第16話 魔王覚醒
時は、金童子撃破の少し前に遡る―――
(凄いよミカエルちゃん!茨木と星熊を倒しちゃうなんて!)
〔ありがとうございます。丁度別の用事も片付いたので、これより再びカルメラ様のサポートに周ります!〕
(よろしくね!)
まったく、カイザー達は世話が焼ける。我々の力無しで村を守れるよう、力を与えて特訓させたというのに・・・結局ワタシが手を貸す羽目になってしまった。確かに特訓は3日しかできていないし、相手の力も相当な物だった。特に金童子。まさかAIでもないのに、相手の動きをトレースできる者がいるとは、考えもしなかった。とは言え、ワタシが手を出さずに倒せたのが熊童子1人だけとは・・・
ワタシが茨木と星熊を倒せていなかったら、どうなっていたことか。
〔・・・まあ、死なれるより遥かにマシですけどね〕
熊童子と虎熊童子は既に撃破され、金童子も時間の問題だろう。これで一安心だ。
(―――どうかした?)
〔いえ、何でもありません〕
今は目の前の戦いに集中しよう。まずは、酒吞童子のステータスの復習からだ。
種族:鬼
ランク:SS
称号:酒呑童子
権能:『刀神』
【神速思考・刀術強化・神力・絶対切断・精神統一・諸刃ノ剣
気配察知・攻撃予測】
ギフト:『魔王ノ資格』
【闇魔法・(未覚醒)】
種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』
『複製体』の報告で強いことは知っていたが、権能を持っていたことは想定外だった。加えてギフト『魔王ノ資格』。明らかに『勇者ノ資格』と対になっている。元AIとして、こういうことはあまり言いたくないが、我々が彼女と戦うのは、運命だったのかもしれない。
「まさか茨木と星熊に、止めも刺さず負けを認めさせるとは、大した奴だ。だが見た所お前の力は、ほとんどがスキル由来だな。それじゃああたしには勝てない!『獄炎刺突』!」
酒呑童子が、『終炎』を纏った『地獄門』による突き技を繰り出してくる。この『終炎』がとにかくヤバい。人体や木はもちろん、時空の壁も、スキルの付与効果すらも燃やす、防御不可の炎。火の粉1つでも食らえば、致命傷になりかねない。
〔何度見てもヒヤリとしますね・・・!〕
(本当に。でも、こうすれば!)
カルメラ様は剣に魔素を大量に纏わせ、それをガチガチに固定し『地獄門』を弾いた。纏わせた魔素は焼かれてしまったが、剣そのものに炎は届いていない。後は燃えた魔素を剥がせば、剣にダメージは及ばない。剥がれて欠けた部分も、魔素を補充することですぐに治せる。ここまでカルメラ様が酒呑童子と剣で打ち合えたのは、この技のお陰だ。
「オラァ!」
「はぁっ!」
再び、カルメラ様と酒呑童子による剣技の応酬が始まる。2人の武器がぶつかる度に、凄まじい衝撃が発生する。常人ならばこの衝撃波だけで、肉体が爆発四散してしまうだろう。
(ミカエルちゃん、『蒼剣』―――じゃなかった。『赫灼幻想剣』で援護を!)
〔了解!〕
カルメラ様の指示を受け、酒呑童子の頭上に『赫灼幻想剣』を100振り程生成する。
〔食らいなさい!『幻想剣舞』!〕
『赫灼幻想剣』の大群を、雨霰の如く酒呑童子に降らせる。しかし―――
「スキルじゃ勝てないって言ったろ!『斬裂獄炎』!」
酒呑童子は『地獄門』を振りかぶり、『終炎』を纏った巨大な斬撃を飛ばす。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、さらには『終炎』に焼かれて塵も残らなかった。でも、問題ない。
「胴ががら空きだよ!『虹色彩幻想斬』」
カルメラ様が剣に『赫灼幻想剣』を付与し、酒呑童子の右脇腹から逆袈裟に切り上げる。
「ガハっ・・・!ちぃっ、あの剣共は囮か!」
そう言って悪態をつく酒呑童子は、最初より遥かに弱っている。『超速再生』を用いても、今の斬撃による傷を治しきれていない。限界が近いのだろう。
―――もっとも、それはカルメラ様も同じだが。
(ハァ、ハァ、さすがに手強い!こんなに苦戦したの、久しぶりだよ!)
