第9話 寝た子を襲え!
5つの村の長達と話がついたので、ワタシは早速行動を開始する。
まずは、長達を一旦各々の村へ転送し、各村のゴブリン達に話をつけてもらう。正直、半分くらいは逃げ出すのではないかと思ったが、何と全員がこちらに協力してくれることになった。
「親分達が覚悟決めてんのに、俺達が逃げる訳にはいかねぇだろ!」
「たとえ追い返されても、あたい達はお頭達について行くからね!」
「憎き鬼共に、一泡吹かせてやるんだ!」
『おおおおおおお!!』
きっとこの長達は、村人達からの、『信頼』というものが厚いのだろう。ワタシがカルメラ様を信じているように、彼らも長達を信じている。
―――まあ、ワタシのカルメラ様への信頼の方が上ですけど。
そんなこんなで、全員が戦いへの参加を承諾。現在ワタシは長達と共に、カルメラ様とリーダーさんにその旨の報告中だ。
「そういうわけでカルメラ様、全員承諾してくれました」
「めちゃくちゃ大所帯になったね!」
この村程ではないが、他5つの村にもそれぞれ、2000人程のゴブリンがいた。現在、我々に味方してくれるゴブリン・ホブゴブリンは約13000人。確かにもの凄い数だ。
「まあ、ワタシとしては何の支障もありません。『付与』は遠隔での使用も可能ですし、早速―――」
「ちょっと待って!」
ここで、なぜかカルメラ様が待ったをかけてくる。
「どうされたのですか?」
「色々あって後回しになってたけどさ、皆仲間なんだし、そろそろちゃんと名前を付けてあげたいな~って思って」
名前、か。そういえば、彼らには名前が無かった。リーダーさんというのも仮で呼んでるだけだし、他の者達に至っては、仮の名も無い。
「確かに、ちゃんとした名前を与えた方が良いかもしれませんね」
「でしょ? だからまずは名前を付けたいと思うんだけど、良いかな?」
「・・・素晴らしい申し出だが、それはやめておいた方が良い」
リーダーさんが名付けを拒否してくる。いや、拒否というより、遠慮しているようだ。何故?
「どうして?」
「そもそも2人は、魔物に名前を与えると、何が起きるか知っているか?」
「いや、まったく」
「ワタシもです」
「魔物にとって、名付けには特別な意味がある。俺も、彼らも、仲間達も、世界の認識では大多数の中の1人という扱いになる。わかりやすく言うと、2人はその辺に生えている草を、1つ1つ違う物として認識できるか?」
「無理」
「可能です」
『え!?』
・・・何かおかしなことを言っただろうか?
「ま、まあミカエル殿のような例外もいるが、普通はそんなの一々見分けられないだろう? 世界にも、俺達がそう見えているんだ」
「ひどい!その辺の草扱いだなんて」
「そうではありません。見分けがつかないということです」
「その通りだ。ところが名前を与えられた魔物は、その名前が魂に刻まれ、世界にたった1人の個として独立する。世界からもバッチリ認識されるようになるんだ」
「話が大きくて良くわかんないけど、魔物が名前を持つのって、凄いことなんだね!」
「そうだ。だが当然、代償もある」
「代償??」
「魔物に名前を付けるには、一定量の魔素が必要になる。そして魔素は基本、名付け親の負担になるんだ」
「え!? そうなの!?」
「対象の魔物が強ければ強い程、名付けに必要な魔素量も増加する。加えて俺達はこの数だ。どこかでカルメラ殿が、魔素枯渇症になってしまうぞ」
