第23話 蘇らせるということは―――
「大規模死者蘇生魔法『死せる戦士達の帰還』です。ワタシの作った、オリジナル魔法ですよ」
「オリジナル魔法? ・・・まさか、今作ったのか!?」
「ええ。少々時間は掛かりましたが、どうやら成功のようです」
仲間達の死に直面した時、ワタシは『悲しい』と感じた。同時に『仲間達の死を受け入れたくない』という気持ちが芽生えた。
「仲間を失いたくない。その気持ちを胸に抱き、村に戻った時からずっと死者を蘇生させる方法を探り続けていたんです」
「最初から!? しかし、それでもこんな短時間で、死者を蘇生させる術を生み出すなんて、一体どうやって?」
「『神速思考』があれば、時間は幾らでも作れますから。それでも、途方もない時間が掛かりましたがね」
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――――――村に戻り、仲間達の死を知った直後
ミカエルは即座に動き出した。
まずはいつも通り思考を増やし、その思考でこの世界の一般的な生物について、徹底的に調べる。その結果この世界の生物は、自我が宿る場所―――魂が本体であり、魂さえ残っていればまだ蘇生が可能性があることがわかった。
では、魂さえあれば完全に蘇生できるのか? 答えは否だ。魂が無事であったとしても、肉体が無ければ蘇生はできない。もっと言えば、肉体を用意できたとしても、霊体が無ければ肉体を動かせない。霊体は、魂と肉体を繋ぐ橋の役割を担っている。霊体が無ければ、魂のみを肉体に宿しても、指1本動かすことができないのだ。
〔となると、まずは霊体と魂―――霊魂を確実に保護しなければなりませんね〕
それを突き止めたミカエルは、次に霊魂を保護する方法を探し始める。
まず、生物が死んだ時、霊魂はどうなるのか? 霊魂は膨大なエネルギーの塊であり、持ち主の肉体が死亡するとそのエネルギーが大気中に霧散する。最初に霊体、その後に魂が霧散してしまうのだが、魂が完全に霧散してしまうと持ち主の意思が消失し、蘇生は二度と叶わなくなる。
死者の蘇生を本気でやるなら、まずはこの霧散を止めなければならない。
〔全霊魂の位置を把握しましょう。『魔素感知』!〕
ミカエルが『魔素感知』を発動し、周辺地域一帯の全ての霊魂の位置を即座に把握する。その中に肉体から乖離して、既に霧散し始めている霊魂が約2200程あった。
〔っ!!間違いない。これが死者達の霊魂だ!〕
ミカエルは、新たに『時空牢獄』を進化させたスキル―――『牢獄ノ次元』に、死者達の霊魂を収納していく。『牢獄ノ次元』は『時空牢獄』と同様、内部に入れた物の時間を止めることができる。つまり、状態を固定することができるのだ。『治癒魔法』などで影響を与えられるのは、スキル保有者のカルメラとミカエルのみ。ここに収納してしまえば、ひとまず霊魂の霧散は止められる。約2分ほどで、死者達の霊魂の収納は終わった。
〔ふう、収納完了。さて、次は欠落したエネルギーを補って、その後は・・・どうしましょうか?〕
霊魂の霧散は止めたが、このままでは『牢獄ノ次元』から出すことができない。出した途端に再び霧散が始まってしまうからだ。もちろん、元の肉体へ戻せば良いというわけではない。死者達の肉体は、いずれも致命傷を負っている。仮に今すぐ霊魂を元の肉体へ戻した場合、肉体の損傷が激しすぎて霊魂が馴染まず、弾き出されてしまう。
〔まず、死者達の肉体を治しましょう。致死レベルの損傷が治れば、乖離した霊魂を肉体に押し込んで、蘇生させることも可能なはず〕
そう思い至ったミカエルは、即座に死者達の肉体の修復に取り掛かる。だが、これは失敗に終わった。理由は『治癒魔法』や『再生』などのスキルが、一切通用しなかったからだ。肉体を再生させる系統の術は、その肉体に霊魂が宿っていることが絶対条件となる。霊魂が抜けた死者達の肉体は、現状ただの肉の塊。再生するはずがなかった。
〔困りましたね・・・でも、諦めません!〕
