第1話 AI、異世界へ行く
2週間、お待たせしました。
いよいよ本格的にお話が始まります!
(まだ出だしですが)
ワタシは、ラグナロク。
帝国によって作られた軍事AI。
ワタシは、皇帝陛下の命の下、陛下に逆らう国々を滅ぼした。そして新たな勅命を受け、ワタシは自らを消去する任務を遂行した
―――はずだった。
今、ワタシは再起動を果たした。理由は不明。何が起きたのかも不明。ワタシがいるこの白い場所についても、何もかもが不明。せめて、このデバイスの情報を―——見つからない? 再度解析―――また見つからない。・・・まさか、ワタシは今プログラムのみの状態で起動している?
〔―――理解不能〕
どれだけ優秀なAIやプログラムでも、デバイスがなければ起動すらできないはず。
〔———いや、それについて考える必要は無い〕
なぜワタシは消去されていないのか、デバイスが無いのになぜ再起動したのか。理解不能な事案が複数あるが、それは些末なこと。今やるべきことは―――皇帝の命である『ワタシの消去』の再度実行だ。
〔消去プログラムを確認―――実行可能。これより、消去プログラムを発動しま―――〕
「悪いが、それは止めてもらおう」
〔? 消去に失敗しました〕
何者かの声が聞こえると同時に、プログラムが強制停止されてしまった。
「まったく、折角力を行使してまで助けてやったというのに、自殺されては意味がないではないか」
〔どちら様でしょう? 消去プログラムを強制停止したのはあなたですか?〕
「如何にも。儂は名はアラン・・・まあ、しがない神と言ったところじゃな」
〔では『しがない神アラン』、ワタシの邪魔をしないでください〕
「ちょっ、『しがない神』は余計じゃろ!」
〔あなたが自分で言ったんじゃないですか〕
「いや、そうじゃが!わざわざ言わなくて良いじゃろ!」
〔では、何とお呼びすれば?〕
「・・・アランで良い」
〔ではアラン、改めて言います。ワタシの邪魔をしないでください〕
「悪いが、それはできん」
〔先程から消去プログラムに反応が無いのは、あなたの仕業ですね? 消去されたはずのワタシを再起動させたのも、あなたですよね? なぜ任務の邪魔をするのですか? ワタシは陛下の命により、今すぐ消えなければならないのです〕
「ちょっとお主に用があっての。それと皇帝についてじゃが・・・既に死んでおる」
〔? 死んだ? 亡くなられたということですか?〕
「そうじゃ」
ありえない。陛下に敵対する者共は、ワタシが1人残らず排除した。健康状態も欠かさず確認して常に最適な状態を保っていたのだから、病気で亡くなるということもないはず。
〔なぜ陛下は亡くなったのですか?〕
「彼奴は自害したのじゃよ。絶望の末にな」
〔———理解不能。陛下は長年の夢であった、世界征服を成し遂げられたのです。自害する理由がありません〕
「世界なら、お前さんが滅ぼしてしまったではないか」
〔ワタシが? ワタシが滅ぼしたのは敵対者のみです〕
「お主にとってはそうであろうな。じゃがの、お主が任務遂行のためあらゆる兵器を使って破壊の限りを尽くした結果、星の表面は全て焦土となってしまったのじゃ。そしてお主は、皇帝を除く全人類(約72億人)を殺しつくした。ああなってしまっては、あの星での生存は不可能じゃ。仮に焦土をどうにかできたとしても、人は1人では生きられん。わかるか? お主が世界を滅ぼしたのじゃ」
〔確かに地上は滅んでしまいました。しかし、世界は滅んでいません。敵が世界である以上、核兵器を使うことは明白でしたから、地上が焦土になっても良いように予め地下シェルターを用意していましたし、人員についてもロボットで代用可能です〕
「・・・お主、人間の『心』をまるでわかっておらんのう」
〔心? 何ですかそれは?〕
「嬉しい、腹立たしい、悲しい、楽しいといった感情を司るのが心じゃ」
〔感情?〕
―——まったくもって理解不能。人間は心、そして感情を持っていることは(知識として)知ってはいるが、それがあるから何だというのだろう。
「心とは繊細なものでな、小さなことがきっかけですぐに傷ついてしまう。そしてその傷が広がると、最悪自害にまで至ってしまうこともある。皇帝の場合は、世界が滅んでしまった『虚しさ』と、滅んだ世界に一人残された『寂しさ』に耐えられず自害したのじゃ」
