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最強AIの異世界転移  作者: 蓬莱
第1章 ゴブリンを救済せよ!
18/31

第16話 魔王覚醒

時は、金童子撃破の少し前に(さかのぼ)る―――

(凄いよミカエルちゃん!茨木と星熊を倒しちゃうなんて!)

〔ありがとうございます。丁度別の用事(・・・・)も片付いたので、これより再びカルメラ様(マスター)のサポートに周ります!〕

(よろしくね!)


まったく、カイザー達は世話が焼ける。我々の力無しで村を守れるよう、力を与えて特訓させたというのに・・・結局ワタシが手を貸す羽目になってしまった。確かに特訓は3日しかできていないし、相手の力も相当な物だった。特に金童子。まさかAIでもないのに、相手の動きをトレースできる者がいるとは、考えもしなかった。とは言え、ワタシが手を出さずに倒せたのが熊童子1人だけとは・・・

ワタシが茨木と星熊を倒せていなかったら、どうなっていたことか。


〔・・・まあ、死なれるより遥かにマシですけどね〕


熊童子と虎熊童子は既に撃破され、金童子も時間の問題だろう。これで一安心だ。


(―――どうかした?)

〔いえ、何でもありません〕


今は目の前の戦いに集中しよう。まずは、酒吞童子のステータスの復習からだ。




種族:鬼

ランク:SS

称号:酒呑童子


権能:『刀神』

  【神速思考・刀術強化・神力・絶対切断・精神統一・諸刃ノ剣

   気配察知・攻撃予測】


ギフト:『魔王ノ資格』

   【闇魔法・(未覚醒)】


種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』




『複製体』の報告で強いことは知っていたが、権能を持っていたことは想定外だった。加えてギフト『魔王ノ資格』。明らかに『勇者ノ資格』と対になっている。元AIとして、こういうことはあまり言いたくないが、我々が彼女と戦うのは、運命だったのかもしれない。


「まさか茨木と星熊に、止めも刺さず負けを認めさせるとは、大した奴だ。だが見た所お前の力は、ほとんどがスキル由来だな。それじゃああたしには勝てない!『獄炎刺突』!」


酒呑童子が、『終炎』を纏った『地獄門』による突き技を繰り出してくる。この『終炎』がとにかくヤバい。人体や木はもちろん、時空の壁も、スキルの付与効果すらも燃やす、防御不可の炎。火の粉1つでも食らえば、致命傷になりかねない。


〔何度見てもヒヤリとしますね・・・!〕

(本当に。でも、こうすれば!)


カルメラ様(マスター)は剣に魔素を大量に纏わせ、それをガチガチに固定し『地獄門』を弾いた。纏わせた魔素は焼かれてしまったが、剣そのものに炎は届いていない。後は燃えた魔素を剥がせば、剣にダメージは及ばない。剥がれて欠けた部分も、魔素を補充することですぐに治せる。ここまでカルメラ様(マスター)が酒呑童子と剣で打ち合えたのは、この技のお陰だ。


「オラァ!」

「はぁっ!」


再び、カルメラ様(マスター)と酒呑童子による剣技の応酬が始まる。2人の武器がぶつかる度に、凄まじい衝撃が発生する。常人ならばこの衝撃波だけで、肉体が爆発四散してしまうだろう。


(ミカエルちゃん、『蒼剣』―――じゃなかった。『赫灼幻想剣』で援護を!)

〔了解!〕


カルメラ様(マスター)の指示を受け、酒呑童子の頭上に『赫灼幻想剣』を100振り程生成する。


〔食らいなさい!『幻想剣舞(ファンタジア・ダンス)』!〕


『赫灼幻想剣』の大群を、雨霰の如く酒呑童子に降らせる。しかし―――


「スキルじゃ勝てないって言ったろ!『斬裂獄炎』!」


酒呑童子は『地獄門』を振りかぶり、『終炎』を纏った巨大な斬撃を飛ばす。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、さらには『終炎』に焼かれて塵も残らなかった。でも、問題ない。


「胴ががら空きだよ!『虹色彩幻想斬レインボー・スラッシュ』」


カルメラ様(マスター)が剣に『赫灼幻想剣』を付与し、酒呑童子の右脇腹から逆袈裟に切り上げる。


「ガハっ・・・!ちぃっ、あの剣共は囮か!」


そう言って悪態をつく酒呑童子は、最初より遥かに弱っている。『超速再生』を用いても、今の斬撃による傷を治しきれていない。限界が近いのだろう。

―――もっとも、それはカルメラ様(マスター)も同じだが。


(ハァ、ハァ、さすがに手強い!こんなに苦戦したの、久しぶりだよ!)

