プロローグ 可憐で淫靡な乙女の生誕
初めましての方は初めまして海鼠です。
この投稿で二作品目となるのですが、この物語は作者のもう一つの物語である『死者を操る者』の世界観を流用した物となっております。
外伝と銘打っておりますが、本編と物語的な繋がりは一切ございません。あったとしても、もしかしたら気まぐれで繋がる事も?程度な繋がりです。基本的には『ししゃも本編』を読まなくても問題ない状態に持っていこうと思っておりますので、シリアスな話はイラネって方は読んでなくても大丈夫です。
異世界な上に性転換でありながら条件付プチ最強な感じの物語となっておりますので、苦手なものが該当する方は引き返したほうがよろしいかと思われます。
さらにさらに、この物語は作者のノリと気分と気まぐれで構成されております故、更新不定期が凄まじい事になりそうです。
投げっぱなしジャーマン全開の可能性もなきにしもあらずな感じなので、読んじゃって「続きがこねぇぞモラァ!」って人は感想あたりにクレームでもつけちゃって下さい。でも更新される保障はありませんが。
ではでは、どうぞ物語をお楽しみ下さい。
目が覚めると裸だった。
眩しい程の白い肌。艶やかで張りのある、しかし柔らかそうな四肢は芸術品と見紛うばかりに形よく、そこから伸びる細い指がくびれた腰を撫でた。同時にくすぐるような刺激が、思わず腰をくねらせる。
「成功だ!」
まだ夢見心地な意識の中に、男の声が響き渡った。
気怠い首を振り向かせると、白衣を着、眼鏡で光りを反射させながらこちらを見詰めていた。
「苦節十余年……。ついに私は神となったか。自分の才能が恐ろしい」
はふぅ、と聞こえてきそうな吐息と共に、そんな意味不明な事を呟いていた。
そして漸く、『俺』は今の状況を認識し始めた。
部屋の中に知らない男がいて、そして自分は裸。頭の中でウホッと聞こえて来た。
「どちらさま?」
寝起きの力の入らない声はやたら高く、まるで女のそれだった。
「おぉっと、すまない我が妻よ。神に並んだ自分に酔って居たが、愛すべき者を蔑ろにするなど夫失格だな」
何処からかまたウホッと聞こえた。というか貞操の危機……?
「そのまどろんだ表情も素晴らしい。己が創造したとはいえ、やはりその美はいかな形であろうとも欠けることはない究極。つくづく自分の才能に驚かされるばかりだ」
話が遅々として進まない。どうやら彼はナルシーさんの様だ。
「まずは自己紹介からか。我が名はルーン・フェイルテル。この世で最高の頭脳と、至高の知識を持つ神である。そしてそなたの創造主であり、夫だ」
どう言葉を返したものか。
ルーン・フェイルテル? 外人さんかな。でも言葉通じてるよね。
創造主? 大層な言い方だけどつまり親って事かな。
父親なら解るけど夫? 子供に欲情する人として生きていていけない類の人かな。
告げた言葉からひしひしと感じる危ない気配に、どう返せばいいか解らない。
「ふふふ、我が威光に声も出ないか。だが案ずるな。そなたは我が妻。いかなる言葉であろうとも、寛容を持って私は受け入れよう」
「はあ……」
一々物言いが仰々しい男だった。
とりあえず会話が成立している事に感謝し、まず一番に聞きたかった事柄を聞こう。
「あの、なんで俺、裸なんですか?」
そう。まずそれが最初の疑問。裸にしてどうする。何をする気だ。
「儀式の為、無用な着衣は邪魔になったからだ。とはいえ、こちらの都合も多分にあるがな。なに、恥ずかしがる事はない。そなたは神をも魅力する程の美を持つのだから!」
野郎が野郎に美しいだなんて、もう確定してもいいんだろうか。
あと儀式ってなに? やっぱり合体するの?
「ふむ、意識がやや不鮮明なようだな。やはり覚醒間近な上、肉体も馴染んでいないか。それに力も微量。となれば早急に成すべき事は一つ」
突然白衣を脱ぎ捨てると、その下の衣服まで脱ぎ出した。
「ちょ、何してんの!?」
「案ずるなといったろう。そなたを傷付けるつもりはない。なに、最初はちょっと痛いが時期に良くなる。我が力を持ってすれば、最上の快楽を与えてやれる筈だ」
鼻息を荒げながら、もたつく様にベルトを外す男。
これはもう確定だ。間違いない。この男、俺をヤル気だ!
逃げなくてはと起き上がろうとするが、体に力が入らない。寝起きを理由にしてもおかしかった。
何で、と視線を体に向けると、見慣れた光景はそこに存在しなかった。
「な、なんだこれっ!?」
自己主張するように胸の上に双丘が鎮座し、淫靡な姿を晒している。その間から見える腹部も、鍛えた筈の腹筋は姿を消し、なだらかで柔らかそうな肌を見せる。更にその先、股間に至っては……、言葉にする必要はないだろう。いや、言葉にしたくなかった。
そんな突然であまりにもな変化に戸惑っていると、男がパンツ一枚の姿になっていた。
「そう怯えるでない。始めてなのは私とて同じ。しかし優しくすると約束しよう。私はこう見えても常に冷静な男なのだからはぁはぁ」
説得力ねええぇ!
男か女かは今こだわっている暇はない。間違いないのは、どうにかして逃げ出さなければ、どちらにしても未知の世界に誘われてしまうという事だ。
必死で体を動かそうともがくも、体をよじる程度しか動かない。そんな俺の仕種に誘惑されたのか、男の鼻から赤い雫が垂れた。
「ぅふはっ」
男からそんな声が漏れると、俺が寝ていたベッドに飛び掛かってきた。
「もう我慢ならんっ。さあいざまぐわいだ! 存分に味わおうぞ!」
ルパンダイブで俺に迫る、目を血走らせて鼻血を流す男。その姿に恐怖し、同時にある光景を思い浮かべた。
それは架空の世界の架空の出来事。
ドゴンッ!!
思わず強く目を閉じた俺の耳に、そんな破壊音が響く。いつまでたっても何の変化も訪れない事に恐る恐る瞳を開けると、男が居た場所に巨大な何かが現れていた。
それは鉄塊。巨大な円柱状で金属らしき光沢を放ち、一本の棒が横から突き出ている。そして胴体の横っ面には、大きく『10t』と刻印されていた。
それはまさしくハンマーだった。シテ〇ーハンターにおいて、最強の主人公すら葬り去る、最強の兵器。
一体こんな物が何処から現れたのか驚いていると、ハンマーは淡い光りを放って消えていった。へこんだ床にめり込む様にして、男がへばり付いている。
何にせよ幸運だったと、重い体に鞭打ち起き上がった。周囲を見渡せど服などなく、仕方なしに脱ぎ捨てられた白衣を纏う。
「じゃあな変態!」
散々驚かせてくれた気絶している変態にそう言い残して、俺はドアを開けて部屋を出て行った。