揺らぐ正義の心
西園寺 武井は判断士に憧れている17歳だ。
この判断士というのは何か小さな事件が発生した時に、最終的にどうするかを判断する職業に就いている者のことである。
武井はそんな判断士の勇気を感じたことがあった。
それは、5年前のこと、気弱な友達がいじめられていて、それを止めた時のことである。
武井はいじめをしていた人物に『先生に武井に殴られたと言う、勿論、お前も協力しろよ?』と友人と武井に向かって言った。
いじめをしていた者は学校では猫を被り、優等生と回りに認知されている。
一方、武井は落ち着きがなく、担任から少し問題児として扱われていた。
そんな彼と、武井では、信頼されている度合いが違った。
それから、いじめをしていた者は帰ろうとすると、知らない大人が声をかけてきた。
その者は、判断士の田中 健だと言い、どこの学校か尋ねる。
明江戸治小学校と答えると、いじめをしていた人物に説教をし、学校に連絡した。
その後、『君はいい子だ。その心をずっと大切にしてね』と武井に言い残し、去っていった。
この経験から武井は判断士に憧れている。
そんな彼が、今日、判断士になるための学校に見学に向かう。
そこで、電車に乗ると、1人の女性が声をあげた。
「この人痴漢です!」
僕は女性が声をあげる前から偶然、そこを見ていた。
冤罪だ、と言おうと思った瞬間、1人の男が言った。
「え〜この電車を担当している判断士です。痴漢により逮捕です。それではこの電車を担当している警察を呼んできます」
男は気怠るそうに言う。
僕は唖然とする。
警察が来て、冤罪をかけられている男を腕を握る。
「違う、やってない、冤罪だ」
と言うがその声も虚しく、どこかへ連れていかれる。
そこで、ハッとした。
武井は正義を大切にしている男だ。
そのようなことには関わらないのが得策だと分かっていても、口が動いた。
「何故、貴方は冤罪を見過ごすのですか?」
「その方が楽だからに決まっているだろ」
僕はそれだけで見過ごしたことに、描いていた正義に生きる判断士とのギャップに、悲しみを覚えた。
「それだけですか」
震える声で言う。
「ああ、それだけだ。結局、人間は楽に生きたいだけだ」
そう言う、判断士の眼差しはとても冷たい。
「それは貴方個人のことであって、人間全てに言えることではありません」
震える声でなんとか言う。
「さっきからうるさい。いいか、俺の権力を使えばお前ぐらい簡単にお縄だ。そうされたくなければ首を突っ込むな」
僕はその言葉に嫌でも刑務所での生活を想像してしまった。
判断士の権力の大きさを考えると、諦めた方がいい。
ここで、僕1人の力でどうにかできるわけでもない。
諦めるのが賢明だ。
「⋯⋯分かりました」
僕は自分の権力のなさと、この世の理不尽を感じ、嘆いた。
いや、それも言い訳なのかもしれない。
本当に正義を目指すなら、権力何か気にしなかった筈だ。
あの人の言った『人間は楽に生きたいだけ』というのを僕の行動で示し、言い訳してしまった。
僕は、正義とは何かわからなくなった。
ただ、何も考えず、座ると電車が止まる。
本来なら、もう2駅先の駅が目的地だが、僕は電車が止まった所で降りた。
中学時代に書いたものです。稚拙だとは思いますが、このときならではの感性もあったのではないかと思います。