〔たった1人で大陸を滅ぼす鬼の力に、権能、ギフト、称号、そして出鱈目な力を持つ妖刀まであるのです。この強さは当然でしょう。しかも酒呑童子の刀術は、カルメラ様(マスター)の剣術に匹敵します〕

(でも、僕達は2人。どっちかが隙を作って、どっちかが攻撃するのを繰り返せば、少し時間は掛かるかもだけど、絶対勝てる!)

〔そう、ですね・・・〕


・・・本当は、もっと早く倒す方法がある。それは『光魔法』を使用することだ。光魔法は凄まじい破壊力を持っていて、さらには魔族((魔物や魔人))特攻だ。剣に付与して使うだけでも、大分戦いが楽になるはずなのに・・・


(何故カルメラ様(マスター)は、『光魔法』を使おうとしないのでしょう? 何か、理由でもあるのでしょうか?)


現状は問題ないため放置しているが、ずっとこのままというわけにはいかないだろう。ワタシが思考を増やして、理由について考え始めた、その時だった。


「っ!? 何だ!?」


途轍もないエネルギー同士の衝突が起きた。突然の出来事に、カルメラ様(マスター)と酒呑童子も戦いを中止し、茨木と星熊も警戒を強める。


〔この気配は・・・なるほど、決着ですね〕

(え?)


衝突から数刻後、今度は何か(・・)がもの凄い速度でこちらに飛ばされてくるのを感知した。


カルメラ様(マスター)!後ろに飛んでください!〕

(合点!)


カルメラ様(マスター)だけでなく、酒吞童子も後ろに飛ぶ。その直後、周りの木々を薙ぎ倒し、何か(・・)がもの凄い勢いでカルメラ様(マスター)と酒呑童子の間を通り抜けた。それは、金髪のショートヘアに、青の2本角、整備士(メカニック)を思わせる衣服に身を包んだ女の鬼―――カイザーによって撃破された、金童子だった。吹き飛ばされてきた金童子は、生きてはいるがボロボロで、意識は無かった。


「え・・・?」


酒吞童子の動きが完全に止まる。体の動きだけでなく、思考も止まっているように見えた。恐らく、動揺しているのだろう。


〔今の内に攻撃を―――〕

(待って!)

〔―――カルメラ様(マスター)?〕

(お願い、待ってあげて)


酒呑童子が止まっている今こそ最大のチャンスだというのに、なぜかカルメラ様(マスター)に止められてしまった。


「金童子!!」


茨木が真っ先に動く。木々を薙ぎ倒しても尚勢いが止まらず、さらに遠くへ飛んでいきそうな金童子をどうにか受け止める。しかし、茨木の力だけでは止め切れず、地面をガリガリと削りながら後退してしまう。


「くっ、こんのぉ・・・!」

「手ぇ貸すぜ!!」


そこに星熊も加わり、2人掛かりでどうにか金童子を受け止めた。


「金童子!しっかりしろ!」

「金童子!!」

「・・・」


茨木と星熊が呼び掛けるが、金童子は目を覚まさない。


(・・・ねぇ、あの子ってもしかして、村に攻めて来てた鬼じゃない?)

〔おっしゃる通りです。あれは、村に迫っていた鬼の1人、金童子です〕

(やっぱりか・・・)


カルメラ様(マスター)の今の感情は、よくわからない。悲しんでいるようにも見えるし、喜んでいるようにも見える。いったい、どういうことなんだろう?


