第24話 酒呑一味の労役の日々
次の日―――
酒呑一味の労役の1週間が始まる。
昨日蘇生させた者達はここにはいない。蘇生から目を覚ますには、最低でも1日掛かる。その為、彼・彼女達は一旦広場に安置し、広場の結界はそのまま維持することとした。そして酒呑一味だが、朝から既に各村で労働を始めている。万が一に備え『光魔人形』も配置してあるし、今はワタシ自身も『光魔人形』に意思を宿している。何かあってもどうにかなるだろう。
「グルゥ・・・」
「ちょっ、だからことあるごとに鍬を食おうとすんな!」
「グル?」
「ったく、いいか? これはこうやって振り下ろして、土を耕すのに使うんだ」
「グ、ガァ!」
「そうそう、そんな感じだ。やりゃあできるじゃないか」
オーガの知能は想像以上に低い。鍬で畑を耕す作業を覚えさせるだけでもかなりの時間と労力が必要だった。
「やれやれ、先が思いやられますね・・・」
思わず本音を洩らしてしまう。とは言え、1度憶えさせてしまえば、その余りある力を存分に振るってくれるため、畑の再開発がどんどん進む。特に酒呑童子は優秀だった。戦いしかできないのかと思ったらこんな所に才能を持ってたなんて、案外器用な奴なのかもしれない。
―――それに比べてカルメラ様は
「うおりゃあ!」
「バカ野郎!お前がそんなに振り上げたら、畑が吹き飛んじまうだろ!」
「ご、ごめんなさい~~! (;>_<;)」
力が有り余り過ぎて、鍬を振る度に畑を粉々にしそうになっている。今は酒呑童子に教えて貰いながら、力加減を学んでいるところだ。
「ったく、何で教えてもらう側が教えてやらなきゃなんないんだよ。そもそも、ゴブリン共もそうだが、何であんたが一緒になって農作業やってんだ?」
「そりゃ、僕達は農作業をやらせてるんじゃなくて手伝わせてるんだから。一緒にやるのは当然でしょ?」
「だとしても、わざわざあんたがやらなくても良いんじゃないか?」
「何言ってんの!僕はもうじき、皆の長になるんだよ? このくらいは、できるようにならない、と!!」
――――ズドンッ
気合いを入れて振り下ろされた鍬が、畑を吹き飛ばし大きなクレーターを形作り、大量の土を飛散させる。
・・・あ~あ、遂にやってしまったか。
「うわぁ、泥まみれだ」
「カイザーから、農作業用の服を借りといて正解でしたね」
「だね、さすがにあの一張羅が汚れるのは嫌だからね」
一張羅は汚さずに済んだが、カルメラ様は泥まみれ。後でしっかり洗い流さないと。・・・酒呑童子も一緒に。
「お前・・・あたしが汗水垂らして耕した畑を、よくも跡形も無く吹き飛ばしてくれたなぁ?」
「あ、あはは・・・ごめん・・・」
「ごめんで済むかよ」
酒呑童子がユラリと動き、手にした鍬を振り上げて構えを取る。
「え、あの、ちょっ―――それは勘弁して!?」
「心配すんな。今のあたしは刀じゃなきゃ何も切れないんだ。切られて死ぬようなことはねぇよ。ま、ぶっ叩くことはできるけどな」
「ひぃっ!? ミ、ミカエルちゃん、助けて!」
「ダメです。今回は明らかにカルメラ様が悪いので、大人しくお仕置きされてください」
「そ、そんな~~!!(泣)」
「覚悟ぉぉぉぉぉ!!!」
酒呑童子が鍬をブンブン振り回し、カルメラ様を追い回す。だが、カルメラ様が本気で逃げ惑うため、中々捕まらない。
「ちいっ!すばしっこい奴め!」
「こうなったら酒吞、併せてください」
「っ、わかった!」
酒吞童子が鍬を振り下ろし、カルメラ様が避ける。カルメラ様の思考は筒抜けのため、避けて向かう場所は承知済み。そこにトラップを仕掛けておいたら、見事に引っかかった。
「うげっ!何これ!? 足が抜けない!?」
「隙ありぃ!」
