幸福
思えば、生まれたときから不幸であった。
この世に物心つく頃にはとっくに孤独で、盗みを働いてなんとか生きている、そんな毎日。
何故生きているのか分からないまま、今日という日を何となく過ごすというのを無意に繰り返し、遂に今日、生まれてから15年になる。
誕生日だからと言っても特に祝うことはない。祝ってくれる人もいない。
心なしか、そんな俺の寂しさを今の大雨が表しているように思えた。
そんな中、誰もいないだろうと睨んで雨風を凌いでいたこの廃墟に、ある女が入ってきた。
ボロボロで、雨に濡れて、汚いと思うような姿。
しかし、次第にそんな汚さにどこか親近感を覚え、汚いが故に、心が少し温かくなるのを感じた。
彼女は俺が廃墟にいるのを理解すると、すぐに立ち去ろうとしたが、何もせずにじっと座っているのを見て、隣に座った。
言葉は交わさない。
声には出さずに、ただ何となく彼女という存在を感じていた。
『こんな時間がずっと続けば良いのに』そう思ったのはいつ振りだろうか。
嗚呼、今日、初めて誕生日を祝ってもらえた気がする。
気付けば、雨は止んでいた。
「あの......」
一言目を発したのは彼女の方であった。
何も言わずに、視線を向ける、
「私って、迷惑ですよね」
俺はそんなことないと言おうとしたが、何故か言葉がつっかえて出てこなかった。
だから、首をゆっくりと横に振ることしかできずにいた。
「そう......ですか」
「ありがとうございます」
明るいとも暗いとも言えないような声であったが、何かの思いがこもっていた気がする。
★
それから、孤独だった俺の生活は一変し、2人でこの廃墟で暮らすことになった。
と言っても、盗みで生計を立てる毎日には変わりない。
ただ......以前と比べて少し生きるということが好きになった。
世間から見れば、不幸だろうし、実際、俺だってそう思う。
だが、今のこの瞬間......彼女といるこの時間は何となく幸福だ。
特に何かを話すでもなく、何をするでもなく、2人でこの空間にいる、同じものを食べるといったことに幸せさを感じていた。
初めて仲間という存在ができた気がする。
何故生きているのかというのは今でも明確な答えは見つからないが、少なくても、この幸せだけは大切にしたいと思えた。
彼女もこの幸せを大切にしたいと思っているだろうか。
そうであったら良いな。
「今、幸せ?」
突然、彼女がそう聞いてきた。
俺の心を読まれたのかと思い、少しドキリとしたが、どうやらそういう訳ではないらしい。
不思議と、何かつっかえていたものは、彼女と生活をしている内になくなっていき、今なら、彼女の質問に答えられる気がした。
「こんな時間がずっと続けば良いのにって思ってる」
「私も」
中学時代に書いたものです。稚拙だとは思いますが、このときならではの感性もあったのではないかと思います。