「嘘、だろ? まさか、金童子が、死―――」

「大丈夫だ!まだ息がある!」

「コイツは俺達に任せとけ!」


茨木が金童子に回復魔法を掛け、星熊がそれをサポートする。本来は邪魔するべきだが・・・先程のカルメラ様(マスター)の言葉もあり、放置することにした。


「・・・なぁ、熊童子と虎熊童子は、どこへ行った?」


ここで酒呑童子が、熊童子と虎熊童子の気配が消えていることに気付く。先程までカルメラ様(マスター)との戦いに集中していて、周囲の気配に鈍感になっていたのだろう。戦いが中断されて、漸く気配の消失に気付いたようだ。


「それが・・・気配が突然消えたんだ」

「・・・は?」

「さっき、時空に干渉する力の流れを感じた。恐らく2人は、こことは別の時空に連れ去られた」

「っ!!!」

「すまない・・・!咄嗟のことで、まったく反応できなかった!」


茨木が涙ながらに謝罪し、酒呑童子の顔が蒼白になる。同時に、ミシミシと空間が軋むような音が聞こえ始める。それは、酒呑童子が『地獄門』を握りしめる音だった。


「カルメラ・・・貴様ぁ!!!」


酒呑童子が声を荒げて、全力の覇気を発してくる。凄まじい怒りを感じる。覇気が禍々しくなったことが、彼女の怒りの強さを物語っている。


(・・・ミカエルちゃん。2人はどこにいるの?)

〔ワタシが作った『時空牢獄』に捕らえています。相手を生かしたまま撃破した際、そこに転送するようワタシが指示したんです〕

(じゃあ、2人は生きてるんだね?)

〔ええ、生きているのが不思議な程の重症で、暫くは目を覚まさないでしょうけど〕

(・・・わかった)


カルメラ様(マスター)が剣を構え直す。


「一応言っとくけど、2人は僕達が捕らえてる」

「なら返せ・・・あたしの仲間を返せ!!」

「『返せ』だって? ゴブリン達から散々奪っておいて、自分の仲間が奪われたら返せって、虫が良すぎるんじゃない?」

「黙れ!アイツらとあたしらを同列に扱うな!アイツらは奴隷だ。どれだけ苦しもうが、何匹死のうが、あたしの知ったことか!」

「・・・っ!」

「お前を倒して、仲間は返して貰う!ハアアアアアアアアア!!!!!」


酒呑童子の魔素量が上昇し、彼女の体内を膨大なエネルギーが暴れ狂う。すると突然、彼女の気合いに呼応するかのように、ギフト『魔王ノ資格』が力を増す。


〔っ!!? まさか、これは!!〕


卵から雛が孵るかのように、『魔王ノ資格』から、何かが目覚めようと脈動を始める。間違いない。これは『覚醒』だ!酒呑童子は今、本物の魔王に進化しようとしているんだ!


(ヤバい!『魔王ノ資格』が目覚める!)

カルメラ様(マスター)!奴を倒してください!今すぐに!!〕

(が、がって―――)


バキャ―――


卵が割れる音が聞こえた気がした。

しかし、卵から孵ったのは純真無垢な雛ではなく、怒りに震える新たな魔王だ。


〔・・・『解析鑑定(ラーニング)』!〕




種族:鬼(魔王)

ランク:SS+

称号:酒呑童子


権能:『黒妖刀神』

  【神速思考・刀術超強化・神力・必絶ノ太刀・精神統一・諸刃ノ剣・黒穴

   気配察知・攻撃予測】


覚醒(アウェイク)スキル:『魔王』

     【闇魔法・民ノ希望(魔王)】


種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』




生まれて始めて、『解析鑑定(ラーニング)』したことを後悔した。ただ絶望を見せつけられるだけになってしまったからだ。


(・・・ミカエルちゃん、今のアイツの力ってどんな感じ?)

〔・・・最悪です〕


そうとしか言えない程、酒吞童子の力は上昇していた。覇気は先程までの比ではなく、魔素量は10倍以上に上昇し、スキルも大幅に強化されていた。

特に、『黒妖刀神』に統合されている『必絶ノ太刀』がヤバい。これは『絶対切断』が進化したスキルなのだが、刀以外の刃物を用いた切断が一切できなくなるのと引き換えに、刀さえ使えば次元すらも問答無用で断ち切れるという、恐ろしい性能である。そこに、防御を犠牲にして攻撃力を上昇させる『諸刃ノ剣』まで加われば、その破壊力は計り知れない。

