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ししゃも外伝  作者: 海鼠
8/9

戦う乙女達と切れる○○才

またかよ、ってもう自分で呟くようになってしまったまたもや久しぶりな海鼠です。

自分の不甲斐なさで一杯でございます。毎日更新や、二三日間隔更新の作者様方には心から尊敬する次第です。

作者の雀の涙にも満たない国語力では、作中での表現法が限られる上、マルチタスクに向かないシングルコア脳では中々執筆への思考が働かず、書くのにやたら時間がかかっております。

ししゃも本編においては、あっちの方が投げっぱなしジャーマン状態という情けなさ。誰か変わりに書いてくれないかなーって他力本願寺も、二つや三つは建っているぐらいです。

思った事を自動的に文書化してくれる、夢の様な装置を開発してくれる天才様はいらっしゃらないものですかねぇ。

あとPVが一万を突破しました。足を運んで下さった方には感謝致します。

今回も言い訳&愚痴全開でしたが、戯言と鼻で笑いつつ、どうぞ続きをお楽しみ下さい。

 一時も目が離せないでいた。

 雪の様に白い髪。金を内包した宝石の如き瞳は、静かにこちらを見下ろしている。美しいという言葉さえ陳腐に聞こえる程に整った容姿は、氷の様に冷えきった無表情であっても、否、であるからこそこの世のものとは思えぬのだろうか。

 体のラインがハッキリとした薄手の服の上から、胸や肩、腕などいくつものパーツに別れた防具を身につけている。無手は力無くだらりと下げられ、見たところ武器らしきものはない。

「まるでユウキ殿と瓜二つだ……」

 俺の気持ちを代弁する様に、アセイルさんが呟いていた。事実その通り、差異を探せど髪の長さしか見当たらない。俺が腰までの長い髪を持つのに対し、そっくりさんはショートカットだった。

「ターツ、剣を持った女を排除せよ。手段は問わん。ただし、もう片方は何があっても傷一つつけるな」

 ルーンの言葉に返事はせずとも、ターツと呼ばれた少女の瞳に意思の色が宿った。どこも見ていなかった視線が、今ようやく現実に焦点が合わさった様に。

「エヴェット」

 少女が俺と全く同じ声で小さく呟き、同時に何もない虚空へと手を伸ばす。途端、奇妙な波動を感じたと共に、巨大な斧が出現した。

 磨かれた金属特有の鈍い輝きを放つ、少女の胴体よりも大きな刃渡りの斧。柄の部分だけでも、少女の足先から首程までの長さがある。片手で扱うには明らかに大きすぎるそれは、例え両手であろうとも少女の体格には不釣り合いな大きさだった。

 宙に浮いていた斧を、ターツがその手に掴む。


―――ミシミシ、メキメキ、ボキン!


 同時に、ターツの乗っていた枝が無残にも折れた。

「………」

 とはいえ、ターツは危なげなく着地し、今足元に転がる枝を見つめている。

 いやまあ、そりゃあんな重そうなもの持ってたら木も折れるよな。

 シリアスから一転して、微妙な空気が流れる。隣のアセイルさんも、どんな反応を示せば良いのか判断に困っている様だった。

「………」

「な、何かな?」

 ターツがこちらをじっと見つめて来る。俺は何もしてないよ?

「これ……」

 何を思ったか、徐に両手で掴んだ斧を胸の高さまで掲げた。

「これの、せい……」

「へ?」

「木が折れたの、これのせい……」

 あー、つまり自分の体重が重いんじゃなくて、斧の重みで折れたって事を言いたいのか?

「あー、うん、そうだね。重そうだもんね」

 正直、俺に同意を求めてどうなると言うのか。無難な返事を返しておこう。

 しかし、ターツの眉間に小さくシワが走り、どことなく不機嫌さを顕わにした表情を浮かべてきた。

 同意したのに何故だ……。

「ユウキ殿、敵と戯れてどうする。お主、ターツといったな」

 その刹那、アセイルさんが一足でターツの元に飛び込み、

「貴様の相手は、この私だ!」

 抜き身の剣で一閃した。

 しかし、ターツは身を翻し、あっさりと躱す。

 枯れ枝とはいえ、容易く折れる程の重い斧を持っているにも関わらず、その所作には重みを一切感じさせなかった。その証拠に、低い風切音を響かせながら、片手であの斧を振り回して反撃している。

