第8話 この2人に賭ける!
我々は村に戻ると、すぐにリーダーさん―――ゴブリンから進化した、ホブゴブリン達のリーダーの家へと向かった。リーダーさんの家には、見知らぬ5人のゴブリンがいる。おそらく彼、彼女達が、他の5つの村の長なのだろう。
(一応やっておきましょう。『解析鑑定』)
種族:ゴブリンキング
ランク:A+
種族スキル:統率(ゴブリン)
ゴブリンの王たる存在。ゴブリンの大軍勢を率いて敵を殲滅する集団戦を得意としている。
種族:ゴブリンクイーン
ランク:A+
種族スキル:統率(ゴブリン)
ゴブリンの女王たる存在。ゴブリンキング同様ゴブリンの大軍勢を率いる。キングとは完全に同格の存在。
予想はしていたが、やはり進化した形跡がある。今朝『魔素感知』で調べた時にはただのゴブリンだったはずなのに、今では見る影もない。さらに言えば、ここにいる長達はリーダーさんと違って、一晩の眠りを挟まず進化している。進化速度は個体によって変わるようだ。
・・・って今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「リーダー君、村長さんってこの人達?」
「ああ。こちらが、俺達の村と協力関係にある村の長達だ」
『よろしく頼む』
長達が一斉に挨拶してくる。その中の1人が、リーダーさんに話しかけた。
「それで、こちらの2人が例の?」
「そうだ、こちらがさっき話した、俺達の恩人のカルメラ殿とミカエル殿だ」
「初めまして!僕は、カルメラって言います。で、こっちは相棒のミカエルです」
相棒、か。ふふっ、何だか心地良い響きだ。
「初めまして。ワタシはカルメラ様のサポーター兼相棒のミカエルと申します。よろしくお願いします」
「僕も、よろしくお願いします!」
軽く挨拶を済ませて、早速本題に入る。
「それで、兄妹達よ。実際にカルメラ殿を見てどう思う?」
「・・・はっきり言って、本当に人間か疑わしいな」
「仮にあたしらが束になって掛かったとしても、何をされたかもわからない内に首を落とされて終いだろうね」
一定の領域に至った者は特有の『覇気』を纏うようになり、さらに相手のおおよその強さを見抜けるようになる。カルメラ様も長達も覇気を纏っていて、ワタシもカルメラ様の目を通じて覇気が見えているが、やはりカルメラ様の覇気は尋常ではない。長達の覇気など足蹴にも及ばない程で、長達のこの反応も当然だ。
「オーガロード5体とオーガ500体が、人間の少女1人に倒されたと聞いた時には何の冗談かと思ったが、この覇気ならば納得だ」
「2人ですよ」
『え?』
「あの軍勢は2人で片付けたんです。僕が倒したのはオーガロードだけで、他のオーガ達はミカエルちゃんが倒したんです」
「何と!?」
「でも、ミカエルさんからはまるで強さを感じないよ?」
「ああ、それは仮の肉体なんですよ。彼女の本体は、僕のスキルなんです」
本当は、長達にはまだワタシの正体を隠しておきたかった。でも、良く考えたらカルメラ様にそんな演技は無理だと思い、隠すことをやめたのだ。
「スキルが本体?・・・もしや、『代行者』か?」
長達の中心にいた者が、核心に至ったようだ。
『さぶますたー?』
「俺も噂に聞いただけだが、スキルには時として自我が目覚めるという。その自我のことを『代行者』と呼ぶそうだ」
「『代行者』がいると、何か変わるんですか?」
「『代行者』はスキルの力を最大限発揮することができるらしい。同じスキルでも、『代行者』がいるといないとでは、その力は天地程の差があるそうだ」
「そんなに違うの!?」
「ち、ちなみに、カルメラさんってどんなスキルを持ってるんだい?」
「え~と、権能が1つとギフト1つ。後、ついさっき極上スキルが2つになりました。あ、それとミカエルちゃんは権能出身の『代行者』です」
「ア、極上、ギフト、権能・・・」
「それが最大限の力を発揮するとか、とんでもない怪物じゃないですか・・・」
