2 私が嫌いな人は私を好き
「そういうところだろ」
答えたのはミッシェルではない。
リオン・ゴールド、私が嫌ってる男。黒い髪に意思の強い黒い瞳、性格も野心的。粗野で言葉も荒いが要所要所での動きが洗練されているためとにかく人の目を惹きつけ、この男に憧れてる人間も多い。
この男は現王の従兄弟の息子でミッシェルとは親戚。王位継承権は十六位だが才覚を評価されており、この国の要人になるだろうと皆が思っている。
「『そういうところ』とは、どういうことですの? そもそも話の横入りはマナー違反ですのよ」
そう反論するとゲラゲラと貴族にあるまじき笑い方をして、
「口調は変わっても中身は全然変わってないな。目つきも昔と同じだ」
幼馴染、腐れ縁とはこういうところが嫌なのだ。人の埋めたくなる過去を簡単に掘り起こしてくる。犬か。ミッシェルの昔話ならいくら思い起こしても素敵なのだが。
「なんのことか全くわかりませんが、今はミッシェルに話しかけているのです。用があるのならあとにしてくださいね」
嫌な男から目をそらして好きな男性の方に向き直ると、そこには誰もいなかった。
「あ、逃げた」
「あなたが余計な口出しをするから、ミッシェルが呆れてしまったのではないですか」
何も逃げなくていいのにとモヤモヤしながらも、この男はミッシェルが私を避ける理由を知ってそうなので、仕方ないが聞いてみることにする。
「あなたのせいでミッシェルから答を聞く機会を逃してしまいましたわ。代わりに教えて下さいね。わかると言うのなら」
「知らねえよ。でも、そういうとこだろ、想像するに」
「そういうところ、とは?」
「だから、その押しの強さだよ。口調や仕草だけだと隠しきれてない。俺は好きだけどな」
恥も衒いもなくそう言ってのけ、にっと笑って白い歯を見せる。周りにいる令嬢のみならず令息までキャーと黄色い声を上げている。
この場には親しい友人たちしかいない。そしてこのやり取りは毎度のことでもあった。この男は人前でよく私に告白をするのだ。
私は耐えきれずため息をついてしまう。
「私はあなたのその雑なところが嫌いですけどね」