第13話 仇討ちと下剋上 その1
一方その頃、ゴブリン達の村は・・・?
カルメラとミカエルが、酒呑童子・星熊童子・茨木童子と死闘を繰り広げていた頃―――
ゴブリンの村でも、既に戦線が開かれていた。
敵戦力は、ランクAのオーガが3000体、ランクSのオーガロードが30人、そして、ランクSSの鬼が3人。
対して村の戦力は、名付けでランクC+となったゴブリン兵士とゴブリン魔術師が合わせて12000人、ランクA+のゴブリン将軍が1000人、ランクS+のゴブリン王・女王が合わせて5人、そしてランクSSのゴブリン皇帝が1人だ。
数では村側が圧倒的に勝っているが、質では圧倒的に負けている。無策に挑めば徐々に数を減らされ、やがて数的有利をも失い敗北が確定する。
「オーガは1体につき、兵士と魔術師を合わせた4人のチームで、ロードは1人につき将軍3人で挑め!」
カイザーが『統率』のスキルを通して『念話』で指示を出すと、すぐにゴブリン達から待ったの声が掛かった。
「ま、待ってくれカイザーさん!将軍3人の力でロード1人を倒すってのは可能だろうが、兵士じゃ4人がかりでもオーガに勝てねぇよ!」
「そうよ!いくらスキルを貰って強くなったって言っても、さすがに無茶がすぎるわ!」
「無論、それは承知している。お前達に頼みたいのは、オーガの撃破ではない。あくまでも、奴らの気を引いてくれれば良い」
「どういうこと?」
「将軍は全部で1000人。『ロード1人につき将軍3人』ということは、ロードと戦う将軍は90人。つまり、まだ将軍が約900人残っている」
「じ、じゃあ!」
「そうだ。彼らには遊撃隊として、戦場を駆け回ってもらう。そして戦場にいるオーガを、苦戦している場所から優先して、片っ端から倒すんだ!将軍達、それで良いな?」
『応っ!』
Aランクとはいえ、カルメラが1体と数える程知能が低いオーガは、ゴブリン将軍ならば簡単に倒せる。だが今回は、数があまりにも多すぎた。そこでカイザーは、兵士と魔術師にオーガの足止めをさせ、その隙に倒そうと考えたのだ。
「まずは敵を分散させ、後は先日決めたチームごとに動け。良いか? 決して1人にはなるなよ!」
『はっ!』
「いざ、出陣!」
『うおおおおおおおお!!!!!!』
カイザーの合図と共に、ゴブリン達は村を囲むオーガの群れへと突撃していく。するとオーガ達も動き始め、両軍は激突する。ゴブリン達はチームの連携を活かした戦術で、オーガ達を翻弄する。ロードが『統率』を用いて集団的に動かそうとしても、オーガの元の知能が低すぎることと、ロードが基本力押しの戦術しか使えないことが災いし、有利な状況を作れない。やがて、オーガもロードも完全に孤立してしまい、カイザーが思い描いた状況となった。将軍達は、ロード達を相手に互角の勝負を繰り広げ、兵士・魔術師達も、倒すまではいかないものの、スキルの力も用いて圧倒的格上のオーガ達を、見事に翻弄してみせている。そして遊撃隊の将軍達によって、オーガ達は次々と倒されていき、現在に至る。
「ここまでは、順調なようですね」
『遠見』の魔法で、戦場を上空から俯瞰していたユグノーがそう言う
戦場となった村の中心。そこに構えられた拠点に、カイザー、そしてリベルを筆頭とする王・女王達が集まっていた。
「ですが、オーガは腐ってもAランク。将軍の救援が間に合わず、深手を負っている兵士も多数いるようです」
「やはり、犠牲は免れないか・・・」
仲間達の死を想像し、カイザー達は沈黙する。
「・・・俯いている場合ではないな。まだ戦いは始まったばかり」
「鬼達もまだ動いていない。油断は禁物」
アサミの言葉通り、鬼達は村の外から戦場を眺めているだけで、未だ動く気配はない。現在の戦況は、はっきり言ってゴブリン側が優勢。にもかかわらず動く気配が無いのは、不気味でしか無かった。
(本気を出せば、俺達など簡単に全滅させられる、ということか・・・)
実際のところ、どちらが勝つかは未知数なのだが、少なくとも鬼達はそう考えている。そしてその事実は、カイザー達に大きな不安を煽っていた。
・・・しかし、彼らに絶望した様子はない。
「確かに、鬼達は油断ならないが・・・カルメラ殿に比べたら、なぁ?」
「あっはははは!確かに。あの人と比べたら、お話にならないレベルだ!」
「ええ、カルメラ殿は理不尽すぎて、まともに挑んだら戦いにすらなりません。ましてあの人には、『代行者』のミカエル殿までいます。あの人達に挑むのに比べたら、奴らと戦うのは全然怖くないですね」
