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〜第一話〜開花前線

この世界の王族、「常初花」の家の者は必ず「火炎」「奇跡」「毒撃」の能力を秘める花紋のいづれかを肩に刻まれ生まれる。

常初花の末っ子である「僕」は『永遠』(とわ)という、前代未聞の能力を持って産まれた。

 兄弟達は、三歳までには個々の能力に応じた才能を開花させていた。

しかし「僕」の前代未聞の能力は、僕のせいなのか、「永遠」そのものの特性なのか六歳である今も尚、才能の開花どころか、使える気配すらしない。

 その為、今まで兄弟に虐められ、親である国王、王妃に相手にされなくても、「僕もいつか…」と、「僕が能力を使えるようになれば親も兄弟達も見直してくれる筈…」と、我慢してきた。

 明日は、国民に僕達兄弟の能力を示し、権威を示す儀式があるらしい。僕の事はどうなるのかよくわからない。叱られるかもしれない…部屋に閉じ込められるかもしれない…

けど…いつかわかってくれる…そう信じて。

 冬の冷気に吹かれ冷たいベッドの上で「僕」はそっと目蓋を閉じた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

〜第一話〜開花前線

 紅く燃える陽の光が頬を照らし「僕」は目覚めた。

(ここは…?)

(確か…僕は、さっきまで王宮の寝室で寝てて…)

あれ?なんでこんな所で寝てるんだ?

「僕」の目には見馴れた王宮の風景ではなく、ただひたすらと木々が生い茂る広大な森林が広がっている。

「そうか…僕は能力が使えなかったから…みんなに迷惑かけちゃうから…」

(捨てられたのか…)

ふと、目から透き通った水滴が零れ落ちる。

「僕」は親、兄弟への可能性を信じながらも、虐げられ続けるのは覚悟していた筈だった…

 しかし、いざ捨てられると失望でも憤りでもない「ナニカ」が心にぽっかりと穴をあけ、考える度に胸がジンジンと痛む。今にも泣き崩れそうになるのを堪え何処までも透き通った青空を見上げる。

「そうかっ…」

零れる雫が草に滴り落ちる。

 しかし、初めて地面を踏みしめるのは、心地が良いものだった。

世界が自分を抱擁し、慰めてくれる様な感覚が広がる。

「そうだよね…今は取り敢えず帰って解ってもらわないと…」

そう思い、自分の周りを見回す。

すると、遠くの方へ人影らしきものを見つけた。

「助けてもらえるかもしれない」と言う小さな希望の種が心に生まれる。

人影に一歩近づく度に糸程の細さだった希望が、より大きい物となっていく。

「おーい‼」

つい、嬉しくなって人影に向かって言葉を掛ける…

「ジッ…?」

「へ?」

今まで膨らんできていた希望が針で突かれた様にして一瞬で崩れていく。

振り向いた人影に写っていたのは人間の姿などではなく、蔦の様な植物が絡み合ってできた奇妙な人型の生命体だった。

バシュッ…

その音と共に「僕」に向かって蔦が捻じり合わされてできた槍が無数に「蔦の生命体」によって繰り出される。

「うわああぁ…!」

恐怖のあまり足を一歩引く

ガララララッ…ドゴ…

「へ?」

足場であった岩場が崩れる音と共に「僕」の身体は宙へと投げ出されたー

「蔦の生命体」はその瞬間を見逃さなかった。

ズンッ…

鈍い音と共に槍の内の一本が「僕」の心臓を穿く。

同時に「僕」の意識は其処で途切れた…


 再び目を覚ますと、そこはさっきまでとは薄暗い岩場の様な場所だった。

そこら中に蔦が巻き付いていて、不気味な風がボウボウと吹いている。

ズキンッ…

胸が痛みふんわりとした意識から現実に引き戻される。

「なんで…?」

さっきまで真上にあった陽が西へと傾いている。なのに、「僕」はまだ此の世を去っていない。

怪我は残っていて、胸には槍が突き刺さったままだが一向に死ぬ気配はない。

岩の上が血溜まりになっているが、失血にもなっていないようだった…

(ん?)

血溜まりには自分の顔が写っている。

しかし、その顔には今までなかった紫の紋様が浮かんでいる。

驚きを隠せず暫くの間困惑していると、さっき聞いたばかりの「ジッ」という音が無数に聞こえる。

「そうか…此処は奴らの巣窟だったのか…」

さっきのことを思い出すと恐怖に胸が痛み、何としても逃げなくてはという思いが込み上げてきた。

また音がなったと同時に「僕」は居ても立っても居られなくなり無我夢中で夜の霧の中を駆け出していった。

 月の光の中を紋様だけが燿輝いていた。




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