メイドさんとお風呂
ごめんなさい。初っ端から謝罪で始まる、外伝ばっかり書いてて本編にまったく手がついてない海鼠です。
よく聞く話でモチベーションの維持云々ってありますけど、あれすごい大事なんだと言うことを身をもって体験中…。
えー、外伝は性転換という、性別差に対して深く関わる内容から、どうしても性的な表現が出てきてしまいます。一応R15にはなってますので、ある程度露骨でも大丈夫なんだと思いますが、極力そういった表現はぼかしにぼかしてます。とはいえ、表現はしてませんが文字はでてきますけど。
では、話の続きをお楽しみください。
麗らかな昼過ぎ。相変わらずベッドの上から出させて貰えない俺は、窓から見える景色をただ呆然と眺めていた。
オーファス直々に滞在許可を貰った日の翌日。言い付け通りベッドから一歩も出ない生活は、手持ち無沙汰で時間を持て余していた。
現状に対する不安は相変わらずなのだが、オーファスの助力での捜索は時間がかかると言っていた。かといえもし自分が動けたところで、そう大した変化もないだろうが。
そんな訳で今の俺に出来るのは、こうして呆然としている事以外にはなかった。
コンコン。
呆けたままどれ程経ったか、実際には余り時間は進んでなかったが、不意にドアがノックされた。
「失礼いたします」
現れたのは鬼メイドことリュラさんだった。昨日と同じく、メイド服をスーツのようにビシリと着こなしている。
「お加減はよろしいようですね」
「はぁ、お蔭さまで」
昨日に続き、今日もまた体調は良い。足の怪我も、やや痒みが疼く程度で痛みは全くなかった。
「今日は貴女を専属でお世話させていただく使用人を連れて参りました」
入りなさい、とリュラさんがドアに投げかけると、もう一人メイドさんが姿を現す。
「お、お初にお目にかかります! 私はミネイラ・フォルトと申します、本日より貴女様のお世話をさせていただく事になりました! 以後よろしくお願いいたします!」
やや背の低い、赤い髪をショートカットにした少女だった。青い瞳を緊張に潤ませ、無用な力で強張る体とギュッと握りしめた拳が萌えた。
「何かご用があれば彼女に申し付け下さい」
「はぁ、ありがとうございます」
そう返した俺に、リュラさんは何か言いた気な表情を浮かべていたが、結局何も言わずに踵を返す。
「では私はこれで失礼いたします」
軍人も斯やといった動きで部屋を出て行った。
後に残されたのは緊張しまくっている萌メイドのミネイラさん。リュラさんと違い一挙一動に癒されるが、緊張しまくられっぱなしというのも何だか申し訳ない気がして、取り合えず自己紹介しておく事にした。
「えっと、とりあえず初めまして。俺の名前は有賀祐樹。あ、ここではユウキ・アリガといった方がいいかな?」
「は、はい! 初めましてでごさいます! この度はユウキ様のお世話をさせていただくという大任と名誉を賜り、その責務に相応しい働きが出来る様、努力させていただく所存であります!」
何故か余計に緊張させてしまった。最後の方が軍隊調なのはどうしてだろう。
「ま、まあ、俺みたいなのの世話させる事になってごめんね」
「いぃえっ、滅相もございません! 私の如き矮小な使用人が貴女様のお世話など、不敬にも等しき所業! 如何なる無礼であってもこの命で贖う所存でございます故、どうかその寛大なお心でしばしのご静養にお供させて下さいませ!!」
なにこのやたら高いテンションは?
もしかしたらこんなところにで寝てるから誤解されてるのかな。俺自身は行き倒れにも等しい、身元不明で攫われかけた不運なお荷物でしかないんだけど。
「え、えぇと……、もうちょっと落ち着いてね?」
「はっ!? 私ってば早速ユウキ様にご不快な思いを!?
も、申し訳ありません!! この上は、私の命を持ってこの罪を……!!」
「うわあぁ!? だから落ち着いてって! 怒ってないし不快とも思ってないからさ!?」
懐から短剣を取りだし、喉を貫こうとするミネイラさんを慌てて止める。
リュラさん、あなたは何故こんな人を連れてきたんだ!