「それに俺達は、1度カルメラ殿に勝ってるしな」
「・・・あれ、勝ったって言うの?」
「少なくとも、本人は負けたと思ってる。それなら私達の勝ちだ」
カルメラ&ミカエルという、理不尽の権化のような存在が味方であること。そしてハンデ付きとはいえ、理不尽の片割れであるカルメラに負けを認めさせたこと。それらがカイザー達に自信を持たせ、心を奮い立たせていた。
「カルメラ殿に勝った俺達なら、鬼達に勝つことだってできるはずだ。皆、気張っていくぞ!」
『応!!』
「ユグノー、奴らのスキルはわかるか?」
「やってみましょう。『解析鑑定』!」
ユグノーの右目のモノクルには、ミカエルの手によって『解析鑑定』のスキルが付与されている。ユグノーが未熟であるために、スキル、称号などはまだ名前しか調べられないが、それでも十分有用であった。その力で鬼達を鑑定した結果、次のように表示された。
種族:鬼
ランク:SS
称号:熊童子
特上スキル:『猛毒』
【猛毒生成・毒支配・毒無効】
種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』
種族:鬼
ランク:SS
称号:虎熊童子
特上スキル:『霊獣使い』
【霊獣支配・霊獣召喚・霊獣強化】
種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』
種族:鬼
ランク:SS
称号:金童子
極上スキル:『人形王』
【人形創造・人形支配・融合・付与(人形)】
極上スキル:『武器王』
【武器創造・武器支配・付与(武器)】
種族スキル:『剛力強化』・『統率(オーガ)』
「3人中2人が特上持ち。金童子に至っては極上を2つも持っているようです」
「権能が無いだけマシだろう。称号は持っているようだが」
「どうするんだい、カイザー?」
「まず、熊童子はユグノー・マリア・トモエの3人に、虎熊童子はアサミ・リベルの2人に任せる。そして金童子は、俺が1人で相手する」
「1人!? 流石に危険では?」
「見た所金童子の覇気は、3人の中で一番強い。コイツはゴブリン族最強の、俺が行くしかないだろう」
「カイザーの言う通りだな。他の鬼も、俺達が1対1で勝てる相手じゃない。金童子は、カイザー1人に任せるしかないだろう」
「・・・そうね。わかったわカイザー。そっちは任せる!」
「おう!任せておけ!」
「あ、こっちも心配はいらないよ? あたしらだけで倒してみせるからさ!」
「寧ろさっさと倒して、あなたの援護に周る」
「それは助かるな。頼むぞ!」
軽口を交えながら一通り作戦を話した、その時だった。
『!!!』
その場にいた全員が、表情を引き締める。
―――今まで沈黙していた鬼達が、遂に動き出したのだ。
「気配が、村に近付いている!」
「いよいよ、か・・・」
拠点の緊張感が一気に高まる。
「・・・では皆、武運を祈る!」
『応っ!!!』
そして、ユグノーの『転移』が発動し、カイザー達はそれぞれの鬼の
元へと飛んだ。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
ユグノー・マリア・トモエが転移すると、そこは村から程近い林の中だった。そして3人の目の前には、上半身裸に袴を身に着け、無精髭を生やし、黒い長髪を一本結びにした、黒の1本角の鬼がいた。
「あぁ? 何だてめぇら、どこから出て来やがった?」
「教えると思うかい?」
熊童子の問いに、トモエが冷たく答える。
「ま、そうだよな。んで、てめぇらここへ何しに来たんだ? その反抗的な目付き、首を差し出しに来たってわけじゃあねぇだろ?」
「ええもちろん。我々はあなたを倒しに来たんですよ」
「がははははははぁ!本気かよお前ら? いくら王と女王とはいえ、たかがゴブリンが俺に勝つつもりか?」
「ええ、そうよ。あの人があなたの大将達と戦っている間、この村を守りきるのが私達の役目なの。たとえ相手が鬼であろうと、村を害する者は排除するのみ!」
「はっ!『あの人』ってのは、例の小娘のことか? 副将の部隊を倒して調子に乗ってるみたいだが、その位は鬼の中で最弱の俺にだってできる。ましてあの御三方は、俺なんか比べるのもおこがましいレベルの実力者だ。あのバカ娘も、今頃は見るも無残な肉片になってるだろうよ!」
「っ!!」
「あぁ?」
「貴様・・・!」
カルメラを侮辱する発現に、3人の怒りが上昇する。
「おいおい、キレてんのか? あんな人間の小娘が、そんなに大事か? なら、お前らも同じ場所へ送ってやるよ、雑魚共!」