「っ!しまっ―――みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
トラップで足止めした隙に酒呑童子が追い付き、鍬を思い切り振るう。鍬はカルメラ様のお尻に直撃し、カルメラ様は今までに聞いたことが無い程の悲鳴を上げた。
「ふう、スッキリした!」
「今回はこのぐらいで勘弁してあげますかね」
「いっててて・・・酷いよ2人共!」
カルメラ様は地面に倒れ伏し、未だ煙が噴き出すお尻を抑えながらそう言ってくる。
「心外ですね。最後の一撃だけは傷にならないよう、結界を張って守ってあげたと言うのに」
「全然意味無かったじゃん!お尻が腫れて煙出てるし!」
「そこはお仕置きですから、そのくらいの痛みは当然です。ただ下手なだけなら良いですが、それを承知の上で他者の畑に無理矢理入り込み、挙句その畑を吹き飛ばしてしまうなど、度を越しすぎですよ」
「うぅ・・・!」
「とはいえ、カルメラ様の意向は無碍にできませんし、仕方ないので手を貸してあげます」
「手を貸すって、ミカエルちゃんが教えてくれるの?」
「いえ、もっと手っ取り早い方法があります。『技能模倣』」
『技能模倣』―――
これは、『解析鑑定』で分析した相手の動きを定着し、そのまま模倣できるようになるスキル。早い話が、金童子の才能をスキル化した物だ。
「・・・今何かしたの?」
「やってみればわかります。とりあえず、もう1度鍬を持ってみてください」
「合点!」
カルメラ様が再び鍬を手にする。すると―――
「あれ、何か自然と鍬の振り方がわかる気がする!」
「それは酒呑童子が身に着けた鍬の振り方です。ワタシが分析して、カルメラ様に定着させました」
「凄い凄い!ありがとうミカエルちゃん!これで皆の役に立てる!」
「あまり調子に乗らないでくださいよ? 思い切りやったら吹き飛ばしてしまうのは変わらないんですから。次はこの程度では済みませんからね?」
「うっ!き、気を付けるよ・・・」
カルメラ様はスゴスゴと畑へ戻っていく。そして、クレーターにしてしまった大地を耕し始めた。
「なあ、ミカエルさん」
「何ですか、酒吞?」
「あんた、本当凄ぇ奴だよな」
「何ですかいきなり? ワタシに媚びてるんですか?」
「いいや、本心さ。あんたは凄い。いとも簡単にスキルを進化させたり、スキルの力だけで茨木と星熊を倒したり。正直、『代行者』を舐めすぎてた。あんたがいなかったら、カルメラはあたしに勝てなかっただろうよ」
「・・・確かにそうですね。カルメラ様は強いですし、天賦の戦いの才能もあります。でも、考え無しに動くのが致命的です」
「そうさ。あいつはお世辞にも頭が良いとは言えねぇ。だからこそわからない。あんたみたいな頭の良い奴が、どうしてあいつの所で目覚めたんだ?」
「その辺は事情が複雑なので、また機会があれば」
「それ、結局ずーっと話さないで終わるやつじゃないか」
「・・・言えてますね」
「じゃあよ、もしもあいつから完全に離れて、1人で生きられるとしたら―――あんたはあいつの下から離れるか?」
「ありえませんね」
「即答か。じゃあ聞くが、あんたはあいつのどんな所に惹かれてんだ? ゴブリン共は恩もあるだろうし、惹かれるのはわかる。けど、あんたは別にそうじゃないだろ? いったい、あいつの何が、あんたにそこまで言わせんだ?」
「・・・ワタシ、元々感情が無かったんです。なので以前のワタシは『魔物=敵』、『敵は全て排除』というような、機械的な思考しかできませんでした。そんなワタシに、カルメラ様は名前をくれたんです。そしてあろうことか、ワタシのことを人と言ってくれました。それが嬉しかったんです」
「サ、『代行者』のあんたを、人って呼んだのか?」
「ワタシだけじゃありません。あの人、ゴブリン達のことも同じ人だって言ったんです」
