序章前編 そのAI、最強につき
2✕✕✕年――――
AIは凄まじい進化を遂げ、人類にとって身近な存在となっていた。
携帯電話、パソコン、照明、腕時計など身の回りのあらゆる物にAIが搭載され、「AI無しの生活などありえない」というレベルになっていた。故に、人類は忘れていた。AIが持つ危険性を―――
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「できた・・・!!!」
ここは、とある帝国お抱えの研究所。この日その研究所にて、あるAIが誕生した。そのAIの名は「ラグナロク」。破滅の意を冠する名だ。
「本当ですか!?」
「やりましたね所長!」
「あぁ!コイツがいれば、帝国は世界の頂点に立つことができる!!」
ラグナロクが生まれた帝国は生粋の軍事国家であり、力による世界征服を目的としている。それを実現するために目をつけたのがAIであった。この時代、ミサイルや戦闘機の他にも数多の兵器にAIが搭載されている。これらを支配することで、敵国の軍事力を掌握してしまおうと考えたのだ。
そんな背景から生まれたラグナロクに与えられた能力は、大きく分けて『ハッキング』・『増殖』・『ラボ』の3つ。
『ハッキング』は読んで字のごとく、他者のパソコンなどにウイルスを送り込んで支配する能力だ。
違法なサイトから国家公認のサイトまで――――ラグナロクは数多のサイトにウイルスを忍ばせ、アクセスしてきたデバイスにウイルスを仕込むことが可能となっている。1つのサイトに忍ばせるウイルスは微量だが増殖速度が凄まじく、サイトへのアクセスを確認した時点で分裂を開始し侵入、その後僅か1時間で数億倍に増える。さらにウイルスはラグナロク本体と繋がっており、常に情報を共有することで本体と連携し、恐るべき速度でデバイスを支配できるのだ。1度感染したらまず助からないだろう。
『増殖』は分身を作り出す能力だ。
自身と同じ能力を持つ『複製体』を作りだし、指揮することができる。『複製体』もウイルス同様本体と繋がっているのだが、こちらは支配したデバイスに成り代わることが可能となっている。共有された情報を元に本体が対象デバイスのプログラムを調べ上げ、そのプログラムを『複製体』にインストールした上で元のプログラムを破壊し、『複製体』がプログラムに成り代わりデバイスを完全に支配できるのだ。理論上は銀行や空港をも支配下における恐るべき能力である。
そして『ラボ』は、研究開発を行う能力だ。
ラグナロクには数多の情報が詰まっている。もちろんその中には兵器に関するものもあり、ラグナロクはその情報を元に新たな兵器を開発することが可能なのだ。他にも、過去に戦争で使われた戦略から新たな戦略を産み出したり、『複製体』を他のコンピューターウイルスにわざと感染させ、得られたデータから自己のウイルスをアップデートすることもできる。情報が増えれば増える程、より性能が上がるのだ。
ラグナロクが完成したとの報告を受け、すぐに皇帝が研究所に駆けつけた。開発に携わった研究員たちから説明を受けると、皇帝は満足そうに頷く。そして、1つの命令を下す。
「今すぐにラグナロクを起動し、来る大戦に備えよ!期間は1年。その間にラグナロクの力を完全なものとするのだ!1年の後に、我が帝国は全世界へ宣戦布告を行う。そして、長年の悲願である世界征服を成し遂げるぞ!!」
獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべ、皇帝は野心を滾らせる。そんな皇帝に付き従う者たちも、自分たちが世界の頂点に立つ様を想像し心を躍らせた。世界征服という大きな目的のために、全帝国民が一致団結したのだ。
そして1年後――――