次の瞬間、熊童子の両手が変形する。人間に近い形だった手が、黒い毛に包まれ、肉球ができ、一回り大きくなる。変形したその姿は、まるで熊の手のようだった。本物と違うのは、爪が異様に長いことと、爪に空間を切り裂く力が宿っていることだ。
「『毒手突き』!」
常人の目には瞬間移動にしか見えない速度で、熊童子が3人に迫る。展開された『熊手』の異様に長い爪には、『猛毒』で生成した毒が纏わせてある。掠っただけでも致命傷、さらには爪の力で、空間すらも蝕むことができる強力な毒だ。この毒を纏った爪による貫手は、まともに食らえばゴブリンの王・女王ですら、一撃で屠るだろう。しかし、この攻撃はあまりにも、直線的すぎた。加えてカルメラと比べれば、その速度は最早話にならない。カルメラとの戦闘を経験し、特訓を積んだトモエ達にとって、この攻撃を避けるのは児戯に等しかった。
「ぬうっ!? 避けられた!?」
酒吞が聞いたら呆れ返るだろうが、熊童子は自身の全力の技が、あっさり避けられたことに本気で驚いていた。そしてそれは、大きな隙となった。
「はあっ!」
熊童子の一撃を躱したトモエは、即座に反撃に転じる。蒼い棘棍棒―――『蒼棍』を手にし、避けた動きの流れに逆らわず体を回転させ、『蒼棍』を熊童子に思い切り叩きつける。
「ぬぐぅ!?」
頭に強烈な一撃を食らい、熊童子は仰け反る。
『自然槍雨!!』
その隙を見逃さず、ユグノーとマリアが様々な属性を纏わせた『蒼槍』を、雨の如く降らせる。3人の攻撃を食らった熊童子は全身から血を流し、かなりのダメージを負っているようだった。
「や、やるじゃねぇかよ。甘く見過ぎてたぜ・・・」
そう言う熊童子の体は、『高速再生』の力により、既に傷が治り始めていた。
「まあ、この位じゃまだ倒れないよね」
カイザーを含む村長達もまた、『高速再生』を持っている。故に傷が治るくらいでは驚かないが、自分達の攻撃が思った程効いていないことには落胆を隠せない。とはいえ、この程度は想定の範囲内。3人は気持ちを切り替え、熊童子の動きに集中する。
「『猛蝕波・乱』!」
熊童子が両手を胸の前で合わせ、そこに魔素を充填していく。そして集めた魔素に腐食系の猛毒を融合し、猛毒の波動として放出した。波動は四方八方に拡散し、周りの木々をも腐らせていく。広範囲の殲滅に適した、強力且つ凶悪な技だ。
『!!!』
対する3人は、守りに徹することを選ぶ。攻撃は広範囲で、さらに誰を狙っているかもわからないため、避け続けるのは困難を極める。突撃などもっての外。故にユグノーが結界を張り、そこにトモエとマリアが魔素を供給することで硬度を上昇。鬼の攻撃にも耐える強固な結界を形成する。そして敵の攻撃が病むまで、結界に閉じこもることにしたのだ。
「くっ!自称とはいえ、最弱と言っても鬼ですね。威力が下がりがちの、拡散型の攻撃でさえこの威力とは・・・!」
結界を張っているユグノーは、一番大きな負担を請け負っている。そんなユグノーにとっては、熊童子の技の中で一発の威力が最も低いこの技も、耐え忍ぶのはかなりの苦痛だった。延々と続くかと思われたが、やがて手に集めた魔素を使い果たし、波動は治まった。
「ちっ!一点突破の方にするべきだったか!」
結局1撃も与えられなかった熊童子は悪態をつきつつも、次の攻撃の構えを取る。
「『飛爪死斬』!!」
今度は神経系の猛毒を爪に纏わせ、それを腕を振るう動作に合わせて、猛毒の斬撃として飛ばしてきた。
「っ!あれはダメだ!避けろ!」
トモエは本能的に、「結界では防げない」と察知し、避けるよう指示を出す。実際、トモエの勘は正しい。『飛爪死斬』には、『熊手』の爪に宿る「空間を切り裂く力」も付与されている。ユグノーの結界には空間に干渉する攻撃を防ぐ力もあるが、相手は鬼。力の差で押し切られることは明白であった。
「まだまだぁ!」
『飛爪死斬』は次から次へと飛んでくる。3人はそれらを避けながら、どうにか攻撃を繰り出す。しかし、最初の攻撃ほど効いている様子はない。削り倒すこともできなくはないが、その前にこちらの体力がつきてしまうだろう。
「このままでは、ジリ貧です!」
ユグノーだけでなく、トモエとマリアもそう感じていた。しかし、どうすることもできないのが現状であった。さらに―――
『っ!!!?』
3人の体に異変が起きる。何の前触れも無く体の一部が溶け始め、さらには動きも鈍り始めたのだ。
(どうなってんだ!? あたしら全員、攻撃を全部躱してるはず―――まさか!?)
