表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ししゃも外伝  作者: 海鼠
7/9

ある日森の中、変態と出会った

最近の景気の悪さはどうにかならんもんでしょうかね。またもや久々な海鼠です。

いえ、話の展開は決まってて、後は書くだけという状況なんですが、中々手が進まないというか、書くための頭が回らないというか。

なんかもう前書きが言い訳のコーナーみたいになってます。ここで予防線を張りつつ、ちょっと更新が遅れても仕方ないよね♪とかいう、こすい考えでは決してありませんので悪しからず。……本当ですよ?

あと、お気に入り登録がじわじわと増えていました。読者様には感謝です。こんな明日をも知れぬ小説ですが、期待を寄せてくれる方々の為に頑張りたいと思います。

では続きをお楽しみ下さい。

 馬車に揺られる事数刻。街から離れ、今はもう文明と呼べるものは舗装された街道ぐらいしかない。

 かつて俺が彷徨った目的地である森は、イステスの森と呼ばれ、手付かずで広大な未開拓の森林だった。その森自体、特別目立った特徴はなく、単に近隣にあるイステスという街に近いからイステスの森と呼ばれているだけでしかない。危険な獣もおらず、自然があるがままに存在している、そんな森。

 以上の情報を懇切丁寧に教えてくれたアセイルさんと、その部下三人と共に、俺達は早速イステスの森へと足を踏み入れた。

 先日オーファスに頼んだ時の捜索は、手がかりらしきものは何一つなかった。人数も十数人程度と少なかったものの、こんな辺鄙な場所に家があればすぐにわかりそうなもの。もしかするとオーファスが情報を握り潰していた可能性はなくもないが、わざわざそうするメリットも薄い気がする。仮に隠していたとして、俺が出向けば嘘がばれるのだから、自ら送り出す事はしないだろう。

 となれば場所を間違えている事になるが、地図を見るに大きな森はここ以外にはなかった。

 木々を切り開いて進むアセイルさんを先頭に、俺を囲む形で兵士が隊列を組んでいる。時折チラチラとこちらに視線を向けてくるのは護衛の一環だろうか。

 ならばなるべく視線は気にしない様にと、俺は前を進むアセイルさんの背中を追った。


「ユウキ殿は何故この様な場所に出向いたのだろうか?」

 静かな森の中、アセイルさんがそう問い掛けてきた。

 何故と言われても、返答に困る。問う、という事は、オーファスのやつは詳しい事情を説明していないのだろう。まぁ、女性だと思っていた少女は実は男性なんです、なんて説明されれば、まずそいつの精神状態を疑う話だ。

 しかし理由も知らず、預かった命令を忠実に守るその姿勢は、忠誠を誓う騎士っぽくてかっこいい。

 ……などと感心している場合じゃなかった。

「えぇっ……と」

 適当な理由を探すも、そう簡単には思いつかない。いやそもそも俺はここに一人で来るつもりだったから、誰かに手伝ってもらう為の理由なんて考えてもいないし。

「じ、実は、この森に棲む悪の研究者に大事なものを奪われたのです。それはとてもとても大事なもので、俺の人生といっても過言じゃないそれを、取り返したいんです」

 だからそんな感じにでっちあげてしまった。

 でもあながち間違いじゃない。俺は男という肉体を奪われ、さらにはこんな世界に連れて来られて人生を狂わされた。……うむ、そんなに大きく間違っちゃいないな。

「なんと……。そのような邪悪なる者がこの森に。ユウキ殿のような幼気でか弱い女子から略奪を行うなど言語道断。人の風上にも置けぬ、否、もはや悪鬼羅刹の所業。一切の慈悲なく、見つけ次第私の剣の錆にしてくれる」

 ただ誤算としては、何故かアセイルさんが変な熱の入り方をしてしまったぐらいか。いきなり切り掛かったりしないよね。出会い頭に袈裟懸けに切り伏せようものなら、俺の手掛かりが途絶えてしまいかねない。

 ミネイラさん同様、この世界には短絡的な思考の人が多いのだろうか、と思いながら、一行は森のさらに奥へと足を踏み入れた。





 どれ程進んだだろうか。道なき道を進んで行き、休憩の為に枯れて倒れた木の上に腰掛ける。アセイルさんが俺の側に付き、部下達は軽く周辺の探索に出向いた。

「ふぅ……」

 足の調子は悪くなく、不安定な足場でもこれといった痛みはなかった。

 しかし、男の時は体力に自信を持てるぐらいには鍛えていたのだが、今のこの体はどうも運動には向いていないらしく、ここまで歩いて来ただけで体のあちこちに疲労感が広がっている。腕も足も筋肉は薄く、肉体労働をしていた体には到底見えない。