「っ!?」
「弱肉強食のあなた達からすれば、理解に苦しむ考え方でしょう。ですが、カルメラ様にとってはそうなんです。きっとあなた達のことも、同格の存在だと思ってますよ。あの人は」
「敗北者のあたし達が、同格だと・・・? 本気でそう思ってるのか?」
「それはもう、体から滲み出てるじゃないですか。捕虜であるあなたにあんな軽く接したり、教える立場なのを忘れて逆に教えをこいたり。さっきだって、ただの鍬で挑んで来るあなたを相手に、逃げる選択をしましたよね? 本気になれば、あなたを倒すこともできたのに」
現在、酒呑一味の武器は全てこちらで預かっている。酒呑童子の『地獄門』も、我々の『固有次元』に収納済み。つまり今の彼女は『終炎』を使えないのだ。仮に暴れたとしても、カルメラ様1人の力で制圧できる。
「そもそもあれだけの暴挙を働いたら、普通は即斬首ですからね?」
「っ!そういえばそうだ。そんな基本的なことも忘れてたなんて」
「それがあの人の不思議な所です。宿主と『代行者』。大将と部下。見張りと捕虜。ここにいる全員、カルメラ様との間に明確な立場の差があるのに、ほとんどの者はそれを自覚していません。もちろん本質的な所では理解していますが、普段から立場の差を意識するようなことはないんです」
「・・・本当、変わった奴だよな」
「ええ、そしてそんなカルメラ様に魅力を感じるワタシも、あなたからすれば変わり者です」
「違いない」
「おーーい、酒てーーーん!!そんな所で何してんの? 早く続きやろうよ!!ちょっとは上手くなったしさぁ!!」
カルメラ様が大声で酒呑童子を呼ぶ。気付けば、かなり長い間話し込んでいたようだ。
「さて、呼ばれちまったし、あたしは作業に戻るわ」
「ええ、お願いしますね」
「待ってろ!!今そっち行くから!!お前がまた畑ふっ飛ばさないよう、しっかり見張っててやるよ!!」
「そんなこともうしないよーーだ!!」
「へっ、言ってろ!!」
子供みたいな言い争いをする2人だが、その顔には笑みが浮かんでいる。見た目に反して楽しそうだ。
「案外良いコンビかもしれませんね、あの2人」
こうして、労役の1日目は過ぎて行った。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
2日目・3日目も、特に何事も無く過ぎ、今日は4日目。
ゴブリン達がまともに働けなくなっていた影響で、最初はどこの畑も酷い有り様だった。しかし、各村々でオーガ達が活躍し、荒れていた畑は耕され、順調に機能を回復し始めていた。『光魔人形』達の報告によれば、既に種まきが始まっている所もあるらしい。
また、ゴブリン達と酒呑一味の関係も、少しずつだが改善の兆しが見えている。これは、オーガ達が喋れるようになったことも起因しているだろう。いつそんな成長を遂げたのかは知らないが。
「ソノ・・・今マデ、スマナカッタ」
「知能ガ発達シテ、気付イタ。俺達、オ前ラニヒドイ事シタ」
「今更許シテクレトハ、言ワナイ。デモ、本当ニ、スマナカッタ」
「それはもう言うなって。そりゃあ、お前らのやったことに憤りはあるし、失われた仲間達ももう戻らねぇけどよ、それを気にし続けてたら俺達は先に進めない。俺達はこれから手を結ぶことになるんだから、もっと前を見据えないと。それに、仲間を奪ったって意味では、俺達も一緒だからな」
「デモ、俺達ノ仲間、戻ッテ来タ。オ前ラノ仲間、戻ラナイ」
「頭領カラ聞イタ。倒レテタ俺達ノ仲間、モウ元気ニ作業シテル」
「それはミカエルさんがおかしいだけさ。普通は蘇ったりしない。だからまあ、お会いこ、とまでは言えないが、気にしすぎるな」
「・・・感謝スル!」
「それよりもほら、手が止まってるぞ?」
