月の生贄
私は元々人間で、クルグ村という村に住んでいた。村の規模は大きく、クルグ村の人口は約五万人。
クルグ村では夜を照らす月の明かりは神の光とされ、お月様と崇められている。
そんな村では、年に一度最も月が近づく日にお月様のために捧げるとして生贄を差し出す儀式をしていた。
その生贄を捧げる儀式の内容は村人の中から月占いで生贄に捧げる人を決め、月に最も近づく山の頂上に置いて帰るというものだ。
そこで抵抗したりしたら殺されてしまうため、抵抗した人は誰一人いない。
後日山の頂上へ行くと何故か誰もおらず、その後生贄を見ることもないらしい。
このことからお月様が召し上がったと言われているそうな。
そして、これから語る話は月が私を導いた日のことである。
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今から約一年前の一月二十二日、一年で月が最も近づく日。つまり、誰かが生贄になる日。私は呑気に歩いていた。
「ふんふふんふーん」
でも、幼い私でも流石に村の様子が騒がしいことに気付いた。
その村の異質な騒がしさで、もうそろそろ月占いが行われることを否が応でも理解した。
月占いが始まる。代々神風一家が行なっているそれはとある箱を使う。
その箱の中には神風家を除いた村人の名前が書いてある紙が入っている。
その箱を神風一家の代表が引き、当たってしまった村人が生贄となる。
神風一家が入場し、箱から紙を引く。
「五月 恵!」
声が大きく響き渡った。突然のことに私は頭が真っ白になった。読み上げられた名前は私の名前だったのだ。
絶望し、思わず声を漏らす。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
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それから、山を登らされた。山の中腹辺りに入ったところで恐怖のあまり足が震えて転んでしまった。
「さっさと立て」
大柄の男性がそう吐き捨てる。嗚呼、もうそろそろ生贄となるのか。
まだやりたいことも沢山あったのに。後悔の念に駆られる。
十五という歳で死んでしまうなんて予想だにしていなかった。
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そうして後悔に浸って、山を登っているといつの間にか頂上についていた。
そこで私は無気力になり、その場に立ち尽くす。
逃亡しようとしても山には逃げ出したものを殺すために兵が立っているから、無理だということを理解している。逃げようとは思わない。
月がはっきり見え始める。
こんなにも綺麗な月なのに、何人もの生贄の糧にあると思うとあまり素直に美しいとは思えない。
だんだんと近づいてくる月に対して、辛い、怖い、吸い込まれて消えてしまいそうと恐怖を抱いていた。
そして、近づいてきた月は暗い夜の中私を照らした。しかし、不思議なことに、その月の光に既視感を覚えていた。
「ああ、そうか」
そして、私は思い出す。この既視感の正体を。
母が月占いに選ばれ死亡した日に見た月はこんなだったのだ。
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月が沈むと、辺りは真っ暗になった。
もうそろそろ私は死んでしまうのかと恐怖し、目を閉じようとすると突然何かの光が近づいてきた。
そのものから逃げようとするも、飲み込まれてしまう。
すると、この世とは思えないような光景が広がった。
そこにとある人物が現れた。
その人物は、温かさを感じる人で、近くには母もいた。
一体、どういうことだろうか。
ここが、死後の世界だとでもいうのだろうか。
「君を導きにきた」
その温かさを感じる人物はそう話すと、手を差し伸べてきた。
あぁ、この先どうなるのだろうか。
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今日はクルグ村に最も月が近づく日、つまり、月の明かりが月の管理者となる者を導く日。
忙しくなりそうだ。
でも、月占いは月明かりの管理には必要不可欠だ。
あまり多くの人にこの管理のことを知られてはいけないのだから。
私からこれを読んでいる貴方に質問、今宵の月は綺麗?
中学時代に書いたものです。稚拙だとは思いますが、このときならではの感性もあったのではないかと思います。