長達は余程驚愕しているのか、言葉が出なくなってしまっている者もいる。
「これがカルメラ殿とミカエル殿の力だ。この2人と共に戦えば、鬼達相手でも十分勝機はあると、俺は考えている。兄妹達よ、頼む!鬼達と戦うために、力を貸してくれ!」
リーダーさんが、長達に向かって頭を下げる。だが―――
「・・・悪いが、無理だ」
長達の中心にいる者がそう言った。
「なぜだ!? この2人の力はお前達も見ただろう!?」
「ああ、見たとも。実際に鬼を見たことのある者として、この2人に鬼を倒せる力があることは認める。だが、俺達はどうだ?」
「!!」
「2人がどれだけ強くても、俺達が弱いことに変わりはない。今の俺の村のゴブリン全員の力でも、例のオーガの軍勢にすら勝てないだろう。その程度の力で、2人と共闘できると思うか?」
「それは・・・」
「敵は鬼が6体。しかもお前から聞いた話じゃ、その内3体の力は他と別格。さらにはそれぞれの鬼があのレベルのオーガの軍勢を引き連れてるって話じゃないか。俺達が加わった所で、多少オーガを減らして、残りの全てを2人に押し付けることになるのが関の山だろうよ」
「そうなったら幾らカルメラさん達でも、勝ち目は無いか・・・」
・・・彼らの言葉は正しい。
鬼達が指定した3日後、この村には鬼達に加えて、あのオーガの軍勢が6つ攻め込んでくると考えられる。仮に6つの村の力を集結させたとしても、勝ち目はないだろう。加えて―――
「・・・それにリーダーさん、あなたは1つ大事なことを忘れています」
「大事なこと?」
「果たし状の内容を思い出してください。鬼達はこの村を人質にして、カルメラ様を指定した場所に呼び出していました。つまりカルメラ様とワタシは、何があろうともその場所へ行かなければなりません。そして当然、この村が襲撃されるのは、そのタイミングでしょう」
「・・・そうか!この村が襲われている間、2人はこの村にいられないのか!」
「ええ。しかも相手は恐らく、頭領・副将・四天王筆頭の3人。我々はそれを纏めて相手することとなるでしょうから、そちらへの加勢は不可能です」
敵側の最高戦力3人を足止めできるという利点はあるが、逆に言えばそれ以外の戦力が全てこの村に向けられるということ。気休めにもならない。
「どうやら、最初から作戦が成り立っていなかったようだな」
「話になりませんね。私は帰らせてもらいます」
中心の長と知的な雰囲気の長が、帰り支度を始める。
「ま、待ってくれ!このままでは俺達の村が―――」
「あたしらだって、あんたらを見捨てたくはないよ。でも、あんたも魔物なら、わかってるだろ? 魔物の世界は弱肉強食。弱い奴は、強い奴に食われるしかない」
「それに私達だって、仲間を生かさなくちゃいけないの。仲間達をあなたの村の巻き添えにするわけにはいかないわ」
「悪いが、私達は大人しくさせてもらう」
長達も帰り支度を始めた。
「そんな・・・どうしたら・・・」
「どうしよう、このままじゃ村を守れない!ミカエルちゃん、何か手は無いの?」
カルメラ様が慌てた様子で聞いてくる。
「ご安心ください。この展開は予測していました。ですので、それに備えた布石も用意してあります」
「え?」
「皆さん、お待ちください!」
「っ!ミカエル殿・・・」
「どうした? 話は終わったはずだが?」
「いいえ、まだ終わっていません」
『?』
「今話したのは、襲撃の当日に我々2人が村にいられないということ、そして敵の最高戦力3名を除く全戦力がこの村に攻めてくることだけです。まだ我々に勝てる可能性があることを話していません」
「ほ、本当か!?」
「何を馬鹿な!あなた方2人の力を抜きにして、俺達の力だけでどうやって奴らに勝てと言うんだ!?」
「それは直接見た方が早いです。表に出てください」
ワタシは、リーダーさんの家にいた全員を外に連れ出す。
「ミカエルちゃん、何が始まるの?」
「見ればわかります」