「俺達だけにやらせるつもりか?」
「ッ!スグヤル!」
現在、ワタシはカルメラ様、酒呑童子と共に各村の見回りをしていて、今はユグノーと茨木の村に来ている。その際聞こえてきたのが、今の会話だ。
「ゴブリンって、あたしの想像より遥かに強いんだな」
「強いって、心がってこと?」
「ああ。仲間を殺した奴を受け入れるってのは、普通じゃできない。現にあたしは、親父と仲間を殺した『奴ら』のことを、未だに憎んでいる。はっきり言って、一生許すことはできない」
「なら別に、無理に許そうとしなくても良いんじゃない?」
「?」
「相手は酒呑の大切な人達を殺したんでしょ? なら別に、無理する必要はないよ。それに良く思い出して。確かに皆は君達のことを受け入れてはいるけど、仲間を死に追いやられた事は許してないでしょ?」
「・・・!」
「酒呑が言ってるのは多分『罪も人も全部許す聖人君子になれない』ってことだよね? そんなの僕でもなれないよ。罪は憎くて当然なんだから。でも、人を許すことはできる。彼らは今、そういうことをやってるんじゃないかな?」
「『罪を憎んで人を憎まず』ってやつか」
「まぁ、普通は罪も人も憎むものだけどね。だから、皆が強いってのはその通りだし、最初に言ったけど無理に許さなくて良いと思う」
「・・・そうだな。ありがとう、お陰でなんだかスッキリした」
「良いって良いって!友達じゃん?」
「友達、か・・・ハハ、そうかもな」
「むう、素直じゃないなぁ」
「あっ!カルメラ様!ミカエル様!それに酒呑童子!」
カルメラ様と酒呑童子が話していると、そこへ突然ユグノーが姿を現す。何やら凄く慌てているようだが、もしや・・・
「た、助けてください!師匠が!!」
あぁ、またか・・・
何てワタシが考えていると―――
「ユグノォォォォォ!!」
「ひいっ!?」
空間が歪み、桃色のショートヘアの鬼が現れる。どうやら、茨木が追って来たようだ。
「見つけたぞ!まさかこの私が遅れを取るとはな!」
「そんな!? 気配は完全に隠していたはずなのに!」
「甘い甘い!まだまだ魔素が漏れ出てるぞ!それだけ漏れ出していれば、居場所の特定など容易いものさ!さあ戻るぞ!修行の続きだ!」
「か、勘弁してください!あんなハードな修行、もう無理です!」
「そう言いつつここまで続けられたじゃないか!」
茨木はウキウキした様子で、ユグノーを連れ戻そうとする。
「よぉ、茨木!」
「っ!!姉さん!それにカルメラさんとミカエルさんも!!」
茨木が弾けるような笑顔を浮かべて、こちらにやってくる。
・・・脇にユグノーを抱えて。
「聞いてくれ!今日遂にユグノーが、私を出し抜いてみせたんだ!まさかここまで成長するとは、師匠としては嬉しい限りだ!」
「へぇ、マジか!茨木を出し抜くとは、やるようになったじゃないか!」
「お褒めいただき光栄ですが、その前に助けてくれませんか?」
茨木は労役の傍らでユグノーに魔法を教えているのだが、その内容が厳しすぎて少々問題になっている。昨日、ワタシは茨木とユグノーの修行の様子を見たが、確かにハードな物だった。とにかくお互いに魔法を撃ちまくってぶつけ合うという物なのだが・・・なんと、相手と同じ魔法で、同じ威力、同じ魔素量で完全に相殺しなければならない。ホースから放たれた水を、違う性能のホースから同じ強さで放水して止めろと言っているような物だ。否、それよりも遥かに難しい。いくら『賢者』の力があっても、いきなりそんなレベルの魔素の制御などできるわけがない。しかも、魔素枯渇症一歩手前になるまでが一区切りで、さらにそこからぶっ続けで畑仕事。ハードワークにも程がある。案の定ユグノーが泣きついて来たため、ワタシが直接修行の内容を改善するよう言ったのだが、ユグノーが脱走したことを考えると、あまり変わっていないようだ。