「何ですか、それ?」
「体内の魔素量が、必要最低限の量を下回る病気のことだよ。下手をすると死に至るんだって」
なるほど。それで彼らは、カルメラ様のことを心配して、名付けに対して遠慮していたのか。
「そのことならば、心配いりません」
「何?」
「実は、魔素を解析した結果、魔素を増強させるスキルと、空気中の魔素を支配するスキルの創造に成功したんです。お陰で必要な魔素が足りない場合でも、空気中の魔素を増強して代用したり、カルメラ様の魔素を増強させるといったことも可能になりました。なので、名付けでどれだけ魔素が必要になろうとも、魔素が枯渇する心配はありません」
「そ、そんな物まで作ってたんだ・・・」
「何と!それは本当か!?」
「ええ。ですので1万人だろうが、100万人だろうが、名前を与えることは可能です」
「やったね!皆!」
「ああ!正直、名前を貰えるなんて、夢にも思わなかった!」
話を聞いていたのか、村のホブゴブリン達も喜びの声を上げる。
「ただ、名前を付けるのは、ワタシがスキルを与えた後にして欲しいのです」
「どうして?」
「名付けの際に消費する魔素は、対象の魔物に吸収される。まず、この認識に間違いはありませんね?」
「ああ。そしてその魔力によっては、名付けと同時に進化する者もいる」
「やはり。ならば、名付けの時点でスキルを持っていれば―――」
「そっか!そのスキルも進化するかも知れないんだ!」
「ご明察です。まずはこの村のホブゴブリン達に名付けをしましょう。その後に各村のゴブリン達に、1人ずつスキル、名前の順序でそれぞれ与える、というのはどうでしょうか?」
「僕は良いけど、皆は?」
「名前とスキルが貰えるのだ。やり方に文句など言わん」
「ありがとうございます。それでは、早速始めましょう」
そこからは中々大変だった。やることだけ見れば単純だが、とにかく数が多い。特に、名前。最初はカルメラ様自ら考えていたのだが、途中でネタ切れになり始め、ワタシも一緒に考えることになった。結果、予定よりも大幅に時間がかかり、全員にスキルの付与と名付けが終わる頃には、空が夕焼けになっていた。
「つ、疲れた~!」
「カルメラ様、まだ今日の鍛練が終わっていませんよ。早く立ってください」
「む、無茶言わないでよぉ。今から鍛練なんて―――」
「鬼達に負けても良いんですか?」
「絶対やだ!」
「ならば立ってください。修行の再開ですよ」
「うぅ、わかったよ・・・」
鬼達への対抗心を糧に、カルメラ様はどうにか立ち上がり、未だ慣れない『時空支配』の特訓を始める。
修行は夜遅くまで続いた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
次の日―――
ゴブリン達は昨日から引き続き、強化された力を慣らすため、早朝から修行中だ。一方カルメラ様は―――
「カルメラ様ーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「かぁ~・・・」
既に日が昇っているにも関わらず、まるで起きる気配が無い。耳元と頭の中から、大声で騒いでいるというのに!!
「はぁ、まったく・・・カルメラ様の一番の敵は、この寝坊助な体質かもしれませんね」
まあ、夜遅くまで訓練していたせいなのだが、それを差し引いても起きなさすぎである。どうしたら爆音が鳴り響く場所で、寝ていられるんだろうか?