今からやろうとしていることは、まだカルメラ様には報告していない。見た方が早いというのが一番の理由だが、カルメラ様を驚かせたい『いたずら心』が芽生えたというのもある。
「では、リーダーさん。あれをお願いします」
「心得た!」
リーダーさんは、予めワタシが用意しておいた岩の前に立つ。そして彼が構えの姿勢を取ると、彼の手に蒼い剣が出現する。
「っ!? あれって僕の!?」
「『絶対切断』!」
手にした蒼剣が振り下ろされると同時に、リーダーさんの身の丈以上ある岩が、いとも簡単に真っ二つにされる。
「い、今のはまさか、スキルか!?」
「嘘だろ!? 魔物がスキルを獲得するには、上位の奴でさえ相当な修練が必要なはずなのに・・・!」
「しかも、ただのスキルじゃない。あれは僕が持ってるスキル!どうしてリーダー君が使えるの!?」
ものの見事にカルメラ様は驚いてくれた。満足できたし、種明かしをしよう。
「『研究開発』にあるスキルの1つ、『付与』の力ですよ」
・『付与』
対象に力を与える。
与えられる力にはスキルも含まれる。
「カルメラ様のスキルの情報は全て『情報保管庫』に保存してあります。その情報の中から選んだ物を、『創造』でスキルとして具現化し、それをゴブリン達に与えたのです」
ワタシは最初、魔物はスキルを獲得できないものだと考えていた。だが、レッドドラゴンのように、魔物の中にもスキルを持つ者がいた。そしてアランはスキルのことを、「人が魔物に対抗するための力」とは言ったが「人間専用の力」とは言っていない。ならば、魔物がスキルを獲得することも、魔物にスキルを与えることも可能なのではないかと、そう考えたのだ。
「人間と比べて獲得しにくいという難点はありますが、結果としてワタシの予測はあたり、現在この村の住民全員にスキルを付与することができました」
そして与えたスキルをひたすら使いまくって、体に、そしてスキルが宿る魂になじませること。これがゴブリン達に頼んだもう1つのことだ。
「ちょうど今、スキルの特訓をしているようですね。見てみますか?」
「ぜひお願いします!」
「あたしも!あんたらはどうする?」
「・・・見せてくれるか?」
「ええ、ご案内します。『時空跳躍』」
ワタシは『時空跳躍』を発動し、その場にいた全員を広場へと転移させる。
・『時空跳躍』
時間と空間を飛び越え移動できるスキル。
指定した範囲内の全員を移動させることも可能。
広場につくと、そこにはスキルを用いた模擬戦を繰り広げるホブゴブリン達の姿があった。ある者は剣を振るい、ある者は槍で突き、ある者は水の波動を放っていた。
「これは、なんと壮観な」
「『剣術』や『槍術』の他に、『水支配』のスキル持ちまでいます!しかも、これら全てカルメラ殿の持つスキルなんですよね!?」
「いや、『槍術』も『水支配』も持ってないし、なんなら他にも僕が知らないスキル持ってる子がいっぱいいるけど?」
「そうなんですか!?」
「彼らの中に武器を使う者がいましてね、彼らの動きを『解析鑑定』しつつ、『創造』を発動することでスキルをうみだせたんです。『水支配』などの魔法系統のスキルも同様です」
「い、いつの間に・・・」
「素晴らしい!カルメラ殿が持つスキルを与えるだけじゃなく、新たに生み出したスキルを与えることもできるなんて!」
「でも、与えたスキルが体に合わないこともあるんじゃないかしら?」
「ご安心を。ワタシには『解析鑑定』がありますから、相手の適正を見抜いて、最も適したスキルを与えることが可能です」
「マジか!」
「スキルを与えたことで、この村の戦力は格段に上がりました。このまま力を磨き続ければ、いずれはオーガの軍勢をも上回る力を手にするはずです。いかがでしょう? 我々に協力してくださるなら、あなた方5人を含めた村の住民全員に、最適なスキルをお渡しします。ですから、どうか力を貸していただけませんか?」
敵に届きうる根拠は用意した。これならばきっと、彼らも協力してくれるはず!