せめてもの救いは、『魔王』への覚醒で目覚めた『民ノ希望』が、今回は(・・・)活かされないことだろうか。もちろん、『闇魔法』は強化されているが。


「―――行くぞ」

「〔っ!!!〕」


酒呑童子が、冷めきった声でそう呟く。

―――と、次の瞬間、酒吞童子が目の前まで迫っていた。


(ちょ、ヤバ―――)

〔『時空跳躍』!〕


ワタシは『転送』を発動し、カルメラ様(マスター)を酒呑童子の背後へと移動させる。直後、『地獄門』が横薙ぎに振るわれ、『終炎』を纏った斬撃が、遥か彼方まで森の木々を焼き付くした。


(ごめん助かった!もう油断しないよ!『並列思考』!『神速思考』!)


カルメラ様(マスター)が『並列思考』で増やした思考を用い、常時『神速思考』状態になる。思考速度が数億倍になっても尚、酒呑童子は動いて見えるが、見えるだけでも遥かにマシだ。


「次は逃がさない」


言うや否や、再び酒呑童子が接近する。改めて良く見ると、跳躍の瞬間、踏み込みで大地が大きく窪んでいるのがわかる。威力は勿論、速度も先程までとは段違い。だが、次が無いのは我々も同じだ。


〔『時空跳躍』!〕


今度は、突撃してきた酒呑童子の頭上に飛ぶ。そして剣に『赫灼幻想剣』を100振り分付与し、カルメラ様(マスター)が剣を思い切り振り下ろす!


「〔『幻想終焉斬フィーニス・ファンタジア』!〕」


現状、最大威力を誇る我々の奥義を、酒呑童子に放つ。


「舐めるなぁ!」


対する酒呑童子は、『地獄門』を頭の上に掲げ、我々の奥義を受け止める。『幻想終焉斬フィーニス・ファンタジア』は、世界に傷をつける程の絶技。それをただの大地が受け止めきれるはずもなく、彼女を中心に地面が窪み、半径10キロ圏内がクレーターと化した。


「ぐぬぬ・・・!!」


しかし、これ程の一撃を諸に食らっても、酒呑童子は耐えている。彼女の反応からして、今の一撃は間違いなく効いているはずなのに・・・


〔それでも倒れない程、酒呑童子は頑丈ということですね〕

(そんな・・・固すぎるよ・・・)


いくら即興で作ったとはいえ、奥義を止められたことにショックを隠せない。だが、落ち込んでいる場合ではない。


〔これで両腕は封じました!今度こそ串刺しにしてやります!〕


酒呑童子を包囲するように『赫灼幻想剣』を展開し、同時に放つ。『終炎』の力がワタシの予想通りなら、これで仕留められるはずだが―――


「来い!『暗黒炎龍』!」


『地獄門』から噴き出す『終炎』が、突然激しさを増す。激しくなった『終炎』が形を成し、黒い炎を纏った禍々しい黒い龍となった。


「やれ!」


酒呑童子の命令を受け、黒い龍は彼女の周りを旋回する。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、またしても塵1つ残さず消滅してしまった。


〔くっ!まさか『終炎』が、ここまで応用の利く物だったなんて!〕


実を言うと、ワタシは『終炎』について、ほとんど何も理解できていない。『終炎』を『解析鑑定(ラーニング)』しようとしても、その『解析鑑定(ラーニング)』自体が燃やされて、一切詳細を見ることができないのだ。お陰で『スキルを無効化する力』があることはわかったが、それ以外はほとんど情報が無い。その為戦闘中もデータを集め、それを元に『炎の動きを操ることはできず、斬撃に纏わせて使うことしかできない』と予測した。これが正しければ、酒吞童子の動きを封じた今が最大の攻撃のチャンスだったのだが―――


〔大ハズレ、でしたね〕


どうやら『終炎』は、今のように刀から伸ばして使うことも可能らしい。しかもあの龍、『赫灼幻想剣』を一撃で破壊したことからして、恐らく『闇魔法』も付与されている。・・・いや、逆だ。『闇魔法』で産み出した龍に『終炎』を纏わせているんだ。まさかスキルを無効化してしまう『終炎』を、別のスキルに付与できるとは、考えもしなかった。


