ようやく異世界って気がついた
ノリと勢いってすごいですね。書くのが早い早い。これがいわゆるランナーz(ry
こういう話の方が書く側としても、読む側としても楽しいですね。そりゃ誰だって、暗い話なんて読みたくないでしょうけど。暗い話は現実で十分間に合ってますもんね。
以前にも申したとおり、更新は基本的に不定期です。実際のところ、本編よりはこっちの方が書いてて楽だったりするんですが。
本編には出てこない裏設定なんかもちらほら出てきたりするので、本編を読めばより楽しめます。
いえ、決して本編も読んでもらうために言ってるわけじゃないですよ?本当ですよ?
あと、PVがあっさり1000を超えました。訪問してくださった読者様方には感謝しております。
では、続きをお楽しみください。
もしゃもしゃと、ベッドの上で俺は食事を頂く。メイドさんが運んで来たトレーに乗った料理は、今更ながらに空腹を自覚させた。あ、このパンうめぇ。
青年ことオーファスが仰天の告白をした後、つい「人攫いが王子?」なんて呟いたものだから、メイドさんことリュラさんの表情が鬼になったりでちょっと大変な事に。
それを宥めたオーファスが食事を運ばせ、今に至る。
ベッドから下りるなとの言い付けを守らせる為か、わざわざリュラさんが給仕として側に立っていた。先の一言で不機嫌オーラが滲み出ている。
「お味の方は如何でしょう?」
「はぁ、大変よろしいかと」
俺が食事する様子を眺めていたオーファスは、何故か楽しそうに微笑んでいる。じっと見られてると食べづらい。ただでさえ隣からプレッシャーを感じているというのに。
食事もそこそこに余裕が出てきた俺は、今一番聞きたかった事を尋ねる事にした。
「あのー、俺って人攫いにあったと思うんですが……」
それが何故こんな豪華な場所でこれ程の好待遇を受けているのか。オーファスが笑顔でにっこり、ええ私が攫わせました、とか答えられたらどうしよう。
「気を失っておられた様でしたので無理もありません。実は偶然、奇妙な荷物を持った男達の側を私が通り掛かり、何やら不審な様子でしたので荷物を検分させようとしたところ、必死に抵抗してきたのです。ですので強制的に荷物を調べて見れば、貴女が捕らえられていたのを発見したという訳です」
つまりは危ないところを助けられたという事か。
「それは、ありがとうございました」
「いえいえ、この国を治める立場にいる者として、当然の事をしたまでですよ」
なんにせよ人生最大の危機は免れる事が出来た訳だ。正直ごめんなさい王子様。あなたはあいつらの仲間だと思ってました。
保護して貰った上に怪我の治療から食事の手配に寝床まで貸してくれるなんて、外国はもっと殺伐とした場所だという考えは改めなくては。
「あの、それでこの国、フォーバーンでしたっけ。一体どこら辺にある国なんですか?」
日本と国交のある国なら領事館とかがある筈。文字通り人間変わってしまってるから本人確認で引っ掛かりそうだが、せめて家族に連絡ぐらい取りたい。
「おや、ご存知ありませんか? アトロステア大陸西南に位置しており、隣国とはアロイル、ユルイレイと国境を接しています」
アトロステア大陸? アロイル? ユルイレイ? どれも聞いた覚えのない名前だなぁ。
「えっと、じゃあ日本と国交とかないですか?」
「ニホン? ……初めて聞く名前ですね。おそらく国交などは行われていないと思われますが」
なんと。経済大国ニッポンを知らないとは。
「じゃあアメリカとか、ドイツ、イギリス、インドとか、何処かから経由して日本と連絡がつきませんかね?」
「……、申し訳ありませんが、どの国の名前も初めて聞きます。未開拓地からの新興国でしょうか?」
知らない……? ちょっと待て、さすがにおかしくないか!?
「どの辺りにあるのかお教え願えますか」
うろたえる俺に、オーファスが地図を広げてくれる。だが、その地図に記されていた大陸の形は、俺が知るものとは何一つ一致するものはなかった。
「は……、なんで、あれ?」
なんだこりゃ。なんの冗談だ。まさかとは思うが、アレか。アレなのか!?
「あ、あの、もしかして此処って、地球じゃないとか……?」
予想が外れている事を心から願う。いやもう十中八九間違いないと思ってるんだけど、一抹の望みをかけて聞いてみた。
「チキュウ? それも国の名前なのでしょうか」
その望みは、完膚なきまで打ち壊されてしまったが。
つまりここは地球ではないという事か。あれぇ……、俺いつの間に宇宙を越えたんだ……?
はっ、そうか! これは夢なんだな!?
だとすれば納得がいく。男の俺が女になったり、白衣の変態に教われそうになったり、人攫いに会って王子様に助けられたりなんていうのも、きっと夢なんだ……って今更思えねぇよ!! 夢で済ませられるレベルなんざとっくの昔に過ぎてるっつーの!!
「どうしました? 大丈夫ですか?」
頭を抱えて呻く俺。
一体俺はどうなってしまったのか。そしてこれからどうすればいいのか。
そうだ!? あいつなら、あの白衣の変態なら何か知っているかも知れない!
「あの、実は俺……!」
再びあの変態と出会うのは気が引けるが、致し方ない。
俺はオーファスに、これまでの経緯を掻い摘まんで説明した。無論、俺が元男だという事も。
「俄には信じられませんが……」
ですよねー。当たり前ですよねー。当事者の俺ですら未だ信じられませんしー。
「でも、どうかお願いします! 俺がこうなった原因を知る事が出来るかもしれないんです!」
ここが地球でないのなら、俺には頼れる人間が誰も居ない事になる。それは肉親に限らず、保護してくれる国さえないのだから、誰ひとり身元を保障してくれる者がいないという事だ。
そんな俺が見知らぬ世界に一人放り出されて生きていけるのか? 自信を持って無理だと言えるね!
「ふむ……。残念ながら、あの森に人が住んでいるという話は聞いた事がありませんでしたが」
「そんな……」
「ですが、貴女がそうだというのならそうなのかもしれません。私の権限では少数の人間しか動かせませんので、捜索にはそれなりに時間がかかると思います。それでもよろしいでしょうか?」
「も、勿論です! ありがとうございます!」
なんていい人だ! もし俺がこの国に住んでいたら、間違いなくこの人に忠誠を誓ってるね!
「では、しばらくはこの部屋を自由にお使い下さい。足の怪我が完全に治るまではご無理をなさらないよう。いいですね?」
「はい! 何から何まで本当にありがとうございます!」
怪我の手当てから寝床に食事、そして荒唐無稽な話を笑いもせず真面目に聞いてくれる。正直、俺が女だったら惚れてたぜ! 今女じゃんってツッコミはなしな!
都合よく話が進んでいく嬉しさに、俺は大事な事を見落としていた。何故、偶然助けられただけの俺が、王子直々にこれ程までに手厚い保護を受ける事になったのかを。
喜ぶ俺は、俺を眺める王子の笑みをよく見ていなかった。
この時、何故もっと警戒心持たなかったのかと、後に後悔する事になるとは思いもよらなかった。