「これは鍛えなきゃなぁ……」

 とはいえこの体が誰のものかはわからないから、勝手に鍛えていいものかどうか。

「ユウキ殿、一つ聞き忘れた事があるのだが」

 と、俺が手足を触っていると、アセイルさんが地図を仕舞いながら言った。

「その悪の研究者とは、一体どのような風体なのだろうか?」

 そんな大事な事を聞き忘れるかと思ったが、俺も説明してなかったので黙っておこう。

「ここは人気のない森であるから、不審な人物ならば切って捨てれば問題ないだろうと思ったのだが、やはり万が一もあるだろうと」

「いや問題大有りでしょう。つかなんでそんな好戦的なんですか……」

 切り捨て御免とか、あんた武士ですか?

「卑劣な者というのは、時を与える度に厄介な策を労するもの。ならば初見で瞬時に決着をつけたほうが確実だ」

「だから切っちゃ駄目ですって……」

 いつの間に捜索から討伐に目的が変わったんでしょうか。

「まあ覚えてる背格好ぐらいしか教えられませんが、そうですねぇ」

 白衣の変態は出会いから強烈だったからそう記憶は薄れてないのだが、ベッドに飛び込んで来そうになったあの光景もセットになって浮かんでくるからあまり思い出したくもない。

「髪は短め、四角い眼鏡をかけて切れ長の目で、体格も学者らしく華奢でしたね」

「ふむ。これといった特徴はないだろうか」

「う〜ん、特徴ですか……」

 特別容姿がよかったわけでもなく、体格も貧弱。平凡といってしまえる姿は、強く印象付ける要素がない。

「あ」

「如何した?」

「いえあの、その特徴なんですが……」

 あるにはある。しかしこれを特徴といっていいのだろうか……。

「特徴が?」

「馬鹿っぽかったです」

「ば……、馬鹿……?」

「えぇ馬鹿です」

 突然の発言に、アセイルさんは戸惑っていた。しかし、おそらく一目見れば理解してくれると思うのだが。

「フハハハハハハ!!」

 丁度その時、ざわめく木々の音を掻き消す様にして笑い声が木霊した。

 同時に、そのどこかで聞いたことのある声色に、俺の表情に苦みが走る。

「聞こえる、聞こえるぞ! 我が愛しき妻の、我を想う声が!」

 辺りを見回し声の正体を探れば、一本の枯れた大木の枝の上にそれは居た。俺達を見下ろし、今は白衣ではなく黒いマントをはためかせている。

「久しいな我が妻よ。息災でなにより」

 妻じゃねえ。

「この果ての見えぬ広き世界で、互いの存在を見失う事なく、こうして再び出会えたのはもはや運命。いかなる邪悪な意図を持ってしても引き裂けぬ我等が(えにし)は、もはや神すら認める程に強く、そして世界であれど御せぬ程に大きい!」

 両手を空高く掲げ、無駄に力強く、呆れる程仰々しい仕種で喜びを表現している。

 出会いたくない人ランキングトップを二番手とせめぎ合いながらひた走る人物は、やはり輝かしい王座を手にするに相応しい。ぶっちゃけるとウザイ。

「なるほど。確かに馬鹿だ」

 隣で聞いていたアセイルさんが呟いた。わかって頂けて何よりです。

「さあ、妻よ。我等と共に、我等の愛の巣へ戻ろう。愛を育み、新たなる命を我等の手で創造するのだ!」

 それって要するに『子作りしたい』だよな。

 襲われそうになった時の出来事が思い出され、体に走った寒気に腕をさする。犯されになど誰が帰るか。

 俺が断固拒否の言葉を放つよりも早く、アセイルさんが間を阻む様に立ち塞がる。

「ユウキ殿には帰るべき場所がある。それはこの様な人の住まわぬ僻地などではない。人が住み、愛する家族の温かみに包まれた帰るべき家だ」

「アセイルさん……」

 知り合って間もないのに、そんなにも俺の事を……。

「女よ。我等の逢瀬を邪魔だてするとは、神罰が下るぞ」

「笑止! 神罰が下るべきは貴様の方だ。愛する者同士を引き裂かんとする人皮畜生め」

 ん? 愛する者同士?

