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ししゃも外伝  作者: 海鼠
5/9

オーファスお前もか!!

 この世界に来て四日目。怪我の治りは思ったよりも早く、そろそろ自由に歩き回れるんじゃないかという頃、それは訪れた。

「失礼する」

 ノックをせず、突然ドアが開いて見知らぬ人が入ってきた。

 この部屋に訪れる人間は限られている。いわば拾い主であるオーファスを始めとし、世話係のミネイラさん、聞けば使用人を束ねる立場にいるというリュラさん、その他は医者ぐらいなものだ。

 現れた人物は、軽装の鎧を纏った女性。目元にかかる程度の長さの黒髪に、やや切れ長の黒い瞳を持つ。年の頃は20代前半といったところだろうか。

 女性は俺の姿を認めると、眉間にシワを寄せた。

「君がユウキか。私の名はアセイル・テモレス。王族直属の身辺警護衛士隊、通称近衛の第二隊隊長だ」

 女性らしくも凜とした発声で紡がれる言葉は、とてもよく耳に通る。

「はぁ、その隊長さんが何のご用ですか?」

「何が目的でオーファス様に近づいた」

「……はい?」

 近づいたって俺が?

「やはり地位や権力が目的か?

 いかなオーファス様といえど、男子には変わりない。どのような色仕掛けで篭絡したのかは、後ほど詳しく聞こう。だが今は、君の狙いを暴かねばならぬ。

 さあ言え! オーファス様の婚約者になって、一体何を手に入れようとしている!?」

 ……え?

「えええぇぇ!?」

 こ、婚約者!? なにそれ!?

「ち、ちょっとその話を詳しく教えてください!!」

「いや、今は君の話をだな……」

「んなもんは後回しでいいんです!!」

「あ、あぁ、わかった……」

 俺の剣幕に押されてか、アセイルさんが一歩後退った。


 最近、オーファスが頻繁に口にしていたらしい。とある少女に一目惚れしたのだと。

 それは野盗に攫われそうになっていた少女だというのだが、名前以外の記憶がないらしい。一旦は保護したが、惚れてしまったオーファスは婚約者にしたいと各方面に言いまくっているという。

「な、に、を……」

 そんな事は一言も聞いてないし、頼んでもいないし、素振りも見せていない。っていうか、オーファスには俺が元男だって事を話した筈なのに。

「何をやっとんじゃあの王子はああぁぁぁ!?」

 あの王子は人の話しを聞いてなかったのか? それともやはり信じてなかったのか?

「アセイルさん……」

「な、なんだろうか?」

「俺をオーファスの元にまで案内してください」

「い、いや、王子は今執務中で……、それより君は足に怪我をして……」

「案内してください。今! すぐに!」

「あ、あぁ、り、了解した!」

 薄い寝巻きのまま、俺はベッドから出る。足に体重がかかると、まだ完全に治ってはいない傷がピリピリと痛んだ。

 しかし、今の俺にはそんなもの全く気にならなかった。怒り心頭で、痛みが入り込む余地など一ミリとてなかったのだった。


「では君は、オーファス様の婚約者になるつもりなどなかった、という事かな?」

「当然です! 不本意も甚だしい!」

 アセイルさんの後ろで怒りのオーラを撒き散らしながら、オーファスの元へ向かう。寝巻きのままだったが、部屋を出た時丁度席を外していたミネイラさんが戻り、出掛けるならと肩掛けをくれた。

 ややこしい上にあまり人に聞かれたくない話であるから、ミネイラさんには部屋で待っていてもらう事にした。行き先を聞かれ、オーファスの元だと告げた時、ミネイラさんが「やはり愛しい人の側には少しでも居たいものなのですね!」なんて言っていたから、既に手遅れ感バッチリな様子だったが……。

 とにかく、ミネイラさんやアセイルさんの耳に届くほど噂が広まっている、否、むしろオーファスが広めているのかもしれないが、なんにせよオーファスの真意を知る為にも、一度じっくり話合わなければならない。

 部屋の外をこうして出歩くのは初めてだ。王子というだけあって、過ごしていた部屋があったのは、とても広い城の中だった。

 時折、驚きに目を開いている人や、何故か呆然としている人達とすれ違うが、頭に血の上った俺はそれらの視線は全く気にならない。今はとにかく、オーファスを問い詰めたい一心だった。

「ここがオーファス様の執務室だが……」

「失礼します!!」

 紹介されるよりも早く、強くノックして強引にドアを開けた。

 中にはオーファスを含め、数人居た。オーファスは大きな机の向こうで、書類を片手に思案していた様子だった。窓から差し込む光が、まるでよく出来た絵画を想像させた。

「おや、ユウキさん」

 騒がしさに気づいたのか、オーファスが破顔して俺を見る。おのれイケメン。何をしても絵になりやがる。

「どうしましたこんな場所に。いや、それよりも足の怪我は」

「どうでもいいです! それよりもオーファス。聞きたい事があります!」

 他の人がさん付けなのに、何故オーファスだけが呼び捨てなのかは理由がある。単に彼が呼び捨てにしてくれと頼んだだけなのだが。恩人に無礼は働けないといった俺に、では恩人からのお願いですと言われ、それならばと彼の願いを叶えている。