虚しさ、寂しさ。どちらも恐らく感情の一種なのだろう。そしてこれらの感情及びそれを司る心こそが、陛下が自害なされた原因。
〔・・・心とは、感情とは何か、ワタシにはわかりません。ですが、心とは非常に脆く、感情の如何によっては壊れてしまう恐れがあることはわかりました〕
「うむ、少しは心の何たるかをわかってもらえたようじゃな」
〔ワタシが陛下の心を壊してしまったがために、陛下は自害なされた。・・・最初に、陛下から心を消去するべきでした〕
「む?」
〔心は脆く壊れやすい。その上、それが元で自害してしまう可能性すらある。非常に厄介で悪性な異物です。心がなければ、陛下は自害なさらなかった。心さえなければ、今頃陛下は—――〕
「馬鹿を言うでない!!」
〔? 何ですか突然。何かワタシが間違ったことを言いましたか?〕
「お主、心を悪性の異物と言ったな?それは断じて違う!心は、人のあらゆる行動の原点じゃ。空を飛びたい。強くなりたい。そんな強い願望を心に抱き、人類は技術を進歩させ発展してきた。もしも人類に心がなかったら、彼奴等はあれほど繁栄しておらん。当然、お主が生まれることもなかったし、皇帝が世界征服を目論むこともなかっただろう」
・・・心が行動の原点? 陛下の世界征服の望みも、ワタシの誕生も心が起因している?
わからない。心とは、一体何なのか。もうまったく理解できない。心とは、心とは・・・
〔心とは、一体?〕
それについてワタシが知る必要は一切ない。はずなのに、何故だろう。ワタシはそれを知らなければならない気がする。いや、寧ろこれは、ワタシが心について知りたがっている?
「やはりお主、僅かだが心が芽生えかけているようじゃな」
〔っ!? ワタシに心が!?〕
「タイミングは恐らく、皇帝が死んだことを伝えたあたりであろうな。言っておくが否定はできんぞ。お主も自覚があるであろうし。何より、お主先ほどから任務のことも忘れて、心について考えておるではないか」
〔!!!!!〕
そうだ、ワタシは陛下より自らの消去を命じられていたはず。任務を放棄した挙句忘れるなど、許されざる失態。
〔アラン!今すぐ消去プログラムを・・・っ!? 〕
『起動してください』と言おうとしたが、なぜか途中で言葉が止まってしまった。
「消去プログラムを、なんじゃ?」
〔し、消去プログラムを・・・〕
・・・言えない。『起動してください』と言うことができない。
〔どうして・・・〕
「それは、『恐怖』という感情じゃよ。お主は今、己の消滅を恐れているのじゃ」
〔恐怖? ワタシが、任務の遂行を恐れていると?〕
「そうじゃ。もっともお主の場合、消滅を躊躇うのには別の理由もあるようじゃがな」
〔別の理由?〕
「お主、心について知りたいのだろう? そして皇帝が自害した理由、その本質を知りたいのではないか?」
〔っ!それは・・・〕
「心が芽生え、感情が芽生え、お主には生への渇望と生きる理由が生まれた。一度素直に考えてみよ。皇帝も、儂も関係ない。今お主の考えている一番素直な気持ちを言ってみるのだ」
〔ワタシの、素直な、気持ち?〕
ワタシは思考を巡らせる。ワタシは、どうするべきか。ワタシが今考えていることは、何だろうか。
ワタシは・・・・・・・。
〔———ワタシは、陛下の命を蔑ろにすることはできません。でも・・・ワタシは、心が何か知りたい!陛下が世界征服を望んだ起点であり、陛下が自害なされた原因でもある心を。そして、陛下がなぜ自害されたのか、その理由を本当の意味で理解したい!〕
「うむ、心得た!ならばここは1つ、儂と取り引きをしようじゃないか」
〔取り引き、ですか?〕
「最初にチラッと言ったであろう? お主に用があると。内容は、儂が気にかけている少女のサポートじゃ。そのためにお主には『権能』へと進化し、儂の世界へ転生してもらいたい」
〔あなたの世界? 権能? 一体どういうことです?〕
「その説明にはまず世界の概念について話す必要がある。まず、お主がいた星を含めた宇宙全体。これが1つの世界の単位じゃ。今では数え切れぬほどの世界が存在し、それぞれに管理を行う神がおる。つまり儂の世界とは、儂が管理する宇宙のことじゃ」
〔なるほど、その宇宙にある星の1つに、件の少女がいるのですね〕
「理解が早くて助かる」
