「アンタ誰だよ」
本ッ当に、わけがわからない!
自分のそんな内心も知られることなく、女子高の日常は流れようとする。立て続けに2人死んで、生徒はもちろん教師もショックを隠し切れないまま、それでもとりあえず教室に収まって授業をやろうとする。
力加減を間違えてかチョークは次々に折れ、書き損じが増えて黒板消しはあっという間に汚れていく。ペンをノックする音は鳴り止まず、所在無さげな足はスカートを揺らし続ける。
女子高全体がこんな調子で、ようやく昼休み。
こんなことなら、いっそもう少し休校でも良かったのでは……? いや、そうなると連絡を受け取れない自分が困るだけか――ただただ無意味なことを考えながら、今日も最安パンと水を買ってひとり席に着く。
こんな状況でもちゃんとお腹は空いたし、食事中の会話から情報を集めたかったのだけど……やはりというか、誰一人として声を掛けて来なかった。「困ったもんだね……」と、ぼやいてみたりして。
「あ、あの……」
「……ん?」
後ろから声を掛けられ、振り向く。
自分の右斜め後ろ――アヤバラの後ろの席から、入部霧子が、緊張した様子でこちらを見ていた。
「ねえ……一緒に食べて、いい、かな?」
「……いいけど」
イリベはホッとした様子で、そそくさとアヤバラの席に移動してきた。……死んだばかりの人間の席なんだけど? 思わず呆気にとられた。
しかし続けて、イリベはとんでもないことを言ってきた。
「あの、カズヨのこと、なんだけど……好き、だったの?」
「『カズヨ』って、アヤバラさんのこと? ……いきなりぶっこんでくるね」
「だって、他の人と遊びに行ってない……よね」
……”女子高の王子様”として注目を集めていることは覚悟していたけど、こうも観察されていたとわかると、若干不快で、自分は眉をひそめた。ましてアヤバラへの態度となると、自分の秘密に絡むことだから、尚更。
「……好きではなかった、と、思う」
「ふーん……?」
ラディカルな質問をしてきたわりに、イリベから返ってきたのは弁当を広げながらの返事だった。やけにあっさりした反応で、少し、いやかなりムッとくる。
……そっちがそういう態度なら、こっちもいろいろすっ飛ばして話してやろうか。
そう思って、イリベの様子をうかがいながら話を振ってみる。少しでも情報が欲しい。
「……去年の冬、三司織葉って人が死んだ事件あったじゃない?」
「あー、あったなぁ~」
「その事件に、アヤバラさんが関わってたのかもしれないと思ってさ」
「あぁ、それで、カズヨに……」
ふんふんと頷くイリベの、口元がほころぶ。「よかった」と言いたげな表情だ。
……『よかった』? 今の話を聞いて、イリベが安心する理由って?
自分は怪訝な顔をしながらパンを飲み込んで、話を続ける。
「……で、その事件に関わってたからこそアヤバラさんは殺されたと思うんだ、だから「そんなことより」……なに?」
『そんなことより』?
「坂崎さんは、普通に……男の人、が、す、好き、なの?」
「は?」
は?
「や、だって……牛川先生と仲良かった、みたい、だし……」
「いやいやいやいや……こないだも言ったけど、いとこ同士だよ? 仲のいい兄弟みたいな関係ってだけで、恋愛関係なワケないでしょ」
「……」
「なにか?」
「いや? ……そっかぁ、って」
弾んだような声で、納得したらしい。
……事件の話を『そんなこと』と横に置いてまで、こんなことを訊いてきたのか?
イリベの意図がいまいち読めなくて、ただでさえ薄いパンの味が余計わからなくなってきた。
女子高から帰ってきて、部屋を施錠。そのまま床に大の字になって天井を見上げる。順当に伸びてきている髪の毛が、首筋を撫でる感覚があった。
どうも自分の知らないところでいろいろ起きていて、混乱してきた。アヤバラを殺すという目的も無くしてしまった今、自分がするべきことってなんだろう?
オルハとそーいっちゃんを、アヤバラが殺したのかもしれない。
しかしそのアヤバラも、女子高の屋上から落ちて死んだ。
じゃあ、アヤバラを殺した犯人が、なにかを知っている?
当然、そんなことはないかもしれない。
でも、それくらいしかやることが思いつかなかった。