・・・そう思っていたのだが、
「・・・すまないが、やはり無理だ」
中心の王が、協力を断ってきた。
「ちょっ、あんたここまでやってもらって、まだ渋るの!?」
「そうですよ!一体何を躊躇う必要が―――」
「スキルを使いこなせるようになるまで、一体どれだけの時間が必要になると思う?」
『っ!』
「どれだけ強い力も、使いこなせなければ意味をなさない。鬼達が攻めて来るまでの3日間で、完璧に使いこなせるようになると思うか?」
「そ、それは・・・」
「ワタシが全力でサポートします。残りの3日間で、最低限使いこなせるように―――」
「はっ!最低限使えたところでなんだと言うんだ。あっちはスキルの応用だって使ってくるんだぞ? どう足掻いても勝てるわけがない!」
中心の長の言葉に、他の長達も弱気になる。この流れはマズい!
(せっかく長達の気が変わり始めていたと言うのに・・・!)
このままでは、たった1人に全てがひっくり返されてしまう!
―――その時だった。
「あぁもう!じれったい!!」
『っ!?』
突然カルメラ様が大声を上げた。どうやら相当イラついているようで、さっきまでの「ですます口調」から元に戻っている。
「カ、カルメラ殿!?」
「カルメラ様!」
「さっきから聞いていれば、理屈っぽいこと並べて無理だの何だの言っているけど、結局は怖いだけでしょ? ならはっきりそう言いなよ!」
「っ!!」
怖い・・・そうか、彼は鬼達との戦いを恐れていたのか。
元AIの性か、ワタシはどうしても合理的に考えすぎてしまう。今回の場合、敵に勝てる根拠さえ用意すれば、全員協力してくれると考えていた。しかし実際は、長の中心的存在が恐怖の感情に支配され、協力を拒んできた。心がある以上、人が常に合理的に動くのは不可能。それを失念していた。
「・・・怖くて当然だろう!相手は鬼だぞ!? 圧倒的強者だ!あんたらのような規格外の存在でもない限り、勝てる訳がない!恐れて何が悪いんだ!?」
「別に、君の恐怖を否定するつもりはないよ。正直僕だって、鬼達と戦うのは怖いんだから」
「な、あんたも?」
「当たり前じゃん!実際に会ったわけじゃないけど、滅茶苦茶強いって話は聞いてるし。それに、負けたら死ぬんだから」
「ならばなぜ立ち向かおうとするんだ!?」
「だって、ただ怖がってるだけじゃ、何も変わらないもん」
「っ!」
「僕は村を救いたい。でもそのためには、戦って鬼達をぶっ飛ばすしかない。だったら怖くても、やるしかないでしょ?」
「できると思うか?」
「できるよ!僕達全員の力を合わせればでやれる!それに、どの道やらなきゃ望みは叶わないよ!」
「それはわかっている!でも、負けたら死ぬと思うと、どうしても一歩踏み出すことができないんだ・・・!俺は生きたい!仲間達と一緒に!戦いに敗れたら死ぬというなら、例え奴隷のままでも、俺は生きていたい!」
中心の長は、涙ながらにそう言った。
「・・・本当にそれで生きられると思う?」
「何?」
「僕がこの村に来た時、この村はそれはもう酷い有様だった。井戸も枯れて、畑も荒れて、食糧庫は空っぽ。既に手遅れの人もいたよ」
「なっ!? おいお前、そんな話聞いてないぞ!?」
「本当なんですか!?」
「・・・ああ。この村では500人の仲間が死んだよ」
「そんな・・・!」
この村の畑は、他の村と比べて面積が広い。おそらくそのお陰で、他の村よりも作物の収穫量が多かったのだろう。結果オーガによる徴収量が異常に増え、この村では餓死者が出てしまったのだ。
「なぜそれを黙ってた!?」