〔たった1人で大陸を滅ぼす鬼の力に、権能、ギフト、称号、そして出鱈目な力を持つ妖刀まであるのです。この強さは当然でしょう。しかも酒呑童子の刀術は、カルメラ様の剣術に匹敵します〕
(でも、僕達は2人。どっちかが隙を作って、どっちかが攻撃するのを繰り返せば、少し時間は掛かるかもだけど、絶対勝てる!)
〔そう、ですね・・・〕
・・・本当は、もっと早く倒す方法がある。それは『光魔法』を使用することだ。光魔法は凄まじい破壊力を持っていて、さらには魔族特攻だ。剣に付与して使うだけでも、大分戦いが楽になるはずなのに・・・
(何故カルメラ様は、『光魔法』を使おうとしないのでしょう? 何か、理由でもあるのでしょうか?)
現状は問題ないため放置しているが、ずっとこのままというわけにはいかないだろう。ワタシが思考を増やして、理由について考え始めた、その時だった。
「っ!? 何だ!?」
途轍もないエネルギー同士の衝突が起きた。突然の出来事に、カルメラ様と酒呑童子も戦いを中止し、茨木と星熊も警戒を強める。
〔この気配は・・・なるほど、決着ですね〕
(え?)
衝突から数刻後、今度は何かがもの凄い速度でこちらに飛ばされてくるのを感知した。
〔カルメラ様!後ろに飛んでください!〕
(合点!)
カルメラ様だけでなく、酒吞童子も後ろに飛ぶ。その直後、周りの木々を薙ぎ倒し、何かがもの凄い勢いでカルメラ様と酒呑童子の間を通り抜けた。それは、金髪のショートヘアに、青の2本角、整備士を思わせる衣服に身を包んだ女の鬼―――カイザーによって撃破された、金童子だった。吹き飛ばされてきた金童子は、生きてはいるがボロボロで、意識は無かった。
「え・・・?」
酒吞童子の動きが完全に止まる。体の動きだけでなく、思考も止まっているように見えた。恐らく、動揺しているのだろう。
〔今の内に攻撃を―――〕
(待って!)
〔―――カルメラ様?〕
(お願い、待ってあげて)
酒呑童子が止まっている今こそ最大のチャンスだというのに、なぜかカルメラ様に止められてしまった。
「金童子!!」
茨木が真っ先に動く。木々を薙ぎ倒しても尚勢いが止まらず、さらに遠くへ飛んでいきそうな金童子をどうにか受け止める。しかし、茨木の力だけでは止め切れず、地面をガリガリと削りながら後退してしまう。
「くっ、こんのぉ・・・!」
「手ぇ貸すぜ!!」
そこに星熊も加わり、2人掛かりでどうにか金童子を受け止めた。
「金童子!しっかりしろ!」
「金童子!!」
「・・・」
茨木と星熊が呼び掛けるが、金童子は目を覚まさない。
(・・・ねぇ、あの子ってもしかして、村に攻めて来てた鬼じゃない?)
〔おっしゃる通りです。あれは、村に迫っていた鬼の1人、金童子です〕
(やっぱりか・・・)
カルメラ様の今の感情は、よくわからない。悲しんでいるようにも見えるし、喜んでいるようにも見える。いったい、どういうことなんだろう?