「茨木。修行の内容を改善するよう言ったはずですが?」
「したさ!今までは枯渇一歩手前までだったのを、二歩手前まで譲歩したぞ?」
「ほとんど変わってないじゃないですか!」
「だが、自身の魔素を強化及び増量するには、魔素を限界まで消費しないといけないだろ? ユグノーの成長の為にも、ここは譲れない」
「そ、それは確かに・・・ならせめて、修行の後は小一時間程休憩を挟ませては?」
「休憩? そんな物要らないだろ。二歩手前なら畑仕事くらい余裕さ」
「それはあなただからです。見た所あなた、今ユグノーに課しているものよりハードな修行を、幼少の頃からやっているようですね。故にあなたは耐性がついているようですが、ユグノーにそれは無いんですよ? あなたと同じようにできるはず無いじゃないですか」
「っ!!」
幼少の頃から習慣化しているものは、その人にとって普通のこと。故に、それが世間一般的に普通でないとしても、自分では気付きにくい。『その人にとってはそれが普通でも、他の人にとっては称賛すべき美点』というようなものだ。茨木も同じように、あの過酷な訓練が習慣化していて、他の人にはできないという発想が無かったのだろう。
「ユグノー。その・・・すまなかった。考えてみれば、お前は私とは違う。魔素が枯渇しかけた時、他者がどれだけ動けるかを考えていなかった」
「いえ。私の方こそあなたに怯えて、コミュニケーションを疎かにしていました。恐れてばかりいないで、ちゃんと話すべきでした」
「そう言ってもらえると助かる。とは言えさっきも言ったが、やはり魔素を限界まで消費させる訓練を緩めることはできない。だから修行の後は、ある程度魔素が回復するまで休んでいてくれ。その間はユグノーの担当分まで、私が畑を耕す」
「わ、私の分までですか!?」
「元より私達は捕虜だろ? そのくらいさせても良いんじゃないか?」
「確かにそうですね。ではお願いします」
「任せてくれ」
ふむ、やはり茨木は思考が柔軟だ。ちゃんと教えれば自分の非を理解できるし、それを素直に認めて改善することもできる。
「ねえ酒吞、魔素が枯渇しかけたことある?」
「ああ、親父との修行中に何度か」
「その時辛かった?」
「ああ、流石にあれで戦うのはダルイ」
「でも畑仕事くらいは余裕じゃない?」
「そりゃもちろん」
「だよね?」
・・・教えても理解できない怪物も約2名いるが。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
5日目は問題なく過ぎ、6日目―――
今日のワタシを含むカイザーの村の面々は、酒吞一味の拠点の近くにある森の跡地―――酒吞童子と戦った場所へと来ている。
我々と酒呑童子の戦いでこの森は半分が消し飛び、今も草一本無いボロボロの土地が広がっている。森を再生するとなると、途方も無い時間が掛かるだろう。そこでこの森の跡地を、畑として改装することにしたのだ。
「改めて見ると、派手にぶっ壊しちゃったね」
「だな。下手すると味方を巻き込んでたかもしれない」
「ちゃんと手加減できるようにならないとだね!」
「細かい力の制御は、消耗を抑えることになるしな!」
「力の制御と言えば・・・星熊さんの修行は前途多難みたいだね」
星熊は今、アサミの元で刀術の基礎を学んでいる。彼が武術を学んでいないが故に、どこか力の使い方が雑なことに目を付けたカルメラ様の意向によるものだ。だがアサミの報告では、彼には全くと言って良い程刀術の才能が無いらしい。試しに剣術、槍術、体術も試させてみたが、まるで話にならなかった。