「ミカエル殿、大声で騒いでいたようだが、どうしたんだ?」
様子を見に来たリーダーさん―――カイザーに、ワタシは思わず不満をぶつけてしまう。
「どうしたもこうしたもありません!カルメラ様がまるで起きないんですよ!今日も今日で修行しなければならないのに!」
「はははっ!カルメラ殿の意外な弱点だな」
「カイザー、笑いごとではありません。決戦の日は、指定された場所に早朝に行かなければならないんですよ? これで当日、寝坊が原因で総攻撃なんてことになったら、たまったものではありません」
「そ、それは確かに・・・カルメラ殿!もう朝だ!そろそろ起きたらどうだ!?」
「かぁ~・・・やったぁ、皆を、守りきったぁ~・・・」
「夢の中まで俺達のために戦ってくれるのは嬉しいが、このままでは現実で負けてしまうぞ!」
「かぁ~・・・」
「その程度では目覚めません。レッドドラゴンと同レベルの殺気、あるいは覇気でも受けない限り、目覚めないでしょう」
「なんだ、それなら簡単な話じゃないか。俺が覇気を発すれば良い」
確かに、それなら目を覚ますだろう。なぜならカイザーは、名付けの影響により、更なる進化を遂げたのだから。
名前:カイザー
種族:ゴブリン皇帝(ホブゴブリン)
ランク:SS
極上スキル:剣聖
【剣術強化・超速思考・蒼剣生成・絶対切断】
種族スキル:統率(ゴブリン・ホブゴブリン)
絶対君主(ゴブリン・ホブゴブリン)
ゴブリン・バスター
ゴブリンの中のゴブリン。王と女王をも従える、ゴブリン達の絶対君主。大陸中のゴブリンを従えることが可能で、これまで通り集団戦を得意としているが、単騎の力も大幅に上昇している。特に、魔素を収束させて放つ『ゴブリン・バスター』の威力は凄まじく、一撃で国が機能不全になる。
もう本当にゴブリンか疑わしいレベルの力になったカイザーの覇気なら、カルメラ様も飛び起きるだろう。しかし―――
「その瞬間カルメラ様と戦うことになりますが?」
「ぬっ!?」
今のカイザーでも、カルメラ様と戦うのは厳しそうだ。
「1人でダメなら、6人で挑めばいいだろう?」
そこへ、5人のホブゴブリンが加わってくる。彼らは、昨日話をした、各村の長達だ。彼らもスキルの付与と名付けで、ホブゴブリンのキング・クイーンへと進化したのだ。
目の細い武人肌の女王がアサミ。
片目にモノクルを付けた知的な王がユグノー。
勝気な姉御肌の女王がトモエ。
どこか上品な金髪の女王がマリア。
そして中心の王がリベルだ。
「丁度、あたしらだけでの修行にも飽きたところでね。カルメラさんに相手してもらいたいと思ってたのさ」
「ですが我々では、一対一でカルメラ殿を本気にさせることなど、できません。なので、我々6名で挑もうということになったんです」
「ふむ、では早速やってみましょう。次いでにワタシも、皆さんのサポーターとして参加します」
『え!?』
「もっとも、指示と助言のみですがね。ついでにカルメラ様にもハンデを付けます」
「良いの? あなたの主と戦うことになるのよ?」
「カルメラ様にとっても良い修行になるでしょう。それに、カルメラ様と言えど寝起きの時は、動きが鈍いんです。その弱点の克服にも繋がるでしょう」
「ね、寝起きは誰でも動きが鈍いと思うが?」
「決戦当日に、そんな言い訳は通じません。今の内に耐性を付けさせます」
「あんた、かなりスパルタなんだね・・・」
「まあ良い。そういうことなら、遠慮なく挑むとしよう。カイザー、指揮は任せるぞ!」
「わかった。全員、構えろ!」
長達が一斉に戦闘態勢に入る。その瞬間、カルメラ様の指がピクリと動いた。
「どうやら、もう気付いているようですね」
「まあ当然だろう。かかれ!」
キング、クイーンが一斉に動き、カルメラ様に襲いかかる!次の瞬間、とてつもない衝撃と共に、カルメラ様が寝ていた小屋が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「ふぁ~・・・ちょっと皆? 寝込みを襲うなんて、随分じゃない?」