「嘘、だろ? まさか、金童子が、死―――」
「大丈夫だ!まだ息がある!」
「コイツは俺達に任せとけ!」
茨木が金童子に回復魔法を掛け、星熊がそれをサポートする。本来は邪魔するべきだが・・・先程のカルメラ様の言葉もあり、放置することにした。
「・・・なぁ、熊童子と虎熊童子は、どこへ行った?」
ここで酒呑童子が、熊童子と虎熊童子の気配が消えていることに気付く。先程までカルメラ様との戦いに集中していて、周囲の気配に鈍感になっていたのだろう。戦いが中断されて、漸く気配の消失に気付いたようだ。
「それが・・・気配が突然消えたんだ」
「・・・は?」
「さっき、時空に干渉する力の流れを感じた。恐らく2人は、こことは別の時空に連れ去られた」
「っ!!!」
「すまない・・・!咄嗟のことで、まったく反応できなかった!」
茨木が涙ながらに謝罪し、酒呑童子の顔が蒼白になる。同時に、ミシミシと空間が軋むような音が聞こえ始める。それは、酒呑童子が『地獄門』を握りしめる音だった。
「カルメラ・・・貴様ぁ!!!」
酒呑童子が声を荒げて、全力の覇気を発してくる。凄まじい怒りを感じる。覇気が禍々しくなったことが、彼女の怒りの強さを物語っている。
(・・・ミカエルちゃん。2人はどこにいるの?)
〔ワタシが作った『時空牢獄』に捕らえています。相手を生かしたまま撃破した際、そこに転送するようワタシが指示したんです〕
(じゃあ、2人は生きてるんだね?)
〔ええ、生きているのが不思議な程の重症で、暫くは目を覚まさないでしょうけど〕
(・・・わかった)
カルメラ様が剣を構え直す。
「一応言っとくけど、2人は僕達が捕らえてる」
「なら返せ・・・あたしの仲間を返せ!!」
「『返せ』だって? ゴブリン達から散々奪っておいて、自分の仲間が奪われたら返せって、虫が良すぎるんじゃない?」
「黙れ!アイツらとあたしらを同列に扱うな!アイツらは奴隷だ。どれだけ苦しもうが、何匹死のうが、あたしの知ったことか!」
「・・・っ!」
「お前を倒して、仲間は返して貰う!ハアアアアアアアアア!!!!!」
酒呑童子の魔素量が上昇し、彼女の体内を膨大なエネルギーが暴れ狂う。すると突然、彼女の気合いに呼応するかのように、ギフト『魔王ノ資格』が力を増す。
〔っ!!? まさか、これは!!〕
卵から雛が孵るかのように、『魔王ノ資格』から、何かが目覚めようと脈動を始める。間違いない。これは『覚醒』だ!酒呑童子は今、本物の魔王に進化しようとしているんだ!
(ヤバい!『魔王ノ資格』が目覚める!)
〔カルメラ様!奴を倒してください!今すぐに!!〕
(が、がって―――)
バキャ―――
卵が割れる音が聞こえた気がした。
しかし、卵から孵ったのは純真無垢な雛ではなく、怒りに震える新たな魔王だ。
〔・・・『解析鑑定』!〕
種族:鬼(魔王)
ランク:SS+
称号:酒呑童子
権能:『黒妖刀神』
【神速思考・刀術超強化・神力・必絶ノ太刀・精神統一・諸刃ノ剣・黒穴
気配察知・攻撃予測】
覚醒スキル:『魔王』
【闇魔法・民ノ希望(魔王)】
種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』
生まれて始めて、『解析鑑定』したことを後悔した。ただ絶望を見せつけられるだけになってしまったからだ。
(・・・ミカエルちゃん、今のアイツの力ってどんな感じ?)