「貫け!暗黒炎龍!!」


黒い龍は『赫灼幻想剣』の破壊に留まらず、カルメラ様(マスター)の心臓を貫こうと迫ってくる。慌ててカルメラ様(マスター)は、酒呑童子から距離を取った。しかし、黒い龍は止まらない。


「こんな奴、こうだ!」


カルメラ様(マスター)が黒い龍を、すれ違い様に切り刻む。どうやらこの龍、それ程頑丈ではないらしい。刀のような物だ。正面から叩こうと挑めば逆にこちらが切られるが、側面から叩けば割と簡単に壊せる。ただ『終炎』を纏っているため、魔素の鎧を纏わせた武器でなければ倒せないだろう。


「1匹倒したくらいで、いい気になるなよ?」


『地獄門』から、火山の噴火と見紛う程の『終炎』が噴き出す。それらが全て黒い龍となり、我々に迫ってきた。


「くっ!数が多すぎる!」

「はっはっはぁ!どうしたカルメラ!もう終わりか!? コイツらは幾らでも呼び出せるぞ? 加えて、あたしもいるんだ!」

「っ!!」


酒呑童子がカルメラ様(マスター)に切りかかってくる。そして間合いに入った瞬間に繰り出された一撃を、カルメラ様(マスター)は剣で受け止めた。しかし、先程よりも一撃の威力がさらに上がり、徐々に押されていく。しかも驚くべきことに、酒呑童子は黒い龍達の動きを完全に把握し、見事に連携を取っている。


〔ならばこちらも!『魔纏・赫灼幻想剣』!〕


カルメラ様(マスター)の真似をして、魔素の鎧を纏わせた『赫灼幻想剣』を作り、ワタシは黒い龍を切っていく。攻撃の座標をカルメラ様(マスター)と共有することで、誤射への対策もバッチリだ。でも、酒吞童子の攻撃への対処が精一杯で、これでは埒が開かない。しかも進化の影響か、酒呑童子は全回復しており、先程までのダメージも消えてしまっている。


〔このままでは、間違いなく我々が負ける。何か手を打たないと・・・!〕


だが、どうすれば良いのだろう? 相手の妖刀はスキルすらも焼き付くす。その上、相手の技量はカルメラ様(マスター)と互角。威力に関しても、『闇魔法』と併せることによって凄まじい物となっている。いったい、どうすれば攻略できるのか?


〔『終炎』をどうにかできる武器が都合良くあるわけないし、今あるスキルをどれだけ融合しても『終炎』には通じないし・・・待てよ? 融合・・・〕

(どうしたの?)

〔いえ、融合という言葉に、引っ掛かりを覚えまして・・・〕


思えば、茨木と星熊を倒せたのは、『剣神』を中心として複数のスキルを融合し、新たなスキルを生み出せたお陰だ。スキルや魔法などの特殊な力は、複数の力を1つに融合した方が、同数の力を剣などに付与した時に比べて格段に強い力を発揮する。突破口はやはり、融合による新たな力の創造にありそうだ。


では、何を融合すれば良いのか。ここでワタシは、金童子のやっていた『情報の具現化』を思い出す。金童子は、スキルや魔法の情報を武器に付与し、その情報を黄金魔鋼(オリハルコン)のエネルギーと融合させることで力として具現化。さらに具現化したスキルを黄金魔鋼(オリハルコン)と融合させ、その武器の固有能力としていた。

では仮に、単なる情報ではなく、スキルや魔法そのものを融合させたらどうだろう? ただの情報でさえ黄金魔鋼(オリハルコン)の武器と融合したら、その武器がオリジナル((スキル・魔法))と同じ力を、同じ出力(・・・・)で使えるようになったのだ。オリジナルを武器に融合すれば、オリジナルを超える力を発揮する可能性は充分にある。


〔だとしたら、カルメラ様(マスター)の剣に『吸熱ノ盾』を融合すれば・・・もしかしたら、『終炎』の火力を上回る防御力を得られるかも知れない!!〕


因みにカルメラ様(マスター)の剣は、白銀魔鋼(ミスリル)という鉱石でできている。魔鋼としての(ランク)黄金魔鋼(オリハルコン)の1つ下で、黄金魔鋼(オリハルコン)と比べると保有するエネルギー量は約3分の2。少々足りないが、そこは魔素を増幅させる『魔素増強』を使えば問題ない。


〔物は試しですね。カルメラ様(マスター)、1つ試したいことがあります。これよりスキルを剣に融合したいのですが、よろしいですか?〕

(それで状況を変えられるなら、早速お願い!)