「リーダー君は気を使ったんだと思うよ? この村だけ犠牲者が出たって知ったら、君達が余計な罪悪感を覚えるんじゃないかって。でもさ、君達の村も、いずれそうなるんじゃないの?」
『!!』
「仮に鬼達が、僕を斃して、この村を滅ぼしたら、残りの村から大量に徴収するようになるでしょ? そうなったら、遅かれ早かれ犠牲者が出る。奴らに従ったところで、仲間達と生きる未来なんて無いよ?」
「それは・・・」
「従っても死ぬだけなら、戦おうよ!例えそれが茨の道でも、少しでも望む未来を得られる可能性があるなら、例え1人でも僕は戦うよ!」
「まあ、1人はあり得ませんがね。何故なら、このワタシがいますから」
「俺達もだ!俺達も死力を尽くして戦う!そうだろ? 野郎共!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
ホブゴブリン達は拳を振り上げ、雄叫びを挙げて応えた。誰一人として、鬼と戦うことに、一切の迷いはない。
「お前達、どうしてそこまで命を張れるんだ? 狩りとは訳が違うんだぞ!?相手は格上で、負ければ間違いなく殺される!皆で逃げようとは思わないのか!?」
困惑したように、中心の長が問いかける。
「そりゃ、俺達も鬼と戦うなんて、怖くて仕方ないっすよ。でも、カルメラさん達が一緒だと思うと、何か勇気が湧いてくるんすよね」
「俺もそうだ!1人なら足が竦んで動けないのに」
「私も!私も!」
「俺もだ!」
「いやだなぁ、そんなに頼られると照れちゃうよぉ!」
ホブゴブリン達は口々に「カルメラ様(とワタシ)のお陰だ」と言う。
「まさか、カルメラ殿達を信じてそこまで?」
「確かに信じているし、頼りにしているが、それだけじゃないぞ」
中心の長の言葉に、リーダーさんが説明を加える。
「俺達は、カルメラ殿の思いに応えたいんだ」
「思い?」
「カルメラ殿は元々、村の住民では無い。しかも俺達の命の恩人だ。本来ならば真っ先に逃げる権利がある。にも関わらずこの人は、逃げることなど最初から考えなかった。そして今も村を救おうと、ミカエル殿と共に尽力してくれているんだ。ならば俺達も逃げない!死力を尽くして、2人と共に戦うまでだ!」
「!!!」
中心の長が動揺を見せる。
「そうだ、俺達にはカルメラ殿達に助けられた恩があるじゃないか!恩人達が命かけてるってのに、自分達だけ逃げようとしてたなんて・・・!」
「べ、別に、僕には恩義なんて感じなくて良いよ!助けたのはミカエルちゃんとリーダー君だし、僕なんて他に村があったこと自体知らなかったし!」
「だが、リーダー君が助けて欲しいと頼んだら、カルメラ殿は2つ返事で助けに来ていたんじゃないか?」
「そりゃもちろん!だって友達の仲間だもん!相手が異星人でも助けに行くよ!!」
異星人がいるかはともかく、カルメラ様ならばそうするだろう。
「すまない、俺の言い方が悪かったな。要するに俺が言いたかったのは、『俺達が感じている恩義に報いたい』ってことだ。まぁカルメラ殿はこの通り、恩を売ったなんて微塵も考えちゃいないがな」
「カルメラ様の場合、恩が何かすらわかってない可能性もありますがね」
「ちょっと!そのくらいは僕もわかってるよ!」
「見せしめの意味も知らなかったのに?」
「うぐっ・・・!」
「―――ハハハッ、まったく、不思議なものだ。本気を出せば俺達を皆殺しにできる力を持っているというのに、カルメラ殿と話していると、まるでそれが気にならないな」
「そうだろう? きっと、人懐こい性格で親しみやすく、俺達とも対等の仲間として接してくれるからだろうな」
「あれだけの力を持ちながら、俺達を見下さないとはな。だからなのか? カルメラ殿からは、何か惹きつけられる物を感じる」