トモエはある可能性に至り、ユグノーに指示を出す。
「ユグノー!ここらの空気を『解析鑑定』してみてくれ!」
「り、了解!『解析鑑定』!・・・っ!? これは!?」
「何かわかったの!?」
「周辺一帯の空気が、猛毒に汚染されています!」
ユグノーの報告に、トモエが苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「やられた!アイツめ、空気に毒を混ぜてやがったのか!」
特上スキル『猛毒』の『毒支配』には、毒の状態を自由に決める力もある。つまり、液体状の毒を気体にして、空気に混ぜることも可能なのだ。戦闘が開始してから今まで、熊童子が放った毒は、攻撃が外れた瞬間から気化し続けている。先程の『猛蝕波・乱』の時は、結界で守られていたため毒を吸収せずにすんだが、今は結界を解いてしまっている。その結果、気化した毒を大量に吸ってしまったのだ。
「がははははぁ!今更気付いてももう遅い!」
熊童子の攻撃が激しさを増す。溶けた体は『高速再生』でどうにかなるが、神経毒はどうにもならない。動きが鈍った状態で激しさを増した攻撃を避けきれるはずもなく、神経毒を含んだ斬撃によって3人はみるみる内に傷だらけになっていく。
「オラオラどうしたぁ!? てめぇらの力はそんなもんかぁ!?」
「こんのぉ・・・!調子に、乗るなぁ!!!」
トモエはダメージを一切無視して、空中に『蒼棍』を大量に作り出し、熊童子に向けて飛ばし続ける。熊童子は次から次へと傷を負うが、当然トモエの方も、斬撃で傷が増えていく。マリアとユグノーも同様に、『蒼槍』と魔法を飛ばし続ける。熊童子の動きは徐々に鈍り始めたが、3人の動きも加速度的に鈍り続ける。
・・・そして、3人に限界が訪れる。全身傷だらけで、猛毒に侵され、最早立っていることもできない状態だった。一方で、熊童子も無傷ではない。鬼の頑丈さに身を任せて攻撃し続けた結果、熊童子は全身に傷を負い、『高速再生』も追いつかなくなっていた。とはいえ、その状態でも立っていられるのは、さすが鬼と言ったところだろう。
「はぁ、はぁ・・・中々粘る奴らだったが、残念だな。そこまで毒が周っちまったら、もうお前らは助からねぇ。なぁに、安心しろ。毒で苦しめて死なせたりはしねぇよ。俺がこの手で、直接あの世に送ってやる!」
とどめを刺そうと、熊童子が構える。その時だった。
「ふ、付与魔法『毒無効』。回復、魔法『身体蘇生』『体力回復』」
ユグノーが3つの魔法を発動する。すると、3人を蝕んでいた毒が全て消滅し、毒によるダメージも全て消えた。体力も最初の状態に戻り、さらには『高速再生』が追い付かずにいた部位も、完全に再生していた。これには熊童子も度肝を抜かれる。
「なっ、バカな!? 一体何をした!?」
思わずそう叫んでしまう。そして混乱していたのは、熊童子だけではなかった。
「傷が消えてる!? 体力も元通りだ!」
「毒も消えてるわ!ユグノー、あなたいつ毒系の魔法を身に着けたの!?」
トモエとマリアも、今自分達に起こっていることが理解できていなかった。これに対し、ユグノーが口を開く。
「熊童子が毒を使うことだけはわかっていましたからね。ここに来る前から、毒を無効化する魔法を身に着けようとしていました。ですが毒への理解が足りず、魔法を身に着ける前に戦いが始まってしまったんです」
ユグノーの特上スキル『賢者』は、茨木の『賢王』と同様に多種多様な魔法を身に着けることができる。しかし魔法を身に着けるには、その魔法の属性について理解を深める必要がある。例えば今回の場合は、毒への完全耐性を付与する『毒無効』の魔法を身に着けるため、毒についての理解を深める必要があったのだ。
「そこで私は、熊童子の使う毒を、戦いが始まった瞬間からずっと『解析鑑定』し続けていたんです。お陰で毒についての理解が深まり、我々全員に『毒無効』を付与することができました」
「じゃあ、傷が治って、体力が戻ったのは?」
「『高速再生』をさらに効率化した魔法を作ったんですよ。さらに疲労困憊になったことで体力への理解も深まり、再生の対象を体力にあてた魔法を作ることにも成功したんです」