〔・・・最悪です〕
そうとしか言えない程、酒吞童子の力は上昇していた。覇気は先程までの比ではなく、魔素量は10倍以上に上昇し、スキルも大幅に強化されていた。
特に、『黒妖刀神』に統合されている『必絶ノ太刀』がヤバい。これは『絶対切断』が進化したスキルなのだが、刀以外の刃物を用いた切断が一切できなくなるのと引き換えに、刀さえ使えば次元すらも問答無用で断ち切れるという、恐ろしい性能である。そこに、防御を犠牲にして攻撃力を上昇させる『諸刃ノ剣』まで加われば、その破壊力は計り知れない。
せめてもの救いは、『魔王』への覚醒で目覚めた『民ノ希望』が、今回は活かされないことだろうか。もちろん、『闇魔法』は強化されているが。
「―――行くぞ」
「〔っ!!!〕」
酒呑童子が、冷めきった声でそう呟く。
―――と、次の瞬間、酒吞童子が目の前まで迫っていた。
(ちょ、ヤバ―――)
〔『時空跳躍』!〕
ワタシは『転送』を発動し、カルメラ様を酒呑童子の背後へと移動させる。直後、『地獄門』が横薙ぎに振るわれ、『終炎』を纏った斬撃が、遥か彼方まで森の木々を焼き付くした。
(ごめん助かった!もう油断しないよ!『並列思考』!『神速思考』!)
カルメラ様が『並列思考』で増やした思考を用い、常時『神速思考』状態になる。思考速度が数億倍になっても尚、酒呑童子は動いて見えるが、見えるだけでも遥かにマシだ。
「次は逃がさない」
言うや否や、再び酒呑童子が接近する。改めて良く見ると、跳躍の瞬間、踏み込みで大地が大きく窪んでいるのがわかる。威力は勿論、速度も先程までとは段違い。だが、次が無いのは我々も同じだ。
〔『時空跳躍』!〕
今度は、突撃してきた酒呑童子の頭上に飛ぶ。そして剣に『赫灼幻想剣』を100振り分付与し、カルメラ様が剣を思い切り振り下ろす!
「〔『幻想終焉斬』!〕」
現状、最大威力を誇る我々の奥義を、酒呑童子に放つ。
「舐めるなぁ!」
対する酒呑童子は、『地獄門』を頭の上に掲げ、我々の奥義を受け止める。『幻想終焉斬』は、世界に傷をつける程の絶技。それをただの大地が受け止めきれるはずもなく、彼女を中心に地面が窪み、半径10キロ圏内がクレーターと化した。
「ぐぬぬ・・・!!」
しかし、これ程の一撃を諸に食らっても、酒呑童子は耐えている。彼女の反応からして、今の一撃は間違いなく効いているはずなのに・・・
〔それでも倒れない程、酒呑童子は頑丈ということですね〕
(そんな・・・固すぎるよ・・・)
いくら即興で作ったとはいえ、奥義を止められたことにショックを隠せない。だが、落ち込んでいる場合ではない。
〔これで両腕は封じました!今度こそ串刺しにしてやります!〕
酒呑童子を包囲するように『赫灼幻想剣』を展開し、同時に放つ。『終炎』の力がワタシの予想通りなら、これで仕留められるはずだが―――
「来い!『暗黒炎龍』!」
『地獄門』から噴き出す『終炎』が、突然激しさを増す。激しくなった『終炎』が形を成し、黒い炎を纏った禍々しい黒い龍となった。
「やれ!」
酒呑童子の命令を受け、黒い龍は彼女の周りを旋回する。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、またしても塵1つ残さず消滅してしまった。
〔くっ!まさか『終炎』が、ここまで応用の利く物だったなんて!〕
実を言うと、ワタシは『終炎』について、ほとんど何も理解できていない。『終炎』を『解析鑑定』しようとしても、その『解析鑑定』自体が燃やされて、一切詳細を見ることができないのだ。お陰で『スキルを無効化する力』があることはわかったが、それ以外はほとんど情報が無い。その為戦闘中もデータを集め、それを元に『炎の動きを操ることはできず、斬撃に纏わせて使うことしかできない』と予測した。これが正しければ、酒吞童子の動きを封じた今が最大の攻撃のチャンスだったのだが―――
〔大ハズレ、でしたね〕