カルメラ様の声が頭上から聞こえる。やはり上に逃げていたか。
「これも修行です、カルメラ様」
「修行?」
「カルメラ様は寝坊助ですから、決戦の日に寝起きの状態で戦う可能性が高いので、今から耐性を付けていただきます。あ、体に寝起きの耐性をつける修行なので、カルメラ様は遠距離攻撃一切禁止です」
「うげぇ、ま~たスパルタ指導だ・・・」
「文句を言ってる場合ではありませんよ?」
「!!」
今のやり取りの間に、カイザーから指示を受けたユグノーとマリアが攻撃体制に入る。
「『魔法付与』!」
「『暴風刺突撃』!」
マリアが蒼く光る槍を手に、風を纏った刺突を繰り出す。それに対しカルメラ様は、即座に剣を抜いてこれをはじく。
「さすがね、全力の一撃だったのに・・・」
着地したマリアが、苦虫を嚙み潰したような顔をする。ユグノーは魔法系統の特上スキル『賢者』を、マリアは槍術系統の特上スキル『槍王』を所持している。どちらも強力なスキルで、2人はこの2つのスキルによる合体技を使ったらしい。
・・・それでもカルメラ様には通用しなかったが。
「う~、やっぱり体が重い・・・」
とは言え知っての通り、今のカルメラ様は寝起きで、本調子ではない。そこに勝ちの目があるはず。
「まだだ!併せろ!」
「わかった」
今度はトモエが、アサミと共にカルメラ様に迫る。
「まずは降りてきなよ!あたしが叩き落としてやるから!」
トモエは高く飛び上がり、カルメラ様の前まで来ると、手にした棘付きの蒼い金棒を、思い切り振り下ろす。
「甘い!」
「なっ!?」
さすがはカルメラ様。特上スキル『剣王』で強化された金棒の一撃を、手に持つ剣で流してみせた。しかし、腕が大きく広げられて、隙だらけになる。
「隙あり!」
その隙を、蒼い刀を手にしたアサミが襲う。アサミの極上スキル『侍』は、防御の一切を捨てて攻撃と速度に特化したスキル。寝起きで隙だらけのカルメラ様では防げな―――
「『蒼剣ノ盾』」
『!?』
くっ!即座に『蒼剣』を作り出して盾代わりにするとは、何という反応速度!しかもよく見ると、アサミが斬撃に乗せていた『絶対切断』も、『蒼剣』に『絶対切断』を乗せることで相殺している。これは一撃入れるのですら容易ではない。
「そろそろこっちからも行くよ!おりゃ!」
「くぅっ!」
「ぐあっ!」
ここでカルメラ様が反撃にでる。剣に『蒼剣』を融合させ、思い切り振るう。たったそれだけで、空中に飛び出していたトモエとアサミは、吹き飛ばされて地上に叩きつけられてしまった。
「2人共、無事か!?」
「へ、平気だよ、まだ動ける」
「この程度で倒れていられない」
少々血を吐きながらも、2人はまだまだ動けそうだ。
「良いよ!その意気だ!」
言うや否や、カルメラ様は空を蹴り、2人に迫る。
〔リベル!防いでください!〕
(心得た!)
『念話』で指示を飛ばすと同時にリベルが動く。そして、彼の極上スキル『神殿騎士』のスキル『絶対防壁』を、左腕の蒼い盾を用いて発動。見事にカルメラ様の突撃を受け止めた。
「ぐぬっ・・・!!」
「やるね、リベルくん!」
「俺だけ見てて良いのか?」
「っ!おっと!」
リベルが止めている間に、カイザーがカルメラ様に接近。『蒼剣』を振り下ろして攻撃するが、紙一重で躱されてしまう。
「リベル、トモエ、アサミ!俺達4人は、このまま前衛で畳みかける!マリアとユグノーは後方から支援を!」
『了解!』
カイザー達が、巧みな連携を見せる。これでも本調子のカルメラ様ならば簡単に捌けるのだが、寝起きの今は互角にとどまっている。前衛4人は次から次へと攻撃を発動。隙を見てカルメラ様も反撃しようとするが、そのタイミングで後方から風・火・水など様々な属性を纏った『蒼槍』が飛んでくるので、その対処に追われ今一歩攻めきれずにいるようだ。
「これは、めんどい・・・!!」
カルメラ様が明らかに嫌がっている。カルメラ様に一撃入れられれば御の字だと思っていたが、もしかしたら勝てるかもしれない!
