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2.夢

 ――ピロロ~ン♪


 無機質なアラーム音で、私は目を覚ます。


 寝ぼけ眼に、いつもベッド脇に置いているスマホに手を伸ばそうとした……。


「?」


 あるべきはずのスマホがない。一体何処から音が鳴っているのだろう?


「!!」


 部屋の中を見渡しているとあることに気付く。ここは私がさっきまでいたアパートはないことを。


 小学生の時から使っていた勉強机。両親から買ってもらったうさぎのぬいぐるみが枕の横に置いてある。


 間違いない。実家の私の部屋だ。


 眠気が一瞬で吹き飛ぶ。しかし、私の気持ちなど無視してアラームは鳴り止まない。


 ひとまずは音を止めよう。これでは落ち着いて考えることができない。


 このアラーム音にはどこが聞き覚えがある。私の記憶の音が正しければ、音の発生源は……。


 案の定、私が昔使っていたガラケーだった。


 ガラケーにはいろいろにデコレーションがしてあって、今にして思うと結構恥ずかしい。


 私は折り畳み式のガラケーを開き、目覚ましを止めた。


 そして、ガラケーに表示されている日付を見て驚愕する。


 ――201X年10月15日 07:00


 日付は文化祭が終わった次の日だった。


 本当に戻ってこれるなんて……。


 念のため手鏡で自分の顔を確認する。


 高校時代の私と社会人になった時の私とでは容姿に決定的な違いがある。


 元々、私は似合っていると優成に言われて髪を肩の辺りまで伸ばしていた。


 私は社会人になってから、もう必要はないと思って伸ばした髪を短く切った。所謂おかっぱヘアーと呼ばれる髪型にした。


 もし、実家に転移しただけなら髪は短いままのはず……。


 ――鏡に写る私の髪は長かった。


 起きた時に違和感はあったものの、実際に見てみるまでは半信半疑だった。


 やった……。


 やったやったやったやったやった!!


 やり直せる! 私は優成とやり直せるんだ!


 私はこれからやらなければならない事を頭の中で整理する。優成と結ばれるために何が必要なのかを。


 最優先事項としては、先輩と別れること。


 そうしないと優成の気持ちがあっという間に離れていってしまう。


 次に私の想いを優成に伝えること。


 告白しよう思った矢先、優成が姉さんと付き合ってしまい、未来の私は優成に自分の気持ち伝えることができなかった。だけど、今ならまだ間に合う。


 私は早速行動に移した。


 文化祭で交換した先輩のメアドに『話があるので、昼休み時間くれませんか?』とメールを送った。


 スマホと違って既読なんて付かないから、読んだかどうか分からないところがわずらわしい。


 しかし、先輩からすぐに『わかった』と返信が来た。


 正直、付き合ってすぐに別れるのは流石に気が引ける。別に私は先輩のことが嫌いな訳じゃない。


 先輩だって真摯な気持ちで私に告白してくれたのだ。真摯じゃなかったのは私。


 雰囲気に流され、告白を受けてしまった。だからこそ一刻も早く、私の本当の気持ちを伝えねばならない。


 未来の私は軽い気持ちで、だらだとそれを先伸ばしにしてしまった。別れることになった時の先輩の悲しそうなは表情は、今でも忘れられない。


 ★★★★★


 学校の屋上で先輩と二人きり――。


 私は先輩に別れ告げる。


「先輩、ごめんなさい! 私と別れてください!」


 そう言って私は深々と頭を下げた。私にはこうすることしかできない。


「……」


 いきなりのことで先輩は困惑しているようだった。一緒にご飯を食べようと誘われると思ったのかもしれない。


「私、先輩じゃなくて他に好きな人がいるんです。本当にごめんなさい」


 ここで嘘を付くことはできない。嘘を付いたら、また私は後悔する。


「そっか……。なんとなくだけど、そんな気はしてた」


 先輩はどこか悟ったような顔をしていた。何より驚きなのは、先輩が私の本心に気付いていたということ。


「好きな人って中澤さんの幼馴染の子のことかい?」

「なんで分かったんですか?」

「俺が告白した時、中澤さんは俺のこと見ていなかった。告白した俺よりも、まず先に彼の顔を見たから」


 私はそんなことをしていたのか……。

 自分でも無意識の内に優成を見ていたなんて……。


「とにかく、中澤さんの気持ちは分かったよ。俺達、別れよう」

「本当にごめんなさい……」


 先輩は屋上から出ていった。哀愁漂う背中を、私は見ていることしかできなかった。


 私は――間違ってなどいないはずだ。好きでもない人と付き合い続けることの方がよっぽどひどい。


 未来の私が強引に唇を奪われてしまったのも、私があやふやな態度を取り続けていたからだ。


 先輩をぬか喜びさせてしまったのは悪いと思っている。だけと、私にはこれ以外に方法がなかったのだ。


 どうせ、何ヵ月したら別れる運命なのだ。それが早まったにすぎない。


 そうだ、そう思うことにしよう。


 けれど、私の心からは何故かモヤモヤしたままだった……。


 ★★★★★


 先輩とは別れた。あとは優成に告白するだけ。


 今の優成は恐らく私のことを避けるだろう。多少強引でも話を聞いてもらうしかない。


 未来の私は何度も優成に告白する夢を見た。夢の中の優成は私に微笑んで「俺も好きだ」と言ってくれた。


 今がチャンスなのだ。夢の中の出来事が実現できる最後の。もう一度過去に戻れる保証なんてどこにもないのだから。


 ただでさえ奇跡が起こっている状況。この機会を逃すつもりなど毛頭ない。


 絶対に告白を成功させてみせる!


 放課後、私は優成に話しかけた。


「優成、ちょっといいかな? 話があるの」

紗友美(さゆみ)、ごめん。俺ちょっと用事があって、明日じゃ駄目か?」

「とっても大事な話なの……。一生のお願い! 少し、少しだけでいいから」

「分かったよ。そこまで言うなら、少しだけな」

「うん!」


 私は先輩をフッた屋上へ優成を連れ出した。不吉ではあるものの、他に場所がなかったのだ。


 ああ……ついにだ……。


 私は優成と結ばれる。結ばれて幸せになれる。


 なんの楽しみもなかった色褪せた未来が、色鮮やかなものになり、新鮮な毎日を送ることができるのだ


「優成、あのね……。私、優成のことが好きだったの!」

「は? 先輩のことはどうしたんだよ?」

「先輩とは別れた。私が好きなのは優成だけ」

「……」


 なんで黙るの優成?

 私のこと好きなんでしょ?

 早く好きって言ってよ! 不安になるじゃない!


「気持ちは嬉しいんだけどさ……。俺、好きな人がいるんだよ」


 え?

 

次回は最終話(予定)になります。


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