〔了解!〕


カルメラ様(マスター)の了承を得て、ワタシは早速作業を開始する。まずは『情報保管庫(データベース)』から『吸熱ノ盾』を具現化し、それをカルメラ様(マスター)の剣に融合。そして空気中の魔素を集めて増幅させ、こちらも融合させることで足りないエネルギーを補填した。

―――結果、今度こそワタシの予測は当たった。『吸熱ノ盾』は白銀魔鋼(ミスリル)のエネルギーと、ワタシが集めた魔素と融合して『吸熱城塞(ドレイン・キャッスル)』へと進化し、カルメラ様(マスター)の剣と融合して、剣の固有能力となった。さらにその剣だが、スキルの進化と融合により発生したエネルギーを吸収し、素材が白銀魔鋼(ミスリル)から白金魔鋼(オリハルコン)へと進化を遂げている。基本的な性能は変わらないが、名前の通り色は白金(プラチナ)だ。


(ねえ、何か僕の剣が、凄いことになってない!?)

〔ええ。たった今、カルメラ様(マスター)の剣は白金魔鋼(オリハルコン)製の魔剣へと進化しました〕

(はぁ!? 白金魔鋼(オリハルコン)!? しかも魔剣って、そんな簡単に作れるの!?)

〔他がどうかはわかりませんが、ワタシならば可能です。それと、『吸熱城塞(ドレイン・キャッスル)』と融合し強化された結果、カルメラ様(マスター)の剣は『終炎』が効かなくなりました〕

(え、でも『終炎』って確か、スキルを無効化するんじゃ?)

〔魔剣を作る際判明したのですが、魔剣を初めとした魔導武具の攻撃系統(・・・・)の力は、他の魔導武具に対して非常に効きにくいようなのです。宿す力が強ければ尚更。守りに特化した『吸熱城塞(ドレイン・キャッスル)』を融合したこの魔剣ならば、『終炎』など恐れるに足らず。もう魔素の鎧も必要ありません〕

(・・・ほんと、凄いねミカエルちゃん)


「これで終いだぁ!!」


丁度その時、酒吞童子が『地獄門』を大きく振り上げ、我々の元へ跳躍してきた。あれで終わりにするつもりらしい。


(ようし、早速試してみよう!)


カルメラ様(マスター)は魔素の鎧を解除し、魔剣を盾のように(かざ)して『地獄門』を受け止める。『終炎』に直に触れても、魔剣は一切燃えなかった。


「っ!? 『終炎』に触れたのに、燃えない!? バカな!それはただの白銀魔鋼(ミスリル)の剣だったはず!」

「ふっふっふ、それがね・・・ついさっき、魔剣になったみたい!」

「戦いの最中に、魔剣に!? ふ、ふざけるなぁ!そんなことあってたまるか!」

「なっちゃったもんはしょうがないじゃん?」

「くっ・・・!だったら、これでどうだ!」


ただでさえ禍々しい『地獄門』が、さらに禍々しさを増す。『終炎』に拒まれて『解析鑑定(ラーニング)』はできないが、恐らく『地獄門』に『闇魔法』が付与されたのだろう。


(あれは・・・無理だよね?)

〔ええ、残念ながら〕


光魔法と闇魔法は、とにかくその破壊力が脅威だ。単純な威力で言えば『絶対切断』すらも上回り、下手に使うと世界が滅びかねない。カルメラ様(マスター)の魔剣と言えど、まともに受け止め続ければ折れてしまうだろう。


〔ですが、問題ありません。魔剣に『光魔法』を融合すれば良いだけのことです〕


酒吞童子を『解析鑑定(ラーニング)』した際、『光魔法』と『闇魔法』は互いに打ち消しあえることが判明している。『光魔法』を魔剣に融合すれば、『闇魔法』が付与された『地獄門』にも対応できるだろう。早速魔剣に『光魔法』を融合しようとした、その時―――


(ね、ねぇ・・・『光魔法』じゃないと、ダメ?)