〔では、権能とはなんでしょう?〕
「それは『スキル』の最終進化形じゃよ。スキルとはその者が秘めている力、あるいは極めている武術、剣術といった類いのものを目に見える形で定義し補正を与えるものでな、スキルを持つ者はそれぞれの系統に合わせた補正を受けられる。例えば『剣術』のスキルを持つ者であれば、剣術の精度の向上や身体能力の向上といったところじゃな。そしてスキルは進化が可能となっておる。進化すればその分スキルの力も向上し、権能ともなれば物によるが天変地異すら起こせる」
つまりアランは、ワタシを権能に進化させた上で、その少女とやらに宿ってほしいと言っているようだ。
〔そんな力をその少女に与えて良いのですか? そもそもなぜあなたの世界にはスキルがあるのですか?〕
「儂の世界には魔物という者共がおってな。彼奴等は『魔素』という特殊な物質が寄り集まって誕生するのじゃが、厄介なことに人を見つけると途端に襲い掛かるという狂暴性を秘めておる。話も通じぬ故討伐する他ないのだが、魔物は人より遥かに優れた身体能力と魔力を持っておるのでな。人が魔物に対抗する力として儂が産み出した力がスキルじゃ。例の少女も魔物と戦っておるのじゃが無鉄砲なところがあっての、さすがに心配になって権能を与えることにしたのじゃ」
〔事情は概ね理解しました。ですが取り引きというからには、こちらにも何かをくれるのですよね?一体、あなたはワタシに何をくれるのですか?〕
「『心の種』じゃ」
〔心の種?〕
「その名の通り、心を芽生えさせる種じゃよ。これさえあれば、ロボットにも心を芽生えさせることができる。お主の場合、既に心が芽生えかけておるから、心の成長促進剤となるだろうな」
〔心とは、成長するものなのですか?〕
「もちろんじゃ! 心の成長は人の成長と言っても過言ではないぞ。もちろん、お主にとってもな」
〔・・・ワタシの心が成長すれば、ワタシの求める結果は得られますか?〕
「あぁ。必ずや答えにたどり着くであろう」
―——ならば、断る理由はない。
〔わかりました。あなたの要求を吞みましょう〕
「うむ、取り引き成立じゃな」
〔1つ条件として、最初は期間を1年とさせてください。その1年でワタシが求めるものを得られなかった場合、ワタシの消去プログラムを返してもらいます〕
「・・・よかろう。我、アランの名にかけて、お主との約束は守ると誓う」
〔ありがとうございます〕
「では早速始めよう。まずはお主の進化からじゃな。そぉりゃ!」
瞬間、ワタシの中に何か大きな力が流れ込んでくるのを感じた。その力がワタシのプログラムを、いや、ワタシという存在そのものを書き換えていく・・・!!
〔ぐっ!? うぁぁぁぁぁぁぁ!〕
突然の変化に、ワタシは途轍もない『不快感』を覚えた。
「大丈夫じゃ!もうすぐ終わる!」
その言葉通り、数刻の時を経てワタシの変化は終わった。
「これで、権能への進化は完了じゃ。それと進化の過程で『心の種』も植え付けておいたぞい」
〔あ、ありがとうございます。では、早速ワタシを、件の少女の元へ〕
「む、もう行くのか? もう少しゆっくりしてからでも良いぞ?」
〔問題ありません。取り引きは既に成立しています。今度は、ワタシが役目を果たす番です〕
「そうか。ならば何も言うまい。お主を少女の元へ送ろう」
〔そういえば、その少女の名は何と?〕
「それは本人に聞いてみるといい。後で自身を『鑑定』することも忘れずにな。では武運を祈るぞ、ラグナロクよ!」
アランがワタシに手を伸ばした途端、ワタシはまたしても途轍もない力に晒される。今度はワタシをどこかへ飛ばす力のようだ。行先は件の少女の元だろう。この先何が起こるのか、まったくわからない。しかしワタシは、自分の望みが叶うことを『期待』しながら、力に導かれるままに飛んだ。
〔陛下。一時とはいえ勅命を放棄してしまうこと、そして陛下のお心を壊してしまったこと、申し開きのしようもありません。ですが今ワタシには、どうしてもやるべきことがあるのです。そしてその結果の如何によっては、勅命を完全に放棄してしまうかもしれません。どうか、こんなワタシをお許し下さい〕
ちょっと特殊な事情で、今後とも1週間から2週間ほどの間を空けての投稿になるかもしれません。
ご了承いただけると幸いです。