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鏡写しの花★  作者: 茄子
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大舞台の前

 ディシュが病院から退院して、改めて事情を聞かれた際、ディシュは「ミラージュ様に突き落とされた」と主張したが、それは物理的に無理だと説明されると、今度は一転して「ミラージュ様の命令を受けた令嬢に突き落とされた」と言い分を変えた。

 しかも、その令嬢は知らない令嬢で、突然の事だったから顔も見ていないと言ったため、事情を聞いた教師もディシュが明らかに嘘をついていると判断し、ディシュに今後このような騒ぎを起こさないようにと口頭注意をした。

 ディシュはその事が気に入らず、教師にまでミラージュは媚を売って自分の都合のいいように動かしているのだと悪口を言いふらしたが、信頼のある教師の為、その言葉を信じる者はいなかった。

 思うようにいかないディシュは今まで以上にミラージュの悪口を言いふらし、子息達を誑かすような行動をとり、身体的接触も辞さないとでも言うようにふれあいの機会を増やしていった。

 貴族の子息は、自分の種を残すことが自分の義務だと教えられており、精通を迎えると性教育を受けている為、ディシュの行動の意味をよく理解しつつも、まだ学生であるうちに子供を作るような行動をして責任が取れるのかと聞かれれば、そうではないと自覚している為、ディシュの誘惑に応える者も少ない。

 ただ、少ないと言うだけであり、全くいないわけでもなく、ディシュは自分の体を許す代わりに自分の意見を信じてもらうように男子生徒に囁いていく。

 ごく少数であっても、それに乗る男子生徒がいるという事にミラージュを始めとした他の生徒も教師も頭を悩ませるのだが、ディシュの体は余程魅力的なのか、ディシュと関係を持った男子生徒はディシュに心酔してしまっているかのように、他の者の意見を聞かなくなってしまった。


「ミラージュ様、物憂げな君の顔も美しいが、何か学園であったのかい? それとも僕に何か不満でもあるのかな?」

「デヴィット様に不満などあるはずがありませんわ。ただ、学園で少し問題が起きておりまして、その事が少し気にかかっているのですわ」

「問題とは?」

「とある女生徒がわたくしの事を目の敵にしていると申しますか、何かにつけてわたくしに対抗心を持っていると申しますか、とにかく、わたくしにちょっかいをかけてくるのです。最近ではその体を使って男子生徒を誑かすことまでしているようで、学園でも問題になっているのですわ」

「体を使ってね。確かに年ごろの少年に性的な誘惑は抗いがたいものがあるかもしれないが、貴族の男として誑かされるというのはよくないな」


 デヴィットの言葉にミラージュは力なく頷くと、深くため息を吐きだした。

 乙女ゲームの中では、ミラージュの婚約者であるデヴィットは隠しキャラとして登場する。

 攻略難易度は異常なまでに高いが、それは仕方がない事だろう。

 デヴィットは王族なのだ。

 年齢的な問題で学園に一緒に通う事はないが、一定条件を満たすと、学園視察という名目で訪れるデヴィットとディシュが出会うことになるのだ。

 しかしながら、ディシュは色仕掛けに必死なようでゲームの中で言うようなステータスを上げるようなこともしていないし、ミラージュがイベントをことごとく発生させないように無関係でいるため、デヴィットが学園を訪れるイベントが起きる時期は過ぎている。

 ディシュが階段から落ちるイベントも、本来ならデヴィットと仲良くなっていくディシュに嫉妬したミラージュが起こすものだ。

 そして、その事件がミラージュを孤立化させるきっかけになっていくのだが、生憎そんな事にはなっていない。

 何年にもわたって、ミラージュはこのために努力を重ねてきたのだ。


「ミラージュ様」

「なんでしょうか、デヴィット様」

「もし、何かあるのなら僕が学園に行ってそのディシュという女生徒と話をしましょうか?」

「いいえ、その必要はありませんわ」


 ミラージュは内心これは世界の強制力なのだろうかと言いたいのを隠しつつ平然とした顔で答える。

 デヴィットがディシュと出会っても確実に惹かれるというわけではないが、そうなる可能性は最小限に抑えたい。

 だから、ディシュとデヴィットを会わせる機会など作りたくないのだ。

 貴族としての政略結婚ではあるし、デヴィットがミラージュに愛情を持っているとは考えていないが、ミラージュは乙女ゲームをしていた時からデヴィットの事が好きなのだ。

 強く優しく、頼りになるデヴィットは隠しキャラで攻略難易度も高かったが人気も高かった。

 ディシュの狙いがデヴィットである可能性だって捨てきれない以上、ミラージュはどんなことをしてもそもそもデヴィットとディシュが出会うのを阻止したいと思っている。

 デヴィットが登場する時期も過ぎているし、デヴィットが登場しなければ起きない階段落ちのイベントも起きた。

 それらを考えると、ディシュの目的はやはりミラージュの信頼を落とす事なのだと思える。

 ディシュが隠しキャラであるデヴィットを除いて逆ハーレムを形成するエンディングに辿り着くには、ミラージュが失墜しなければいけないのだ。

 確かに、ディシュが体を使って誑かしているのは乙女ゲームに出てくる攻略キャラクターばかり。

 本当にディシュの狙いが逆ハーレムエンドなのだとすれば、それはこの国の貴族の倫理に反することになる。

 逆ハーレム、それはつまり高位の子息を自分の為に独占するという事なのだ。

 それはあってはならない事。

 その事をきちんと理解できない貴族の女は爪はじき者にされるのが社交界の決まりである。

 ディシュはその事を理解していないのか、この世界が乙女ゲームと同じで自分だけは特別な存在だと思っているのか、貴族になりたての庶子だとしてもおかしな行動を取りすぎている。

 そもそも、高位の令嬢であるミラージュを陥れるような発言を繰り返している時点で、不敬罪で訴えられてもおかしくはないのだ。

 それをミラージュがしないのは、ただひたすらにそんな事をして、鏡の中の乙女ゲームの中の自分が今の自分を乗っ取ってしまわないかと恐れている為。


「そういえばミラージュ様、今度の夜会にはもちろん参加するのでしょう?」

「ええ、もちろんですわ」

「エスコートをするのが今から楽しみでなりませんね」


 夜会、と聞いてミラージュは背中に冷や汗をかく。

 デヴィットの言っている夜会は、乙女ゲームの中ではミラージュが糾弾される最大のイベントとなっており、デヴィットを攻略している場合、そこで婚約破棄もされるものとなっている。

 そんなことになるはずがないとわかっていても、ミラージュは不安にならざるを得ない。

 婚約破棄をされて嫉妬に狂ったミラージュは嫉妬のあまり再度王宮の大階段からディシュを突き落とす。

 しかしながらそれに気が付いたデヴィットがディシュを助けることでディシュは無傷ですみ、ミラージュはさらに糾弾されて修道院に行くことが決定してしまう。

 そうはなるまいとミラージュは心に誓いながら、夜会の間もディシュには近づかないでおこうと思った。

 けれども、ディシュのことだから夜会の間にミラージュに接触してこようとする事も予想できる。

 そして、それに合わせてデヴィットとの遭遇イベントも起こそうとしているのかもしれない。

 出会って一日で婚約破棄になる事はないだろうし、ミラージュを糾弾するにしても、ミラージュを悪く言っているのはディシュに体で誑かされた子息(攻略対象)のみだから、効果はないに等しい。

 だから大丈夫だと、ミラージュはデヴィットにわからないようにグッと歯を噛み締めた。

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