どうやら『終炎』は、今のように刀から伸ばして使うことも可能らしい。しかもあの龍、『赫灼幻想剣』を一撃で破壊したことからして、恐らく『闇魔法』も付与されている。・・・いや、逆だ。『闇魔法』で産み出した龍に『終炎』を纏わせているんだ。まさかスキルを無効化してしまう『終炎』を、別のスキルに付与できるとは、考えもしなかった。
「貫け!暗黒炎龍!!」
黒い龍は『赫灼幻想剣』の破壊に留まらず、カルメラ様の心臓を貫こうと迫ってくる。慌ててカルメラ様は、酒呑童子から距離を取った。しかし、黒い龍は止まらない。
「こんな奴、こうだ!」
カルメラ様が黒い龍を、すれ違い様に切り刻む。どうやらこの龍、それ程頑丈ではないらしい。刀のような物だ。正面から叩こうと挑めば逆にこちらが切られるが、側面から叩けば割と簡単に壊せる。ただ『終炎』を纏っているため、魔素の鎧を纏わせた武器でなければ倒せないだろう。
「1匹倒したくらいで、いい気になるなよ?」
『地獄門』から、火山の噴火と見紛う程の『終炎』が噴き出す。それらが全て黒い龍となり、我々に迫ってきた。
「くっ!数が多すぎる!」
「はっはっはぁ!どうしたカルメラ!もう終わりか!? コイツらは幾らでも呼び出せるぞ? 加えて、あたしもいるんだ!」
「っ!!」
酒呑童子がカルメラ様に切りかかってくる。そして間合いに入った瞬間に繰り出された一撃を、カルメラ様は剣で受け止めた。しかし、先程よりも一撃の威力がさらに上がり、徐々に押されていく。しかも驚くべきことに、酒呑童子は黒い龍達の動きを完全に把握し、見事に連携を取っている。
〔ならばこちらも!『魔纏・赫灼幻想剣』!〕
カルメラ様の真似をして、魔素の鎧を纏わせた『赫灼幻想剣』を作り、ワタシは黒い龍を切っていく。攻撃の座標をカルメラ様と共有することで、誤射への対策もバッチリだ。でも、酒吞童子の攻撃への対処が精一杯で、これでは埒が開かない。しかも進化の影響か、酒呑童子は全回復しており、先程までのダメージも消えてしまっている。
〔このままでは、間違いなく我々が負ける。何か手を打たないと・・・!〕
だが、どうすれば良いのだろう? 相手の妖刀はスキルすらも焼き付くす。その上、相手の技量はカルメラ様と互角。威力に関しても、『闇魔法』と併せることによって凄まじい物となっている。いったい、どうすれば攻略できるのか?
〔『終炎』をどうにかできる武器が都合良くあるわけないし、今あるスキルをどれだけ融合しても『終炎』には通じないし・・・待てよ? 融合・・・〕
(どうしたの?)
〔いえ、融合という言葉に、引っ掛かりを覚えまして・・・〕
思えば、茨木と星熊を倒せたのは、『剣神』を中心として複数のスキルを融合し、新たなスキルを生み出せたお陰だ。スキルや魔法などの特殊な力は、複数の力を1つに融合した方が、同数の力を剣などに付与した時に比べて格段に強い力を発揮する。突破口はやはり、融合による新たな力の創造にありそうだ。
では、何を融合すれば良いのか。ここでワタシは、金童子のやっていた『情報の具現化』を思い出す。金童子は、スキルや魔法の情報を武器に付与し、その情報を黄金魔鋼のエネルギーと融合させることで力として具現化。さらに具現化したスキルを黄金魔鋼と融合させ、その武器の固有能力としていた。
では仮に、単なる情報ではなく、スキルや魔法そのものを融合させたらどうだろう? ただの情報でさえ黄金魔鋼の武器と融合したら、その武器がオリジナルと同じ力を、同じ出力で使えるようになったのだ。オリジナルを武器に融合すれば、オリジナルを超える力を発揮する可能性は充分にある。
〔だとしたら、カルメラ様の剣に『吸熱ノ盾』を融合すれば・・・もしかしたら、『終炎』の火力を上回る防御力を得られるかも知れない!!〕
因みにカルメラ様の剣は、白銀魔鋼という鉱石でできている。魔鋼としての格は黄金魔鋼の1つ下で、黄金魔鋼と比べると保有するエネルギー量は約3分の2。少々足りないが、そこは魔素を増幅させる『魔素増強』を使えば問題ない。
〔物は試しですね。カルメラ様、1つ試したいことがあります。これよりスキルを剣に融合したいのですが、よろしいですか?〕
(それで状況を変えられるなら、早速お願い!)