〔カイザー、『ゴブリン・バスター』の準備を!〕
(っ!? し、しかし―――)
〔心配ありません。既にここら一帯は時空から切り離してあります。村への影響はありません〕
(カルメラ殿のことは―――)
〔心配するだけ無駄です。そもそも、手加減して勝てる相手ですか?〕
(っ!わかった。皆聞いたか!? 今から『ゴブリン・バスター』の準備をする!チャージ完了まで10秒。それまでどうにか持ち堪えてくれ!)
(了解!)
カイザーが後方に下がる。結果前衛の連携に綻びが生じて、少しずつ形勢が逆転し始める。『蒼槍』による攻撃も完璧にはじかれるようになった。少々読みが甘かったかと後悔したその時―――
「皆、離れろ!」
カイザーから指示が飛ぶ。どうやら間に合ったようだ。
「っ!? ヤバ―――」
「『ゴブリン・バスター』!」
カイザーが右手に構えた『蒼剣』から、大都市をも焦土に変える、ゴブリン族最強の一撃が放たれる!ゴブリンの肌と同じ緑色の波動は、カルメラ様を直撃し、地形を変え、後方の森を焼きつくした。時空から切り離したこの空間でなければ、村が吹き飛んでいただろう。やがて波動が治まり、『魔素感知』を使用してあたりを探ってみると、カルメラ様は生きているが、動く気配はなかった。
「カルメラ様が、沈黙しました」
「・・・やった!やったぞ!」
「カルメラさんに勝った!」
「まさか、俺達の力だけで、あのカルメラ殿に勝てるなんて・・・!!」
「寝起き、遠距離禁止、その上ミカエル殿含め7対1。ハンデだらけですから勝てた気はしないですが」
「何言ってるの!その条件にカルメラさんは従ったんでしょ?」
「従わせたのでは?」
「それは・・・と、とにかく、あの条件を飲んで戦うって話だったんだから、これは間違いなく私達の勝利よ!」
「まだ未熟な部分は多いがな」
「そうですね。ですがそれはカルメラ様も同じ。色々ハンデはありましたが、それであなた達に負けるようでは、まだまだですね」
「ミカエルさんって、本当にカルメラさんに厳しいね」
「本当だよね~、トモエちゃん」
『!!!?』
ワタシ含め、その場にいた全員が、驚きのあまり言葉を失う。声の聞こえた方―――『ゴブリン・バスター』により変形し、未だ赤熱している場所を見ると、『蒼盾』を4つ展開した、無傷のカルメラ様の姿があった。
「バカな!『ゴブリン・バスター』は確実に決まったはず!」
「そうだね。直で食らってたら、僕でも立てなくなってたと思う。でも、リベル君がスキルの使い方を見せてくれたお陰で、どうにかなったよ」
確かに『情報保管庫』には、カイザー達のスキルの情報も登録済みで、カルメラ様はいつでもそれを使用可能だが・・・
「しかし、俺の『蒼盾』と『絶対防壁』でも、カイザーの『剣術強化』と『絶対切断』が乗った『ゴブリン・バスター』は防げないぞ!?」
そう。カイザーはわざわざ『蒼剣』から『ゴブリン・バスター』を放った。お陰で先程の『ゴブリン・バスター』は剣術扱いとなり、『絶対切断』だけでなく『剣術強化』も乗せることで、威力を上昇させることができたのだ。それでも通用しなかったとなると・・・
「恐らく、『時空断裂』も乗っているのでしょう」
『!!』
「ご明察!『時空支配』ゲットしといて良かった~」
・『時空断裂』
文字通り時空を切り裂くことができるスキル
その本質は「時空の切り分け」であり、時空を切り裂く刃にもなれば、時空を隔てる壁にもなる。
改めて展開された『蒼盾』を『解析鑑定』してみると、『絶対防壁』と一緒に『時空断裂』が付与されている。これによりあの『蒼盾』達は、「時空を隔てた絶対の防壁」と化しているのだ。いくら『絶対切断』が、指定すれば空間すら切り裂けると言っても、こればかりは『時空断裂』がなければ壊せない。