「彼女が帰るべきは、我が主、オーファス様の元だ!」

「い、いやいやいや!?」

 やっぱりこの人誤解してるよ! あいつも何気に同類なんですよ!?

「ちょっとアセイルさん、勘違いしないで下さいね!? 俺はオーファスの事なんて、別になんとも思ってないですから!?」

「なんと!? ではまさかあの男の元へ……?」

「ふ、どこの馬の骨かは知らぬが、我に勝とうなどと身の程知らずめ」

「それも有り得ないっていうか、なんで二択限定でしか物事考えられんのですか!?」

 どっちもない、とは考えつかんのかオマエラは。

「で、ではまさか、私の事を……? 私達は女同士であって、いくらなんでも世間が……。いや、愛する者達にとって、そんなもの障害にすらならんのかもしれないが……」

「顔真っ赤にしながら人の性癖をでっちあげないで下さいよ!?」

 一体どういう経緯でその考えに至ったのか激しく疑問だ。

「駄目だ! 百合などという禁断の地へ赴くなど我が許さん!」

 お前はちょっと黙ってろ。

「誤解しないで下さいねアセイルさん。俺はあくまでノーマルですし、こいつやオーファスと恋仲になる気は例え世界が滅んでも有り得ませんから。そりゃアセイルさんは確かに綺麗で凛々しいですけど、恋愛感情はと聞かれれば否定せずにはいられませんし」

「そ、そうなのか……」

 くぅ……、いつもはキリッとしているアセイルさんの、しょんぼりした姿に萌えた。いや、そうじゃなくて。

「とにかく、俺はあいつに聞きたい事があってここに来たんです。決して色っぽい話があるわけじゃないんで」

 未だ木の上に仁王立ちしたままの変態ことルーンに向き直る。黒いマントが華奢な体と不釣り合いで、なんだか子供のお遊戯会の衣装の様な雰囲気だ。

「ルーン・フェイルテル!」

「あぁ、初めて名前で呼んでくれたな。やはり我等は共にある運命」

 いやもう突っ込むのも疲れたから。

「お前に聞きたい事がある」

「如何なる問いをも答えてやろう……、と言いたいところだが、条件がある」

「条件?」

「うむ。何、ごく簡単な事だ。我が妻よ、我と共に来い。ならば如何なる問いをも答えてやろう」

「どこが簡単!?」

 人生諦められるか、ぐらいの難関じゃないか。

「でなければ答えてやらん」

 子供みたくプイッと顔を逸らすルーン。野郎がやっても全然可愛くないなぁ。

「ユウキ殿。この様な輩と問答しても時間の無駄。ここは素直に、体に聞くのが一番手っ取り早い」

「ほぅ……。我に刃を向けるか、女」

 シャランと音を響かせて、アセイルさんが剣を抜く。やっぱり好戦的だなこの人。

「ちょ、待って、殺しちゃ駄目ですよ!?」

「何、手足の一本や二本なくなろうとも口は動かせる。芋虫の様にはいつくばる姿はさぞ滑稽だろう、くくく……」

「怖っ! ていうか口が動かせても失血死しますから!?」

 なんだか猟奇的になってきた。どう見てもルーンのもやしの様な体じゃ、アセイルさんに勝てそうもなさそう。このままでは一方的な拷問が始まってしまう。

「案ずるな我が妻よ。この様に粗野で野蛮で蛮骨で、蛮的で土蛮で原始的な土人に我を害する事など出来よう筈もあるまい」

 容赦ねえな……。

「バンバンと喧しい! さあ、そこから下りて私と戦え!」

 あ、ちょっとムカついたらしい。ガソリンにナパームぶち込む様な事して、俺は知らんぞ。

「そう急くな。愚かしいお前の相手をするのは私ではない。……ターツ」

「はい」

 いつの間にか、枯れ木の枝に、少女が一人立っていた。名を呼ばれ、感情のない返事が不思議と辺りに響く。

「な……」

 俺の隣でアセイルさんが驚きの声を上げている。俺も同様、驚きに声すら上げられなかった。

 それは決して、突如にして現れたからではない。驚きが向けられたのは、少女が持つ容姿に対してだ。

「俺と同じ顔……?」

 白い髪に、金の瞳。かつて俺が鏡で見た顔と全く同じ造りをしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