〔了解!〕
カルメラ様の了承を得て、ワタシは早速作業を開始する。まずは『情報保管庫』から『吸熱ノ盾』を具現化し、それをカルメラ様の剣に融合。そして空気中の魔素を集めて増幅させ、こちらも融合させることで足りないエネルギーを補填した。
―――結果、今度こそワタシの予測は当たった。『吸熱ノ盾』は白銀魔鋼のエネルギーと、ワタシが集めた魔素と融合して『吸熱城塞』へと進化し、カルメラ様の剣と融合して、剣の固有能力となった。さらにその剣だが、スキルの進化と融合により発生したエネルギーを吸収し、素材が白銀魔鋼から白金魔鋼へと進化を遂げている。基本的な性能は変わらないが、名前の通り色は白金だ。
(ねえ、何か僕の剣が、凄いことになってない!?)
〔ええ。たった今、カルメラ様の剣は白金魔鋼製の魔剣へと進化しました〕
(はぁ!? 白金魔鋼!? しかも魔剣って、そんな簡単に作れるの!?)
〔他がどうかはわかりませんが、ワタシならば可能です。それと、『吸熱城塞』と融合し強化された結果、カルメラ様の剣は『終炎』が効かなくなりました〕
(え、でも『終炎』って確か、スキルを無効化するんじゃ?)
〔魔剣を作る際判明したのですが、魔剣を初めとした魔導武具の攻撃系統の力は、他の魔導武具に対して非常に効きにくいようなのです。宿す力が強ければ尚更。守りに特化した『吸熱城塞』を融合したこの魔剣ならば、『終炎』など恐れるに足らず。もう魔素の鎧も必要ありません〕
(・・・ほんと、凄いねミカエルちゃん)
「これで終いだぁ!!」
丁度その時、酒吞童子が『地獄門』を大きく振り上げ、我々の元へ跳躍してきた。あれで終わりにするつもりらしい。
(ようし、早速試してみよう!)
カルメラ様は魔素の鎧を解除し、魔剣を盾のように翳して『地獄門』を受け止める。『終炎』に直に触れても、魔剣は一切燃えなかった。
「っ!? 『終炎』に触れたのに、燃えない!? バカな!それはただの白銀魔鋼の剣だったはず!」
「ふっふっふ、それがね・・・ついさっき、魔剣になったみたい!」
「戦いの最中に、魔剣に!? ふ、ふざけるなぁ!そんなことあってたまるか!」
「なっちゃったもんはしょうがないじゃん?」
「くっ・・・!だったら、これでどうだ!」
ただでさえ禍々しい『地獄門』が、さらに禍々しさを増す。『終炎』に拒まれて『解析鑑定』はできないが、恐らく『地獄門』に『闇魔法』が付与されたのだろう。
(あれは・・・無理だよね?)
〔ええ、残念ながら〕
光魔法と闇魔法は、とにかくその破壊力が脅威だ。単純な威力で言えば『絶対切断』すらも上回り、下手に使うと世界が滅びかねない。カルメラ様の魔剣と言えど、まともに受け止め続ければ折れてしまうだろう。
〔ですが、問題ありません。魔剣に『光魔法』を融合すれば良いだけのことです〕
酒吞童子を『解析鑑定』した際、『光魔法』と『闇魔法』は互いに打ち消しあえることが判明している。『光魔法』を魔剣に融合すれば、『闇魔法』が付与された『地獄門』にも対応できるだろう。早速魔剣に『光魔法』を融合しようとした、その時―――
(ね、ねぇ・・・『光魔法』じゃないと、ダメ?)