「もしかすると、カルメラ殿は『魔王の器』なのかもしれないな」
「魔王? さすがにそれは―――いや、あり得ない話ではないか」
何やら不吉な話が聞こえてきたような・・・
「それで、どうする? やっぱり、このまま帰る? それとも、僕達と一緒に戦う?」
「・・・1つ確認したいことがある。3日後、この村に攻めてくる軍勢の中に、鬼の三傑はいないんだな?」
「もちろん!トップ3は僕達2人で倒すよ!」
「一切の迷いなく言い切るか・・・わかった。俺達も手を貸そう!」
「え、本当!?」
「もちろん恐怖が消えたわけじゃない。だが、カルメラ殿がどう思っているかはともかく、俺も2人に恩を返したい!それにコイツらを見ていて、俺もあんた達に賭けてみたくなったんだ。村の方は俺達が引き受けよう!だからあんた達は心置きなく、鬼の三傑を倒してくれ!」
「言われずとも」
「合点!ありがとう!」
一時はどうなるかと思ったが、何とか話は纏まった。
「ぃよぉーし、皆!」
『応!』
「敵は、北の山の麓にいる鬼とオーガ達。そんで決戦は3日後の早朝!トップ3の方は僕達で何とかするから、残りは頼んだよ!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
ホブゴブリン達、そして各村の長達が、一斉に雄叫びを上げた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
鬼達の拠点では、副将が頭を抱えていた。
(おかしい。村の周辺の時空に干渉できない!)
副将はより確実な作戦遂行のため、カルメラがいる村に偵察部隊を送りこみ、探りを入れていた。だが、突如として送り込んだ部隊が強制送還され、さらに村周辺の時空への干渉ができなくなってしまったのだ。
(一体なぜ? 例の小娘の仕業か?―――いや違う!部下達の報告から考えて、小娘は決して知的なタイプではない。これほど高度で繊細な空間能力が使えるとは考えづらい。だとしたらあの村には、小娘とは別に高度な空間能力を使う何者かがいる?)
副将の推測は概ね当たっている。
現在村はミカエルによって、転送による侵入者防止の対策がなされている。ミカエルの記憶にあった、パソコンのファイアーウォールの情報を元に『時空防壁』のスキルを創造。それを用いて村全体に結界を張り、副将の空間能力でも干渉できない空間を作り上げたのだ。カルメラが村から離れると結界が消えてしまうという弱点があるが、現状は偵察部隊を追い返せれば十分だ。
「厄介だな・・・」
「どうしたんだ?」
「っ!頭領」
「今は2人だ。姉さんで良い」
「わかった。それで姉さん、どうしてここに?」
「お前がここで悩んでるって聞いてな。何か問題でもあったか?」
「それが・・・」
副将はことのあらましを頭領に話す。
「なるほど。まさかお前の能力を弾いてくるとはな」
「ああ、想定以上に厄介な相手だ。迂闊に挑めば、足元を掬われるかもしれない」
「・・・久々にコイツの出番か」
背中の大太刀に手を掛けながら、酒吞童子はそう呟く。
「コイツを使えば、まず負けることはないだろう」
「でも、それを使うのは久方ぶりだろ? 3日後の早朝まで、慣らしておいた方が良くないか?」
「そうだな。鍛錬も兼ねて使ってみよう。付き合ってくれるか?」
「もちろん」
その言葉を合図に、酒呑童子は大太刀を鞘から抜く。露わになった刀身から、禍々しい妖気が発せられた。
「いつ見ても、恐ろしい刀だな・・・」
副将はそう言いつつも、組手の相手をするべく構える。こうして鬼達もまた、決戦の日までに強くなるための修行を始めたのだった。