 あれが何でできてるのか解らないが、見た目通りの相当な重さだろう。それを軽々と振り回すなんて、理解できない不思議な力が働いているのか、単純に彼女がバカがつく程力持ちなのか。

「ぬ……!」

 およそ人が成す動作とは掛け離れた動きを見せるターツに、アセイルさんが退く。アセイルさんの持つ片手用の剣では、迂闊に受ければへし折れるか、折れぬまでも圧力で剣ごと体に叩きつけられてしまいかねない。ましてや、それをまるで短剣の如く軽々と、そして矢継ぎ早に振り回されては堪らない筈だ。

 退いたアセイルさんを追撃する気配はない。ふーっと、深く息を吐きだし、少し乱れた呼吸を整えているアセイルさんの様子を、ただ静かに観察している。

「余裕だな」

「……」

 答えはない。予想を超えた反撃に、思わず下がったアセイルさんを仕留めるチャンスだった筈なのに、相手が体勢を整える時間を与えるなど、余裕と取られても仕方ないだろう。

「侮っていたのはお互い様か」

 微笑み混じりにそう呟いたアセイルさんは、一度剣を鞘へと仕舞った。

「ならば私も本気を出そう」

 そして、アセイルさんは虚空へと手を伸ばす。先程、ターツがそうしたのと同じく。

「アヴォート!」

 高らかに宣言した言葉は、周囲の気配を一変させた。まるで空気が彼女に集まるかの様な錯覚を抱かせる。

「我は望む。其は悠久の時に眠る黒曜の刃を。闇を統べる魔王を引き裂きし剣を。凡百に過ぎぬこの身なれど、願わくば幾許の力を授けん事を。

 捧げしは忠誠の志。意志の力を対価とし、奇跡を望まん!」

 魔術の事を知らない俺でも、何か凄い力がアセイルさんを中心に渦巻いているのがわかる。

「いざ舞い降りよ! 黒曜剣ロウ・リオルース!」

 言葉と共に、まるで爆風に体を押された様な錯覚を感じた。

 一瞬の閃光の後、アセイルさんは先程までなかった、真っ黒い剣を握っている。その剣からは、言い知れぬ何かを漂わせていた。

「ふむ、レプリカか」

 物言わぬ二人の代わりに、ルーンが口を開く。

「油断せずにな、ターツ。所詮はレプリカだが、力の一端は本物だ」

 ターツは返事をしない。アセイルさんの持つ剣を見た途端、彼女の纏う気配が変わった。それは、あれが侮れぬと読み取ってなのか。

「行くぞ!」

 仕掛けたのは再びアセイルさんから。先とは比べものにならない鋭さで、黒い剣が走る。

 それを、ターツは大斧で迎え撃った。


―――ガギイイィィィン!


 金属の打ち合う大音響が走った。

 剣と斧が合わさり、一瞬の拮抗。各々が持つ武器の不釣り合いな体格差にも関わらず、剣が耐えられる事も、アセイルさんが受け止めた事にも驚くが、更に信じられない光景が飛び込む。

 打ち合った両者は一瞬の鍔ぜり合いの後、アセイルさんがその腕を振り切った。明らかに自身を超える重量と膂力に対し、それをものともせず弾き返したのだ。

「く……」

 先程まで無表情であったターツが、眉間に小さくシワを寄せ声を零した。

 後ろに大きく飛ばされたターツを追い打つ為に、アセイルさんが容赦ない一撃を加える。それを、ターツは斧の柄で受けた。

「くぁっ!」

 ターツの体が再び、枯れ木の様に斧ごと弾き飛ばされた。

 あっさりと形勢は逆転していた。受け止める事のできない一撃を、今度はアセイルさんが放っていた。

「急展開過ぎてついて行けない……」

 一連の流れを、ただ呆然と立ち尽くしているしか出来ない俺。迂闊に飛び込んでは間違いなく死ねる。何とかして呼び止めたいのだが、アセイルさんの注意を逸らすのも危ない。

 負けじとターツが反撃し、二人の戦いは尚も続く。

「こら、ルーン! お前、二人を止めろよ!」

 未だ木の上に立つルーン。煙りとなんとか(馬鹿)は高い所が好き、という言葉に間違いはないようだ。

「断る。汝が我と来ない限り、退ける気はない」

「く……、もういい! 俺が何とかする!」

 やっぱり変態を当てにするのは無駄という事か。

 ガキンガキンと互いの武器をぶつけ合う二人の側に走り、声を大にして叫ぶ。

「二人とも止めろ!」

 右に左に動き回る二人は、戦いに夢中で聞こえてない様だ。

「頼むから止めてくれ! 争う必要なんてないんだ!!」

 むしろ互いに喧嘩を売り合った結果がこれなんだが、そこはあえて黙っておく。気分はさながら、止めて!私の為に争わないで!って所だが、流石に今の自分の状況でそれをやってしまうと洒落にならんので言わない。

