、自分が何言ってるかわかってんの? 仲間達を置き去りにして、自分だけ先に死ぬつもり!?」
「っ!!!」
「仲間を守るっていうのは良い。巻き込みたくないってのも良い。でも茨木さん達だって、同じように君のことを大切に思ってるんだよ? 金童子なんて、君がやられたって知った途端、僕達に襲い掛かってくる程だったんだよ? そんな仲間達の気持ちを無碍にして、仇をとる為に死ぬって言うの!? そんなの絶対に許さないよ!!!」
「・・・・・・!!!」
酒吞童子が歯嚙みしながらも、黙り込んでしまう。カルメラ様の言う通りだと思ったのだろう。落ち着きを取り戻したカルメラ様は、酒吞童子を離して話を続ける。
「・・・とは言え、仇討ちを止めるなんて無粋な真似は、僕にはできない。でも、このまま放っておいて、1人で行かせるわけにもいかない」
「じゃあどうするってんだ?」
「1つだけ約束してほしい。その時が来たら、僕達も呼んで!」
「っ!!? あ、あんたらを?」
「そう。本当は全員呼んで欲しいけど、それが無理ならせめて僕達2人だけでも呼んで!すぐ助けに行くから!ミカエルちゃんも、良いかな?」
「ふっ、もちろんですとも。カルメラ様が行くというのなら、ワタシもついて行きます!」
「ありがとう!ミカエルちゃん!」
「ば、バカを言うな!これはあたしらの問題だ。仲間どころか、余所者を巻き込むなんて以ての外だろ!」
「余所者なんて言わないでよ。この一週間、一緒に農作業頑張ったじゃん!友達、とまではいかないかもだけど、結構仲良くなったでしょ? それに、僕だって君に死んでほしくない」
「っ!?」
「『嘘だろ!?』って思うかもしれないけど、これは嘘偽りの無い僕の本音だよ。まだ一週間しか一緒に過ごしてないけど、僕はもう君のことを友達だと思ってる。友達を死なせたくないと思うのは、当然でしょ?」
「命のやり取りをした相手に対して、あまりにも楽観的すぎじゃないか?」
「あはは!そうかもね。でも、僕は本気だよ。だからもし、君が1人で飛び出すようなことがあれば―――その時は地獄の果てまででも追い掛けて、必ず追いついて無理矢理にでも参戦するから」
「さすがにそんな所には行かないと思いますが?」
「ちょっと!あくまで気持ちの問題だよ!もう!」
・・・何か、おかしなことを言ってしまっただろうか?
「ふふっ。これは本当に、地獄の果てまで逃げても追いつかれそうだな。わかったよ。その時が来たら、あんたら2人には必ず声を掛ける」
「私達も忘れられちゃ困るぞ、姉さ―――頭領」
『っ!!!』
見ると、茨木を始めとした鬼達5人が勢揃いしていた。
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
最近、スランプ気味です。先の方まで展開は決まってるのに、その間―――そこに至るまでの道筋を作るのがめっちゃ難しい・・・!!
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
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