「まあ、予想はしてたけどな。あいつは昔っから不器用な奴でよ。昔から色んな物を壊しまくってたし、どんな武術も基本すら憶えられなかった。大人になった今ならもしかしたらと思ったが、やっぱりダメだったみたいだな」
「もしかしたら、彼は既存の戦いの型そのものと、と言うより、形が決まっている物との相性が悪いのかもしれません。決められた形や固定概念と言った物を破壊して、自分の信じる道を突き進むのが彼の本質のように感じます。『怪力』という全てを破壊する滅茶苦茶なスキルに目覚めたのも、その影響かもしれません」
「言えてるな。あいつを型にはめようとすること自体が、そもそも間違ってるってことか」
「確かに。あの人の戦い方は雑だけど、すっごく自由だった。あの人に武術を教えようとしたことは、間違いだったのかな・・・」
「いや、そうでもない。学んだことは必ず力になる。あくまでも自由に戦い、そこに学んだ武術を組み合わせる。そんな戦い方ができるようになるかもしれねぇ。ま、結果は明後日になりゃわかるさ。それより今は、このボロボロの大地をどうにかしようぜ。まずは片付けからだな」
「そうだった!ってヤバい!いつの間にか、皆結構進んでる!」
「かなり話し込んでしまいましたからね。すぐ取り掛かりましょう!」
「合点!」
「承知!」
『おりゃぁぁぁぁぁ!!!!』
3人の力を併せて全力で作業すると、薙ぎ倒された木々などはあっという間に片付き、荒れた大地を均す作業もかなりの速度で進んだ。そしてものの数分で、我々の担当分の作業が完了した。
「ふぅ~、ざっとこんなもんかな」
「ま、この程度はあたしらなら軽いよな」
「そうですね。余裕でした」
ふと見ると、カイザーやゴブリン、オーガの面々が、作業の手を完全に止めて絶句している。
「う、嘘だろ?」
「ス、スゲェ」
「畑仕事でも無双すんのかよあの人達・・・」
「ちょっとあなた達!ワタシが言えた義理では無いですが、手が止まってますよ? 自分の担当分は終わったんですか?」
『す、すぐに!』
皆が慌てて作業を開始する。
「やれやれ。さて、我々の作業は一段落しましたし、今日の見回りに行きましょうか」
『・・・・・・』
酒吞童子もカルメラ様も返事がない。その場にしゃがみ込んで、地面をまじまじと見つめている。
「あの、2人共?」
「あ、ごめん!見回りだよね? 行こ行こ!」
「・・・この土地に、何か気になることでもあるのですか?」
「・・・これは完全に僕の勘なんだけど、なぁんかこの土、良くない気がするんだよね」
「あたしもだ。何か嫌な物を感じる」
この2人が揃って言っている所を見ると、ここに何かあるのは間違いないだろう。念のため『解析鑑定』で調べることにする。
「『解析鑑定』・・・っ!なるほど、そういうことですか」
「何かわかったの?」
「どうやらここの土は、我々の魔素を吸収して変質してしまったようです」
我々がこの地で戦った際、魔素を用いた技を次から次へと使用した。結果、この辺り一帯に大量の魔素が充満し、それがここの土と融合して『魔土』という物に変化させてしまったのだ。
「魔土に種を植えた場合、発芽した種が土の栄養と共に魔素を吸収して、魔物に変貌してしまう可能性が高いようです。この魔素の量から推察するに、SSランクの魔物が誕生しても不思議ではありません」
「じゃあこの場所って、畑にできないの?」
「ええ、今のままでは不可能です。融合した魔素さえ取り除ければ或いは」
「僕達には『魔素支配』があるんだから、それを使って取り除けば良いんじゃないの?」
「あれはあくまでも、魔素を支配するスキルです。ここの土と魔素は完全に融合してしまっていて、『魔素支配』では分離はできません。コーヒー牛乳のコーヒーと牛乳を分離できないのと同じです」
「あぁ、それは確かに無理だね。でも折角耕したし、どうにか使えないかなぁ・・・」