「止めるんだ! 止め……、って聞けよコラァ!!」

 必死に叫ぶも、一向に止める気配はない。さっきから戦いがエスカレートして、変な球が飛び交っては爆音があちこちで上がっている。

 完全スルーですか。そうですか。

 人の話は聞かない変態に、人の都合は考えない変態に、勝手に争う戦闘狂。

 正直、こちらの世界に来てから理不尽ばかりで、いい加減我慢も限界だ。当事者無視して好き勝手やりやがって。


 だから良いよね。ブチ切れちゃっても。


 二人が互いに距離を取り、再び切り結ぼうとするその隙に、俺は割り込む様にして間に立つ。

「なっ!?」

「……!?」

 驚愕に染まった二人の表情が、振り下ろされる武器と共に見えた。このままでは、二人は止める事も出来ずに、俺は無惨にも切り殺されてしまうだろう。

 でも俺は別に、死ぬ為に出てきた訳じゃない。

 何故なら、『止められる事を確信している』から。


 アセイルさんの黒い剣が、俺の体を両断せんと、振り上げられる。

 迫り来るのは、黒曜剣リオルース。そのレプリカ。

 この武器は特別だ。如何なる物理攻撃、防御に対して、絶対の優位性を持ってる。生半な防御じゃ、弾き飛ばされてしまうのがオチだ。

 ならば話は簡単。相殺してしまえば良い。同じ威力、同じ特性を持ってすれば、防ぐのは容易い。

 黒い刃に向かって、俺は腕を振る。高らかな金属音が鳴り響き、アセイルさんの剣は、俺が持つ黒い剣によってその動きを止められた。

「な……、に?」

 アセイルさんの表情を確認する事なく、視線は次にターツへと向けられる。

 身の丈を超える大斧は、振り下ろす形で襲い来る。必殺の威力を持って舞い降りる殺意の塊は、瞬きにも満たない時間でもって、俺の体を、人からただの肉へと変貌させてくれる事だろう。

 魔術によって作り出された斧は、幾許かの特性を付加されて顕現されている。

 法則性を無視した魔術構成だが、その特性は全て物理現象に準じており、それ故、防ぐに小細工はいらない。

 こちらが物理法則を少し無視してやるだけで……、ほら、手で受け止める事ができるのだから。

「………」

 呆けた表情のターツが少し可笑しい。俺と全く作りの同じ顔は、間の抜けた表情でも美しさに曇りはない。

 不意を突いた形で双方の攻撃を止めさせ、同時に俺が間に入った事で次への身動きを封じる。

 意図してではなかった。全て、頭に血が上って無意識にやった事。

「いい加減にしろよ!」

 精一杯、声にドスを効かせた。可愛らしくなってしまった声だが、多少の凄みは出ただろう。

 押し返す様にして、二人武器を弾く。

「人の話を聞きもしない。人を理由に好き勝手に争う。人の静止も無視する。争いたいなら好きにすればいいさ。でも、それに俺を巻き込むなよ」

 ルーンとアセイルさんを睨みつける。

 全く応えた様子のないルーンだったが、アセイルさんは気不味そうに視線を逸らした。

「喧嘩したいっていうなら、余所でやってくれ。俺はただ、元にょへかいに……」

 あれ、何だか突然口が上手く動かなくなってきたぞ。それに、視界もなんか暗くないか?

「はれ……? なんれ、ほんな……」

 足に力が入らない。いや、足だけじゃなく体も……。あぁ、瞼が開けてられない。凄く眠くなってきた。

「ゆ、ユウキ殿!?」

 アセイルさんの声が凄く遠くに聞こえる。


 ……あれ? ここから俺のターンじゃなかったの?


 その思考を最後に、俺の意識は途絶えてしまった。


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