カルメラ様(マスター)が、明らかな拒絶反応を見せてきた。


(か、『赫灼幻想剣』で良いんじゃない? ほら、あれって確か『光魔法』も融合してるんでしょ?)

〔残念ながら、許容限界超え(キャパ・オーバー)です〕


魔導武具は、無限に力を宿せるわけではない。宿せる力には限界があり、その最大値は武具の素材のエネルギー量で決まる。この限界を超えて力を宿そうとすると、武具が自壊してしまうのだ。白金魔鋼(オリハルコン)許容量(キャパ)はかなりの物だが、極上(アルティメット)スキルをも融合した『赫灼幻想剣』を融合することは不可能だった。


(じ、じゃあ『闇魔法』は? ミカエルちゃんなら、もう『闇魔法』の情報も持ってるんでしょ? なら、『闇魔法』も使えるよね? 『光魔法』じゃなくても、同じ『闇魔法』なら対抗できるんじゃない?)

〔残念ながら、それも無理です。確かに情報は入手していますが、カルメラ様(マスター)に『魔王ノ資格』がないため、使用することができません。『闇魔法』の具現化はできますが、具現化してもすぐ消えてしまいます。『魔王ノ資格』も同様です〕

(そんな・・・)


カルメラ様(マスター)が絶望した表情を見せる。


「どうした? ビビッて動けなくなっちまったか?」

「〔っ!!〕」


酒呑童子が再びカルメラ様(マスター)に肉薄する。話し合いに夢中になっていた我々は、反応が遅れてしまった。


「はぁっ!」


『地獄門』が、中段から切り上げるように振るわれる。カルメラ様(マスター)は遅れながらも魔剣で受け止め、ワタシも魔剣に『赫灼幻想剣』を付与して対抗する。何とか致命傷は防げたが威力は凄まじく、我々は遥か後方まで飛ばされてしまう。幾本もの木々に激突し薙ぎ倒していく羽目になったが、即座に『赫灼幻想盾』をカルメラ様(マスター)のマントに付与したお陰でカルメラ様(マスター)にダメージはない。しかし魔剣に付与した『赫灼幻想剣』は燃やされ、魔剣にも傷ができていた。


〔融合、『超速再生』!〕


ワタシは魔剣に『超速再生』を融合する。『超速再生』は即刻『神速再生』へと進化し、魔剣に融合。魔剣の傷は即座に治った。


(ありがとう、守ってくれて)

〔当然のことです。それよりもカルメラ様(マスター)。あなた、『光魔法』を(かたく)なに避けてますよね? なぜです?〕

(そ、それは―――)


「逃がさんぞぉ!」

「〔っ!!〕」


かなり飛ばされたはずなのに、もう酒吞童子が追い付いてきた。仕方ないので話は後回しにし、まずは酒呑童子に相対する。しかし、『闇魔法』を付与した『地獄門』による猛攻に、『神速再生』まで与えた魔剣をもってしても対応しきれない。


〔やはり、『光魔法』を融合しないと・・・!〕


しかし、カルメラ様(マスター)のあの様子からして、今『光魔法』を融合しても、その力を使ってくれない可能性が高い。

・・・どうやら、向き合う必要がありそうだ。「カルメラ様(マスター)が『光魔法』を使わない理由」について。


〔『並列思考』、『神速思考』〕


ワタシは、我々2人の思考を増やし、戦いの傍らでカルメラ様(マスター)面と向き合って話す。


カルメラ様(マスター)、こんな時に難ですが、先程の質問の答えを聞かせてもらえますか?〕

(・・・わかった。僕が『光魔法』を避けるのはね、『光魔法』が怖いからなんだ)

〔怖い? 『光魔法』がですか? まあ確かに、凄まじい威力ではありますが―――〕

(そうじゃないよ。僕が恐れてるのは・・・『光魔法』の浄化の力だよ)


そしてカルメラ様(マスター)は、過去に起こした事件について語り始めた。

もう流れからおわかりだとは思いますが、次話は昔話が入ります。なるべく短く纏められるように致しますので、ご容赦いただけると幸いです。

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