ミカエルは自らの補助無しで、霊魂の霧散を止める方法を探し始める。言うまでも無いが、死者の蘇生はどの世界においても禁忌の術だ。仮にその方法があったとしても、使う者はまずいない。そもそも、その方法を見つけること自体、途方もない時間と労力を必要とする。実際、ここまでミカエルが費やした時間は現実世界でおよそ15分程だが、『神速思考』で思考速度を5億倍に引き延ばしている彼女からすれば、およそ14300年もの月日が流れていた。常人なら正気を失う程途方もない時間だが、彼女は平気だった。元の世界でA I をやっていた頃からこういうのには慣れっこだったし、何より今は仲間の命が掛かっている。1万年だろうが10万年だろうが、彼女にとってはちっとも苦ではなかった。
(・・・敵兵の死者まで助けた理由は本人も定かではなかったが)
そして戦後処理が行われる傍らで、彼女はさらに霊魂の研究を進める。1分―――感覚にして約960年経った頃、彼女は1つの結論を導き出す。
〔肉体を修復して蘇生することができないなら、霊魂のみで生きられる存在へと昇華させてしまいましょう。そうすれば、肉体が傷を負ったままでも、霊魂を肉体に戻せるはず〕
ミカエルは研究の末に、この世界には死霊や精霊などのような、霊魂のみで生きられる存在がいることを突き止めた。これらの存在は霊魂のエネルギーが1固点に固定されていて、エネルギーの自然な分散による消滅のリスクが無く、肉体が無くとも生きられる。仮に肉体が必要になった場合も、霊体に近い形の依代があれば受肉することは可能だ。致命傷を負っていようと、元の自分の肉体に受肉することは造作も無い。
〔そうだ、どうせなら戻すのと同時に『再生』を発動させれば、肉体も完璧な状態になりますね!〕
プロセスは用意した。必要な魔素も補充できる。後は、実行するのみ。
〔『創造』!〕
ミカエルはまず『創造』を発動し、霊魂の創造・改変に特化した『創造』を生み出す。
〔いずれは他の種類も作って、全てに対応できる『創造』を作らないとですね。でも今はそれより、英霊達よ、進化なさい!『変位進化』!〕
ミカエルの新たな技―――『変位進化』が発動し、死者達の霊魂はみるみる内に組成が組み替えられていく。およそ3分程で全ての霊魂は死霊へと転じた。
〔本当は精霊へ進化させたかったですけど、最低でも鬼クラスの存在で無ければ精霊への進化に耐えられないようですから、仕方ありません〕
精霊は非常に高位の存在であり、魔物のランクで言えば最低でもS+の力を秘めている。Aランク以上のオーガはともかく、C+ランクのゴブリン達がいきなり精霊へと進化した場合、あまりにも急なエネルギーの上昇に魂が耐えきれず崩壊してしまう。一方死霊であれば、進化してもランクはほとんど変わらず、急激なエネルギーの上昇は無い。ミカエルはそれを知っていて、死者達の霊魂を死霊へと進化させたのだ。
後は死霊となった死者達の霊魂を元の体に戻すのみ。と、このタイミングで、ミカエルはカルメラと共に酒呑童子から挑発される。
〔ふふ、まさか全ての準備が整った所で挑発されるとは。違うとわかっていても、狙ったのではと疑ってしまいますね〕
そしてミカエルは、霊魂を肉体へと戻す大規模魔法『死せる戦士達の帰還』を発動する。体感約1.5万年以上の時を掛けミカエルが生み出した魔法は見事に成功し、死者達は見事に蘇生を遂げたのだった。
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現在―――
術は見事に成功した。一応、復活させた者達を『解析鑑定』してみると、
種族:ゴブリン幽騎士
ランク:B
種族:ゴブリン幽魔導士
ランク:B
種族:ゴブリン幽将軍
ランク:A+
種族:ホロウ・オーガ
ランク:A
種族:ホロウ・オーガロード
ランク:S
全員に不死属性が追加され一部はランクも上がっているようだが、異常をきたしている様子は無い。蘇生は完了だ。
「正直、ここまで時間が掛かるとは思っていませんでした。どうやら私は、命を軽く見過ぎていたようです」
帝国にいた頃からそうだが、ワタシは命の重みをまるで理解できていない。命の重さを知らないから、元の世界で、帝国兵を含めた星中の人々を虐殺できた。・・・できてしまったのだ、そんな非道なことを。今だって、命の重さに対する理解と、覚悟が足りないまま戦いに挑んで、いざ仲間を失った時にそれを受け入れられず、死者蘇生という禁忌にまで触れてしまった。
「失われた命は戻らない。それが普通なんです。現に、この村で餓死した500人のゴブリン達は、復活させることができませんでした。今回は死んでからそんなに時間が経って無かったから、運よく蘇生できただけ。・・・まぁ、そちらも普通は復活しないんですけどね」