体中に猛毒が周った状態で、敵の攻撃を避けつつ隙あらば攻撃を加え、さらにはその裏で毒の解析をしながら新たな魔法を作る。言うだけなら簡単だが、それを実践するのは神業と言える。
「俺と戦いながら、新しい魔法を開発していただと・・・!?」
「すごいじゃないユグノー!あなた天才よ!」
「いえ、まだまだですよ。これがミカエル殿なら、ここへ来る前に『毒無効』を習得していたでしょうし、さらにはそれに飽き足らず、『猛毒』スキルを権能まで進化させてた可能性すらあります」
「何はともあれ、あんたのお陰で助かったよ!これで形勢逆転だ!」
相手は相応のダメージを負い、体力も残り少ない。対してこちらは体力も傷も完全回復し、さらには毒も効かなくなっている。魔素は消費してしまっているが、それは相手も同じこと。どちらが有利かは歴然であった。
「さて、どうする熊童子?」
「もう我々に毒は効きません。動きが鈍っている今、あなたの攻撃ももう当たらないでしょう」
「今降参するなら、捕虜にはなってもらうけど、これ以上攻撃しないであげるわよ?」
3人は熊童子に降参を促す。3人にとって熊童子は、憎き仇の1人。カルメラからも「自分の命を最優先にし、加減できないなら迷わず殺せ」と命じられている。本来ならば、降参を促すまでもなくとどめを刺すところだ。3人がそうしないのは、カルメラを思ってのことだった。当然ながら、熊童子はカルメラが言うところの『人』であり、カルメラがなるべく殺したくないと言っていた者達の1人だ。熊童子がここまで弱っている今、降参を促せば生かしておくことができるかもしれない。そうすれば、カルメラが悲しまずに済む。そう考えて3人は、憎き仇であるはずの相手に、生きる道を示しているのだ。だが―――
「降参なんてするかよ。毒が効かなくなっただけで、まだ勝負はついてねぇ!それに、ここで負けるわけにはいかねぇんだ!」
既にボロボロの体を気合で動かし、熊童子は決死の覚悟で挑んでくる。
「『飛爪死斬』!」
再び爪から、斬撃の応酬が繰り出される。効かないとわかった毒は、一切纏わせていない。少しでも魔素の消耗を防ぐためだ。飛ばされる斬撃の速度、数。共に限界が近い者の攻撃とは思えない物であった。だが、相手は傷も体力も回復したゴブリン王とゴブリン女王。最早熊童子の攻撃は掠りもせず、逆に攻撃を食らって追い詰められていく。しばらくして、とうとう熊童子は片膝をついてしまった。
「ユグノー!マリア!とどめいくぞ!」
「オッケー!」
「お任せを!」
トモエの掛け声に合わせて、マリアが100を超える『蒼槍』を生成し、そこにユグノーが炎と雷の魔法を付与していく。全ての『蒼槍』に魔法の付与が終わったところで、マリアは『蒼槍』を全て融合し、1本の巨大な『蒼槍』へと昇華させた。そのタイミングでトモエが飛び上がり、『蒼槍』に向かって通常より二回り程大きい『蒼棍』を振りかざす。
「三雄奥義『鉄槌瞬雷』!」
トモエは『蒼棍』を思い切り振り下ろし、『蒼槍』の石突きを叩いて打ち出す。炎と雷の魔法を纏い、超音速で打ち出された『蒼槍』は、ものの見事に熊童子に命中する。凄まじい衝撃が起こり、辺り一面に土煙が舞う。
―――土煙が治まった時、『蒼槍』が命中した場所には巨大なクレーターができていた。そしてその中心で、黒焦げになり気を失った熊童子が、仰向けに倒れていた。
「これでまだ息があるとは」
「殺すつもりでやったんだけどね・・・でも取り敢えず、鬼を1人撃破できたな!・・・最弱だけど」
「これで最弱・・・他の皆は大丈夫かしら?」
「心配ですが、他の所へ行くのは、少し休んでからにしましょう」
「そうだね、魔素はまだ回復してないし、最悪足手まといになる可能性があるしね。とりあえずコイツを拘束して、一休みしようか」
こうして見事、倒れた仲間の仇を討ち、下剋上を果たした3人は、束の間の休息を摂り始めたのだった
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
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