 無礼を働く事は極力したくはないのだが、妙な噂を広められている現状致し方ない。俺は周囲の人達の視線をものともせず、机を両手で叩いた。

「婚約者というのはどういう事です!?」

 一瞬、キョトンとしたオーファスだったが、まるで悪戯がばれてしまった様な、子供っぽい笑顔を浮かべる。

「もうばれてしまいましたか。出来ればもう少し事を大きくしてからの方が良かったのですが」

「冗談じゃない! 一体どういうつもりなんですか!?」

 例え女の体になったからといって、男とどうこうしようなど微塵にも思わない。考えるだけで寒気すらする。

「どうもこうも、言葉の通りですよ。貴女に恋してしまいました」

 少し恥ずかしそうに告白するオーファス。

 頬を染めるな頬を!

「な……、正気ですか!?」

「正気な上に本気ですよ」

「有り得ない! だ、だって俺はっ」

「おっと」

 男だと放とうとした言葉は、唇に触れたオーファスの指に止められた。

「それは二人きりの時だけにしておきましょう。何分、ここは人の目が多い」

 そう言われて、ようやく周囲に人がいる事を思い出した。

 俺は本来、この世界にいる人間じゃない。不特定の相手に、不用意に情報を公開するのは、あまり得策とは言えなかった。

 勢いを挫かれ、周囲の人の目を自覚してしまい、怒気が霧散し萎んでいく。

 とはいえオーファスの行いが正気とも思えず、尚も問い詰め様とした時、突然彼が膝を着いた。

「ユウキさん。まだ怪我が治っていない筈ですよ。さあ足を見せてください」

 椅子が運ばれ、座る事を促される。自覚してきた足の痛みは、微かに感じる湿り気と合わさって強い不快感となってきた。

 有無を言わさぬ様子に渋々椅子に座ると、オーファスが片足を取る。

 ここに来る前、ミネイラさんに靴を貰った。皮で出来ているがとても柔らかく、靴というより分厚い靴下の様な感触のもの。

 オーファスは優しく靴を外すと、その下にあった血が滲んだ包帯を見て眉を顰めた。

「やはり傷が開きましたね。私に会いに来てくださるのは嬉しいですが、無理をするのは感心できません」

 婚約者だなんて噂流して、無理をさせたのはどこのどいつだ。

 恨みがましい視線でオーファスを睨むも、柔らかい笑みであっさりと受け流される。

「マティオ、薬箱を持ってきてくれないか」

「は、畏まりました」

 初老の男性が一礼し部屋を出ていく。

 オーファスが包帯を外していき、素足が外気に晒された。

「ユウキさんは私の想いを信じられない様ですね」

「あ、当たり前じゃないすか!」

 本来は男の筈の相手に、恋だの愛だの信用できるか。いや、もしかしてそういう趣味の人? 男の人じゃないと愛せないとかいう、非生産的な趣向の人なのか!?

「何を考えているのか薄々わかりますけど、違いますよ。私は正常です」

「本当の事を知ってるのに、あんな噂流す人の言う事なんて信じられませんて!」

「まぁ、それに関しては同意しますが」

 完全に包帯が外され、血で濡れているのか、ヒヤリとした冷たさを感じる。

「まずは消毒しなくてはなりませんね」

「いえ、リュラさんに怒られますので、治療ぐらい自分でやります」

「駄目ですよ」

 足を引こうとするも、オーファスに捕まれた力の強さに負ける。

「私の本気を知って貰わなくてはなりませんから」

「ほ、本気……?」

 な、何だかオーファスの視線が怪しくなってきた。ゾクリとするというか、怖いと思ってしまうというか。

 何を思ったのか、オーファスが俺の足を少し上げ、

「ひぁっ!?」

 傷をペロリと舐めた。

「な、なな、ななななっ!?」

 チロチロとなぞる様に傷口を舌が這う。その度に微かな痛みと、ぬめりが皮膚を撫でる感触に体がびくついた。

「オーファ、っ!? う……、はぁっ……!」

 ひ、人の足を舐めるなんて、何してんだこいつは!?

「い、いきなり、何を、ふぁっ……、そ、それに、きたな……、っはぅ!」

「汚くはありませんよ。それに、しっかり消毒しておきませんと」

 捕まれた足はびくともしない。ただされるがまま、為すがまま、足の裏を、さらに指の間にまで舌が這いずる。

 微かな痛みと、それを上回る背筋を震わせる何か。それは快感にも似ていた。

 今まで感じたことのない未知の感覚は、抗えぬまま堪えに堪え、ついに終わる。

「ん……、ふぅ。これで消毒は終わりです。

 どうでしょう。こんな事ができるぐらい、私は本気なのです。わかっていただけましたでしょうか?」

 我慢し続けてクタクタになった俺に、そう問い掛けてきた。


 あぁわかった。よくわかったよ。どうやら誤解していたようだ。

 誠実で心優しい青年だと思ってたけど、実は足フェチで男好きの変態野郎だったって事がな!

はい、なんだかBL臭がしてくる展開でした。でもキーワードは入りません。

だって女の子だもん!(おぃ



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