カルメラ様が、明らかな拒絶反応を見せてきた。
(か、『赫灼幻想剣』で良いんじゃない? ほら、あれって確か『光魔法』も融合してるんでしょ?)
〔残念ながら、許容限界超えです〕
魔導武具は、無限に力を宿せるわけではない。宿せる力には限界があり、その最大値は武具の素材のエネルギー量で決まる。この限界を超えて力を宿そうとすると、武具が自壊してしまうのだ。白金魔鋼の許容量はかなりの物だが、極上スキルをも融合した『赫灼幻想剣』を融合することは不可能だった。
(じ、じゃあ『闇魔法』は? ミカエルちゃんなら、もう『闇魔法』の情報も持ってるんでしょ? なら、『闇魔法』も使えるよね? 『光魔法』じゃなくても、同じ『闇魔法』なら対抗できるんじゃない?)
〔残念ながら、それも無理です。確かに情報は入手していますが、カルメラ様に『魔王ノ資格』がないため、使用することができません。『闇魔法』の具現化はできますが、具現化してもすぐ消えてしまいます。『魔王ノ資格』も同様です〕
(そんな・・・)
カルメラ様が絶望した表情を見せる。
「どうした? ビビッて動けなくなっちまったか?」
「〔っ!!〕」
酒呑童子が再びカルメラ様に肉薄する。話し合いに夢中になっていた我々は、反応が遅れてしまった。
「はぁっ!」
『地獄門』が、中段から切り上げるように振るわれる。カルメラ様は遅れながらも魔剣で受け止め、ワタシも魔剣に『赫灼幻想剣』を付与して対抗する。何とか致命傷は防げたが威力は凄まじく、我々は遥か後方まで飛ばされてしまう。幾本もの木々に激突し薙ぎ倒していく羽目になったが、即座に『赫灼幻想盾』をカルメラ様のマントに付与したお陰でカルメラ様にダメージはない。しかし魔剣に付与した『赫灼幻想剣』は燃やされ、魔剣にも傷ができていた。
〔融合、『超速再生』!〕
ワタシは魔剣に『超速再生』を融合する。『超速再生』は即刻『神速再生』へと進化し、魔剣に融合。魔剣の傷は即座に治った。
(ありがとう、守ってくれて)
〔当然のことです。それよりもカルメラ様。あなた、『光魔法』を頑なに避けてますよね? なぜです?〕
(そ、それは―――)
「逃がさんぞぉ!」
「〔っ!!〕」
かなり飛ばされたはずなのに、もう酒吞童子が追い付いてきた。仕方ないので話は後回しにし、まずは酒呑童子に相対する。しかし、『闇魔法』を付与した『地獄門』による猛攻に、『神速再生』まで与えた魔剣をもってしても対応しきれない。
〔やはり、『光魔法』を融合しないと・・・!〕
しかし、カルメラ様のあの様子からして、今『光魔法』を融合しても、その力を使ってくれない可能性が高い。
・・・どうやら、向き合う必要がありそうだ。「カルメラ様が『光魔法』を使わない理由」について。
〔『並列思考』、『神速思考』〕
ワタシは、我々2人の思考を増やし、戦いの傍らでカルメラ様面と向き合って話す。
〔カルメラ様、こんな時に難ですが、先程の質問の答えを聞かせてもらえますか?〕
(・・・わかった。僕が『光魔法』を避けるのはね、『光魔法』が怖いからなんだ)
〔怖い? 『光魔法』がですか? まあ確かに、凄まじい威力ではありますが―――〕
(そうじゃないよ。僕が恐れてるのは・・・『光魔法』の浄化の力だよ)
そしてカルメラ様は、過去に起こした事件について語り始めた。
もう流れからおわかりだとは思いますが、次話は昔話が入ります。なるべく短く纏められるように致しますので、ご容赦いただけると幸いです。