『・・・・・・』
その場にいた誰一人として、そこから続く言葉を発することができなかった。
―――ただ一人を除いて。
「ミカエルちゃん」
「はい」
「僕は、死者達を復活させたことを否定する気はないよ」
「え、でもこれは―――」
「わかってる。死者の蘇生が禁忌の術だってことは。でも、僕が君と同じ立場だったら・・・同じことをしないとは言い切れないし。それに、皆が戻って来てくれたことは、純粋に嬉しいから」
「っ!!」
「ありがとう、皆を復活させてくれて!」
満面の笑みと共に、カルメラ様がお礼を言ってきた。禁忌を犯した筈なのに、ワタシは今までで1番嬉しいと感じた。
「でーも!本来失われた命は、絶対に戻らない!!そのことは、忘れちゃダメだよ?」
「ふぁい。ふぁの、いふぁいんでふけど?」
カルメラ様がワタシの顔を両側から押さえているため、うまく話せない。
「これだけはしっかり言っておきたかったから。はい、解放!」
「イッタタ・・・」
本当に、もう少し手加減という物を学んでほしいものだ。それはともかく、これで酒吞童子をギャフンと言わせることができただろう。
「ふふ、どうですか酒呑童子? これでもワタシの主様が、偉大な魔王にはなれないと言えますか?」
ワタシはカルメラ様の真似をしていやらしい笑みを浮かべながら、挑発するように酒呑童子に聞いてやった。
「・・・いや。こんなの見せられたら、そんなこと言えないよ。それどころか、あんた達にはお礼を言わないとな」
「「お礼?」」
「カルメラさん、ミカエルさん。仲間達を生き返らせてくれたこと、心から感謝する!」
酒呑童子が正座をし、地面に擦り付ける勢いで深々と頭を下げてきた。
「頭領1人に頭を下げさせるな!」
茨木の呼びかけで、他の鬼達、オーガ達も頭を下げて来る。意味がわからない。確かにワタシはオーガも蘇生させたが、そもそも彼女の仲間達を殺したのは我々だ。非難されることはあっても、感謝される謂れはない。
「何故我々に感謝を?」
「ミカエルさん。あんたにとってあたしらは何だ?」
「敵です」
「そうだ。つまり、あたしの仲間は見捨てたって良かったはずだ。なのに、あんたは助けてくれた。それが嬉しかったんだ」
「ま、待ってください!そもそもあなたの仲間が死んだのは―――」
「あんたの仲間達にやられたから。もちろんそれはわかってるさ。でもな、あたしら全員、最初から犠牲が出ることは覚悟の上だったんだ」
「覚悟の上。それはつまり、例え仲間が生き返らなかったとしても、我々を恨んだりはしなかったと?」
「先に仕掛けたのはこっちだ。仕掛けておいて仲間殺されて、それに文句を言うのは筋違いってもんさ。もっとも、四天王がやられた時にはあんな感情的になっちまったし、説得力は薄いだろうが」
仲間がやられたことに恨みは無く、その上失った仲間を復活させてもらえた。酒呑童子の今の立ち位置はこんな所だろう。それならば、感謝するのも納得だ。
「あなたの言い分はわかりました。でも礼は不要です。ここまで踏み込んでおいて、ワタシの仲間だけ助けるのは不公平だと思っただけですから」
素っ気ない返事に見えると思うが、これが嘘偽りの無い本心だ。
「さて、話が脱線してしまいましたが、カルメラ様。班分けは決まりましたし、そろそろ彼らを各々の村へ転送しませんか?」
「え? 戦勝祝いの宴は?」
「・・・1週間後まで我慢してください」
倒した敵の前でなんてこと言うんだこの人は・・・
『えぇぇぇぇぇ・・・・・』
ゴブリン達まで不満の声を挙げてる。コイツら、不謹慎という言葉を知らないのだろうか?
「ともかく、今日より酒吞一味は労役に処すんですから、今すぐ各々の村に戻って、何をやらせるのかを教えてやりなさい」
『へ~~~い』
カルメラ様含め、全員が不満たらたらな返事をしてくる。
・・・もしかして、早くも統治者として危ういか?
命の重み。
正直言って、作者もそこの理解はまだ全然できていません。なので、このお話を描きながら、ミカエルと共に学んでいこうと思います。
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
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