「あぁ、さすがはユウキ様! そのお心は天上人さえ見上げる程に高く、大地を支える程に広いのですね! 私など有象無象の一使用人に過ぎませんが、この命、ユウキ様に捧げると誓います!」
「あ、ありがとう……?」
テンションたけえなぁ……。あぁ、なんか疲れた……。
そんなこんなで、やたら忠誠心に溢れるミネイラさんによるお世話が始まる事になったのだが、まず最初に彼女が放った言葉が、
「では湯浴みに参りましょう!」
であった。
「ユアミ?」
「はい!」
「ユアミって、入浴って事だよね?」
「はいっ!」
ち、ちょっと入浴には早いんじゃないかなぁ、なんて……。
「実は先ほどリュラ様より言い付かっておりまして、怪我のせいで体をお拭きする事しか出来ていないそうなのです。本日より私がお側に付きましたので、怪我に障らぬよう精一杯お世話させていただきます!」
いや、問題はそこじゃなくてね? ほら、今の俺って女でしょ。なんて言ったらいいのかな、見るのが怖いっていうか、見たら負けっていうか、男として譲れない一線っていうのがね?
「さあ、行きましょう!」
そんな俺の苦悩なんて当然知らず、ミネイラさんはその小柄な体躯に似合わない腕力で、ヒョイと音がしそうなぐらい軽々と俺の体を持ち上げてくれた。
見かけによらずなんてパワフル!?
「え、いや、ちょって待って!?」
「ご心配なさらずに! 私、こう見えても使用人としてはリュラ様にも負けませんから!」
そんな心配してねぇ〜!? っていうかリュラさんがどんなメイドかも知らねぇよ!
しどろもどろな抵抗ではテンションの高いミネイラさんには通用せず、なすがまま浴場へと連れていかれる俺だった。
そこはまさに大浴場と言ってよかった。広々とした浴槽の中は、湯気が立ち上る湯で満ち溢れ、部屋全体を白く霞ませている。大理石らしい石造りの浴場は、まさに空想やテレビの中でしか知らなかった世界を垣間見せてくれた。
「うわぁ……」
天井が高く、一部天窓になっているようで、差し込む光が湯に反射し浴場全体を照らしている。幻想的な光景であった。
俺は天井を見上げたまま、あそこ掃除するの大変だろうなぁなんて考えたりしている。
というのも……。
「見ちゃ駄目だ……、見ちゃ駄目だ……」
既に服を脱がされてしまったからなのだが。
肌に感じる湯気の温もりが、より一層裸を意識させてくる。
今俺は水を通さないという布(ビニールなどではない)を足に巻かれ、風呂椅子に座っている。ミネイラさんに少し待てと言われ、五感でもって訴えてくる現実に必死で耐えている途中だ。
「お待たせいたしました」
さほど時をかけずにミネイラさんが戻ってくる。
「どぁっ!?」
彼女の方を振り向いた瞬間、俺の首は折れんばかりに逆方向に急転換した。
「なんで裸なのかな!?」
彼女の姿が一糸纏わぬ素っ裸であったから。
「はい? 今から湯浴みをするのですから、服を着ていては濡れてしまうじゃないですか」
いやそうなんだけどね。でも俺、ほんとは男なんだよ。
なんて言っても信じてもらえる訳もなく、とにかくなるべく見てしまわない様頑張ろう。
とはいえ、先ほどちらりと見てしまった彼女の肢体が脳内でリフレインしている。肉付きの少ないスレンダーな体と、健康的な色の肌だった。
「はぁ〜、それにしても、ユウキ様お美しいですねぇ。新雪の様に真っ白な髪はサラサラで、お肌も負けず劣らず艶っぽくてお綺麗で、スラリとしているのに胸は大きくて、羨ましいです!」
やめてぇ〜! 解説しないでぇ〜! 微妙な気分になっちゃうぅぅ!
この体は俺のじゃないんだ。だから今は自分の体なのに、どこか他人のものを見ている気分になる。
さながら公衆浴場の壁一枚隔てた向こうで、女の子がワイワイ騒いでるのを聞き耳立てている印象。しかも首を動かせばすぐ見れるというのは、男にとっては苦行にも等しい状況だ。
「ではお体を洗わせていただきますね!」
「え、いや、体ぐらい自分で洗えるから!?」
別に手を動かせない怪我じゃないのだから、体ぐらい洗える。
「そんな事おっしゃらずに、私に任せてください! 自分では見えないような場所まで、隅々を綺麗にさせていただきますよ!」
「いや、ほんと大丈……、あ、ちょ、あぁ……!?」
必死の制止も効果を成さず、ミネイラさんに体を洗われてしまった。防ごうにも、彼女に視界を向ければ彼女の裸が見え、手に視界を向ければ自分の裸が見える。
そうして俺は、されるがまま文字通り隅々まで綺麗にされてしまうのであった。