「そうですねぇ・・・」
我々が頭を捻っていると、意外なことに、酒吞童子から提案が来る。
「―――錬金術師なら、可能かもな」
「「錬金術師?」」
始めて聞くワードだ。
「それってどんな人?」
「簡単に言うと、素材のエキスパートだ。土や草はもちろん、魔鋼や魔物の死骸なんかもいじくって、薬や武器に加工できるらしいぜ?」
「じゃあ、コーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に分けることも?」
「ああ、もちろん可能だ。錬金術師が見つかれば、この魔土をどうにかできるかもな」
「凄い凄い!この世界にはそんな凄いことができる人達がいるんだ!世界って広いなぁ~!よぅし!そうと決まれば、さっそく錬金術師を探そう!」
「そうですね。他に手は無いようですし。とりあえずこの労役が終わった後―――明後日あたりに探しに行きましょう」
「おーーーー!!!」
「ここから西に進むと、人間の住む街がある。錬金術師がいるとしたら多分そこだ」
「あ、でもそういえば―――っ!!?」
突如、禍々しい力の波動を感じ、ワタシは戦慄してしまう。ふと上を見ると、膨大な力を宿した闇色の巨大なエネルギー弾が、もの凄い速度でこちらに迫っていた。
「危ない!」
カルメラ様が宙へ飛び出す。そして魔剣―――エクスカリバーと名付けられた剣を振るい、光の斬撃でエネルギー弾を真っ二つにした。
「ふむ、今の一撃を察知するどころか、こんな簡単に真っ二つにするとは・・・聞いていた以上の化け物だな」
ふと見上げると、黒いローブに身を包んだ人型の何かがいる。右手には赤い宝石の埋まった杖を持ち、全身から禍々しい覇気を放っていた。だが一番の特徴は、相手が文字通りの骸骨であることだ。
(あれはいったい・・・!? 『解析鑑定』!!)
種族:不死王
ランク:SS
権能:『戦杖魔神』
【神速思考・並列思考・杖術強化・身体強化・魔法創造・魔法融合
詠唱破棄・多重展開】
種族スキル:『復活』
『不死者召喚』
『不死者支配』
『怨嗟波動』
『怨嗟吸収』
特記事項:契約中
(強い・・・!)
「な、何事だ!? 何なんだ今のは!?」
「ひ、ひぃ!」
「ヤ、ヤバイゾ、アレハ!」
カイザー達は混乱し、中には立つこともままならない者までいる。ここはまず、彼らを非難させよう。
「ここは我々で対応します!万が一に備え、あなた達は村に待機していなさい!」
「わ、わかった!ミカエル殿、『転送』を頼む!」
「了解!『転送』!」
ワタシ・カルメラ様・酒吞童子の3名を残し、他は全員村へと戻る。これで心置きなく戦える。
「酒吞!これを!」
カルメラ様が酒吞童子の前で『固有次元』の入り口を開き、彼女に『地獄門』を渡す。
「お、おい、良いのか?」
「今は緊急事態だから!」
「っ!わかった!」
酒吞童子は『地獄門』を抜き放ち、臨戦態勢に入る。ワタシも光魔人形を消して、カルメラ様と1つになった。
(どこからこんなのが湧いたかわかんないけど、とりあえずぶっ飛ばすよ!)
〔了解!〕
(任せろ!)
こうして、突如現れた強敵を相手に、まさかの酒吞童子との共闘が始まった。
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
先日、新たにこの作品をブックマーク登録してくださった方がいました。
感謝感激です!
PV数も着実に増え、皆様に本作をご覧いただいていることを実感し、それがモチベとなって今も先を鋭意制作中でございます!お楽しみに!
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
(・・・面白いと思ったら、ポイントもお願いしたいです)