「まさか、この戦いの最中にスキルの使い方を学び、それを自身のスキルと併せて即応用してくるとは。 使い方は学べても、応用するのはワタシでもそれなりに時間が必要だというのに」
「結局、あれだけやってもカルメラ殿は無傷。完敗だな」
「僕としては、これを使った時点で負けた気分だけどね。こんなの使ったら、ただ守ってるだけでどうにかなっちゃうし、これが通用しない相手にはどうしようもないもん。この寝起きの修行は良い勉強になったよ」
「俺達もだ!今の戦いだけでも、それなりの弱点が見つかった。決戦までの時間は少ないが、できる限り直していこう!なあ、皆?」
『応!』
カルメラ様も、カイザー達も、何かしら得た物があったようで、何よりだ。
「それはそれとして・・・ミ~カ ~エ~ル~ちゃ~ん?」
「ひぃっ!?」
カルメラ様が、満面の笑みを浮かべながらこっちを見ている。
対してワタシは、怖気と冷や汗が止まらない。何故って、カルメラ様が凄まじい覇気を発しているから!
「な、何でしょう?」
「僕の寝込みを襲わせるだなんて、良い度胸してるじゃん?」
「そ、それは、カルメラ様が、何やっても起きなくて―――」
「確かに、僕は昔から寝覚めが悪いよ。それで迷惑をかけるのは、正直申し訳ないと思ってる。でも、いくら修行のためとはいえ、人が気持ちよく寝ているところに、いきなり襲い掛かるのはどうかと思うなぁ」
ヤバい!さすがに今回はやりすぎた!
「ご、ごめんなさい!ワタシが間違ってました!許して―――」
「ダーメ!悪い子には、お仕置きだよ!」
瞬間、カルメラ様の姿が消失し、気付いた時には背後に回られ、両腕を後ろ手にがっちり抑えられてしまった。
「スキルが発動しない!? このアバターでもスキルは使えるはずなのに!」
「残念!今のミカエルちゃんには、アバターを動かす以外のことはできません!」
「っ!!」
「『複製体』の皆、出ておいで!」
『はい!!』
「ミカエルちゃんに、『コチョグリ攻撃』だ!!」
『おーーーーー!!』
『複製体』達が一斉に、アバターをくすぐり始める。その途端、ワタシは今までにない感覚に襲われ、笑いが止まらなくなってしまう。
「あははははは!!ひゃ、ひゃめてくだ、あはははははは!!」
「まだまだ!もぉーっとくすぐっちゃえ!!」
『合点!』
「あはははははは!ひ、ひ~!ひ~~~~~!」
あまりの快感で、声も上手く出せない!これが、『くすぐったい』という感覚なのか・・・!!
「ま、ましゅた~!許ひて、許ひてくだひゃい~~~~!!!」
「もう寝込みを襲ったりしない?」
「ひゃい!もうしましぇん!もうしましぇんから、あははははははは!!」
「よし、くすぐり止め!!!」
や、やっと終わった・・・けど、立てにゃひ・・・。
「はぁ、はぁ・・・」
「ミ、ミカエル殿? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ、なひ・・・」
コチョグリ、恐るべし・・・。
「ヘイヘイ、君達も他人事じゃないよ~?」
『!?』
「『複製体』の皆!あの6人もくすぐっちゃえ!」
『合点!!』
カイザー達も、『複製体』達のコチョグリの餌食となってしまう。コチョグリの恐ろしさを知ったワタシは、2度とカルメラ様の寝込みは襲わないと誓った。
予告になりますが、次回からいよいよ決戦が始まります!
リベル達のスキルの詳細については、また別の機会を設けて、詳しく書かせていただきます。




