プロローグ
「そんなものはとっくに自覚してるし覚悟だってしてるつもり」
「……んあ!」
蛍光灯の点いた学校の教室。机に突っ伏している生徒がひとり。その他には誰も居ない。
その生徒の身体が、派手にジャーキングして跳ねる。椅子が動いて後ろの机に当たり、小さくはない音が鳴る。
その音で、生徒は目を覚ましたようだ。座って両手を机に置いた姿勢のまま、上体を起こして辺りを見渡す。
「あれ、えっと……」
窓の外は夜闇――部活動の掛け声も無い。どうもこの生徒は、放課後の微睡みが思いのほか長かったらしい。
だが、事態はそれだけではなかった様だ。
「はあ……!?」
ぼんやりした様子で座って居た生徒は、黒板を見つめた後、勢いよく起立した。
『犯罪者、お前を裁く』
「どの口がそれを……!」
制服のプリーツスカートをはためかせながら、その生徒は怒ったような足取りで黒板へ向かい、黒板消しでその文言を乱雑に消した。白く滲んだ扇形が並ぶ。
静けさの中、自らを責めていた白い粉が舞い、生徒は堪らず顔を顰めて瞬きする。しかし幾ら睫毛をしばたいても、煙を腕で払っても、罪の粉は纏わりつく。
「わかってんだよ、そんなことは。自分が、一番よくわかってる」
生徒はそう呟いて、目を閉じた。
「んん……クソ……」
そこで、その生徒――坂崎伊織は夢から目を覚ました。寝起きとしては最悪な気分だ。
きっとこれから毎日、この夢を見ることになるだろう。でも、そんなものに怯むわけにはいかない。
オルハの無念を晴らすためにも。